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side 冬美

私達は、二人兄妹だ。

兄は、私より4つ上で優しい人。

父と母も、真面目で優しい人だった。

だったと過去形にしたのは、二人が生きていないからだ。

兄が17歳、私が13歳の冬。

父と母は、事故で亡くなってしまった。

両親が亡くなった後、私達は祖父母の家に引き取られた。

祖父がいる間は、居心地がよくて住みやすかったのだけれど……。

祖父は、父が亡くなったショックがあまりにも大きく次第に心を病んでいった。

そして、私達と住み始めて半年後。祖父は、体調を崩し入院した。


「あんた達が来てから、ろくな目に合わないよ。じいさんも、全身を癌に蝕まれてるって話だし。医者の話じゃ、もって三ヶ月だって言うんだよ。本当にあんた達は、金食い虫の疫病神だよ」


祖母は、祖父が入院してから人が変わったようだった。

いや、最初からそんな人だったのかも知れない。


「1円にもならないのに、何で私があんたらを見なくちゃならないんだよ」


祖母は、お金を生み出さずに食い潰すだけの私達が嫌いなのがわかる。

そして、祖父は1度も退院する事なく病院で息を引き取った。

それからが、()()の始まりだった。


「それは、父さんが俺達の為に……」

「俺達?もう、あんたの分はないだろ?妹だけでも食わしてもらいたいなら言う事を聞きな」

「わかりました」


兄が通帳を祖母に渡しているのが見える。


「あんたは、さっさと働いて金を返してちょうだい。今まで、育ててやったんだ」

「はい」

「あんた達の両親が借りたお金も返すんだな」

「いくらですか?」

「1000万だよ」


祖母は、笑いながら兄を見つめている。

その笑顔は、まるで悪魔のようだ。

兄は、大学に行くのを諦め就職し働き、祖母にお金を返済した。


「冬美も、ちゃんと高校は行きなさい」

「でも……」

「バイトもするな!兄ちゃんが働いてくるから」

「お兄ちゃん……」


二人で暮らそうと言いたかったけれど……。

兄は、祖母が1人で住む事を酷く恐れていた。

そして、私は無事に高校を卒業した。


「お兄ちゃん、お祖母ちゃんから離れて別の場所に家を借りよう」

「それは、駄目だよ。お祖母ちゃんは、お祖父ちゃんを亡くして一人なんだから……俺達がいなきゃ寂しいって……」

「そんなの放っておけばいいじゃない」

「育ててもらった恩があるんだ」

「恩なんてないよ。あの人は、お金を持ってこない人間は嫌いなんだよ」

「冬美。そんな言い方しちゃ駄目だよ」


兄は、凄く優しい人。

だから、祖母を捨てる事が出来なかった。

その結果、兄は祖母に今まで使ったお金を返せと言われた。

そして、返済する為に兄は馬車馬のように働き……。


「ご飯、ちゃんと食べさせてもらってる?お兄ちゃん」

「食べさせてもらってるよ。心配しなくて、大丈夫だから」


何とも言えない暗い光を放っていた。

兄の目は、一度も私と焦点が合わないまま。


「じゃあ、気をつけて帰れよ」

「お兄ちゃん、無理しないでね」

「大丈夫。してないから……」


どうして、あの日。

私に出来る事は何かないって聞かなかったのだろうか?

無理しないで何て言葉をどうして言ってしまったのだろうか?

兄を連れて、一人暮らししてる部屋に連れて帰るだけでよかったのに……。

そんな簡単な事が、どうして出来なかったのだろうか。

この日、兄は自らを罰するようにいなくなった。

働いても、働いても、祖母に搾取し続けられたせいで未来に希望を見いだせなくなったのだろう。

祖母は、兄の保険金が入る事をわかっていた。

だから、お葬式で笑い続けていた。




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