side 理奈子
「それで、今年の自治会の役員は香月さんでしょ?」
「ええ」
「皆さんに聞いてもらえないかしら?市に渡すか修理するか……」
「はあ……」
先月、斜め向かいの山内さんが、車のタイヤが半分落ちる程の穴ぼこを見つけた。
その穴ぼこを修理する為に市に連絡をした結果。
その道路が、近隣に住む松野さんのものだという事がわかった。
松野さんに修理を依頼したところ。
私達、10軒の戸建てが使用しているのだから皆さんで直してくれと言われたらしい。
そして、色々考えた山内さんは今年の自治会役員に選ばれた私に話をしてきたのだ。
「じゃあ、よろしくね」
山内さんから、残りを託された私は仕方なく一軒、一軒を回る事になってしまった。
一軒目の沢田さん。
「きつい言い方になるけど。調べるのは、勝手だけど。みんな望んでるのかしら?みんな、子供がいたり、年金暮らしなのよ。そんなの今すぐ必要かしら?」
ああ。
沢田さんは、余計な事を調べるなって感じなのがよくわかった。
子供が……って、単語使われたら私には何も言えないのがわかってるんだ。
私には、子供がいない。
まるで、あんたは暇だからそんな事を調べたんだろと言われているようだった。
こんなの山内さんにも言えない。
「あら、回ってくれてるの?私も一緒に回るわ」
託してきたと思った山内さんに会ってしまう。
山内さんは、三人の子供がいるママだ。
私達のところで、小さな子供がいるのは今のところ山内さんだけ。
山内さんが、付いてきてくれたのはいいけれど……。
「可愛いわよね。何歳になったの?」
「ちょうど5歳になって。もう、大変」
「懐かしいわ」
「ちょっと待ってね」
山内さんは、何故か子供を連れて来ていた。
保育園が休みだったのだろうか?
まあ、仕方ない事だ。
「子供って可愛いですよね。いとこに子供がいるから」
「そうなんですね。いとこさんには、会ってるの?」
「最近、会いましたけど。子供の成長は早いですね。特に、男の子は久しぶりにあったら身長も抜かされてました。アハハ」
「確かに、そうですよね」
あんたの親戚の話しなど、どうでもいいと言われている視線と温度を感じる。
私、何でこんな事べらべら話してるんだろう。
惨めだ。
人生で一番惨めな行為。
「ごめんなさい。じゃあ、そんな感じです」
「わかりました」
山内さんに悪気はないのはわかっている。
けれど、最後まで山内さんが子供に振り回されて私は近所とよくわからない話をして終わった。
「ありがとう」
「じゃあ、申請出しておきます」
「よろしくお願いします」
山内さんが、悪い人じゃないのはわかっている。
だけど……。
イライラする自分がいるのも、事実だった。
だから、今まで近所に関わりたくなかったのに……。
とりあえず、これが終われば関わらずにすむ。
山内さんに、頭を下げて家に入る。