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手当は命がけ

 ゆっくりと手を伸ばして栞に触れる。触れただけで栞はピクリと身体を震わせた。


「最初はちょっと痛いかもしれないけど……、我慢してね?」


「う、うん……。遠慮しなくていいから、ひと思いにやっちゃって……」


「じゃあ、いくよ?」


 俺の言葉に栞は不安気な表情で頷く。それを確認してから、俺は少しずつ力を込めていく。ひと思いにと言われても、さすがに栞に対して乱暴なことはできない。


「んんっ……! ううっ……。りょ、涼……。痛っ……!」


 俺の名前を呼びながら、栞の顔が苦痛に歪む。眉間にシワを寄せて、どうにか耐えているといった様子だ。痛みのせいか、栞の身体が強張っている気がする。


「大丈夫だから、力抜いて。俺に任せて、ね?」


 安心させるように、できる限り優しく声をかける。強張ったままでは良くなるものも良くならない。こういう時はリラックスさせるのも大事なことだ。


「わかって、るっ、けどっ……。あっ、んんっ……。いっ……!」


 いきなり強くすると余計に痛がらせてしまうことになるので、最初は焦らずゆっくりと慎重にだ。少しずつ緊張を解していく。


「これくらいなら、どう?」


「うっ、ん……。それくらいなら、平気、かもぉ……。あっ……」


「無理そうならすぐに言うんだよ?」


 どうしても感触や反応ではわからない部分もある。そこだけは言葉にしてもらう他ない。


「う、んっ……」


「もうちょっと強くしてもいい?」


「んぁっ……、だいじょう、ぶ……。ちょっとずつ良くなって……、あっ……」


 栞の声に少しの余裕を感じとった俺はじわじわと力を強めて、痛みと気持ちいいの境目を探っていく。


「どう? まだ痛い?」


「まだっ、少しだけっ……。でも、いっ……!」


 どうやらもう少し続ける必要がありそうだ。ゆっくりと、じっくりと、押しては引いてを繰り返して。


「んっ……! だい、ぶ、おさまってきたぁ……」




 ***




「はぁ〜……。やっと痛くなくなったよぉ……」


「そっか、それはよかったよ……」


「涼、ごめんね。それと、ありがと……」


「う、うん……」


 ややしょんぼりとした顔で謝罪とお礼を口にする栞の隣で、俺はぐったりしながら肩で息をしていた。


 つってしまった栞の脚の手当のためにふくらはぎを伸ばしてあげていたのだが、栞のあげる声が一々艶かしくて、なんかもう色々と大変だったのだ。


 それに栞の小さくて可愛らしい足と柔らかいふくらはぎに触れていたからというのもある。その脚の先には割と布面積の小さな水着もあるわけで。


 その全てが暴力的な破壊力を持って俺に襲いかかってきた。心臓はバックバクだし、プールに入って冷めたはずの熱が戻ってきてしまった。それどころか、プールに入る前より熱くなっているまである。


 鼻血吹き出さなくてよかった……。


 そんなことを思ってしまうほど強烈な体験だった。血染めのプールサイドなんてシャレにならないし、栞の白い水着にも赤い染みを作ってしまうかもしれない。


 もう栞の全部を見ているのだし、なんならそれ以上のところも触ったこともあるわけだが、まだまだ耐性なんてできてはいない。むしろ知ってしまっているからこそ、経験の浅い俺には刺激が強くなるというものだ。


「涼? どうしたの、そんなにぐったりして?」


 当の本人は可愛らしく小首を傾げている。たぶん自分がどんな声を出していたのかわかっていないのだろう。俺のことをじっと見つめながらパチパチと目を瞬かせる。


「いや、なんでもないよ……」


「??」


 さすがにこんなところで大っぴらに言うことではないし、自覚させたら栞も恥ずかしいだろうと思って言葉にはしなかった。


 気付いていないのなら、知らない方が良いこともあるだろう。


「それより栞はもう浮き輪に乗るの禁止ね」


「えー! なんでー?!」


「なんでも!」


 また同じことになったら、栞の身が危ない以上に俺の命と精神の安寧に関わる。それにさっきは栞の脚を治すことを優先して我慢したけど、あんな声は俺以外には聞かせたくない。近くにいる男共が聞き耳立てていやしないかヒヤヒヤだったんだから。


「ぶー!」


「ぶー、じゃないの。また溺れそうになったらどうするの?」


「むぅ……。じゃあ我慢するよ……」


 やや拗ねているもののわかってくれたようで一安心。これで俺も落ち着ける。そう想った矢先のことだ。


「あっ、そうだ」


 栞が俺に身を寄せて密着しながら、耳元でポソリと呟いた。


「あのね、涼。帰ったら、助けてくれたお礼、してあげるからね?」


 蠱惑的な声色にすでに暴れている心臓が、更にドクンっと跳ねた。


「お礼って、何を……?」


「ふふっ、それは後は帰ってからのお楽しみ、だよ?」


 そこまで言うと、栞はスッと俺から離れた。そんなの否が応でも期待してしまう。


 ただでさえずっと魅力的すぎる水着姿を見せられているのだ。それなのにそんなことを言われたらもうどうにかなりそうで。


「さ、涼。まだまだ時間はあるし、もっと遊ぼ?」


「うん……」


 すっかり元気になった栞に手を引かれて立ち上がろうとしたら、クラリと軽い目眩がして地面に逆戻り。どうやら頭がのぼせてしまったようだ。


「あれ……?」


「ちょっと涼?! 大丈夫?!」


「うん、大丈夫だよ。ちょっとクラっとしただけだから。ほら、もう立てるし」


 そう言って立ち上がってみせる。まだ少しクラクラするけど熱中症って感じでもなさそうだし、歩くことだってできるはず。


「もうっ、無理しないの。ちょっとこっち来て」


 栞に身体を支えられて隅っこの日陰へと連れて行かれる。そこで栞は先に座り込み、自分の膝をポンポンと叩いた。


「ほら涼、横になって」


「いや、でも……」


「いいから!」


 有無を言わさぬ栞に無理矢理寝転がらされた。しかもダイレクト膝枕。これもなかなか攻撃力が高い。落ち着かせようとしてくれているのだろうけど、これでは逆効果な気がする。


「よしよし、いい子だね。倒れてからじゃ遅いんだから、少し休もうね」


 戸惑いながらも寝転がった俺に栞は柔らかく微笑んだ。その視線から俺のことが好きで、大事でたまらないという感情が伝わってきて、抵抗するのをやめることにした。


「わかったよ」


 本当に甘やかしてくる時はとことんなんだから。そんな目で見つめられたらまた頭に血が上りそうだってのに。


 目を覆うように、栞のヒンヤリした手が乗せられるとそれも幾分かマシになってくる。ただの立ち眩みなのでここまでしてもらう程ではないけれど、栞の太ももが気持ちよかったので甘えておいた。


 俺に心配性だの言っている栞だけど、自分だってかなりのものだと思う。

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