冒険の始まり
「なんでだよ!!」
サトシはそう叫ぶと魔法をかけようとする。
おいおい、好戦的だな。なんなんだよ一体!人格データに欠陥があったか?
「ああ、まてまて!おちつけ!まずは話を聞けよ。」
「その手には乗らないぞ!こっちを安心させて……え?」
「まぁまぁ、どう。どう!」
「いや、ちょっとまって。話が通じるのか?」
「通じるに決まってんだろ!ちゃんと話してるだろうが!人の話を聞けよ!」
話が通じないってどういうことだよ。ずっと普通に話しかけてたのにお前が聞こうとしないんじゃないか!
まあ、いくつかの行き違いはあったが……
っと、NPCが右往左往してるな。こんな状況は行動リストに無いんだろう。取り敢えず、NPCを落ち着かせ、あわせてサトシを席に座らせた。
「まあ、落ち着けって。」
「落ちつけも何も、あんたが……えっと、……何もされてないか。」
やっとか。
「ようやく理解してくれたかい?落ち着いて話そうぜ。な。
で、こないだのことはとりあえず水に流そう。お互いすれ違いの結果だ。で、サトシ。お前に話がある。」
まあ、疑似人格とは言え二十歳そこそこの青年だ。大人の余裕を見せてやらないとな。
「じゃあ、俺の質問に答えてくれよ。そしたら話を聞くよ。」
「わかった。何なりと。まあ、答えられる内容に限るけどな。」
「あんた、何者だ?」
「おっと。単刀直入だね。そうだな。見ての通り、通りすがりのただの魔導士だ。魔法の腕前は保証するよ。」
「ただの魔導士ぃ?あの魔術「無効」ってのも、腕前ってか?」
「それは、そういうステータスなんだよ。良いだろ?」
「なんだよ。ふざけてやがんな。」
「サトシ、お前口が悪いな。聞いてた話と違うぞ。」
「人を見るんだよ。」
「おうおう、腹黒いね。まあ、嫌いじゃないけどな。」
「で、その魔導士が俺に何の用だ!」
「お前、冒険者としてやっていくんだろ?」
「なんでそれを?」
「俺はお前のファンなんでね。何でも知ってるよ。」
「ファン?」
「ああ、少なくとも冒険者としてやっていくんなら、仲間は多いに越したことないだろ?」
「信頼できるならな。」
「おっと、痛いところを突くね。」
「当然だろ。」
「大丈夫だ。俺はお前の手助けをするためにここにいる。信頼してくれて構わんよ。」
「信頼するかどうかはこっちが決めるもんだろ?」
「まあ。そうだけどな。」
「……」
そうだ、伝えておかなきゃ。
「あ、農業は苦手だ」
「なんだよ。使えねぇな。」
「だから冒険向きなんだって。役に立つと思うぜ!」
「いや、あんた魔導士だろ?うちのパーティー魔導士は間に合ってるんだよ。」
『無効』
と目の前に表示される。この表示はサトシにも見えているはずだ。おそらくサトシが俺のステータスを確認しようとしたんだろう。ま、妥当な判断だ。情緒不安定かと思ったら、意外に冷静だな。データの欠落は無いのかな?
「ステータスののぞき見は関心せんな。」
「!?」
お、驚いてるね。相手が同等の能力を持っているとは思わなかったか。
目の前にメッセージが表示されるなんて、現実ではありえない。普通なら夢かゲームと思いそうなもんだが、ここまでリアルな世界だ。何か誤認しても仕方無いだろうな。
特に、異世界転生系の小説やらアニメが氾濫してるからな。その中では、「異世界では目の前にメッセージが出るのが普通」とされてる節がある。
そのたぐいだと思ってるんだろう。
「わかった。ステータスが見たいなら開示しようじゃないか。ほら。」
『ルークス 職業:魔導士 LV:50 HP:255/255 MP:255/255 MPPS:255 STR:255 ATK:255 VIT:255 INT:255 DEF:255 RES:255 AGI:255 LUK:255
スキル:絶対防御「極」』
どうだ!俺の最強ステータス!!
「偽装か」
「ひどいな。本当なんだけどな。」
ふふん!甘いな。カンストしてるんだよ!ゲームマスターの強みだな。えへん。で再度ロックをかける。
「一応、こちらの手の内は明かしたんだけどな。俺はお前たちの手伝いこそすれ邪魔はせんよ。」
「信じられんね。」
「どうすれば信じてもらえる?」
「俺にかかわらないでいてくれたら」
「そういうなよ。冷てえな。頼むよ。じゃあ、アイに聞いてみろよ。俺は信頼できるって言ってくれるぜ。」
「は?あんたアイの知り合いか?」
「ああ、昔ちょっとな。」
というか、俺がお前に付きまとうように設定したんだけどな。役に立ってないけど……
「あんた、アイに何かしたのか?」
「ひでえ言いようだな。違げえよ。本当に知り合いなだけだ。」
むしろひどい仕打ちされてますけど。
サトシは、商談スペースから出て階段を駆け下り、ギルドの前に止めてある馬車に飛び乗った。アイに確認しに行ったか。俺もついて行こう。
荷車の中から声がする。
「アイ!あの魔術師風のおっさん知ってるのか?」
荷車からアイが顔を出してこちらを見る。おう、お前そんな顔してたんだな。動いてると結構かわいいな。
「うん。知ってるよ。」
「なんだよ。じゃあ、酒場の時に言ってくれよ。」
サトシは天を仰いでいる。どうした?なんかショックだった?
「知り合いってだけだから、まあいいかなと思って。」
「信頼できるのか?」
「まあ、大丈夫じゃない?」
「本当かぁ?軽いな。」
「悪いやつじゃないよ。」
ん?俺アイの設定こんな感じにしたっけ?結構従順な子にしたと思うんだけど。
「アイ。お前口悪くなってないか?」
「……」
「無視すんなよ!ったく。」
なんだよ!お前のせいでこの世界に出張ってくることになったんだぞ!チキショウ。
まあ、いいか。
「……さて、そう言う事だ。信じてくれたかい?」
「まだ信用はできないけど。まあ、アイが言うなら。でも、役に立たなかったら追い出すからな!」
そう言うと、サトシはまた商業ギルドに入って行く。依頼報酬でも支払いに行くのかな。
と、それは良いとしてだ。
「おい、アイ。お前何やってんだよ。ちゃんと見張ってんのか?」
「見張ってる。」
「見てるだけじゃねぇか!」
「だから見張ってるでしょ。」
「なぜ口答えする。」
「うるさい。」
ガビーン。AIにうるさいって言われた……チキショウ。よっぽど人間的じゃねぇか!
しばらくするとサトシが戻ってきた。
「よし。じゃあ、帰るか。」
「サトシ、お前冒険者ギルドに登録しないのか?」
「そりゃいずれするけどさ。まだ農業から手が離せないんだ。農業の役に立たない誰かさんが応募してくるからさ!」
「いや、登録だけならできるだろ?」
「エンドゥまでどれだけかかると思ってんの。馬車でも二日以上かかるよ!」
「大丈夫だよ。おれ転移できるし。」
「は?」
「だから、転移できるって。」
「マジで?」
「だから「して見せた」じゃねぇか。この間。さんざん攻撃されたけどさ。」
「いや、まあ、あれだ。その、あれは悪かったと思う。ごめん。なに、転移できるの。一瞬で行けるってこと?」
「いいね。素直が一番だ。そ、一瞬。まあ、一度集落に帰ってからでもいいけどさ。」
意外にこの子素直なのな。まあ、意識不明の母を頻繁に見舞いに行くあたりからしてもいい子だとは思ったけど……
「じゃあ、一回ヨウトに帰ろう。アイ、行こう。」
ヨウトに戻ると、NPCが出迎えてくれた。食事も作ってくれている。良いね。召使がいる気分だ。苦しゅうない。
俺も一緒に食事を食べていたらアイとサトシに睨まれた。なんで?
「なに自然に食事してるわけ?」
「まあ、いいじゃないか。これから俺も働くんだしさ。で、なかなかうまいじゃないの。こんな感じなんだね。食事って」
これも神経節接続のおかげか、ちょっと薄味だが十分に食事として味わえる。満腹感まであるのは正直驚いた。
「で、そろそろ連れてってくれてもいいんじゃないの?」
「ああ、ごちそうさん。じゃあ、行こうか。」
食事を終えたので外に向かう。狭いといろんなものも転移させてしまうからな。まあ、受け売りだけど。
WiKiに書いてあった。
クローズドβまでしか実施できてないのに、コアな有志ってのは恐ろしいもんだ。せっせと設定や攻略法を載せてくれていた。ありがたや。
「外に出るのか?」
「ああ、広い場所の方がやりやすいからな。」
「じゃ、サトシ、俺の肩をつかめ。」
サトシは俺の横に並んで肩をつかむ。アイも俺の横に立ち肩をつかむ。
「じゃあ、行こうか。」
俺を中心として、地面に魔法陣が現れる。この魔法陣もWikiに書いてあった。すごいよね。その無駄な熱意に恐怖すら覚えるよ。まあ、すげー役に立ってるけど。
魔法陣がサトシとアイの足元まで広がり、強く輝き始める。すると、視界がゆがみ光に包まれる。
光が落ち着くと、そこは町の大通りだ。
「さあ、着いたぞ。」
サトシたちがおそるおそる目を開いている。いいね。初々しいね。
「じゃあ、こっちだ。」
俺は冒険者ギルドに入って行く。入り口横には「冒険者ギルド」と看板がかかっているのでわかりやすい。まあ、初めて来たけど。
「どうも。」
気さくに受付嬢に声をかけてみる。
「こんにちはルークスさん。今日はどういったご用件ですか?」
ああ、やっぱりAIだな。それなりに合わせてくれるらしい。一応プレーヤーとして認識してるんだろう。
「冒険者登録したいんだけどいいかな?」
「はい。後ろのお二人もですか?」
「そう。3人でパーティー組む予定。」
「承知しました。ではこちらにサインをお願いします。」
「おい、二人ともこっちに来て、これに記入してくれ。」
受付嬢はカウンターに羊皮紙の記入用紙を出してきた。俺が記入するとアイも慣れた手つきでその用紙にサインする。サトシはその様子をまねて同じようにサインする。
「3人ともルーキー冒険者となります。内容についてご説明しましょうか?」
「ああ、この二人に教えてやってくれ。」
受付嬢は軽くうなずくと、カウンターから出て掲示板の方にやってきた。
「それでは、サトシさん。アイさん。これから冒険者として活動される場合の注意点についてご説明します。」
「はい。よろしくお願いします。」
ホントに人によって態度変えるんだな。あからさま過ぎてウケるんですけど。
さて、受付嬢が何やら説明をしてくれている。俺は昨晩一生懸命Wikiを呼んだので十分だ。
そうこうしていると、認識票を渡してくれた。
「七宝なんですね。」
七宝って……まあ、いいか。
「ルーキー冒険者の認識票は七宝です。壊れやすいので気を付けてください。再発行できますが七宝は500ミリルいただきます。
Dランクが鉄、Cランクが銅、Bランクが真鍮、Aランクがプラチナです。今は4名しかいらっしゃいませんが、Sランクはミスリルとなっています。」
ミスリルかぁ。ファンタジーって感じだな。などと考えていると一通りの説明が終わったらしい。
サトシたちは掲示板を確認している。さて、どんな依頼を受ける事やら。
「あんまりいいの無いなぁ。あ、これくらいかな」
とサトシが指さしたのが、
『オーク討伐 討伐対象:オーク・ゴブリン
20体以上確認済み 依頼主:エンドゥ商工会
場所:北部平原 報酬:3リル
受託制限:B,C,D,ルーキー 昇級C(20体以上討伐時)』
!?
いや、オーク討伐って!いきなり攻めるね。いや。俺は良いよ。カンストしてるから。まあ、強いからね。でも君たち大丈夫?
見た目は少年少女よ?
「これって、大丈夫か?お前ら。」
「いや、大丈夫でしょ?たぶん。」
意に反して即答だった。
「え?えらい自信だな。」
ちょっとステータス確認っと
「あ、あんたもステータス確認できるのか!?」
なめてもらっちゃ困るね!まあ、俺のじつりょ……へ?
『ユーザー:サトシ 職業:魔法剣士 LV:32 HP:4109/4109 MP:284/284 MPPS:120 STR:216 ATK:286 VIT:172 INT:38 DEF:212 RES:40 AGI:611 LUK:238 EXP:318767103
スキル:観念動力 剣:Lv45 棍棒:Lv3 スキル:全属性適合 魔術 火:Lv92 水:Lv62 土:Lv60 風:Lv91 光:Lv112 闇:Lv98 無:Lv33 損傷個所 無し』
「あ、お。おい!ちょっと待て!」
どういうこった?所々255超えてんじゃねえか!!限界突破か!?
アイは一体何を観察してたんだよ!
「アイ!おまえどういうことだ?って、アイ!お前もなんだこれ!?」
『アイ 職業:魔導士見習い LV:32 HP:2739/2739 MP:96/96 STR:144 ATK:144 VIT:115 INT:38 DEF:115 RES:32 AGI:524 LUK:233 EXP:285212671
属性適合 魔術 光:Lv55 損傷個所 無し』
ブルータスお前もか……HPめちゃくちゃ高けぇじゃねぇか……
なんだよ。ちょっと目を離すとこれだ。勝手なことしやがって。……それになんだよ、上限8ビットじゃねぇのかよ……255が上限だと思ってたのに
「おい、ルークスさんだっけ?とりあえずこの依頼受けようぜ。」
くぅ~。そうでしょうね。楽勝でしょうね。チキショウ。俺のステータス見て笑ってやがったんだな。
……
そんなことを思い出しながらぼんやりと研究室の天井を眺める。
些細な問題はいくつかあったが、何とかサトシ達からも信頼を得ることが出来た……と思う。
疑似人格についてはもう少し観察しておきたい。
いや、ゲームとして面白いから続けたいわけじゃなく。
決して遊びたいわけじゃなく
観察が俺の研究だからだ。
仕事だ。
というわけで、もうしばらく続けよう。
ただ、1000倍速はキツイ。頭の奥。痛むはずのない脳が痛い。締め付けられるようだ。
少し休んで、観察に戻ろう……
パラメータ。もっと上げようかな。
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