光陰矢の如し
もう少しお付き合いください。すいません。
「なんだよこのくそ仕様……これだけウエイトかけても1000倍も出てんのかよ。」
あまりに予定外だ。
ようやくまともに実験ができる被験者なのに……
……
疑似人格を見つけたまでは良かった。
アドレスの特定ができ、阿吽から人格発見の通知が届く。
チューリング・テストのためゲームにログインさせる。
すると、ゲーム画面のパラメータが表示される
プレーヤー「内山聡」
……
日本人か……
まあいい、これでようやく実験が一歩進んだ。
……
が、
が!である。
当初の想定では、抽出した人格データをプレーヤーとしてVRMMORPGのサーバ内に放流。
日常生活を送らせながら、それを観察・干渉しつつ
人工知能としての十分な性能を持っているかを検証すればいい。
なぁんて思ってたわけですよ。
ね?
VRMMORPG内での活動監視ですよ。
言ってみればゲームマスターじゃないですか?
コーヒー飲みながらぼんやり眺めていれば良いと思うじゃないですか?
ね?
思うでしょ?
それが、とんでもない間違いだった。
生体コンピュータ「阿吽」とゲームサーバ 要はスパコンの「神威3号」ですよ。その通信で、処理速度の違いがどの程度になるかわかんないじゃないですか?
ねえ。初めての実験なんですもの。
で、ゲームサーバの時間経過パラメータを「阿吽」で制御できるように設定したわけですよ。
生体コンピュータ内の疑似人格がどのくらいのスピードで思考するかなんてわかんないでしょ?
阿吽が疑似人格シミュレーションをリアルタイム処理できないようなら、「神威3号」とやり取りして、ゲーム内の時間遅らせてもいいですよ~ってね。
だから言って見りゃ「任せた」わけですよ。「阿吽」に
そしたら、やりおったんですよ!
ええ、やっちまいましたよ。
プレーヤーとして送り込まれた被験者33号は、生体スーパーコンピュータ「阿吽」のネイティブの処理速度で活動しやがったんですよ。
あり得ます?
疑似人格ですよ。演算にどれだけ時間かかると思うの。普通リアルタイム処理なんて無理と思うでしょ?
だからこそ「阿吽」任せの処理速度だったのに
ところが、まさかのフルスピードですよ。
確かに「神威3号」と同期する必要があるから、ある程度処理速度が落ちてるっちゃぁ落ちてるけど。
人間が観測できるような速度じゃないのよ。
起動ボタンクリックしたら、活動速度は260万倍速ですよ。現実の1秒間に30日って。
そんなもん。確認できるかぁ!!
ゲーム内の1か月が現実世界の1秒間で過ぎ去っちまった。
あわてて演算停止ボタン探すけど、その間に数十秒経っちゃったよ。
ああ、失礼。随分取り乱しました。
でもね。聞いてください。俺研究者なんです。
自分で言うのもなんですが有能なんです。
で、ちゃんと用意しときました。
観察用AI
通称「アイ」
少女キャラで用意しときましたよ。で、よこから内山君を観察してログを取ろうと。
で、慌てて演算停止押してから、ログチェック……
って、おーーーい!
サトシ死んどるやないか!!!
それも何回も!!
何やってんだアイ!ちゃんとうまいこと干渉しろヨ!!!
ちきしょ~。
「一歩進んだと思ったら、一気に終わりかかったでござる……じゃねーよ!!」
仕方ない。ウェイトをかけよう。処理に時間待ちを入れて処理速度を落とそう。
「阿吽」の処理速度を落とし、こちらが観測できる速度まで……
と、やってみたが、これがうまくいかない。
生体脳の並列化をしているため、脳の処理速度に個体差があり時間待ち処理を大きくしすぎるとデータの受け渡しに失敗し予期せぬエラーが頻発するようだ。
そうこう言っている間に、ゲームの中では数か月が過ぎようとしてる。ようやく安定する速度に落としたが、それでも1000倍速で話が進む。
俺はせっかちな方である。
映画を見る時は常に2倍速が当たり前だが、1000倍は想定外だ。
2時間の映画が7.2秒って。ファスト映画も真っ青だ。
挙句に、被験者がどこにいるのかを目で追うことすらできない。
これにどう干渉しろと……
アイは頼りにならんしなぁ
仕方ない。今からでも俺が介入しよう。
とりあえず、彼らの会話を現実時間で聞き取れるように引き延ばす。
また、こちらからの言葉を1000倍速にして送るしかない。
彼らの会話から状況を判断し、こちらが話す内容については被験者の回答を想定しつつ作成するしかない。
ようやく会話する機会を得た。
NPCとの会話は容易だった。彼らは「阿吽」を利用していないので、こちらに合わせて速度を調整することができる。
ちょうどRPGでコマンド入力を待ってくれているような感じだ。
NPCのマスターと会話しながら
最近のゲーム内AIに感心する。ほんとはばかにできんなぁ、普通に会話が成り立つよ。うちの監視者AIよりいいんじゃねぇか?
などと感心しつつ、パラメータをいじりながら会話する。
こちらへの警戒度を下げて、被験者と接点を持てるように誘導する。
「お前が聡か」
聡がまだ町の外にいる時からセリフを入力し始める。
これでもまだ遅いかもしれない。
話し終わったころに、町についたようだ。
あっという間に酒場に入った。
「なんですか。急に。そうですけど。なにか?」
「えっと。もしもし?」
「だから、なんなんですか?」
矢継ぎ早に告げられ風のように出て行ったよ。
なんだよ。少しは話を聞けよ!
被験者はちょこまかと動き回る。
被験者の座標追尾をONにして目の前に転移するよう設定する。
起動と同時に
「聡!まあ、話を聞け。」
「聞いてられるかぁ!!」
いや、聞けよ……
なんかよくわからんが、魔法かけられてない?攻撃されてる?
なんなんだよ!!
やっぱり外からじゃダメか……
俺も入るしかないな。
当初このゲームは没入型のRPGとして企画されていた。
神経節に接続して直接キャラクターを操作できるというシステムだ。
シナプススキャンの技術がある程度確立し、脳からの命令を直に読み取れるようになったおかげだ。
逆に、ゲーム上での感覚も神経節に直接伝えることで現実と同等の体験ができるところまで実験室レベルでは成功している。
このVRMMORPGでもその技術を活用する予定だったが、衛生局からの許可が下りずお蔵入りとなっていたらしい。
今回の管理替えでサンプル品を手に入れることが出来たので、それを使うしかないだろう。
まあ、少々安全性に難がありそうなので心配だが……
1000倍かぁ、脳に負担掛かるだろうなぁ
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