一時帰郷
「ルークスさん!大丈夫ですか!?」
サトシは慌ててルークスに駆け寄る。ルークスは力なく右手を上げる。サムズアップをしてはいるが力が入っていないようだ。ずいぶん顔色が悪い。すぐにステータスを確認すると。
「損傷個所 一酸化炭素中毒(軽度)」
と出ていた。
すかさずサトシは「治癒」をかける。
しばらくすると、ルークスの血色がよくなり、やおら起き上がる。
「いや、すまん。助かったよ。ありがとう。」
「大丈夫ですか?これ全部ルークスさんがやったんですか?」
ルークスは立ち上がり、ローブについた埃を払いながらあたりを見回す。
「いや、俺は穴をあけただけだな。」
「それだけで、こんなに吹き出してきたんですか?」
「ポン菓子って知ってる?」
「なんです?急に」
「昔からあるお菓子なんだけど、米とか麦とかの穀物を密閉した容器の中で加熱するんだよ。そしたら容器の内圧が上昇するじゃん?」
「まあ、加熱すればそうなりますね。」
「ある程度内圧が上昇したところで、容器の圧力を一気に開放して急激に減圧するのさ。そうすると、穀物の中にあるわずかな水分が、瞬間的に膨張してスカスカのスポンジ状になるんだよ。」
サトシは子供の頃の事を思い出す。何かのイベントに来ていた出店で、大きな「ボン!」という音を立てながら米菓子を作っているところを見たことがあった。
「ああ、あれですか。コメが膨らんでサクサクのスナックみたいになる奴!」
「そうそう!それ。」
「それ狙ってたんですか?」
「ああ、さっきダイナマイト仕掛けに行ったじゃん?」
「ああ、転移で。」
「そう。扉開けずに入ったら、奴ら微動だにしないのよ。たぶん扉と連動してたんだろうね。奴らの行動。」
「あ、そうなんですね。じゃあ、皆で転移で入って、攻撃すれば勝てたってことですか?」
「それは判らんな。何とも言えん。攻撃を受けたら反撃してくる可能性もあるしな。
まあそれは良いんだが、さっき入った時に奴らが動かなかったんで、部屋の中いろいろ見て回ったんだよ。」
「あ、それで時間かかったんですね。思ったより遅いなぁ……とは思ったんですよ。」
「そ。で、奥にも扉があってさ。開けようとしたんだけど開かないのよ。たぶん、あれは全部倒さないと開かないドアなんだろうな。」
「ありますね。そんなトラップ。」
「まあ、ゲーム脳だけどな。で、部屋の中も黴臭かったから、それなりに湿度はありそうな雰囲気だったんだよ。」
「で、さっきのポン菓子ですか。」
「そうそう。骨も結構スカスカじゃん?湿気吸うんじゃないかと思ってね。で、部屋の中埃っぽかったから、火力さえ強ければ粉塵爆発もイケそうな気がしてたんだよね。」
「鬼連鎖っすね。」
「いやぁ。はまったね。気持ちよかったよ。ただ、最後のめまいがいただけんかったが。」
「ああ、一酸化炭素中毒でしたね。ステータス見たら。」
「そうかぁ。まあ、仕方ないな。危なかったよ。換気くらいじゃ何ともならなかったな。確かにつむじ風で喚起するはなからバックドラフトで火吹きっぱなしだったからな。」
「よく大丈夫でしたね?」
「熱変化、圧力変化も物理扱いだからな。魔法での状態異常は魔術無効で行けるんだけど、物理的な状態異常は対象外ってのが効いたな。これも入れておかないとな。」
「入れておく?」
「いや、何でもない。さて、ちょっと中を探索するか。」
二人は壁にぽっかりと開いた穴から大広間へと入って行く。中は煤だらけで、絢爛豪華であっただろう調度品や内装も黒く焼けただれていた。
奥の扉にルークスがふれてみると、扉は音もなく開いた。
「やっぱりか。さっきはうんともすんとも言わなかったけどな。」
すると、部屋の入り口側からアイの声がする。
「ねぇ!こんなところに扉があるよ。」
「なに?」
サトシとルークスはアイの声がする方に向かう。アイは部屋の外にいるようだった。
「どこだ?」
「ここ。」
アイが指さしていたのは、部屋の外の廊下の壁だった。
壁の一部がへこんで、扉のようになっている。
「こんなところに扉あったか?」
「いや、さっきは気づきませんでしたね。」
サトシは恐る恐るへこんだ壁を押してみる。すると壁はかすかな軋み音を立てながら開き、その奥に通路が見えた。
「探索」で中の様子を確認するが、危険は無いようだった。
「進んでみるか?」
「まあ、進行方向手前にある脇道は言ってみたくなりますよね。」
「やっぱりゲーム脳だな。」
ルークスはサトシの物言いに苦笑いをしながら、細い通路を進んで行く。アイが灯すライトボールを頼りに進むと、道は大きく折れ曲がる。二度ほど曲がり、長かった通路の先にはまた扉があった。
「いやな予感がするな。」
「ルークスさんもですか。俺もです。」
「開けてみるぞ。」
「はい。」
ルークスは軽く扉を押す。そこは薄暗い廊下だった。廊下は左右に伸びており左の方は突き当りで大きな扉があり半開きになっている。サトシとルークスは嫌な予感がどんどん大きくなるのを感じつつ、半開きのドアから中を覗く。
そこには丸焦げになった部屋が広がっていた。
「やっぱりか……」
「回避できたんですね。確かにあんだけ立派な廊下で何もないってのも変だとは思ったんですよねぇ」
「おまえ、それを早く言えよ。」
ルークスがやり場のないイライラをサトシにぶつける。が、力なくその場にへたり込む。
「まあ、いいじゃないですか。レベル随分上がったんだし。」
「軽いなぁ。おまえ……」
ルークスは力なく立ち上がると、また焼け焦げた部屋へと入って行く。
「なあ、一度帰らない?」
「ヨウトにですか?」
「なんか疲れた。それにやりたいこともあるしな。」
「やりたいこと。」
「ああ、それはそうと、お前は良いのか?結構良い装備が転がってるように見えるけど。」
ルークスは周囲を指さす。多少変形してはいるが骸骨騎士のフルプレートアーマーは立派なものが多かった。剣や盾もかなりの業物だろう。多少の修正で十分な利益が得られそうだった。
「確かにいいですね。一度持って帰りましょうか。アイ!鎧とか装備品集めてもらえる?」
「わかった。」
二人が装備品を集めている間、ルークスは何やら周囲の様子を探っていた。目ぼしい装備品を一通り集め終えてサトシがルークスに話しかける。
「どうかしました?」
「いや、結界が張られてないか確認してたんだ。たぶん転移できると思うぜ。」
「じゃあ、あのサイクロプス達すっ飛ばして帰れそうですか?」
「行けると思うな。どうだ?もう行けそうか?」
「大丈夫です。じゃあ行きましょうか。」
「そうだな。」
三人の足元に魔法陣が広がり、当たりがまぶしく輝く。光が落ち着いたとき、ヨウトの家の前に立っていた。日差しはすでに真上に来ており、従業員たちは畑で作業をしているようで、周囲には人の気配がなかった。
「もうお昼だね。昼食にしようか?」
アイがサトシに尋ねる。
「そうしようか。お願いできるかい?俺はこれを工房に運び入れておくよ。」
アイは家の中に入り台所へと向かう。
「じゃあ、俺はちょっとやりたいことがあるから部屋に戻ってる。昼食取るなら呼んでくれ。」
「わかりました。」
サトシがいそいそと装備を工房に運ぶのを横目に見ながら、ルークスは家の中に入っていった。
一旦この章は区切りをつけます。




