ダンジョン攻略と憂鬱
ヨハンがロッソを追いかけた後、俺とオットーは冒険者ギルドへと急いだ。
さっきまでの喧騒が嘘のように、通りに人が居ない。ハーピーが子供をさらったことで、皆建物の中で息をひそめている。あれ?騎士団いるんじゃなかったっけ?
「なあ、オットー。この街に騎士団居るんじゃなかったか?」
走りながらオットーに聞いてみる。
「ああ、居るよ。で、何?」
つっけんどんだな。何じゃないだろ?
「騎士団って町の治安を維持するのが仕事だろ?まあ、確かによその街だけどよ、騎士団とあらばその力を見せるもんじゃないの?」
「バカ言え。そんな酔狂な騎士団が居るかよ。」
え?酔狂って、人助けは酔狂でやるもんなの?君も今助けようとしてるよね?
「なんでそうなるんだよ?」
「腰抜けの騎士団にそんな気概のある奴が居るかよ。お前が一番わかってんだろ?」
ああ、そうか。そう言う事か。確かに、そんな奴らなら俺も嫌いにはならんな。
オットーは吐き捨てるようにそういうと、小洒落た建物に飛び込む。
「ごめんよ。ねーちゃん。俺はこういうモンだけどヨ。」
と、胸元の認識票を見せる。王国冒険者ギルドのSランク冒険者であることを示す、ミスリルで作られた認識票だ。
「ちょいと急いでてな、鉱山の魔物討伐依頼があるだろ?受けてぇんだけど。ついでにこいつも。おい、カール認識票出せ。」
王都から出発するとき、ローラ嬢から渡された認識票を見せる。俺のは七宝だ。なんだかちゃっちい。いいなぁ。ミスリル。俺もSランクになってみようかしら。
「あと、おなじSランクのエリザとヨハンの4人で受ける。で、この鉱山はダンジョンにつながってる可能性が高い。だから冒険者の侵入を制限してくれ。取り敢えず、暫定でSランク縛りだ。で、この依頼主は誰だ?」
Sランク縛りってことは、オットー達しか入れないってことだ。王都にSランクが4人しかいない以上、周辺の冒険者ギルドにSランクが居るはずもない。とどのつまりは邪魔されたくないってことだろうな。Sランク特権の乱用ってことか。いい性格してやがる。
「依頼主は領主様です。あ、あの。少々お待ちください。ダンジョンの件はギルドマスターに相談します。」
「ああ、急いでくれ。今市民に被害が出てる。責任問題になるぜ。領主様もそれは望まんだろうよ。よろしくな。」
プレッシャーをかけるのも忘れないな。いやだいやだ。
ほどなくして、ガタイのいいおっさんが居りてきた。俺よりちょっと年上ってところか?この町のギルマスは若いんだな。
「おい、ダンジョンてのはどういうこった?」
「説明してる時間はねぇよ。少なくとも鉱山から来た魔物にさらわれた奴がいるんだ、助けに行くのが最優先だ。で、弱い冒険者に来られちゃ正直迷惑なんだよ。足手まといだ。ギルドとしては町を守ることに注力してもらいたいんでね。」
「……ああ、わかった。」
納得は行ってないようだが、ミスリルの認識票は偉大だな。七宝の認識票じゃこうは行かんだろうな。ま、俺だけだったら、何も考えずに突っ込んで、ギルド間の問題にしたんだろうな。まあ、気にしないけど。ギルマスの爺が困ったところで俺は困らないし。
「よし、カール行くぞ。取り敢えず、エリザんとこ行って飛ぶぞ。」
「飛ぶ?」
「まあ、来い。」
ギルドから飛び出し、来た道を引き返す。すると、飲み屋の前にエリザが待っている。いやはや。美人は立ってるだけでも絵になるね。走りながらそんなことを考えていると、
「カール。エリザの手をつかめ。お前は右手だ。」
「は?」
エリザはくるりと背を向けると、両手を広げた。そして俺の方に右手を差し出す。
役得だなぁ。こんなきれいな子の手を握れるなんて。って、なんで手を握るの?
「うわぁ!」
エリザの手を握ったとたんに、体が宙に浮く。一気に5mほどの高さまで上がる。周りの建物の屋根より上だ。視界が一気に開けた。
「行きますよ!」
「あばばぁぁぁあ!!」
すさまじいスピードで山の方へすっ飛ぶ。風圧で口が空きっぱなしだ。目が乾く、瞼が閉じれない。先に言ってくれよ。慌てて表情を整える。あぶねぇ。こんな姿をエリザに見せるわけには……って、まあ、みせても問題ないか。おっさんだし。いつも見苦しいもん見せてるしな。にしてもすげえスピードだな。
「エリザ、もうちょい左だ。あそこにヨハンがいる。」
おお、ありゃ、ハーピーとグリフォンか?
「エリザ、すまんが俺をあいつらの方に放り投げてくれるか?」
「え?投げるんですか?」
「ああ、今なら間に合いそうだからさ。」
「わかりました。」
物分かりが早くて助か……「あばぁ!!」
ちょっと、またエリザさんの魔力を過小評価しちゃったっぽい。すげー勢いで飛ばされた。まあ、結果オーライだ。
両手が空いたので、腰の剣を抜く。一気に行くぜ!
横なぎにハーピーたちを両断する。おお、ちょうど坑道の入り口に骸骨騎士がたむろしてんな。一気にそこまで行くか。着地時に勢いを殺さないように突っ込む!
いえぇーい。疾走感が気持ちいい。骨相手なら斬撃よりも打撃だな。よし。峰打ちだ。砕け散れ!葬らん!!!
勢いよく振り抜いた剣は、骸骨騎士をまとめて砕きながら吹き飛ばす。骨欠片が散弾のように行動の壁面に打ち付ける。
これはまずい、坑道が崩れそうだ。まずいまずい。すとーっぷ。そっと。そぉーっと。
坑道の支え木が見るも無残な姿になっている。やばいな。何かで支えを。と思うと、横にジャベリンが落ちている。さっきの骸骨騎士の獲物か。ちょっと拝借しよう。つっかえ棒にしようと支え木に突き立てた…つもりだったが、これまた力加減を間違えた。粉みじんになった支え木はみるみる土の重さに負けて砕けてゆく。
よし、見なかったことにしよう。みんなのところに戻ろう。そうしよう。ずかずか歩くと崩れそうだから、ゆっくりと。そーっと歩こう。
ガラガラガラ!
思いもむなしく、後ろで何かが崩れる音がする。何かは判るが判りたくない。俺じゃないって顔で帰ろう。
ヨハンとオットーが何やら話している。大切なのは気持ちを落ち着けることだ。周囲に目を向けよう。
このあたりに落ちてる骨はオットーがやったのか。見事だな。スケルトン系は投擲と相性最悪なんだけどな。見事に骨を砕いて再生できなくしてる。これだけの数の骸骨騎士をこの短時間で屠るって、どんなだよ。バケモンだな。まあ、いつも助けられてるだけだから忘れがちだけど、ヨハンもSランクってことだな。いやはやすげー。
「ロッソさんでしたっけ?まずは安全なところまで行きましょう。オットー、3人を町に送ってきますね。」
「ああ、頼む。送り届けたら、またここに来てくれ。取り敢えず全員で中に入ろう。カールに任せると、ダンジョン全部壊しかねんしな。」
な!なぜばれた。気づいてたのか?この砂煙でもわかったのか?勘がいい奴は嫌いだよ。
そうこうしている間にエリザが転移魔法で3人を町に送るという。4人の足元に転移の魔法陣が現れ、4人の体はまばゆく光りかき消える。
あれ?転移魔術使えるんなら、なんで飛んできたんだ。ここまで。
「なあ、ここに来るのも転移魔術使えば早かったんじゃねぇか?」
「転移魔術は行き先の状態がわからないと危なくて飛べないんだよ。」
なんで?危ないの転移魔法って。まあ、Sランクが危ないって言うんならそうなんだろうな。まあ、いいか。
「フーン。そんなもんか。」
何とか話題をそらしたいんだがなぁ。今は何も考えられん。
「でもヨハンすげーな。あそこに転がってた骸骨騎士、きっちり骨を破壊してるな。さすがだよ。」
「……ああ、そうか。」
ああ、普通なんだな。Sランクとしては、そんなに苦でもなかったってことか。俺余計なことしちゃったかなぁ。挙句に坑道壊してるし。まずいなぁ。怒られるかなぁ。
「……で、ギルドはどうだって?」
「ああ、依頼主は領主だった。やっぱり街の財源だからなこの鉱山は。ほっとくわけにはいかなかったんだろうな。こちらとしては一石二鳥だ。エリザが来たら行ってみるか。」
さて、どうごまかすか。
「お待たせしました。3人は無事送り届けてきました。じゃあ、行きましょうか。」
ああ、怒られる。
「えぇっと。やめない?ダンジョン攻略。」
「いやいや、今依頼受けてきたじゃねぇか。何言ってんだよ。」
「どうしたんです。カールらしくない。」
ちょうど、砂煙が落ち着いてきた。
「「「あ!」」」
「えへへ。入り口崩しちゃった。てへ!」
「てへ!じゃねぇ!!このバカちんが!ちったぁ加減しろ」
「仕方ねぇじゃねぇか。アンデットだしよ。勢いよくぶちのめしたら、ねぇ。」
「ねぇって。まあいいですよ。入り口が崩れただけですし、私の方で直します。」
「エリザそんなこともできるの?」
「そりゃ、まあ。土系の魔術ならトンネルくらいは掘れますよ。少し待ってください。」
エリザが崩れた坑道のそばに行き、手をかざす、すると新たなトンネルが出来上がる。前よりもよほど頑丈そうだ。
「これなら少々暴れても大丈夫でしょう。行きましょうか。」
「エリザぁ。ありがとう!!」
「いえ、それほどでも。」
エリザが頬を染めて照れている。かわいいなぁ。それに引き換えオットーときたら。どこまででもついて行きますぜエリザさん!
「まあ、良しとしよう。じゃあ行くか。」
坑道の中はひんやりとしている。先ほどまで多かった骸骨騎士も今は見当たらない。魔物が出る雰囲気すらしない。
「オットーどうだ?魔物は居そうか?」
「ああ、このあたりには居ないが、下の方に居るな。それも結構強力なのが。まあ、カールさんなら坑道を壊すくらい簡単なことでしょうけどね。」
嫌みな奴だ。どさくさに紛れて峰打ちしてみようかしら。
「いま、物騒なこと考えなかったか?」
「べ、べつに。」
恐ろしい奴だな。
「道が二手に分かれますね。どうしますかオットー」
「まあ、別れてもいいんだが、魔物の集まってるところが古代遺跡だろうからな。取り敢えずそっち目指してみるか。4人で別れて進んだ挙句に、カールに坑道崩されて全員生き埋めってのも笑えねえしな。」
「へいへい、悪うございました。」
「ま、そう落ち込むなよ。頼りにしてるぜカールの旦那」
ああ、殴りてえ。
「お、奴さんがお出でンなったぜ。」
物陰から首のない騎士。デュラハンだ。剣を振り抜くと、また坑道を壊しかねん。さて、どうしようかね。
「カール、行けるか?」
「まあ、何とか。」
デュラハンはこちらに向かって剣を振り下ろす。ああ、とろいなぁ。振り下ろされる剣を左手でつかむ。つかんだついでに剣を押すとデュラハンは体勢を崩し、胸元ががら空きになる。そこに剣を突き立て、魔力を込める。
「爆ぜろ」
ばぁん!!
軽い音とともに、デュラハンは粉々になって坑道の壁のしみになる。
「「「へ?」」」
「さ、行こうか。」
「いや、あの。こう。もっと。なんか。戦いみたいなものってないんですか?」
「何が?」
「いやいや、おかしくねぇか?デュラハンだよ。相手は。Aランク冒険者でも結構苦戦するぜ。今の奴はデュラハンの中でも結構強い部類だったぞ!」
「そう?あんなもんじゃない?まあ、いいじゃない。行こうぜ、先に。」
「で、その手に持ってるデュラハンの剣はどうすんだ?」
「ああ、これか。これクズだな。これよりいい武器、俺の工房に掃いて捨てるほどあるぜ、これが俺の作品だったら迷わず炉にぶち込むな。失敗作だ。」
「ああ、そうですか。」
面倒な魔物が二匹ほどいたが何とか倒して先へ進む。すると坑道の終点だったと思われる場所に出た。そこには人が通れるほどの整備されていない穴があり、ここから魔物が出てきているようだ。
「ここからだな。古代遺跡は。」
「行きますか。」
「……ああ、」
その穴をくぐると、そこからは今までと違いキレイに整備された城の廊下のような通路が続いていた。壁にはレリーフがあり王宮と言った雰囲気だ。道幅も広く、ちょっとやそっとじゃ崩れそうにはない。
「こりゃぁ、かなりのもんだな。」
「そうなのか?」
「ああ、ダンジョンってのは、だいたいが古代の街だったり、城だったりが地下に埋まったもんなんだよ。だからいたるところに宝物やら、元の住人がアンデットになったものやらが居るんだ。ランクの低いダンジョンは、小さな城の地下牢とか、古い街の地下壕だったりする。だから出てくる魔獣もスライムなんかの比較的弱いのが多い。当然見つかるお宝も低級だ。が、ここはおそらく太古の王宮かなんかだろうな。だから、魔獣も守護者級の奴がいる可能性がある。Sランク縛りにしといて正解だったぜ。まあ、さっきのカールさんの戦い方を見ると、心配して損した感じだが。」
「まあ、いいんじゃない。邪魔が入らない方がいいし。」
「そういう問題でもねぇんだが。あ、その扉の向こうは大広間だ。かなり数がいるぞ、どうする?」
「まあ、俺が行くよ。地下で燃焼系の魔術ってわけにもいかんだろうしな。」
「じゃあ、頼むぜ。」
「おう。任しとけ。」
ゆっくりと扉を開けてみる。エリザが大広間を光の魔術で照らしてくれる。大広間に入ると、20m四方ほどの広い空間の壁際に、びっしりと骸骨騎士が並んでいる。上で見たのは下級の歩兵装備だったが、ここに並んでるのは上官クラスってところか。フルプレートを着込んでる奴も居る。これじゃあ骸骨かどうかもわからんが、まあおそらくそうだろう。広間の中央に向かう。
「すまんが、お前さんたちはその扉のそばにいてくれ。俺がひきつける。」
「ああ、わかった。援護はどうする。」
「そうだな、エリザ、俺のヘイト上げれるか?」
「やってみます。」
エリザからの魔力が俺に降り注ぐ。すると、骸骨騎士の殺意が一気に俺に向かう。
骸骨騎士が駆けだして、俺を取り囲む。よし来た。
剣を峰打ちで構える。近づいてくる骸骨騎士の群れを峰打ちで砕きながら進んで行く。60匹は居るだろうか、再生しないように粉々に砕き切る。フルプレートはひしゃげるほどの打撃を加えてから剣を突き立て魔力を込める。
「爆ぜろ」
爆散し再生することは無いだろう。
時間にすれば十数秒ほどか、まあ、こんなもんだろう。
「ええと。ご感想は?」
エリザが良くわからんことを聞いてくる。
「いや、特にないかな。ああ、ありがとう、おかげで戦いやすかったよ。ってことかな?」
「そういうわけではなく、いえ、いいです。」
なんか、3人とも口数が少なくなってきたな。
「呪いかなんかか?体調悪いのか?」
「いえ、そういう事ではないです。いいです。」
「まあ、気にせんでくれ。」
「……ああ」
まあ、そういう事ならいいか。
その後も順調にダンジョンを進んで行く。
いくつかトラップもあったが、その多くはオットーが解除してくれるし、床に重さがかかることで作動するタイプの奴は、エリザが俺たちを浮かせてくれたことで回避できた。
その後も、スライム。ゴブリンなどをはじめとして多くの魔獣が出たが、特に見せ場もなく皆粉々になって行く。ああ、そういえばゴーレムやミノタウロス。サイクロプスなんかも出てきたが、持ってる武器防具やドロップアイテムもパッとしない物ばかり。ちょっと退屈になってきたな。
「よし、気を取り直していこうか。」
オットーもぎこちない感じだな。
「この先に大広間があるが、厄介なのが居るな。」
「厄介?」
「ああ、マンティコアだろうな。」
「女主人が言ってたやつか。」
「ああ、あれは人食い魔獣の代表格だからな。どうする?様子を見るか」
オットーはさすがに慎重だな。
「罠はありそうか?」
「いや、このあたりにはないな。マンティコアがいる大広間までは罠無しだな。小細工しなくても十分ってことなんだろうな。」
「まあ、相手がどんな奴なのかわかって進めるのはありがたいな。」
「俺は戦闘では役に立たんからな。後は頼む。」
「おう。囮役は引き受けるよ。取り敢えず突っ込んで奴の注意を引く。可能なら奴の足を止めるから。後は頼む。」
「わかりました。」
「……わかった」
廊下を進むと今までより一段と重厚な扉がある。ここが王宮だった頃なら、衛兵数人がかりで開閉していたんだろうな。
さて、行くか。体重をかけてゆっくりと扉を開く。思いがけず中から光が差してくる。大広間には明かりがともっているようだ。扉が開き切ると、中には10mはあろうかというマンティコアが横たわっている。人のような顔をしているが、獅子の体と鷲のような大きな翼を持ち、しっぽは硬そうな円筒状の殻が連なっており先端には鋭い針がついている。俺たちのことなど歯牙にもかける様子がなく、うっすら目を開いたのちすぐに目を閉じてしまった。ちょうど顔が俺たちの真正面にあり、正対した形で眠っている。
あれ?
今。チャンスじゃね?
三人の方に目をやると、オットーもエリザもヨハンもうなずいている。ああ、これが連携ってやつか。結構いいかも。よし。行くか。
今いる位置から、マンティコアまでは10mほど。奴に気取らせずに一気に行く。腰を落とし、足に力を籠め、飛び出す。そして一閃。
俗にいう、兜割である。マンティコアの体は、ちょうど左右対称に真っ二つになった。残念ながらしっぽは右に寄ってしまったが、まあそれは良いだろう。我ながらきれいに切れた。エリザ達の手を煩わさなかったのもよかった。ちょっとは役に立てただろうか。
「「「……」」」
「カール。」
「ん?」
「なあ、さっきの目配せなんだった?」
「あれ、一気に行くぜ!ってことだったんだけど、まずかった?」
通じてなかったのか?なんだよ。すげー気持ちよくなってたのに。
「あはは、あは。ああ、そうなんですね。あ、あの。ちょっと聞きたいんですけど。」
エリザの笑いが乾いてるな。疲れてるのか?
「なんだい?」
「今まで、魔獣でも何でもいいですけど、戦って苦戦した相手っているんですか?」
「そうだなぁ。…… 子供の頃は、爺や伯父貴、あとギルマスにコテンパンにされたけど、今はどうだろうなぁ。そこそこいい勝負できるのかなぁ。魔獣は獲物だからよくわからんな。まあ、特に素材収集で困ったってことは無いな。」
「へぇ。そうですか。そうなんですね。わかりました。ありがとうございます。」
どうした。急に他人行儀だな。
「カール、このマンティコアはどうするよ?」
「ああ、素材にするにはデカすぎるよな。解体も時間かかりそうだし。ダンジョン出る時に燃やしとくか?アンデッドになっても困るだろ?」
「マンティコアのアンデットって今まで発生したことあるんですかね?」
「知らんな。ドラゴンゾンビとため張るくらいレアなんじゃねぇか?寿命以外で死ぬことのほうが稀だろ?」
「お、じゃあ置いといてみるか?ダンジョンだし、そのくらいの強敵居たほうがいいだろ?」
「お前は何を言ってるんだ?」
「冗談だよ。どうした、皆ノリが悪いな。変だぞ?何かあるのか?」
神殿に入ったあたりから3人の様子がおかしい。ぎこちないし集中できていない感じがする。精神系のトラップなのか?
「いや、問題ない。いいから進むぞ。」
オットーは特に不機嫌だ。まあ、えらく荘厳なダンジョンのわりに、大したお宝もなければ強敵も居ないとくれば機嫌も悪くなるのはわかる。でも、集中力を切らすのはいただけんな。取り敢えず、めんどくさいルーチンワークが続くが、俺が露払いをしてやろう。
その後も、弱小魔獣が次から次へと湧いてくる。はあ、めんどくさい。と思った時にオットーが急に俺の肩をつかむ。
「カール、調子よく進んでるとこすまねぇが、とりあえずここまでだ。エリザ、ちょっと確認したいんだが、俺たちを外まで飛ばせるか?」
「たぶん大丈夫です。干渉はなさそうです。」
「そいつはありがてぇ。正直調子に乗りすぎたからな。それと、エリザ、ここもマーキングしといてくれ。できれば次はここまではすっ飛ばしたい。」
「わかりました。じゃあ、外まで行きますか?」
「いや、一旦マンティコアのところに戻ってもらっていいか?」
「はい。行きましょう。」
エリザが持っている杖で地面に魔法陣を描くと、周りが光に包まれる。軽いめまいが過ぎると、マンティコアが居た大広間に立っていた。
あれ?マンティコアの死体がない。
「やっぱりか。」
「どういうことだ?」
オットーが地面を確かめる。
「いや、さっき嫌な感覚があったんだよ。なんていうんだろうな。転送にも似た空間がゆがむような感覚だ。それと同時に、マンティコアの死体の気配が消えたんでな。確認したかったんだが。実際消えてるな。」
「確かにな。」
「ただ消えたんじゃないな。完全になかったことになってる。死体がなくなったんじゃなくて、居なかった?って感じか。」
オットーも自分で話しながら理解できていない様子だ。
「これは、いったん仕切り直したほうがいいかもな。ちょっと装備も整えてぇ。軽い気持ちで来たが、やっっかいなもんにぶつかったみたいだ。」
「では、町まで戻りますか?」
「そうだな。頼む。」
俺たちは、一度町へ戻ることになった。