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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
サトシの譚
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土壌改善

 サトシたちの懐事情は非常に良好だった。

 順調に売れる野菜と、定期的に入る貴族からの修理依頼。

 野菜に関しては、馬車(ロバではあるが)を購入してから収益が向上した。サトシが食べたい野菜と市場ニーズが合致したこともあり、ウサカでは飛ぶように売れているらしい。

 貴族からの依頼は、数こそ多くないものの数か月に一回、傷んだ装備品の修理依頼が届く。サトシにしてみれば欠けや丸くなった刃の部分を砥石で研ぎなおしつつ結晶操作をするだけなので、物の数分で完了する簡単なお仕事である。しかし、周囲から見れば魔法と見まごうばかりの職人技に見える。お貴族様だけに金払いもよく一度に数千リルが転がり込む。

 ありがたい話ばかりなのであるが、サトシは浮かない顔だった。

「サトシ?どうしたの。体調でも悪い?」

 収穫作業をしながら、アイはサトシの様子を心配する。


「いや、別に体調は悪くないんだけどさ。」

「なにか、悩み事?」

「悩みって程でもないんだけどね。どうしたもんかなぁと思ってサ。」


 サトシの悩みは単純だった。大金が手元に転がり込むのは良いが、すべてサトシのスキルが絡んでいる。つまり、サトシが働かなければ収益が得られない。サトシとしても働くことは楽しいし、今順調に物事が運んでいることは喜ばしかったが、これから先、何が起こるかわからない。またゴブリンに襲われるかもしれないし、もっと他の何かがやってくるかもしれない。その時、サトシが無事な保証もない。サトシに何かあった時、アイだけでは生活ができなくなる恐れがあった。サトシのスキルが万能なだけにすべてが属人化してしまっていた。

 せめて農業だけでも、サトシの手から離れて自動化できれば……そう考えていた。


「ちょっと、畑の一角で実験したいんだけど。手伝ってもらえる?」

「実験?」

「そ。今この野菜、俺が収穫してるでしょ?」

「うん。サトシのスキルで収穫すると大きくておいしい野菜が取れるね。」

「それを、誰が収穫してもそうなるようにしたいと思うんだ。」

「え?そんなことできるの?」

「わかんない。」

「え?」

「え?いや、これから先、冒険者とか鍛冶屋とかさ、仕事が増えてきた時に手が回らなくなったら、この野菜出荷できなくなるじゃん?」

「ああ、確かにね。そうすると困るね。実際。」

「だろ?だから誰が収穫しても良い野菜が取れるように、今から手を打っておきたいんだ。」

「なるほどね。でも、どうするの?」

「そうだなぁ。とりあえずいろいろ試してみようかと思って。」

「で、実験ってこと。」

「そ。そうだなぁ。まずはアイが収穫して、どんな結果になるか。」

 そこからアイに収穫をさせる。アイは勢いよく葉っぱを引き抜く。が、引き抜いた先には何もついていなかった。

「あ~。だめか。じゃあ次やってみて。」

 アイは言われるまま次の葉っぱを引き抜く。次は芋がついているが、小ぶりであった。

「そうかぁ、やっぱりだめかぁ。」

 アイは明らかに落ち込んでいた。

「いや、アイが悪いわけじゃないよ。たぶんこれが普通なんだ。土地がやせてるせいだと思うんだよね。肥料があればなぁ。」

 サトシは独り言を言いながら、その場を歩き回る。その間も、アイは葉っぱを抜いては、貧相な芋に落ち込んでいた。

「土も石や砂も結晶からできてるか……。いや、でもほしいのはリンとか窒素じゃなかったっけ?ああ、ネットが見れればなぁ。」

 その様子を、アイは残念そうに眺めていた。


「ま、やってみますか。」

 悩んでも無駄だと思ったのか、サトシは半ば投げやりに地面に手を突き大量の魔力を流し、そして念じ始める。

『水をためやすくて、水はけがよくて、通気性があって、栄養豊富で………』

 思いつく限り念じる。実現できるとも思っていないような雑な念じ方であった。が、その時


「無属性魔術の熟練度が向上しました。」


「へ?なんで!?」

 全く予想しないアナウンスだった。慌ててステータスを確認する。


『スキル:全属性適合 魔術 火:Lv85 水:Lv55 土:Lv56 風:Lv84 光:Lv92 闇:Lv77 無:Lv16』

 いつの間にか全属性適合のスキルを得ていた。が、サトシの意識はそこにはなかった。以前確認したとき無属性の熟練度は一桁だったはずだ。急にレベルが上がったことになる。サトシはそれを確認すべく、再度地面に手を突き魔力を流す。


「無属性魔術の熟練度が向上しました。」

『やっぱりか。』

 再度ステータスを確認すると、

『スキル:全属性適合 魔術 火:Lv85 水:Lv55 土:Lv56 風:Lv84 光:Lv92 闇:Lv77 無:Lv22』

 

 確かに、攻撃魔力とは比較にならないほど大量の魔力を流している。魔力が枯渇するのを防ぐために、少し離れた畑ではない地面から大量に魔力を吸いつつ畑に流している。まさに人間ポンプである。


「ちょっと、サトシ!これどういう事!?」

 その様子を見ていたアイが驚きの声を上げる。

 畑の土が魔力を流した範囲だけ別物になっている。以前の畑は乾いてサラサラの荒れてひび割れた状態だった。が、魔力が流れた範囲は黒々として水分を含んだ柔らかい土に代わっていた。

「これはいけるんじゃないか?」

 気をよくしたサトシは、畑全体に魔力を流す。頭がくらくらしてきたがそんなことはお構いなしである。畑全面が黒々とした土に代わったころには、サトシはその場にへたり込んでいた。

 地面に突っ伏した体制のまま、アイに指示する。

「アイィ~。ちょっと収穫してみてぇ~。」

 サトシはしゃべる気力も尽きていた。アイは、その指示を受け、意を決して収穫してみる。


 葉っぱを引っこ抜くと、そこには丸々と大きく育った芋があった。

「やった!やったよ。サトシ!太いの取れた!!」

「おおぉ~。よかったぁ~。」

 サトシは力なく返答する。続けてアイが収穫してみると、アイの表情が曇る。

「あ、今度は小さい。」

 続けて何本も収穫してみる。結果は今一つだった。以前より大きい野菜が収穫できる確率が上がってはいるが、20%と言ったところだった。ハズレこそしなくなったものの、サトシのように百発百中とはいかなかった。


 サトシは、疲れ切った体を起こして、服についた土を払う。

「まあ、こんなもんだろう。確率が上がっただけ良しとしよう。」

 不満顔のアイを宥めつつ、収穫を再開した。

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