新しい日々
それから数日。サトシは毎晩モースに協力してもらいながらアイと共にレベル上げに励んだ。
そして日中は、カール達がやってくるのを待つために、集落の畑で農作業を行っていた。
10日目の明け方。アイと特訓を終えて家へと変える。すでにアイは魔術師見習いになっていた。
「なあ、アイ。」
「なぁに?」
「たぶんカールさんたち来ないと思うんだよね。だから俺たちそろそろこれからの生活を考えないといけないと思うんだ。」
サトシたちは、カールに出会えたらキャラバンに同行させてもらおうと考えていた、が、待てど暮らせどキャラバンがやってこない。このままでは飢え死にだ。今のところ集落にわずかに残る芋で食いつないでいるが、あと3日と持たないだろう。なにか食い扶持を探さなくてはならなかった。
「アイもそれなりに戦えるようになったし、俺もそろそろ冒険者としてもやっていけると思う。で、相談なんだけど。」
「うん。」
「冒険者として生計を立てるか。鍛冶屋として武器防具の整備をして稼ぐか。農業で食いつなぐか。あるいはそれらを組み合わせていくか。この辺りが無難なところだと思うんだけど、アイはどうしたい?」
しばらくアイは考え込む。
「やっぱり戦うのは怖いかい?」
「それは……まあ、でも、こっちがおとなしくしてても襲われることはあるし。」
今までのタイムリープで思うところがあったようだ。アイのまなざしは強いものだった。
「サトシが思う一番いい方法でいいよ。アタシはサトシについてゆく。」
「そうか。わかった。どれがいいか、少し考えてみる。とりあえず、一休みしたら、集落に収穫しに行こうか。」
「うん。」
家に入ると、アイは台所に向かいあまった食材で簡単な料理を作り始める。エリザベートから習った記憶があるため、非常に料理上手になっていた。しかし、調味利用がないので味はずいぶん残念なものだった。
サトシは稽古で傷んだ武器や防具を整備すると、アイと一緒に食事をとる。その後、集落に野菜の収穫に行く。ここ数日は不眠不休であるが、サトシの念動力で疲れ知らずだった。
集落での収穫も観念動力の効果は大きい。大ぶりな芋がほぼ100%の確率で収穫できるばかりか、その他の根菜類も収穫できる。人参、ジャガイモ、玉ねぎ。正直なところ発破が異なるのでチートに近いが、念じればそれらが現れる、あとは塩が取れれば食生活もかなり改善されそうだった。
一通りの収穫を終えると、野菜を大八車に乗せてひとまずヨウトへ向かう。ヨウトの鍛冶屋で、サトシが鍛えた武器防具も荷物にまとめると、二人はウサカヘと向かう。
ウサカは北に向かう街道を進めば2時間ほどで到着する。サトシが大八車を引き、アイが後ろから押してゆく。
「売れるかなぁ。これ」
「野菜は売れるんじゃない?」
アイは気楽に返答する。が、サトシは不安顔だ。ダンとアンヌはウルサンの食堂に野菜を卸していた。ウサカに伝手はない。ウルサンに持っていきたいところだが、ウルサンのどの店に卸していたかまでは団から聞いていないし、何より治安が悪いと聞いている。どうせ買いたたかれるのがおちだろう。ならば、少しでも治安の言いウサカに卸そうと二人で決めていた。サトシとしてはウルサンでも問題なかったが、アイがウルサンに行くことを拒んだためウサカを選んだ。
「まあ、そうだな。」
考えても仕方ない、とサトシは腹をくくった。
始めてくるウサカは意外ににぎわっていた。町の往来には商店が立ち並び、売り子の声が威勢良く響いていた。
サトシは大八車を町の裏通りに止めると、いくつかの野菜を手に取る。
「アイ。ここで待っててくれる?ちょっと八百屋に売り込みに行ってくるよ。」
「わかった。盗まれないように見ておくね。」
まあ、いくら相性がいいとはいえ、アイは骸骨騎士といい勝負ができる。そんな今のアイなら、そん所そこいらの暴漢では太刀打ちできないだろう。
「じゃあ、頼む。何かあったら大声で叫んでくれ。」
正直、そんな必要はないだろうと思ったが一応伝えておいた。
「わかった。行ってらっしゃい。」
サトシは見本の野菜を抱えて、表通りの八百屋へ向かう。
八百屋の店主は、威勢よく道行く人に声をかけている。サトシは店先に並ぶ芋に目を向ける。サトシが持っている芋より一回りほど小さい芋に「20ミリル」の値札が付いている。人参と大根も一回りほど小さいが、おおよそ同じくらいの値段だった。サトシにはミリルがどの程度の価値なのか見当がつかなかったが、20円くらいなんだろうと勝手にあたりをつけた。
「すいません。ちょっといいですか。」
「へいらっしゃい!何を探してんだい?って、なんで野菜持ってうちに来てんだ?」
「いえ、僕は農家をやってまして、それで、野菜を持って来たんですが、うちの野菜を買っていただけないかと思いまして。」
「ほう。うちに卸したいってことかい?」
店主は胡乱なものを見るようにサトシの事をにらみつける。
「まず、この野菜を見ていただけますか?」
「おう、かしてみな……って、ずいぶんでけぇな。なんだ。こんなでけえ野菜作れんのか?おめえんとこは」
なお店主の目が厳しくなる。野菜とサトシを交互に見ながらしばらく考え込む。
「……5だな。」
「へ?」
「一つ5ミリルなら仕入よう。」
「そうですか、お時間取らせてすいませんでした。ほかを当たります。」
サトシがそそくさと立ち去ろうとすると、店主は慌てて呼び止める。
「いやいや、ちょっと待て。まあ、そう焦るな。
……これ、どのくらいの量入れられる?」
「納品量ですか?」
「ああ、毎日入れられるか?」
「そうですねぇ。毎日は無理ですけど、5日から10日毎に、そこの箱二つ分くらいなら」
サトシは店主の足元にある木箱を指さした。大きさは両手で抱えられるほどの木箱だ。
「そんなにか?……そうか、5日……。そうだな。10ミリルまでなら出せる。どうだ?それで手を打たないか?」
店主は意外に乗り気の様だ。正直もう少し交渉できる余地がありそうだが、店主の人柄も悪くなさそうだし、なにより今後の付き合いのことを考えてサトシは手を打つことにした、
「わかりました。いま持ってきてるんですが、買い取ってもらってもいいですか?」
「なんだ、あるのか?そのサイズのが。ほんとかよ。よし。持ってきな。すぐに買い取ってやんよ。」
「じゃあ、今持ってきます。」
そういうと、サトシはアイのもとへ向かう。裏路地に入った時、言い争いの声が聞こえてくる。
「だから、触らないでください。殺しますよ!」
「ヒューヒュー。強気な女の子は嫌いじゃないぜ。お嬢ちゃん、お兄ちゃんたちがこの野菜もらってあげるって言ってるんだよ。」
『ありゃありゃ、やっぱり絡まれてるかぁ。にしても、物騒な物言いだな。アイも』
アイの表現はずいぶん物騒なものになっていた。最近の墓場での特訓で口も悪くなっているようだ。まあ、アンデッドとしか戦っていないのだから、心も荒もうというものだ。
3人のむさい男たちがアイに言い寄っている。
「はいはい。ちょっといいかな。邪魔なんで、向こう言ってもらえますか?」
「あん?なんだてめぇ。こっちは取り込み中なんだよ!やっちまうぞ。コラ」
「やられ役お疲れ様です。じゃあ、そこでじっとしててもらいましょうか。「行動不能」」
サトシは行動不能を念じる。
「グギッ!」
すると、三人のむさい男たちは悲鳴にもならない声を漏らし、その場に立ち尽くす。
「はいはい、そのままそのまま。ずっとそのままいてくださいねぇ。」
サトシは大八車を引っ張り出すと、そのまま大通りに向かって進んでゆく。
「あ、アイ、あのおっさんが持ってる野菜回収しといて。」
「うん。わかった。」
アイは、むさい男の手から野菜をひったくると、むこうずねを蹴り上げた。
「おうおう、やるねぇ。でも、だめだぞ。女の子はもう少しおしとやかにな。」
「墓場で特訓させる人がそれを言う?」
「おうぅ」
サトシは口ごもる。その通りだった。育成失敗といったところだろう。見た目はジルに負けず劣らず美少女なのだが……
「まあいいや。で、はなしがついたから、これ全部売っちゃおう。で、お金が入ったら調味料買おうか。」
「良いね。これでやっとおいしい料理食べられるね。」
「だな。」
二人は意気揚々と表通りの八百屋へ向かう。
八百屋の店主は、その大八車を見るなり、すごい勢いで駆け寄ってきた。
「ほんとにあのサイズのがこんなにあるんだな。どこでとれるんだ。こんな野菜!」
「いやあ、それは企業秘密でして。」
「キギョウ秘密?」
「まあ、そこはそれ、詮索しないでくださいよ。」
「こちとら、ちゃんとした品物さえ入れてくれりゃ文句はねえさ。ほんとに5日から10日毎にこんなに入れられるのか?」
「はい。ちょっと天候によっては伸びるかもしれませんが」
「いや、数日くらいなら問題ない。ところで、どのくらいの期間入れられそうだ。ひと月行けそうか?」
「そうですね。ひと月くらいは問題ないと思います。」
サトシはこの世界の季節がどう変化するのかよくわかっていなかった。記憶を探ってみるがよくわからない。
『まあ、1か月くらいなら何とかなるだろう』
などと、気楽な気持ちで答えていた。
「そうか、助かる。ほかの野菜も入れられるようなら頼む。」
「はい、そうですね。ドンなのが必要か教えてもらえれば用意しますよ。」
「お、おう。そうか。わかった。ちょっと待て、数えるよ。ひい、ふう、みい……じゃあ、全部で1200ミリルだな。ほれ、1リルと200だ。持ってきな。」
「ありがとうございます。」
正直金の価値が良くわからないし、何より渡されたのが獣の歯という、なんだかよくわからないものを渡されたので、サトシは微妙な顔になる。
「なんだよ。これでいいだろ?まだよこせってか?」
「いえいえ、そういうわけではなく。じゃあ、今後ともよろしくお願いします。」
「おう、頼んだぜ。」
「なんか、騙されたんじゃないだろうか?」
「どうして?」
「いや、なんか牙もらったんだけど。」
「お金じゃない。何か変?」
「あ、これお金なんだ。」
「あれ、サトシお金見たことないの?」
「いや、この銅貨はなんとなくわかるんだけど、こっちの牙がね。そうか、お金なんだな。この世界だと。」
「この世界?」
「いや、なんでもない。さあ、今度は道具屋に行こうか。」
適当にごまかしながら、サトシは先を急ぐ。進んでゆくと通りに面して道具屋らしき看板が見えた。大八車を店の前においてアイに告げる。
「また、待っててもらってもいいかい?」
「うん。大丈夫。今度はほんとに魔術使っちゃうかもしれないけど。」
「まあ、それは、どうだろう。やめた方がいいんじゃないかな。」
「できるだけ我慢するよ。はい、行ってらっしゃい。」
「ああ、言ってくる。待ってて。」
サトシは一抹の不安を感じながら、防具を一つ手に取って店の中に入る。
「ごめんください。」
「はい。いらっしゃい。おや、なんだい。ルーキー冒険者さんかい?」
白髭を蓄えた、恰幅の良い店主が尋ねる。大柄でがっちりした体つきだが、物腰は柔らかい。
「いえ、買いに来たわけではなくて。僕鍛冶屋見習いなんですが、作った武器や防具を買っていただくことはできますか?」
「ほう。鍛冶屋見習いね。珍しいな。良いよ。物を見せてもらおうか。」
「とりあえず、こんな感じの者なんですが……」
と、サトシは骸骨騎士からはぎ取ったフルプレートアーマーの一部を店主に見せる。
店主は黙って、その鎧を眺める。ひっくり返したり、裏からのぞき込んだりと、真剣なまなざしだった。
「これ、あんたが?」
「ええ」
「本当に?」
「ええ。」
「工房は何処に構えてるの?」
「いえ、店はないんですが、いまはヨウトの工房を間借りしてます。」
「ヨウト!?」
まずかったか?とサトシは心配になる。
「あそこはアンデッドが出るって噂だが。大丈夫かい?」
「確かに夜は出ますね。日中借りてるだけなので」
「いや、そんな都合よくいくもんなのかい?」
まあ、知り合いがアンデッドなので、などと言う訳にもいかず、なんとなくごまかす。
「意外に何とかなるもんですよ。」
「お、おう。そうかい。まあ、そりゃいいとしてもだ。これ、ほかにもあるかい?」
「ああ、いま外に武器も含めておいてるので、見てもらえますか?」
「そうか、じゃあ、ちょっと中に持ってきてもらえるかい?」
「わかりました。」
サトシはそそくさと、外に荷物を取りに行くため店の出入り口に近づいた。すると、外から
「だから触らないでって言ってるでしょ!」
「うるせえ!これは俺がもらってやるっつってんだろ!」
サトシは、またか。と思いながら扉を開ける。
「え~っと。静かにしてもらえます。」
「なんだてめぇ!」
外にはやはり、サトシの剣を手に取ろうとしているチンピラ風の男がいた。その男が大八車の剣を取ろうとするが、アイがそれを制する。
「えぇっと。それ商品なんで触らないでもらえます?」
「なんだとぉ?こんなところに置いとくのが悪いんだろうが!ああ?」
『ウサカって治安良いんじゃなかったっけ?逆にここより治安が悪いウルサンっていったい。』そんなことを考えながら、行動不能を念じる。
「グハッ」
「またこの展開か。」
と、サトシはつぶやきながら、固まっている男の襟首をつかみ、裏路地へと引きずって行き、そのまま放置し表通りに戻ってくる。
「商品を守ってくれてありがとう、アイは大丈夫だった?」
「うん。魔術でヤッちゃってもよかったんだけど。」
「良くは無いな。まあ、大事にならずによかったよ。じゃあ、商品を中に入れるから手伝ってもらえる?」
「うん。」
二人は商品を手早く店の中に運び入れると、商談に入る。大八車を盗まれないように、アイはまた表で留守番だ。
「で、どうでしょう?いくらぐらいで買い取ってもらえますか?」
「そうだなぁ。」
店主はずいぶん考え込んでいる。
長い沈黙の後、店主は重々しく口を開く。
「このフルプレートが1500リルで、こっちの剣、1000リルでどうだい?」
「1500と1000ですか……」
芋と変わらんな。と、サトシはがっかりしていた。
『まあ、俺の腕だとこんなもんか。カールさんと一緒に作った奴は凄かったもんな。やっぱりこの程度だな。』
などと、考えていると、店主は慌てて言い直す。
「わかった。いや、十分に品質は理解してるよ。正直に言おう、本当にあんたが作ったかまだ信用が置けないんだ。もし、うちの工房で同じ品質のものを作ってくれるってんなら、この倍は出そう。」
「倍ですか。」
サトシの表情が一気に明るくなる。
『これなら農業よりも効率がいいかも!』
「わかりました。じゃあ、ここにある武器でも防具でもいいですが、鍛錬してみましょうか?」
「今すぐにかい?」
「はい。工房は奥ですか?」
「ああ、こっちだ。」
店主は、奥にある工房にサトシを連れてゆく。簡単な鍛冶作業ができるスペースが奥にあった。が、特にサトシには必要なかった。
「なにか、くたびれた道具あります?」
「くたびれた?」
「ええ、なまくらの刃付け前の物でもいいですよ。」
「そうさなぁ」
そういうと、店主は奥の棚をごそごそと探し始めた。
「あ、あったあった。これどうだい?」
手渡されたのは短刀だった。切れ味も鈍く、刃が欠けている……というより、曲がっている個所があった。熱処理が不適当だったのだろう。サトシはスキルに気づかれないように、砥石で研ぎながら、結晶を操作する。
刃物はみるみる輝きと切れ味を取り戻す。
「できました。」
「え?もう?本当に?」
サトシはそう言いながら短刀を店主に手渡す。店主は信じられないといった表情で、短刀を受け取り、手近にあった布を刃に当てる。軽く当てただけにもかかわらず、布は音もたてずに二つに切れてしまう。店長は慌ててもう一度布を刃物で撫でる。何度試してもするりと布が切れてしまう。最後は上向きに保持した刃物に、布を乗せただけで布は真っ二つに切れてしまった。
「どうですか?」
「わかった。疑ってすまなかった。倍、いや、3倍で買い取ろう。というか、うちと契約してもらえないか?うちに持ち込まれる修理の依頼を受けてくれたら、あんたの言い値を払うよ。」
「マジっすか?」
正直仕事をもらえるのはありがたかった。ただ、言い値と言われても、どの程度の値段をつければいいのかがわからなかったので、それは店主に任せることにした。
「じゃあ、これからよろしくお願いします。」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。あんた名前は?」
「僕はサトシです。」
「そうか、俺はこの店の店主のルイスってんだ。週に一度以上来てもらえると助かる。頼んだぜ!」
「わかりました。よろしくお願いします。」
「じゃあ、今日の商品の支払いだ。持っていきな。7500リルだ。」
あれ?とサトシは思ったが、表情に出さないように努めて自然に受け取る。
先ほど八百屋では「1」の刻印がある銅貨をもらった。あとは獣の牙だった。今回もてっきり、同じ銅貨を7枚と獣の牙をもらうものだと思っていたら、真鍮製の硬貨を渡された。それには「5000」と書かれたものが1枚。「1000」と書かれたものが2枚。それに加えて「500」と書かれた銅貨も渡された。
「確かに、じゃあ今後ともよろしく。」
動揺を悟られないようにそそくさと店を後にしようとドアに手をかける。すると、
「だから、この大八車は私のです!」
という声が聞こえた。
『またか』
サトシはため息をついた。
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