安寧
「アイ?もしかして僕のこと覚えてる?」
アイは一瞬動きを止める。そしてサトシの事を探るような目つきでおずおずと話し始める。
「前に……助けてもらった。と、思う。」
サトシは答え合わせをするように質問する。
「エリザベートさんやカールさんのことは覚えてるかい?」
アイはしばらく黙り込んで、意を決したようにうなずく。
サトシは確信した。
『アイもタイムリープしてたのか。』
「アイ。どこまで覚えてる?」
「……前にサトシに助けてもらってから、エリザお姉さんに会って、そのあとまた襲われて……サトシもそこで」
「そうだな。確かに殺された。」
言いにくそうにするアイにサトシが促す。
「で、そのあとは?」
「気が付いたら、お母さんと森を歩いてた。」
「森を?」
「うん。なんで?って思ったけど、またすぐに襲われて、気が付いたらまた母さんと森を歩いてた。」
ずいぶん話を端折っているようだが、タイムリープを繰り返していたんだろう。とサトシは推測する。
「そうか、またずいぶん嫌な思いをしたんだな。でも頑張ったな。もう大丈夫だ。」
そう言うと、サトシはアイの頭をやさしく撫でる。
アイの目からは大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちていた。
サトシがしばらくアイの傍らに寄り添っていると、アイは安心したのかうつらうつらと舟をこぎ始める。
「いいよ。ゆっくりお休み。俺はここにいるから。」
そういって、アイを寝かせると、2階の窓から集落の方に視線を向ける。
「カールさんたち来るかなぁ。」
その日、日が沈んでもカール達は現れなかった。
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