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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
サトシの譚
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高みの見物

 サトシは祭壇に向かいながら思う。

『あー。そっすよね。これフラグっすよね』

 祭壇の周りをぐるぐる回りながら、分厚い本を眺めている。

『明らかに、あれな奴っすね。なんか開いたら起こる奴』

 サトシはこの本を「手に取る」または「開く」とストーリーが進行するイベントのカギだと判断した。

 流石に、ゴブリンと骸骨戦士スケルトンウォリアーの二正面作戦を引こうとしている真っただ中に、もう一つイベントを起こすわけにはいかない。と、必死に本へと伸びる右手を左手で押さえつけていた。

『読みたい。ああ、読みたい』

 サトシの中の葛藤は最高潮だった。が、薄暗い礼拝堂でわずかに見えた本の表紙に目が釘付けになる。

『魔法陣?』

 そう、エリザに習った基本的な魔法陣。それが表紙は描かれていた。

 すると、一気にサトシの中の均衡が破られ、何のためらいもなくその本に手を伸ばす。

 こんな薄暗い礼拝堂では中身が読めないとばかりに、入り口付近まで走って戻り表紙を開く。


 ……

 

「うん。わかってた。なんとなくわかってたよ」


 その本は、何語かわからない文字で埋め尽くされていた。

「なんだよ。気を持たせるなよ。ただのクズアイテムかぁ……」

 そう言いながら、サトシはぺらぺらとページをめくる。と、表紙の魔法陣とは異なる魔法陣がいくつか出てくる。

「『魔法の書』的な奴かなぁ」

 読みたい気持ちがなお募る。

「なんとかして読めないもんかね?」

 と、考えていると。


「?」

 

「あ、読める」

 開いたページに書かれた文字の上に重なるように、日本語のメッセージが表示される。

「ゲーゲルレンズみたいだな」

 日本にいたころ利用していたスマホのカメラ機能の一つだ。外国語の文字をスマホのカメラで写すと画面の中で翻訳して表示してくれるというもので、サトシの目からはそれと同様に本の内容が翻訳されて見えた。

「すげー、全部読める。俺万能過ぎない?って、そっちじゃねぇや。本の内容だな。重要なのは」

 サトシは自分の当たりスキルぶりに感動していたが、我に返って魔法の書を読み始める。

 その本の1ページ目は、「魔法の書」というよりは、「歴史書」とか「建国史」とでもいうべきものだった。読んでみると

 ”世界には、三柱の神が居た。”と書いてある。

「魔法の書じゃないの?」

 サトシのテンションは急激に下がる。もともとゲームをプレーするときでも背景にあるストーリーには全く興味がなく、いかに「キャラクターを鍛えて無双するか」しか頭にない青年であった。すでに興ざめしかかっていたが、一応続きを読んでみる。その内容は次の様な物だった。

 ”創造の神、維持の神、破壊の神。それぞれの力は均衡を保っていた。創造の神はいつも何か作ろうとするし、破壊の神は創造の神が作ったものを壊そうとする。維持の神は変化を嫌うので作ろうとすれば邪魔をし、出来上がればそれを守る。壊されそうになるとそれを邪魔して、何も無くなればその状態を維持しようと二人の神の邪魔をする。”

「相性が良いんだか悪いんだかよくわからんな。この三人」

 全くである。古今東西神話の類は人間の理屈が通らない意味不明なものが多い。サトシはこの手の話が苦手だった。

「まあ、魔法陣のところだけでも読んでみようか」

 退屈な歴史的な部分は読み飛ばし、魔法陣のページを探して読んでみる。どうやら魔法陣に書かれていた梵字は神話に出てくる神の名と言う事らしい。原初の三柱|(創造の神、維持の神、破壊の神)や、その後に生まれた神々の名が魔法陣には刻まれるようだ。

 サトシが習った魔法陣は、火・水・土・風・光・闇それぞれの属性を司る神に祈るための魔法陣で、万能ではあるが効果の薄い物らしい。効果を上げるには、属性を司る主神と眷属神で魔法陣を作る必要がある。とのことだった。

 ようやく役に立ちそうな記述を見つけて、サトシはがぜん興味がわいてきた。「効果が上がる」つまり魔法の威力が増すのであれば努力を惜しまないサトシだった。が、しばらく読み進むと、目の前の翻訳メッセージが出たり消えたりして文章が読みづらくなった。


「なんだ?これ、ああ、日が傾いて来てるのか」


 サトシは夜が近づいていることにようやく気づいた。

 

「っと、のんびりしすぎた」

 慌てて魔法の書を小脇に抱えると、墓地を抜けて家族が籠城する家に向かう。墓地の土は何やらうごめき始めていた。そろそろ骸骨戦士スケルトンウォリアーが目覚める時間のようだった。

 家の前につくと

「父さん!母さん!ジル!準備できたかい?」

 大声で呼びかける。

「こっちは問題ない。サトシは大丈夫か?」

 と、ダンが答える。

「大丈夫。順調だよ。玄関ドアの前に家具を置いて、2階で静かに隠れてて!」

「わかった。サトシも気を付けるんだぞ!」

「無茶しないでね!」

 ダンとアンヌの心配そうな声が響く。

「わかったよ!」

 そう言いながら街道へ走って行く。街道に出ると、集落の方に向かって進む。街道から見える墓地にはまだ骸骨戦士スケルトンウォリアーは現れていないようだった。そのまま進み集落の近くまで行くと、想像通り聞きなれた足音が聞こえてきた。


 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ


 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ


 ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ


 やはりゴブリン達はやって来た。

「作戦開始だ!」

 サトシは泥沼を発生させ、先頭を走るゴブリンを足止めする。泥沼に膝まで埋まったゴブリン数匹がつんのめり倒れ込む。そして後ろから走り込んできたゴブリン達に勢いよく追突されて悶えている。そこにサトシは魔法をお見舞いする。

「ファイアストーム!」

 大きな火柱が渦を巻いてゴブリン達に襲い掛かる。足を取られたゴブリン達は逃げることもできずに燃え尽きる。が、倒せたのは2~3匹と言ったところだ。その周囲のゴブリン達は、火傷こそ負ったものの怒りの形相でサトシを睨みつける。

 サトシはその様子を確認すると、踵を返し街道をヨウトの方に駆けてゆく。

 怒りに我を忘れたゴブリン達はサトシを必死に追いかける。サトシはヨウトに入るとそのまま墓地の真ん中を駆け抜けてゆく。墓地を通り抜け、教会の中に駆け込み様子を見る。すると、墓地からは、20~30匹ほどの骸骨戦士スケルトンウォリアーが這い出して来る。そのタイミングでサトシは墓地の中心に泥沼を発生させる。


 這い出してきた骸骨戦士スケルトンウォリアーたちは攻撃態勢を整えてゆっくりとサトシの方に向かってくる。が、その向こうからゴブリン達が鬼の形相で駆け込んでくる。墓地に突っ込んできたゴブリン達は、骸骨戦士スケルトンウォリアーにぶつかりながら墓地の中央の泥沼にはまる。すると、骸骨戦士スケルトンウォリアーがゴブリン達に向き直り、目標をゴブリンに変更する。後続のゴブリン達は、道を塞ぐ邪魔な骸骨戦士スケルトンウォリアーを棍棒でなぎ倒しながら進んでくる。骸骨戦士スケルトンウォリアーも負けずに反撃する。墓場はゴブリンと骸骨戦士スケルトンウォリアーの戦場となった。


 サトシは教会の裏口からでて、周囲の様子を窺う。墓地から少し離れた所にある2階建ての廃屋に目が留まる。

「あそこの2階なら墓地の様子が良く見えそうだな」

 ゴブリン達に気取られぬように、腰を屈め物陰を縫うように目的の廃屋まで進む。廃屋にたどり着くと、開いている1階の窓から入り込む。部屋を出ると階段があった。サトシは素早く2階に上がると、二階の墓地側の窓から外の様子を眺める。

「おお、良く見える」

 目の前では、ゴブリンと骸骨戦士スケルトンウォリアーが大乱闘中であった。数の上ではゴブリン優勢。加えて棍棒での攻撃は骸骨戦士スケルトンウォリアーに相性がよさそうだった。しかし、骸骨戦士スケルトンウォリアーも負けてはいない。すべて倒されても、ゴブリンが墓地の周りをうろちょろするとリセットがかかって湧いてくる。ほぼ無限湧き状態だ。当初は優勢だったゴブリン達も、体力が無限というわけではない。長期戦になると体力を削られ徐々に旗色が悪くなる。序盤こそホブゴブリンが無双していたが、骸骨戦士スケルトンウォリアーの物量を前に今では息も絶え絶えと言ったところだ。


 その様子を見てサトシはほくそ笑む。


「計画通り(にやり)」

 とは言ってみたものの、正直なところここまでうまくいくとは思っていなかった。最悪の場合はゴブリンと骸骨戦士スケルトンウォリアーの両方を相手しなければならなかった。かなりの賭けである。

 ともあれ、今回は最善の結果になったと言える。後はどちらか生き残った方を屠るだけだった。おそらく生き残る|(死んでいるが)のは骸骨戦士スケルトンウォリアーだろう。何より無限湧きの時点でゴブリンには勝ち目がない。サトシは部屋の中に椅子を見つけると、その前に行き、手で埃を払う。そして、窓の近くに椅子を置き。背もたれを前にして座る。まるで我が家のようにリラックスした観戦体制である。


「さて、どうなりますかね」

 背もたれの上に組んだ腕を乗せ。のんびりと成り行きを見守る。


 ……


 1時間もたたないうちに雌雄は決した。ヨウト墓地での魔獣決戦は骸骨戦士スケルトンウォリアーの勝利で幕を閉じた。

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