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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
サトシの譚
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エリザの寺子屋

 初日の稽古を終え、小屋に戻るとアイがエリザベートと一緒にいた。何やら茶色い毛の生えた手毬みたいなもので遊んでいる。

「あ、サトシ稽古終わったの?」

「あ、ああ。」

 サトシは初めてアイから話しかけられたことで面食らう。

「カールとの稽古はどうでしたか?」

 魔術師のエリザベート。ラスボス配下の3幹部といったところか。

「すごく勉強になりました。剣の使い方もそうですが、魔力の使い方も初めて知りました。」

「そうですよね。カールの剣捌きは見事ですよね。魔力の使い方も上手ですし。……」

 エリザベートははじめこそ嬉々として語っていたが、後半は微妙な顔になっていた。

「でも、魔力については中々カールさんの指導通りには行かなくって。僕の魔力では足りないんですよね。」

「サトシも魔力持ちなんですね。でも、カールの真似はできないと思いますよ。あの魔力量は異常ですから。」

「異常なんですか?」

 やはりといったところか、異世界でも飛び抜けているんだろう。あんなのがゴロゴロいてはたまったもんではないとサトシは思った。

「そうですね。あそこまで潤沢な人は歴史的に見てもそんなにいないでしょうね。魔王にすら匹敵するんじゃないでしょうか。」

 やっぱり魔王か。とサトシは納得の顔になった。

「それに普通の魔力の使い方ではないんですよね。普通の人は魔力が潤沢ではないですから、自分の周囲にある魔力を借り受けて術を発動させるんですけどね。」

 なるほど。とサトシは思った。先ほどエリザベートは周囲の魔力を利用して術を行使していた。魔力の流れがカールと異なっていたのはそのためである。

「じゃあ、自分の魔力は使わないんですか?」

「使わないわけではなくて、周囲の魔力を動かすためにわずかに使う感じですね。」

 エリザベートは、アイと戯れる茶色い手毬をほほえましく眺めながら教えてくれる。

「それと、魔力で術を発動するには、術の属性に応じた適合が必要になります。適合が無いと術が発動できたとしても、魔力消費のわりにごくわずかな効果しか得られませんからね。」

 適合と聞いて、エリザベートのステータスにあった魔術属性を思い出す。彼女はすべての属性を操れる「全属性適合」を極めている。加えて、火、水、土、風、光、闇、無の7属性を持っていた。おそらくこれがこの世界ですべての属性なのだろうとサトシは考えた。属性の適合をどのように得るか。サトシはそこについて思いを巡らせる。

「属性の適合は生まれつきなんですか?」

「そうですね。」

 エリザベートは顎に手を当て、少し考えてから答える。

「生まれつきの場合もありますし。修行等で獲得する者もいると聞きますね。でも一般的に、火と水、土と風、光と闇については相反する対となる属性なので、どちらも適合できる人は少ないと思いますね。」

「すべての適合を持つことは難しいという事ですか?」

「一般的に難しいでしょうね。」

 エリザベートが特別と言う事なのだろうとサトシは想像する。

「魔術はどのようにすれば使えるようになりますか?」

「先ほども言いましたが、まずは属性適合でしょうね。それを得なければ始まりません。逆に言えば、適合があれば後は練習でしょうね。」

「練習ですか。呪文を唱えたりするんですか?」

 練習と言われて、サトシは呪文の詠唱を思い浮かべる。

「呪文と来ましたか。随分古い事を知っていますね。」

 エリザベートが少し疑うような目つきでサトシを見る。誰から得た知識なのかを探っているようだ。

『ちょっと興味本位に聞きすぎたか……』

 やはり「異世界」な話はサトシをハイテンションにさせた。今置かれている状況そっちのけで魔法が使いたくてうずうずしているため、話題にがっついてしまった。

「確かに初学者向けに呪文もあります。が、あくまで誰でも発動できるように、言葉を順番に唱えることで簡易的に魔術を発動する方法です。ですから、強力な魔術に呪文はありませんし、呪文を詠唱している途中で間違えたり、途切れたりすると発動することはできません。私も聞いた話ですが、もともと有史以前の魔力持ちが少なかった頃の名残だそうです。」

「有史以前?」

「あれ、サトシは建国神話を知らないのですか?じゃあ、呪文のことは何処で聞いたんです?」

「いや、父さんに一度聞いただけで……」

「……そうですか」

『危ない、今のはかなり怪しまれるところだったな。』

 とっさに亡き父を話に出したことで、これ以上突っ込まれなかった。が、サトシは建国神話など知らないし、何より父から何も聞いていない。できる限りエリザベートから情報を得たいと考えた。

「またゴブリンが襲ってこないとも限らないですし、せめてアイを守れるくらいにはなりたいんです。もしよろしければ魔力の使い方を教えていただけませんか?」

『ちょっと臭かったかなぁ。こんな小僧が女の子を守りながら生活は難しいだろうし、それならキャラバンに同行させてほしいといった方が良かったか?』

 サトシは、少しやりすぎたと思いつつもエリザベートの様子を窺う。エリザベートは俯きながら何か悩んでいるようだ。

『疑われたか?』

 次の言い訳を考えるためにサトシの頭の中はフル回転していた。すると、勢いよくエリザベートが顔を上げ、サトシの方に近づいてくる。

『まずい。』

 と思ったその時。エリザベートはサトシの腕をガシッとつかみ。

「力になりましょう!!」

『まぢっすか……チョロいっすね。』

 エリザベートはこういう人情系に弱かった。基本お嬢様育ちなので人を疑うことが得意ではなかった。

「本来は『魔力持ち』であることも、『属性適合』などの『スキル』全般についてもあまり他人に話すことではないのです。」

 散々話してくれたじゃないかとサトシは思ったが言わないことにした。

「そうなんですか?」

「ええ、魔力持ちはいろんな意味で狙われますからね。自分を守る力を持たない場合は特に危ないです。」

「危ないんですか」

「ええ、さっきの建国神話の話に戻りますが、建国以前は魔力持ちがほとんど居なかったと聞いています。まったくいなかったわけではないでしょうが、歴史の表舞台に出ることもなかったようですから、かなり少なかったと思われます。」

 サトシには建国がいつ頃の話なのか見当がつかないが、かなり歴史のある世界だという事だけはわかった。

「そこに、強大な魔力持ちである初代王が現れます。その王が、今の王都を一人で作り上げたとされています。」

「一人で?どうやってですか?」

「創造系の魔術ですね。無属性魔術にそのようなものがあるのではと言われています。それを使えるのは初代王だけだと聞いていますが」

『そうか、創造系かぁ、いいなぁ。文明の利器を想像して異世界科学無双!やってみたいなぁ。』

「それらは資料も残っていませんので、無属性らしいという事しかわかっていません。」

「そうなんですかぁ」

 サトシは落胆していた。エリザベートから習うことができるかと期待したが、今の話だと無理そうだ。まあ、そのあたりは仕方ない。まずは生存第1、生活第2だと気持ちを切り替える。

「また、話を戻しますね。ですから今王国にいる魔力持ちの多くは初代王の系譜であるといえます。当初は王族のみだった魔力持ちも、政略結婚等で貴族に広がり、まあ、いろんな理由で庶民にも広がっていったようです。」

 最後はゴニョゴニョと言いづらそうに話を締めくくる。アイはまだ子供だ。サトシもエリザから見れば子供みたいなものなので、性的なことを話したくはなかったのだろう。サトシは日本で21歳まで生きていた経験がある。なので、ごまかされた部分も察しはついた。

 王侯貴族ともなれば妾の一人や二人は入るだろうし、平民女性に対して「あんな事」や「こんな事」もしただろう。加えて、魔力持ちが有益だとなれば、命を狙われることも多いはずだ。ならば出奔する王侯貴族もかなりの数になる。平民の間にも魔力持ちが広がるのは時間の問題だろう。

「魔力持ちが重宝される理由は『スキル』にあります。今日カールからいろいろと稽古をつけてもらったなら、なんとなく感じたんじゃないですか?」

「ええ、まあ。いくつか教えていただきました。」

「えぇ!スキルを教えてもらえたんですか?そんなに親密な仲に!一日で?」

「いや、誤解しないでください。僕たちにそんな趣味はありませんから!鍛冶屋のスキルを教えていたいただけです!」

「ああ、ごめんなさい。つい。でもスキルを教えてもらえたんですね。よかったですね。」

 アワアワしていたエリザベートだったが、最後の「よかったですね」にはかなり棘があるのをサトシは感じた。

「また、話がそれてしまいましたね。その『スキル』ですが、利用価値の全くないものから、世界のことわりを変えてしまうものまでさまざまです。権力者にとってみれば、有益なスキルを得ることが世界を得ることと同義であるといえます。なので、「魔力持ち」はいろいろな意味で命を狙われることが多いんです。だからサトシも気を付けてくださいね。」

「ありがとうございます。」

「で、私が何か協力できることがありますか?」

「そうですね。」

 サトシは考えた。エリザに教えてもらいたいこと。まずは剣術に利用するための魔力の動かし方だ。できれば魔術も使いたいと思ったが、今のところ適合している属性が無い。しかし、物は試しだと。

「できれば、魔力の動かし方と、魔術の呪文とか教えていただけませんか?」

「ん~。」

 エリザベートは首をかしげながら考え込んでいる。

「魔力の動かし方を教えるのは問題ありません。でも、呪文は難しいですね。私も呪文は一部しか知りませんし、あまり効率が上がらないのでめったに使いません。だからうまくいくかどうか。それよりは魔術錬成について説明することくらいならできますが……」

「魔術錬成?」

『なんかかっこいいぞ!』

 サトシのテンションが上がる。

「ええ、先ほども言いましたが、呪文は初学者用なんですよ。本来魔力持ちが行う動作に魔力の動きが現れます。これが魔術の基本です。ですから、魔力持ちの普段の動作自体が魔術なんです。でも、それで起こせる現象はごく限定的なものなので、爆発や洪水、竜巻を起こすなんてことはできません。そこで、それらの魔力の流れを大きな現象として増幅するための方法が魔術錬成です。」

『増幅呪文みたいなもんか』

 とサトシは納得した。

「なので、まずは魔力の動かし方がすべての基本となります。そこをやってみましょう。」

 ここからエリザベートの指導が始まった。


「では、まず魔力の流し方です。」

「「はい。」」

 なぜか、アイも聞いている。ずいぶんエリザベートに懐いているようだ。

「魔力は動かせますか?」

「はい、それはカールさんに教えてもらいました。」

「では、その魔力をできるだけ絞って、僅かな量を全身に巡らせてください。」

「全身にですか?」

「ええ、血液のように全身にです。そして、その流れるスピードをどんどん速くしてゆきます。それができたら、主に2か所に集中してください。一つは魔力を使いたい場所。そしてもう一つは魔力を借りようとする場所です。」

「借りようとする場所ですか。」

「多くの魔力を借りることができるのは、水や土、岩など比較的重いものです。それらは多くの魔力を持っていますので大量に借りることができます。空気も僅かですが魔力を帯びていますので、慣れればここから借り受けることもできます。これなら体中から吸収できますから地面や水に触れている必要がないので楽です。ただ、軽いので流せる魔力が少なくなりますが。」

「なるほど。魔力を借りるものにはいつも触れていないといけないんですね。」

「そうです。理解が速いですね。」

 エリザベートが少し怪訝な表情になったが、サトシは魔力を動かすことに必死で気付かなかった。

 サトシは体中に魔力を高速で流し、その魔力を使って足が降れている地面から魔力を吸い出す。すると体内をめぐる魔力量が一気に増した。

「あとは、使いたいところから魔力を放出するだけです。」

 サトシは指先から魔力を放出する。昼間に流した魔力など比較にならないほどの強烈な魔力のビームが放出されるのを感じる。

「そうです。すごい!一回でものにするなんて。でも、注意してください。一度に流すことができる魔力は人によってまちまちです。自分の体に不釣り合いな魔力を流すと、体に大きな負担をかけてしまいます。ですから、今日はこのくらいにしたほうがいいと思います。」

 サトシは、体をめぐる魔力を徐々に弱め速度を落としてゆく。

「はい。ありがとうございます。」

 体の魔力が止まったところで、ふうっと深呼吸をした。

「確かに疲れますね。」

「でもすごいですよ。一回で理解して、あれだけの量の魔力を流すなんて。カールが気に入るわけですね。」

 隣では、アイが一生懸命意識を集中しているようだった。サトシはその邪魔をしないように、エリザベートの方に近づく。

「魔術も同じようなイメージなんですか?」

「魔術の場合は、先ほどの魔力を流す作業に加えて魔術錬成を行います。実際は適合が無いと効果が薄いので練習することはできないんですが、サトシの場合は多少なりとも結果が出そうなので、魔術錬成についても少しお話しておきましょう。」

 そこからエリザベートが魔術錬成について説明を始める。

「結果をイメージすることが重要です。目的というか最終的に『こうなってほしい』という状態を頭の中にイメージします。ただ、それだけでは魔力がいくらあっても足りませんから、先ほどのように周囲の魔力を動かしながら、その効果を増幅するように魔方陣を生成します。」

『キター!!魔方陣』

 サトシの「異世界」テンションはマックスである。サトシが考えたいろんな最強魔方陣が頭の中を飛び回る。

「魔方陣って、どんな感じなんですか?」

「そうですね。これは家に代々伝わるものであったり、師匠から教わったものであったりするんですが、長い年月研究された増幅術式を刻み込んだ魔方陣を『こうなってほしい』という現象に描きこむ感じですね。」

「一子相伝みたいな感じですね」

 サトシは、どこぞの方角神拳の継承者気分になっていた。

「別に子や弟子に託す必要はないんですが、それぞれで研究しているものが多いようですね。さすがにカールの一番弟子とはいえ、代々家に伝わる魔方陣を教えるわけにはいきませんから、魔法学校なんかで学ぶ基本的な魔方陣を。」

 『一番弟子って……』

 魔王の眷属みたいだな。とサトシは思いながらも、教えてもらえるならと否定はしなかった。

 エリザベートは、サトシの目の前に魔方陣を出現させる。それは六芒星の頂点に梵字が記された厨二病全開な雰囲気の「ザッツ魔方陣」というものだった。

『べったべたですね。』

 というのがサトシの感想だった。が、それがなおサトシの厨二心をくすぐる。

「一応説明しておきますと、自分の魔力だけを使う魔術が初級魔術。それを簡単な魔方陣で増幅するのが下級魔術です。」

「なるほど。」

「で、周囲の魔力を利用しながら放つ魔術が中級。それに魔方陣を組み合わせて増幅するのが上級魔術となります。まあ、一般論ですけどね。使う魔方陣や、周囲の魔力をどのくらい利用できるかによって、中級と上級は出力が大きく変わります。……初級なのに上級以上の出力を出すような出鱈目な人もいますけどね……」

 エリザベートの最後の言葉が誰を指すのかは、サトシにもなんとなく察しがついた。

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