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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
カールの譚
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何はともあれ

 うん。

 とりあえず出発に向けて準備をせねばなるまい。


 玉鋼だ。


 とうとう手に入る。


 うわぁい。



 と、浮かれている場合ではない。


 とりあえず、長期遠征だ。準備せねば。



 ああ、


 玉鋼……



 って、こんなことしている場合じゃない。



 と、無駄な時間を過ごすこと2日。


「お前何やってんだ。全然準備できてねぇじゃねえか。」


 オットーが、殴りたい顔でやってきた。


「わかってるよ。これからやるんだよ。」


「これからってどういうことだよ。俺を呼びつけといて!」


「持ち物はほとんどないんだよ。とりあえずギルマスの所へ行くぞ!」


「何しに?」


「とりあえず、準備だ」


 俺の準備について、実際はそれほどない。

 特に、今回は長丁場ではあるが、食うには困らない。なんせキャラバンも一緒だから

 路銀は潤沢にあるし、なんなら途中で集めた素材を売っぱらっても良い。

 俺には「玉鋼」以外必要ない。


 俺の武器も防具も、いつものやつだ。

 

 とりあえずの準備としては、いま工房と店においてある武器防具を盗まれないようにするだけだ。俺の店の武器防具は自分で言うのもなんだが物が良い。騎士団や貴族からの引き合いもかなりある。吹っかけて断ってる。基本的には趣味で作ってる。どうでもいいのを売って、生活費に充てている。が、それでさえ、結構な値になる。


 そんな店を、二月ふたつきもあければどうなるか。

 そりゃ、貴族が雇ったコソ泥に全部盗まれるのがおちだ。


 今のところ、店番として、知り合いの駆け出し鍛冶屋に話をつけてある。

 が、駆け出しだから頼りない。チョー頼りない。まあ、若干話も通じないが。


 それはいい。


 頼りないのを、ギルマスに補ってもらおうと思ってる。今回は、言ってみればギルマスからの依頼だ。頼んでも罰は当たらんだろうし、借りにもならんだろう。


「っていうか、俺を呼びつけた理由は何だよ?」


「とりあえず確認したい」


 そう、オットーには確認しなきゃならんことがある。


「玉鋼はどこの情報だ?」


「ああ、そのことか」


 玉鋼のことで頭がいっぱい。胸いっぱい。

 というわけではない。

 本当に聞かないといけない事は


「なんで、俺が玉鋼を探してるって知ってた?」


「……」

 

 そう、これは誰にも言ってない。

 「玉鋼」なんてアイテムのことを知ってるやつはほとんどいない。

 俺は親父から聞いた。

 形見の剣……親父は「カタナ」と呼んでたが……を作るときに、やっと手に入ったと珍しくあの親父がはしゃいでいたからだ。


 「知り合いから譲ってもらった。」と親父は言ってた。

 この辺りでは誰も知らない素材だから、冒険者ギルドに依頼を出しても無駄だとも言っていた。それを覚えていたから、俺は依頼を出すどころか、話すらしたことがない。そう、誰にもだ。


「まあ、あれだ。とりあえずカマをかけてみただけだよ。」


「どういうことだ」


「玉鋼の話が入ってきた時に、ちょっとした伝手から、お前の親父さんが昔それを探してたらしいって聞いてよ」

「親父が?」


「まあ、お前の親父さんが探すくらいだから、お前も知ってんじゃないかと思ってよ。で、つついてみたら大当たりってとこだな。俺らにとっちゃ今回のはかなりおいしい依頼だしな。使える情報は何でも使うさ。」


「別に、キャラバンの護衛なら俺が居なくてもお前らには話が来るだろ?」


「いや、王族の一部が今回の行軍に反対してるらしい。騎士団からすれば、武器防具の整備は死活問題だからな。お前が受けない場合、王都中の鍛冶屋を呼んだところで、長期の遠征は厳しいだろうって考えだ」

「じゃあ、俺が断ったら魔王とは一戦交えないってことか?」

「まあ、そうなる可能性が高いってことだな。正直、なんで魔王に喧嘩を吹っかけるのかもよくわかってないみたいだしな。」

「じゃあ、受けない方が良かったのか」

「俺らは、受けてくれて助かったけどよ。」


「そうか、まあ、それはいいとしよう」

「それで終わりかい、俺の用は」

「いや、その手に入った「玉鋼」は今どこにある?それに、本物か?」

「本物は本物らしい。なんせローラ嬢の鑑定結果だしな。ただ、大した量じゃないらしいぜ?」


 ローラ嬢、ギルマスの孫か。

 あそこは代々「鑑定」のスキル持ちだ。ギルド運営には欠かせない。依頼達成報告をちょろまかそうとする輩は山ほどいる。それを見抜けなければギルドの信用はがた落ちだ。だから、大概どこの町でも冒険者や商業のギルドマスターの家系は「鑑定」のスキルを持っている。


「ローラ嬢から聞いたのか?」

「いんや、普通に冒険者ギルドで話題になってたよ。お前が、顔を出さないから知らないだけだろ。」


「なんで俺が冒険者ギルドに行く必要がある?」


「一応冒険者じゃねぇか」


「なった覚えはねえよ」


「なってるよ。一応ルーキーってことになってたと思うぜ」


「なんでだよ。登録もしてねぇのに。」

「知らねえよ。俺はギルマスから聞いただけだ。」


 いやいや、ちょっと待て。勝手に人を冒険者にするなよ。ふざけやがって


「おい、出かけるぞ!」


「いやいや、遠征の準備はどうすんだよ。」


「だから、それをしに行くんだよ。」


 とりあえず、どれもこれもギルドに行って話をつけなきゃならん。オットーを引き連れて冒険者ギルドに向かう。


 ……


 冒険者ギルドは相変わらず閑散としている。まずは、ローラ嬢だな。


「すまんが、ローラ嬢いるかい?」


「ローラさんですね。少々お待ちください。」

 受付嬢の一人が2階へ呼びに行く。


 待つ間、オットーの顔を見てると殴りそうになるので、掲示板を見ることにする。ルーキー向けの依頼が所狭しと貼ってある。今は多くの冒険者が遠征の傭兵として雇われているため、依頼をこなせていないようだ。


「カール、久しぶりね。」

 ローラ嬢の事は彼女が小さいころから知っているが、どうも苦手だ。手短に済ませたい。


「玉鋼を持ち込んだ冒険者がいるって聞いたんだが」

「ああ、あのアイテムね。その話どこで聞いたの?」

「そいつだよ。で、誰が持ち込んで、今それはどこにある?」

 顎をしゃくってオットーを指す。

「ずいぶんせっつくわね。本当なら守秘義務対象だけど、まあ、ただならぬカールと私の仲だしね」

 どんな仲だよ。鬱陶しいな。


「ここにはないわよ。うちでは扱いきれないから王立研究所に預けたから」

「は?扱いきれないってなんだよ」

「小指の先ほどの大きさで鑑定金額が2000リルだったのよ。」

「そんなに高けぇのか?」

「そうねぇ。正直うちでは利用価値がないから、王立研究所に持って行ったのよ。利用方法がわかったら買い取ってもらうためにね」


 鑑定スキルは、頭の中にいろいろな情報が現れるらしい。

 俺にはそのスキルがないのでよくわからないが、鑑定対象物の「正式な名前」や「効果」などの特性、「適正な販売価格」なんかが頭に浮かぶらしい。

 親父も鑑定スキルを持っていたらしく、素材を眺めては何かぶつぶつ言っていた記憶がある。


「持ち込んだ野郎は、それに価値があるって知ってたのか?」

「知らなかったみたいね。持ち込んだのはほかの町の冒険者だったけど、一緒に持ってきた素材の欠片か何かだと思ってたみたいよ。ほくほく顔で帰っていったわ。こっちはそんな得体のしれない物に大金を渡さないといけないんだから、たまったもんじゃないわよ。」


「で、そいつはどこに行った?」

「さあ、自分の町に帰っていったんじゃない?これに関しては教えられないわね。守秘義務があるから。」

 まあ、大金持ってる冒険者は襲われる可能性が高いから、そいつの素性を教えるわけにはいかないだろう。


「じゃあ、どこで拾ったって言ってた?」


「確か、『西の平原で倒した魔獣から取れた』って言ってたけど。まあ、正直あてにならないわね。魔獣から取れたってのも含めて」

「どういうことだ?」

「盗品の可能性が高いかなぁってね。でも、こればっかりは鑑定では出ないから。疑わしきは罰せずってね」


「そうか。」

 まあ、西の方だっていうんなら、今回の遠征で手に入れられる可能性があるってことだしな。まあ良しとしよう。


「あと、俺が冒険者になってるってのはどういうことだ」

「……」

 なんか睨まれてる?いや、怒っていいのは俺だろ。俺だよな?あれ、違うのか?


「まあ、その話はここでする話じゃないし。おじいさまに聞いてくださる?カールさん」

 急に作り笑いになった。

 さっきまでとは打って変わってよそよそしい物言いだな。


「お、おう」

 ちょっと気おされてしまった。

 

「じゃあ、ギルマスに合わせてくれ」


「こちらへどうぞ」

 ああ、怖い。やっぱりこいつ嫌だ。


 ギルマスの執務室に通された。爺がテーブルの向こう側に座って、書類に目を通している。

「ん、どうした。珍しいな。お前から来るなんて」

「ああ、いくつか話があってな。まず、今回の遠征に行ってる間の店のことなんだが、ギルに貸そうと思ってる。」


 ギルは、駆け出しの鍛冶屋だ。以前同業者から弟子にしてやってほしいと預けられたことがある。まあ、その時は弟子を取るつもりもなかったが、暇だったんで鍛冶屋の基本だけは教えてやった。腕はそこそこだが、まだ店を持ってないので、知り合いの店を手伝っている。

 

「好きにすればいいじゃねぇか。なんで俺んとこに言いに来る?」

 

「俺がいない間、あいつの後見をしてやってくれねぇか?俺の商品をわけのわからない客に勝手に持っていかれても困るからよ」


 俺が作った武器防具は特殊効果を付与してあるので、騎士団や貴族から狙われている。

 結構な金額を提示されるが、俺は全く売る気がない。別に生活のために作っているわけじゃなく、趣味で作ってるだけだ。

 だから、どんな話も突っぱねているが、俺がいない間はそうはいかない。

 ギルでは貴族に押し切られて売り飛ばしてしまうかもしれないから、ギルマスににらみを利かせておいてもらいたかった。


「なにいってんだ。お前の許可なしで武器防具を買った(奪った)となりゃ、お前が帰ってきた時に何されるかわからんだろ。そんな恐ろしいことする奴なんか、王都中探してもいねぇよ。」


 ひでぇ言いようだな。でも、まあ、こう言っておけばなんやかんや行っても、ギルマスも動いてくれるだろう。


「で、それはそれとして、俺が冒険者で登録されてるってどういうことだ?」


 ギルマスは少し黙った後、やれやれといった雰囲気で話し出した。

「おまえ、好き勝手やりすぎだ」


「なにが?」


「勝手に魔獣を討伐してるだろ?」

「勝手にとは何だよ。魔獣討伐するのにギルドの許可がいるのか?」

「野良の魔獣を倒すくらいならとやかく言わん。お前、王都周辺の魔獣の群れを駆除しまくってるだろ?」


 うん。心当たりがあるな。素材が必要だから周辺の魔獣を手当たり次第に倒しまくってたことがあった。まあ、ずいぶん昔の話だが。


「なんで、何か問題か?」

「問題どころの騒ぎじゃない! あれは、うちの討伐依頼対象だ!」

「どうせ討伐するんなら一緒だろうが」

「ばかやろう。冒険者じゃないやつが討伐したら、報酬が発生せんだろうが!」

「ただで討伐してもらえるんなら、依頼主も喜ぶだろ。」

「依頼主はいいかもしれんが、こっちは商売あがったりだ!」

「そんなアコギな商売してるからだろう」

 

「はあ」

 ギルマスは随分わざとらしくため息をつく。

 なんだよ?なんか問題があるのか?


「何にもわかってねぇな。別に法外な報酬を要求してるわけじゃねぇ。冒険者は命を張ってるんだ、十分理にかなった報酬だよ。」

「でも、無料ただのほうがいいだろうが。依頼主からすれば。」

「短期的に見ればそうだろうよ。でもな。そんなことが続いて、誰もギルドに依頼しなくなったらどうなる?」

「ギルドはつぶれるだろうな。まあ、そんな商売してるから悪いんじゃないのか?」

「ギルドがつぶれて、困るのは誰だ?」

「ギルドの職員くらいじゃねぇの?」

「やっぱりわかってないな。

 ……

 今までは、ギルドに依頼すれば手数料は取られるが、適切に報酬を決定し、最適な冒険者に依頼をかけて問題を解決してくれる。

 でもな、ギルドがなくなれば、依頼主は、解決してくれる冒険者を自ら探さにゃならん。加えて、報酬も言い値になる。冒険者によっては吹っかけてくることもある。

 逆に依頼主によっては、討伐した後報酬を踏み倒すケースもあるだろう。依頼主にとっても冒険者にとっても結局は今よりももっと効率が悪くなり、問題も解決しない場合が多くなるってことだ。」


 まあ、そういわれればちゃんとした商売として成り立ってるんだな。

 

「でも、それと俺の登録と何の関係がある?」


「だから、表向きお前を冒険者としてるんだよ。ちゃんと報酬を受け取って適切にギルドが処理したってことにしてるんだ。そうしなきゃ、ギルドの信用問題にもなるし、何よりお前を王都から追放せにゃならん。」


「追放!?」

「やっぱり知らなかったか。冒険者ギルドはな、公共の利益のために存在してる。問題解決のための仲裁者的な存在だ。王国民の利益のために依頼を受けて、冒険者を派遣する。当然手数料を取ってな。

 逆に、その冒険者ギルドの活動を阻害する者。つまり以前のお前だ!そんなものは王国民の損失にしかならん。

 だから、対象は冒険者ギルドの名に懸けて排除する必要がある。普通なら登録された冒険者全員に、お前の討伐命令を出すところだ。」


「なに?全員に追われるのか。そこまでのことか?」


「そこまでなんだよ、依頼の無断執行は。まあ、一度位なら知らずにやった場合、警告程度で済ますがな。」


「警告受けたか、俺は?」


「してるよ。何度も。書面でも出してるし、お前を呼び出して叱ったこともあるだろ!」


「確かに、何回か小言を言われたな。なんか言われたなぁ~くらいにしか思ってなかったけど、

 ここ数年何も言われないんで忘れてた。」


「さっきも言ったが、本来ならお前は討伐対象だ。でもな、お前相手に喧嘩吹っかける奴は王都にはいねぇよ。うちの大事な冒険者を再起不能にされちゃかなわんからな。そうなると、あとは罰金か王都追放だ。」

 

 まあ、確かに、「ギルマス」やSランクの3人相手だとボコられそうだが、ほかのA級以下の冒険者だと束になってこられても負ける気はせんな。

 

「だから、平和的な解決策として、お前を登録したんだよ。手数料扱いで成功報酬はギルドで没収してる。文句があるなら今までの罰金を耳そろえて払ってもらおうか?依頼の無断執行は罰金刑の場合、依頼報酬の150倍だ。」


 ぐぬぬ。まあ、仕方ないか。

 

「ついでと言っちゃぁなんだがな。お前はルーキー扱いにしてる。本来ならSランクの上に設定したいところだが、今までおまえが依頼の難易度無視してやっちまうからってことでの苦肉の策だ。

 まあ、最強のルーキーってやつだな。これからはおとなしく依頼を確認してから素材収集に行くこった。」


 後ろでオットーがにやけてるのが手に取るようにわかる。

 ああ、殴りてぇ。

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