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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
サトシの譚
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新たなスキル

 サトシは反省していた。

『はぁ、昨日テンション上がって、余計なこと言っちゃったかなぁ。』

 昨日のゴブリン撃退劇を見て感動したサトシは、その勢いのままラスボスことカールに

「あの、僕に剣術と魔術を教えていただけませんか?」

 と、何とも厚かましいお願いをした。勢い余ってという奴である。

『このガキ生意気だって殺されないかなぁ……』

 もっともな心配である。なんせ相手は魔王の討伐に行こうとするラスボスだ。訳が分からないが、魔王と張り合う実力者だろう。サトシが今までやってきたゲームでもあんなステータスは見たことがない。一時期のRPGでは、やり込み要素として裏ボスを配置するケースもある。一般的に裏ボスの方がラスボスの数倍強いというのが常だが。それでもあんなステータスは見たことがない。HPは普通……、100歩譲って普通としても、あの魔力は異常だ。本人曰くの『ファイアボール』とやらでサトシたちは消し炭にされるのではないかと心配ている。

 そんな気の重い朝に朝食の準備をしていると、外から轟音が響き渡たり、小屋が燃えているのではないかと思うほどの熱気が襲ってくる。サトシはその方角へ恐る恐る歩みを進める。

 小屋の物陰から覗くと、見目麗しいエリザベートとカールがそこにいた。配下の美人魔導士をこき使う魔王そのものといった感じだ。エリザベートが手をかざす先には昨日のゴブリンの死体が堆く積まれている。その死体の山に炎の竜巻が襲い掛かっている。

 

 サトシは恐怖……というより呆れに近い感情でその様子を眺めていたが、ふと我に返り、昨日のエリザベートの魔力について調べてみたくなった。魔力を使っているようではあるが、何とも不思議な数値の動きをしていた。下がっては、少し戻り、また下がっては、少し戻りと。そこで、サトシは催眠を活用してみる。

『魔力の流れを可視化しろ!』

 何度か念じたところで、エリザベートとカールが恐ろしく輝き始める。まるで太陽を直視しているようだった。

「あぎゃ!上限設定!!」

 慌てて叫ぶ。幸い周囲は竜巻と炎の轟音でサトシの声はかき消されていた。


 サトシの目には、魔力の動きが輝きとして見えるようになっていた。エリザベートとカールは真っ白にハレーションを起こしているが、エリザベートから流れる魔力が地面を通って竜巻に流れ込んでいるのが見える。が、その魔力は非常に微弱で、流れては止まりを繰り返す。それに対して、地面から大量の魔力が竜巻に流れ込んでいる。言ってみれば、エリザベートから流れる魔力は呼び水として流しているだけで、ほとんどは大地から流れているものだった。また、大地の魔力の一部はエリザベートにも入って行く。


『地面にも魔力があるのか。』

 そう考えて周りを見回すと、ほとんどのものにわずかではあるが魔力が通っている。むしろ、一部のルーキー冒険者たちが全く魔力を持っておらず、その事が奇異に映った。そんなことを考えているとカールの声がする。

 

「いやぁ、助かったよエリザ!」

「喜んでもらえてうれしいです。」

 死体の山が燃え尽きたようだ。エリザベートは炎が消えた後の燃えカスに、再度強めの竜巻を当てる。おそらく冷凍系の魔法だろう、当たりの熱気が一気に冷める。

 灰ばかりになった山にカールが入って行く。そこで何やら探しているようだ。サトシは自分も焼かれるのではないかという恐怖から、静かにその場所を後にする。


 自分の小屋に帰る道すがら、目につくものの魔力を確認する。草、木、土、石、小屋の壁に至るまで、微量ではあるが魔力が存在する。目を凝らしてみれば空気にも僅かに存在しているのがわかった。が、道行くルーキ冒険者や、商人、職人の多くは全くと言っていいほど魔力を持っていない。冒険者でも一部は魔力を持っている物も居たが、全体としては2~3割と言ったところだろうか。そんなことを考えながら、小屋に戻るとアイが寝ている。アイにも魔力を感じない。魔力の有る無しが一体何なのか、一瞬カールたちに聞いてみたい衝動にかられたが、慌てて頭を振りその気持ちを振り払う。

『余計なことを聞いて、粛清されても困るしなぁ、今はせっかく機嫌よさそうだったし。』

 そんなことを考えていると、カールが小屋に入ってくる。

 

「サトシだっけ?ちょっといいか?」

「はい、何でしょう?」

「昨日言ってた、剣術の件だけど、教えてやってもいいぜ」

 カールは思いのほか、気安く声をかけてきた。言ってみるもんだとサトシは思った。

「ありがとうございます!早速教えてもらえるんですか?」

 厚かましくも聞いてみると

「いや、まずは武器と防具の調達だ。棒っ切れで練習したところで、魔獣相手に戦えねぇからな。実際に剣を振った方がいい。時間がないから実践あるのみだ。で、そのための武器・防具をそろえる。目ぼしいのは持ってきたから、集落のはずれの廃屋になってる鍛冶屋に行こう。」

 との返答。

「鍛冶屋ですか?」

 鍛冶屋、そんなものあっただろうか?と疑問に思いながらカールの後をついてゆく。どうやら、先ほどゴブリンの死体を焼いていたのは使える武器を手に入れるためだったらしい。あの豪華に焼かれて原形をとどめている武器防具ということはかなりの業物なのだろう。

「そうだ、この武具はそこそこのモンだが、もう一度鍛えなおさないとな。俺は鍛冶屋だからよ。いったん使い物になるようにしておいてやるよ。」

『なんですと?』

 つい言葉に出そうになる。そんな常識外れの鍛冶屋が居るのか?サトシはそう思った。

「剣士じゃないんですか?」

「ああ、剣術はおまけみたいなもんだな。」

「おまけで…あれですか…」

 あきれてものが言えなかった。だが、本人がそういうのである。おそらくは鍛冶屋なのだろう。逆らったところで何の得も無いので、サトシは黙ってついてゆくことにする。

 おそらく鍛冶屋だったであろう廃墟は荒れ果ててはいるものの、鍛冶屋道具はそれなりにそろっていた。

 ハンマー、金床、やっとこ、炉にふいご、燃料となるコークスもある程度は残っている。仕上げの砥石もあった。


「ちょっと火を入れてみようか。」

 カールはそういうと、魔力で火をおこし、炉の中に入っているコークスに火を入れる。そして鞴で風を送ると、炉からは見る間に熱気を帯びた赤々とした炎が立ち上る。

「あの、カ、……」

 あやうく『ラスボスさん』と言いかかったところで慌ててカールと言い直そうとして噛んだ。

「ああ、まだ名前行ってなかったな。俺はカールだ。よろしくな。」

『あれ?昨日名前聞いたよな。まあいいか。』

「いえ、あ、あぁカールさん、よろしくお願いします。で、カールさんがお持ちの剣なんですが…これもカールさんが作られたんですか?」

「これかい、これは親父の作でね、形見なんだよ親父の。俺には作れなかった。材料もなければ腕もないしな。まあ、その程度の鍛冶屋だけどよ。それなりのモンは作れるぜ。」

「ほかの冒険者さんが持っている剣と…その、ずいぶん形が違いますね。」

「ああ、そうだな。親父は『カタナ』って言ってたな。そういう剣らしい。」

「そうですか…」

「ああ、そういえば、ゴブリンの群れが来た時、なんか言ってなかった?」

「いえ、特に何も」

「そう?」

『転生者じゃないのか。』

 サトシは先ほど仮説を立てていた。魔力を持つ人物は転生者なのではないかと。カールが日本刀を持っていたことから、転生者の可能性が高いと考えていたが、今の「カタナ」という言葉遣いからして、どうやら転生者では無いと結論付けた。

 サトシがそんなことを考えている間に、炉には十分熱が入り、カールはおそらく業物であっただろう剣の柄を外して刃の部分を放り込む。空気を送り剣がオレンジに輝くまで加熱する。

 カールは流れるような手つきで明るく光った剣を炉から取り出し、金床の上で叩く。ハンマーと剣がぶつかり火の粉を散らす。この様を見ると確かに鍛冶屋なのだろう。サトシが資料や動画でみた刀鍛冶そのものだった。カールは無心にハンマーでたたき続ける。

 輝きが鈍ったところで、再度炉に入れ温度を上げる。熱を持った剣を再度金床の上で鍛え続ける。

 形が整ったところで、再度炉にくべる。オレンジから黄色に輝きが変わったところで、一気に水につける。

 ジュワァァ!!!

 激しい水蒸気が立ち上る。水の中で剣を小刻みに動かしながら冷やす。

 水から出てきた剣は真っ黒になって見る影もないが、磨けば今まで以上の輝きと強さを発揮するはずだ。


 サトシはカールの作業を食い入るように見ていた。この作業を覚えれば自分で武器が作れるんじゃないだろうか、そう考えていた。

「すいません。僕にもその作業教えてもらえませんか?」

「お、こっちに興味持ったか。センスあるな。いいぞ。やってみるかい?」

 カールは嬉しそうにサトシにやっとこを渡す。

 サトシは見よう見まねでもう一本の剣を鍛え始めた。そう、転生前の記憶が少しずつではあるが戻ってきている。サトシは日本の大学生だ。工学系で金属材料についても単位を取っていた。この材料はおそらく炭素鋼だろう。鉄ー炭素系合金だ。一般的には鉄と言われているが、現代社会で実用的に使われているもののほとんどは炭素鋼だ。炭素鋼は炭素量と温度によって結晶構造が変化する。それを利用していろいろな用途に活用されている。加工するときは柔らかくし、刃物として利用する場合は硬くする。これらの変化は結晶構造にの違いよって現れ、一般的には熱処理を行い所定の結晶構造にすることで硬さを変化させている。

「最後の焼入れはどのくらいまで加熱すればいいですか?」

『焼入れ』は一般的に良く利用される材料硬化法である

「あれ、前にやったことあるのか?」

「いや、ちょっと知り合いに聞いたことがあったので」

 つい言葉として出てしまった。が、この世界でも「焼入れ」で通じることにサトシは驚いた。

「そうか、なら話が早い。「焼入れ」はだいたいオレンジから黄色く輝きだしたら十分な温度だ。そこから一気に水で冷やす。本当は加熱する前に塩と野菜かすを混ぜた様などろどろの液体をまぶしてからやった方がいいんだが、まあ今回は良いだろう。ところで、サトシは魔力持ちか?」

「へ?」

 焼入れが魔力につながる理由がわからないし、何より最も知りたかった魔力の話をいきなり振られたことに虚を突かれてしまった。

「いや、魔力があるとこの作業も楽なんだよ。ちょっとやってみようか?」

 カールはそう言うと、おもむろにやっとこでつかんだ剣を炉から出してくる。

「まずは、腹の下の方に魔力をためるんだ。臍の下、握りこぶし半分くらいのところに意識を集中する感じだ。魔力がたまってくると熱を感じる。」

「ちょっとやってみます。あ、なんだか腹の下があったかくなってきました。」

 サトシは言われたままへその下、つまり丹田のあたりに力を籠める。すると、そのあたりに熱を感じるようになってきた。

「そう、それだ、そこから肩、腕、掌、剣とその熱を動かしてみな。」

「なんだか難しいですね。」

 サトシには、その熱を動かすという感覚が良くわからなかった。

「そうだな。ちょうど腹の中に水が溜まっていて、その水が徐々に動いていく感覚をイメージしてみな。」

 サトシは腹にたまった水を想像する。腹に水が溜まっている状態は病気くらいしか思いつかないが、悪いイメージを振り払いながら、水の流れを想像する。すると、

「あ、なんとなくできる気がします。ちょっとずつ動いてきました。」

「剣まで魔力が流れると、剣が光りだす。その時に剣の中をイメージするんだ。」

「剣の中?」

「そう、剣もそうだが、俺たちの体も、小さい粒が集まって出来上がってる。剣を作ってるその小さい粒をイメージするんだ。」

「ああ、なるほど」

 サトシは、

『この世界でも原子や分子については理解されているのか、結構科学が進歩してるのかなぁ』

 などと、考えていた。が

「すごいな、よく一発で理解できたな。俺も理解できたの最近なのに。」

 どうやら違ったらしい。慌ててごまかす。

「いや……、…カールさんの教え方がうまいんですよ。」

「そう?そうかなぁ。いや照れるなぁ。じゃあ、次行っちゃおう。剣を作ってる金属は、氷なんかと同じように結晶でできてる。ただ、この結晶の大きさによって素材の強さが大きく影響されちまうんだ。特に大きな結晶だともろくなっちまう。だから結晶を微細化するのが良いんだが、なかなかイメージしにくい。一番楽なのは全部の結晶を無くしちまうんだ。」

「無くす?」

「そう。言ってみれば、小さい粒が規則的に並んでいるのが結晶だ。金属はその結晶がいくつもくっついた状態になっているんだが、それをイメージするのが難しい。で、最終手段として、全部を規則性のない乱雑な状態にして結晶をなくしちまうんだな。切れ味は微妙だが強度は折り紙付きだ。」


 サトシは学生の頃に学んだことを思い出していた。確かに結晶構造によって材料の強度は大きく変化する。特に結晶が大きく粗大化した場合材料強度が落ちる。そこで、炭素鋼は熱処理によって結晶を微細化し強度を出している。が、今のカールの話はそれとはまったく別のアプローチから材料強度を上げようとしている。結晶を無くす。つまりアモルファスにすると言う事だ。が、ここでサトシは疑問に思う。

『なんだか情報が偏ってないか?』

 カールとのやり取りにそんな違和感を感じながらも、魔力を使って材料を鍛えるという『ザ、異世界』という雰囲気に流されテンションが上がって行く。

 サトシは言われたとおりに、材料に魔力を流しながら、結晶を想像する。

「……やってみます。」

 すると


 テッテレー!

 久々のメロディーが頭の中に鳴り響く。

「鍛冶屋見習いにジョブチェンジしました。それに伴いパラメータ再計算が行われます。」

『鍛冶屋見習い?再計算?』

「サトシのレベルは16に降下、体力の最大値が上昇しました、腕力が向上しました。攻撃力が減少しました。生命力が向上しました。知性が減少しました。素早さが減少しました。防御力が向上しました。運が減少しました。スキル催眠が観念動力テレキネシスにクラスチェンジしました。」

 急に頭の中に映像が現れる。 

「あ、結晶が見える気がします。」

 大学の講義で資料としてみた原子模型を使った結晶モデルの様な、立方格子が並んだ映像が映し出される。

「マジで?俺見えないのに?」

「あ、いや、見えたような気がしただけですが…」

『やばい!』

 サトシは焦った。教えてもらっておいて、自分だけスキルアップするのは印象が悪いのではないかと急に体裁ぶった。


「俺も必死でやってみたら見えるのかなぁ。ちょっとやってみよう。」

 カールが何やら考え込んでいる間に、自分のスキルを確認する。


『ユーザー:サトシ 職業:鍛冶屋見習い LV:16 HP:436/436 MP:24/24 MPPS:5 STR:36 ATK:36 VIT:28 INT:19 DEF:28 RES:16 AGI:171 LUK:116 EXP:881320

 スキル:観念動力テレキネシス 剣:Lv25 棍棒:Lv3 損傷個所 無し』

 

 サトシはほっとした。レベルが下がったというので、どれだけ下がったのかと思えばわずかだった。それに、ほとんどのパラメータは上がっていた。一部下がってはいるがそれほど問題ではなさそうだ。と安心していると。


「おお、俺にも見えたよ。結晶。すげーな。こうなってたのな。」

 カールも見えたという、サトシは慌ててカールのステータスを確認する。


 カールのステータスに『スキル:観念動力テレキネシス「極」』が増えていた。

 流石はラスボスと言ったところだろう、まだ成長する。加えていきなりの「極」である。サトシは格の違いを見せつけられた思いだったが、とりあえず話を合わせておく。

「あっ、ああ、見えますよね。すごいですね。これ。」

「いや、俺の方が教えられたな。」

「いえいえ、カールさんの教え方が適切だったからですよ。」

 これに関してはサトシの本心からの言葉だった。まさかこんなに簡単にスキルがを得られるとは、手間と時間をかけなくても、優れた指導者のちょっとしたアドバイスで開眼することがあるんだとしみじみ感じた。

「よし、防具もやってみようか。今の感じだと熱入れしなくても魔力で何とかなりそうだな。」

「はい。やってみます。」


 サトシはカールと共にその後2時間ほど、魔力を注ぎながら武器、防具を鍛え続けた。

 かなりの最強装備出来上がっている。これらの武器防具を使えれば、実力差がある相手でもある程度は勝負になりそうだ。

 悩んでいたステータス向上も、カールのおかげで時間をずいぶん節約できただろう。

 

 早速、それらの武器と防具を装備する。防具の仕立てについてはカールが調整してくれた。おかげでぴったりとして着心地が良い。剣もかなりの業物になっているようだ。


 カールが剣について教えてくれる。

「これは『グラディウス』ってやつだな。比較的小ぶりで取り回しがいい。サトシくらいのタッパならこのくらいが扱いやすいんじゃないか。形としてはよくある剣だが、造りが全く違うな。頑丈さと切れ味については、自分で言うのもなんだがは国宝級だと思うぜ。」


 サトシは剣を頭上高くかざし、惚れ惚れと眺める。確かに美しい。そして扱いやすそうだ。

 そうしていると、カールが工具を片付け始める。

「それじゃ、そろそろ剣術の方にかかろうか。」

「はい。よろしくお願いします。」

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