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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
サトシの譚
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化け物現る

『結局昨日は何もできなかったな。』

 サトシはぼんやりと天井を眺めながらこれからの事を考えていた。昨日はアイを一人にするわけにいかず、ずっと小屋の周りを散策し自分にある記憶をたどっていた。

 実際のところサトシが転生して数日しかたっていない。それ以前の記憶があると言っても、情報として覚えさせられたような記憶しかなく。事細かに覚えているわけではなかったため、あまり役に立つ情報は持っていなかった。

 横ではアイがすやすやと眠っている。サトシはやおら起き上がると。朝飯の準備を始めた。薪と焚き付け用の枯葉や小枝を竈に放り込む。ほどいた麻縄に火打石で種火をつける。手馴れたものだ。ただ、薪が後数本しかない。隣の小屋に取り置きがあったことを思い出し、それを取りに行く。


『母さんとジルを助けられるかどうかだな。』


 隣の小屋へ薪を取りに行きながら思いを巡らせる。ゴブリンに襲われてから数日たっている。実際のところ二人を救い出すのはかなり難しいだろう。だが、まったく望みがないかと言えば、そうとも言えない。レベルは確実に上がっている。奴らに見つからずにゴブリンの巣に潜入できれば……


 実際のところ催眠のスキルはかなり使い勝手がいい。体力回復、治癒、バフ、デバフ。オールマイティー且つノーリスク。後は、自分の低すぎるステータスの問題だ。何とかそれを克服できれば。そんなことを考えながら、武器になりそうな農具をちらりと見る。どれもこれもくたびれていて使い物にはならなそうだった。


『さて、どうしたもんかなぁ』


 と、考えこみすぎたのか当初の目的を忘れ、薪の有る小屋を通り過ぎていた。

「何やってんだ。俺は」


 集落の端まで来てしまっていた。踵を返したとき、昇りつつある太陽の下。地平の先に芥子粒の様な物が見える。


『なんだ、あれ?』


 太陽の光を手で遮りながら目を凝らす。見ているうちに、どんどん芥子粒は大きくなってゆく。そして、しばらくすると、それが馬車であることが分かった。それも、かなりの数だ。一列になっているようで、正確な数は判らないが、砂煙の量からしても10や20と言った数ではなく、もっと多い。


『盗賊団か?』


 サトシは、ゴブリン襲撃を受けて考えが後ろ向きになっていた。また襲われるかもしれない。そんな恐怖心から、すぐアイの元へ向かう。

 小屋に入った時、アイはまだ寝床で丸まって寝息を立てていた。

 サトシはアイの横に駆け寄ると、驚かせないように努めてゆっくりと肩を揺すって起こした。

「アイちゃん、起きれるかい?何かがこっちに向かってるみたいなんだ。どんな奴らかわからないから、隠れておこう。ね。できるかい?」

 アイは起きたばかりで状況が把握できていないようだが、勢いに押されて頷いている。

「じゃあ、あっちの小屋に行こう。」

 サトシは比較的破壊されていない小屋へと向かう。サトシとジルの小屋はこの間の襲撃で壁のいたるところに穴が開いてしまっている。逃げ道を塞ぐのは悪手だとわかっているが、恐怖が先に立つ。せめて背後だけでも壁で守られていたい。そんな衝動に駆られていた。

 二人は何もしゃべらず、じっと息をひそめる。車列が通り過ぎてくれるのをただただ待った。一団が近づいているのが音と振動でわかった。ゆっくりとした速度だが、かなりの数だ。100近くの馬車が連なっているだろう。じっと耳をそばだてて、車列の様子を窺う。

 すると先頭の車両が集落に差し掛かった時、急に馬車の一団が騒がしくなる。

「あ、まずい!」

 しまった!という思いでつい声が出た。朝食を作るために、竈に灯を入れていた。まだ焚きつけ中だったため、かなり煙が上がっていたはずだ。それに気づかれたかもしれない。それに、慌てていたために鉈や短剣などの武器も持ってきていない。どうするか。サトシの頭は今フル回転している。

 外から足音がする。迷いのない足音であることはサトシにも分かった。確実にここに居ることがばれている。

『なぜだ?竈の煙は2軒隣だぞ』


 すると、外から男の声がする。

「……何をビビってるんですか?大丈夫ですよ。あそこにいるのはたぶんガキが二人だ。」

『な!そこまでわかるのか?』

 どういう理屈かわからなかったが、正直勝てないと思った。もう襲われるがままだろう。


「おうい。邪魔するぜぇ。」

 気安い口調で男が入ってくる。それとは対照的にサトシの心臓は周りにも聞こえるほどの大きさと速さで鳴り続ける。緊張と恐怖で今にも倒れそうだ。しかし、勇気を振り絞りアイを背後に庇う。

 小屋に入ってきた男は両手をあげながら、おどけて続ける。

「襲いに来たわけじゃねぇよ。俺たちゃ行商だ。どうした。ここで何があった。前はもっと人数がいたはずだ。」

 それを聞くとアイは、力なくその場にへたり込んで泣き出した。が、サトシは緊張したままだ。まだ、この男の素性がわからない。

 サトシは、少女の方をさすりながら、男を警戒しつつ、心の中で唱える

『ステータス』

『オットー 職業:Sランク冒険者 LV:60 HP:5500/5577 MP:240/240 MPPS:100 STR:360 ATK:460 VIT:360 INT:490 DEF:460 RES:305 AGI:240 LUK:64

 スキル:探索者シーカー「極」』

『Sランク冒険者……段違いだな。とてもじゃないが逃げる事すら無理そうだ。』

 サトシはあきらめざるを得なかった。もし彼らが敵ならば、一瞬のうちに二人とも殺されるだろう。それに、このスキル『探索者シーカー』だ。おそらく先ほどこちらの様子が丸わかりだったことも、このスキルによるものだろう。だいたい「極」とついているあたりが絶望的だ。サトシのスキルはせいぜい☆マークが付くだけだが、その上があると言う事だ。どんな鍛錬を積めばこんな領域まで行けるのだろうか。この現実にサトシは気が遠くなる思いだった。


 このオットーなる男のステータスを確認しているときに、もう一人くたびれた男が入ってきていた。そちらに目をやり、再度ステータスを確認する。と


『は?』

 緊張・恐怖。そんなものがどうでもよくなるような現実がそこにはあった。『バグか?』サトシは正直なところそう思った。いや、そうであってほしいと願ったというのが正しいだろうか、そのくたびれた男の頭上に浮かぶステータスにはこのように書かれていた。

『カール 職業:ルーキ冒険者 LV:60 HP:43200/43200 MP:5,000,051,005/5,062,653,600 MPPS:1,000,000 STR:1200 ATK:4200 VIT:1200 INT:150 DEF:4200 RES:510 AGI:2400 LUK:64

 スキル:結晶操作「極」 剣:Lv785 棍棒:Lv622 槍:Lv531 斧:Lv382 体術:Lv882 魔術 火:Lv8』


『限界突破……いや、それよりも、何だこの魔力。何桁あるんだ?100万……10億……って?』

 思考が追い付かない。口をぽかんと開けたままサトシはその場に立ち尽くした。

『ラスボスだ。』

 まさにラスボスだった。

『そこに持ってきて職業ルーキー冒険者って、情報量多すぎるんですけど!』

 サトシは理不尽な怒りすら感じていた。


「ええと。知り合いだっけ?」

 ラスボスは気安く声をかけてきた。サトシは慌てて我に返る。

「あ、いえ。何でもないです。初めてお会いします。」

 自然と敬語になった。こんな奴に睨まれたら一巻の終わりだ。だからと言ってオドオドしては余計に目を付けられる。ヤンキーに陰キャが絡まれるのは、キョドって面白がられるからだとサトシは考えている。なので、ここは努めて冷静に、毒にも薬にもならないアピールをしなければならない。自然に、自然にとサトシは自分に言い聞かせながら自分の気持ちを落ち着けようと必死だった。

 すると、もう一人のSランク冒険者が小屋を出てゆく。

『いや、まって!この人を置いて行かないで!!』

 心の叫びは無情にも届かない。催眠ヒュプノシスを発動させるにはレベル差が大きすぎるようだった。

 しばらく無言の状態が続く、気まずい。何かを話さないとと考えるが、考えがまとまらない。

『一見人がよさそうに見えるけど、これもカモフラージュなのか?どう考えてもステータス的には、ラスボスの方が上なのに、Sランク冒険者の方が主導権を握ってる。試されてるのか?』

 ぐるぐると考えはめぐるが、答えが出ない。そうこうしていると、Sランク冒険者が帰ってきた。


「ちょっとは落ち着いたかい?俺はオットー、こいつはカールさんだ。行商の護衛としてここに来たんだが、落ち着いたら何があったのかを教えてほしい。」

「行商の護衛ですか……」

 サトシは、必死に今聞いた内容を反芻するが、頭に全く入ってこない。猛獣の檻の中に置き去りにされた気分だ。

「ああ、今王宮騎士団が、魔王討伐に向かってるんだ。大行軍なんでな、キャラバンも引き連れてるってわけだ。」

「魔王討伐……」

 横に居るのは違うんですか?と言葉が出かかってグッとこらえる。全く理解が追い付かない。

「で、この集落はもう少し人がいただろう?何があった?」

『助かった』

 と思った。物理的にではなく、話的にである。今サトシの考えは渋滞中だった。取り敢えず、誘導尋問的に質問をしてもらって考えをまとめるのが一番効果的だと思った。が、思うように言葉が出てこない。

「まずは、食事をとりな。ひもじいと頭も回んねぇからな。」

「ありがとうございます。」

 サトシはそういうのが精いっぱいだった。取り敢えず、もらった食事に手を付ける。

 

「もう少し時間がかかりそうだな。後でまた寄るから、何かあれば外の野営地に来てくれ。」

 二人は、そう言い残すと小屋を出て行った。



「はあ、何なんだあれ。」

 正直な感想がつい口を突いた。アイがこちらの表情を心配そうに眺めている。

「いや、アイちゃんは気にしなくていいよ。たぶん大丈夫だから。ね。安心して。」

 まったくサトシは安心していない。安心できるような状態じゃない。相手が何者なのかがわからないので今後の対策すら練ることができない。まずは出してもらった食事をとる。嵐が去ってようやく食事の味がわかるようになってきた。すると。

「うまい!」

 久々に食べるまともな食事だ。

 ここ数日、それとサトシの記憶にある過去の食事内容はひどい物だった。塩気の足りない味気ないスープや、獣臭さの抜けきらない焼いただけ、あるいは煮ただけの肉。硬くて筋張った物を無理やり腹へ流しこむ。せっかく転生した世界でのこの扱いは酷かった。まともな食事などこれから一生取れないのではないかとあきらめかけていたが、一筋の光明が見えた。まともな食事が存在するとわかっただけでも僥倖だった。


『まあ、ラスボスが魔王討伐って言うのもなんだかよくわからないけど、食べ物を恵んでくれるんだから、言うとおりにしていれば殺されることは無いか。』

 

 サトシは考えるのをやめた。

 いざ決めてしまえば、どうということは無い。サトシは落ち着きを取り戻した。


『とりあえず、お礼だけは言った方がいいだろうな』

 食事を終えると、アイと二人でお礼を言いに行くことにした。


 小屋を出て、人の気配のある方に向かう。畑の横の広場に多くの人たちが集まって休んでいた。


 先ほどの冒険者とラスボスは、他の男女と何やら話している。

 サトシは遠くからステータスを確認する。


『ヨハンソン 職業:Sランク冒険者 LV:59 HP:6092/6145 MP:236/236 MPPS:120 STR:354 ATK:620 VIT:354 INT:320 DEF:454 RES:219 AGI:236 LUK:63

 スキル:必中「極」 投擲:Lv272 弓:Lv386』


『エリザベート 職業:Sランク冒険者 LV:65 HP:7003/7860 MP:3,428,450/3,428,450 MPPS:31,000 STR:487 ATK:587 VIT:487 INT:1097 DEF:687 RES:1052 AGI:325 LUK:70

 スキル:全属性適合「極」 魔術 火:Lv375 水:Lv420 土:Lv285 風:Lv353 光:Lv430 闇:Lv230 無:Lv85』 


 Sランク冒険者だからだろうか?先ほどから出会う人物全員のステータスが異常だった。周りでたむろしている冒険者と思われる人物のステータスも確認してみる。


『ハンス 職業:ルーキ冒険者 LV:13 HP:413/413 STR:39 ATK:49 VIT:31 INT:15 DEF:41 RES:16 AGI:109 LUK:97』


 サトシはようやくまともなステータスに出会えた気がした。 

『ああ、俺と大して変わらないな。いや、当然俺より強いけどさ。なんだか、手が届くと言うか……だよね。このくらいの数値が普通だよね!あの人たちがおかしいんだよね!。』

 そういってくれとばかりにサトシは心の中で叫ぶ。周りの冒険者風の者たちを見回しても、五十歩百歩、大同小異と言ったところだ。少し安心する。気持ちが落ち着いたところで、ラスボスたちに話しかけることにした。

「食事をありがとうございました。」

 そう言いながら頭を下げる。

「いんや、気にするな。お嬢ちゃんの方は落ち着いたかい?」

 アイは無言でうなずく。目はじっとラスボスを見据えている。直感的に恐ろしさがわかるのか、それともサトシの感情が伝わったのかはよくわからないが、まだおびえている様子だ。

「僕はサトシと言います。この子はアイです。」

「兄妹かい?」

 ラスボス、ではなくカールが尋ねる。

「いえ。僕の家族は全員ゴブリンに襲われて……父は殺され。母と幼馴染はゴブリンの巣に連れて行かれました。この子はそのゴブリンの巣から逃げてきたみたいです。どうやら幼馴染が助けてくれたみたいで。」

「……」

 オットーと名乗った冒険者は黙って話を聞いている。

「ずいぶん大変な思いをしたんだな。それはいつの話だ?」

 カールが話を進める。

「3日ほど前です。アイがうちについたのは昨日ですけど、ここで休ませてもらってもいいですか?いつ襲われるか不安で…」

 アイは両手を前で組みうつむいて小刻みに震えている。アイの恐怖の対象がゴブリンかラスボス、そのどちらなのかは今一つサトシには判らなかったが、このラスボスたちに逆らわないと腹をくくったてここに居ることにした。この人たちならゴブリンの集団が来ても大丈夫だろうという確信があった。

 

「ああ、いいぜ。ゆっくり休みな。俺たちで見張っておくから。」

 サトシには思いのほかカールが良い人に見えてきた。

 カールがオットーの顔を覗き込む。つられてサトシもオットーの顔を見ると、どうも顔色が悪い。

 そして、急にオットーが後ろを振り返り冒険者の集団に向かって叫ぶ。

「ゴブリンの群れだ!野営地を護れ!非戦闘員は馬車の準備をしろ!!」

 突然の事に、周りの冒険者たちも含め、あっけにとられている。

「やべえぞ。もう目の前だ。ここまで気配を感じなかった。どういうことだ!」

 オットーは慌てている。それもそうだろう、目の前には200を軽く超えるゴブリン、それにホブゴブリンやオークも居る。サトシは背中に嫌な汗をかきながら、カールを見る。すると、彼は意外なほど落ち着いている。

 

「まあ、来ちまったもんは仕方ねぇよな。ルーキーはキャラバンを護れ!いいな!俺の近くに立つなよ。邪魔なもんは切り倒すぞ、エリザ、俺にバフをかけてくれ!あと、敵にデバフもな!ヨハンは後ろのを頼む。」

『ラスボスさん、あなたもルーキですよね?』という言葉が喉元まで出たが、サトシはぐっとこらえた。

 すると、カールが剣らしきものを手に取る。それは鞘に収まっていたが、あの反り具合。

「日本刀!」

 つい口に出た。サトシはフラグが立ったと感じた。そんなものを持っている人物がすぐに負けるわけがない。ラスボスのカールに守ってもらえると思ったからか、『異世界らしくなってきたなぁ』などとサトシは能天気なことを考え始める。


 ゴブリンたちは集落の目の前40mほどのところに迫っている。がカールは全く動じない。

 鞘を放り投げ、構えたかと思うと姿がブレる。目で追うこともできない。姿を探すと、ゴブリン一団の目の前で日本刀を振り抜いた後だった。カールの目の前には真っ二つになったゴブリンの上半身が中を舞い、二度三度と剣を振れば、彼の周りの半径5mほどは死体だけになる。

 「ファイアーボール!!」

 落ち着いた声で言い放ったかと思うと、彼の手からファイアボールが放たれ、ゴブリンの群れへと飛んで行く。先頭のゴブリンに当たったところでバカでかい火柱を上げ、たちまたその周囲のゴブリンを一掃する。カールを中心に半径100mほどは焼け野原になり、この範囲に居たゴブリンは跡形もなく燃え尽きた。


 そのカールの様子を眺めながら、後ろでは他のSランク冒険者たちが準備していた。エリザベートという美しい女性は、朗々と呪文の様な言葉を唱えながらカールに向けて手をかざす。

『魔法か!』

 サトシのテンションはマックスだった。これぞ異世界と言った心持ちだ。すかさずステータスを確認する。すると、エリザベートの魔力が、上がったり下がったりしている。消費されているわけではなさそうだ。

『あれ?』

 サトシは、カールのステータスも確認する。明らかに魔法を使っている。魔力に変化があるはずだ。すると、カールの魔力は確かに消費されている。まあ、誤差範囲だが。あちらこちらで火柱が上がるたびごっそりと魔力が減る。まあ……やはり誤差範囲だが……。逆に日本刀を振りながら切り付けているときも魔力は減り続けている。戦いの参考にしようと思ったサトシだったが、目の前で繰り広げられる一方的な虐殺は規格外過ぎた。憎しみの対象でしかなかったゴブリン達だが、今の様子を見るに憐憫の情すら湧いていた。

 カールが飛び込みゴブリンを切り捨てる。焼き尽くす。エリザベートが掛けたバフの効果か、踏み込みが早すぎて残像しか見えない。その周囲に目を向ければ、ヨハンソンのボウガンが正確無比にゴブリンの眉間を狙っている。一度に3~5発を同時に放ち、それらが見事にゴブリンの眉間に命中する。どれだけ離れていてもお構いなしだ。

 そして、一通りバフとデバフをかけ終えたエリザベートは、後方のゴブリンを風魔法で切り刻む。小さなつむじ風がゴブリンのみじん切りを作りながら通り過ぎてゆく。

 ゴブリン側から見れば『血飛沫の嵐』そう呼ぶにふさわしい虐殺だった。時間にすれば数分だろう。最後のゴブリンをヨハンソンが射貫き、辺りは静寂に包まれる。

 キャラバンを護れと命じられたルーキーたちはその様子を固唾をのんで見守っていたようだが、カール達がすべてを退けたのを確認すると歓喜の声を上げた。

「すげーや、やっぱりSランク冒険者だ!!」

「何が起こってるのかさっぱりわからなかったぜ、血飛沫しか見えねぇしよ!」

 興奮して口々に先ほど目にした様子を語り始める。そんな声が聞こえたからか、カールが照れながら片手をあげて賞賛の声に答えつつ、鞘を拾いに戻る。

 圧倒的だった。ステータスから考えれば当たり前の結末だろうが、あそこまで見事な立ち回りができるものだろうか。サトシはその様子に魅入られていた。 

「あの、僕に剣術と魔術を教えていただけませんか?」

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