陸路
「なんで転移使って、ささっと飛ばねぇんだ?」
オットーさんは不満げである。
まあ、仕方ないですよね。確かに。転移魔術を使って一瞬で移動すると思ってたんでしょうから。
そんな様子を見かねて、フリードリヒさんが口を開く。
「知らないふりはそのぐらいにしておけ」
ん?なぜそのセリフ?
「おそろしいね。魔王様は」
オットーさんは肩をすぼめながらため息がちに吐き捨てる。
ああ、わかった上で言ってたって事か。流石はSランクって事ですね。敵陣に転移魔術で乗り込む危険性についてわからないわけはないって事ですね。
そのうえで、フリードリヒさんがどういう考えかを知りたかったと……
ん~。言っといた方が良いかなぁ。
「あの」
俺の言葉に、皆の注目が集まる。
「なんだ?」
フリードリヒさんがめんどくさそうに尋ねてきた。
ホントにめんどくさそうですね。いや。俺にはこれの方がめんどくさいんですけど。
「オットーさん。フリードリヒさん。すいませんけど。腹の探り合いみたいなこと、やめてもらえません?正直なところ、俺としてはお二人を味方だと思ってるんですけど……
いまだにお二人は俺の事……というか、お互いの事を味方だと思って無いって事ですかね?」
……
俺の言葉に、オットーさんもフリードリヒさんも閉口した。想定外の進言だったのかもしれない。
でも、そうじゃない?いつまで経っても腹の探り合いしてたら話が進まんでしょ?
敵はカルロス……か、それ以上の存在って事なんだし。こんなところで腹の探り合いなんて無駄だと思うんだけど。取り敢えず、持ってる情報開示するのが賢明だと思うんですが、どうなのかね?
その思いは、二人に届いていたらしく、二人の表情が目まぐるしく変化し、最後は諦観に近い表情となった。
「善処する」
「だな」
フリードリヒさんとオットーさんが力なく呟く。
ほんとかなぁ。まあいい。これで俺は変な腹の探り合いに加担する必要はないだろう。これからは、ずけずけ言わせてもらいますよ。
「さて」
俺が話を区切ると、フリードリヒさんから質問が飛んできた。
「で、どうやってヴェストリアに向かう?」
「ウチの会社の輸送車を使おうと思ってます」
「サトシの会社ってえと、あの油を作ってる会社かい?」
「そうです。最近主要都市にはパイプラインが開通したんで、輸送車の出番が少なくなってるんですよね」
「なんだ。使わなくなった輸送車で向かうって事か?」
「いや、使わないわけじゃなくてですね。ごくごく最近ディーゼルエンジン開発したんですよ。実は」
「は?」
フリードリヒさんが頓狂な声を上げる。オットーさんとヨハンさんは何のことかわからないと言った雰囲気だ。
「で、ディーゼルエンジンの輸送車を作って運行テストしたいと思ってたんですが、同時並行で作ってたパイプラインが思いのほか早くできちゃって。運行テストする意味がなくなって来てたんですよね。で、ちょうどいいかなぁって」
「俺たちを実験台にする気か?」
「ほら。従業員使って実験するよりいいでしょ?」
「どういう理屈だよ!?」
「だって、俺達だったらいざとなったら転移も出来ますし、怪我しても直せるし。なにより、大概の事じゃ怪我しないじゃないですか。
ね?もってこいじゃないですか」
「なあ、魔王様とサトシは良いとしてもよ。俺とヨハンを数に入れねぇでもらえるか?」
「あ~。まあまあ、そう言わずに、なんせSランク冒険者ですよ。うってつけですよ!自信持ってください!」
ん?皆の視線が冷たいなぁ。刺すような視線ってやつですかね。まあ、気にしませんが。
「仕方ない。実験台になってやるか。で、その輸送車は何処にある?」
「じゃ、行きましょうか」
俺はそう言って、王都南の城壁外にある我が社の倉庫へと皆を案内した。
南門から出るとすぐに見える大きな建物。あれが我が社の倉庫だ。距離感がバグるほどの大きさのため、近くに見えるが、歩くと意外に遠い。我ながらとんでもない物を作ったものだ。
「サトシ。お前やっぱりおかしいな。ちょっとは常識ってものを考えろ」
「おい。あれ。ちょっとおかしくねぇか?」
「……でかい」
三者三様に賞賛の声を頂けた……と、理解しておこう。うん。そうしよう。
到着した王都支社第2倉庫は、我が社最大の物流倉庫である。
中には、小型のカイロからストーブやランプ、果ては大型ディーゼルエンジンまで、商品化したものから開発途上の物まで所狭しと並んでいる。
天井高は30mあり、ゆくゆくは航空機もここで製造する予定である!フリードリヒさんには負けないぞ!こっちはジャンボジェットだ!
ちなみに、フリードリヒさんは、魔力で動くセスナを過去に作っている。今は破壊されて残骸だけがヨウト近くに放棄されてるけどね。
「あ、そうそう。地下には研究所も作ってます。良いでしょ?」
「「「あ、そう」」」
あれ?おかしいな。三人とも反応薄くない。ちぇー。つまんねぇの。まあいいか。
「まあ、それはそれとして、これです。ディーゼルエンジン搭載の輸送車」
と、紹介したのがタンクローリーだ。アメリカ映画なんかでよく見るボンネット型の大型タンクローリー。キャビンを広めに作り、6人乗りにしている。
積載量は、試験運用と言うこともあり20kLと普通の量に収めている。
なぜって?まあ、正直なところバカみたいな量を積んでも良かったんだけど、液体を積載した状態での運転は意外に難しかったんだよね。
無謀と思われがちだが、これでも一応何度か試験運転は行っている。
主要都市間はアスファルト舗装が着々と進んでいるが、辺境の集落に行くためには未舗装の悪路を進む必要もあるからね。その事も考えての積載量と、キャビンの搭乗人数だ。
何かトラブルがあった時は、人数が必要だからね。
俺人件費には糸目をつけないから。
と、心の中で胸を張っていたんだが、その気持ちを知ってか知らずか、3人は意外に興味津々でお披露目したタンクローリーの周りをぐるぐる周回しながら舐めるように眺めまわしている。
「どうです?良いでしょ?そんなに興味津々ですか」
「ん~。興味と言うよりは。俺達こいつに命をあづけるわけだよな。そりゃ気になるよ。なぁ」
フリードリヒさんが二人に同意を求めると、二人は激しく頷いている。
なんと!失礼な。




