危惧
「それに……」
「それに?なんだ?」
フリードリヒさんは俺の言葉の続きを促す。
「なんで、その話を俺達にしたんですか?」
そう。俺達に。カルロスやアズライールと戦ったカールさん、ルークスさん、そして俺にその話をするのはわかる。でも、この話をオットーさんたちSランク冒険者たちにする理由がわからない。
申し訳ないが、彼らは戦力と呼べるか微妙だ。この中で、唯一役に立つ……ひどい言い方ではあるが、事実なので仕方ないが……人物と言えばオットーさんだ。
それも、戦闘要員としてではない。おそらくフリードリヒさんは調査要員として……いや、現時点で持っている情報を有益だと判断している節がある。
エリザさんやヨハンさんにそれほどの期待をしていないと思う。というか、弱点だと踏んでいる可能性すらある。
『なかなか鋭いじゃないか』
やはり念話で来たか。
おそらく、フリードリヒさんには敵のあたりがついている。
『カルロスですか?』
念話ですら答えず、フリードリヒさんは無言のまま意味深長な表情を浮かべる。
今回再びカルロスと対峙することになるなら……
エリザさんとヨハンさんの二人は、カールさんにとってのアキレス腱と成り得る。それを危惧しているんだろう。
フリードリヒさんにとって、カールさんは無二の親友だ。アズライールとの戦いで殺害されたカールさんを必死で蘇らせた、あの姿を見ていれば疑いようのない事実である。
それに、この3年近く、カールさんとともに街づくりや道具作りに勤しむ中で、カールさんの過去の記憶……つまり転生前の日本人だったころの記憶も、完全ではないにせよ、徐々に戻ってきているようだ。
これだけ長期にわたり寝食を共にしていれば、その変化にも気づく。
何気ない仕草に出てくる日本の慣習や、日本語の慣用句や言い回し。
確かに、この世界はゲームであり、日本語的な言葉遣いが使われていることがあるようだが、世界観を保持するため、直接的に日本を想起させる慣用句などはほとんど聞かなかった。
ルークスさんに会って、その言葉遣いで日本人転生者であることに気づいたほどだ。
……
長い沈黙に耐えかねて、オットーさんがおどけるように語り掛ける。
「で、俺達……に、何をしろと?」
俺から視線を外して、フリードリヒさんはオットーさんに向き直る。
「そうだな、まだ、エリザやヨハンに動いてもらう段階にはねぇんだ」
「ってことは、俺にはあるってことかい?」
そう言いながらオットーさんは肩をすぼめる。
「まあ、出し惜しみはなしにしようぜ。で、オットー。お前はどこまで情報をつかんでる?」
値踏みするようにフリードリヒさんの顔を見つめ、ややあきらめ気味にオットーさんは口を開いた。
「ブギーマンのことはどこまでつかんでる?俺が手の内をさらすんだ。あんたもさらしてもらわないとなぁ」
オットーさんの情報網恐るべしといったところだろうか。
ここでブギーマンが出てくるということは、彼も敵がカルロスだと踏んでいたということだ。
フリードリヒさんはオットーさんの瞳を見据えたまま、じっと動かない。
しばらくにこやかなにらみ合いが続き、わざとらしいため息とともにフリードリヒが口を開いた。
「そうだな。こっちもオープンにしないと協力関係を結べねぇか。まあ、いいだろう」
そういうと、フリードリヒは会議室の入り口に立つ部下に視線を送る。
一礼した部下が、部屋から出てゆき、しばらくすると紙束をもって入ってきた。
「これが、ブギーマンの拠点リストだ」




