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再建

 生方准教授は大きく深呼吸をしてから矢野君の方へ向き直る。

 わずかに震える指をごまかすために、拳を握っては緩め、握っては緩めを繰り返す。


 すっかり感情の抜け落ちた矢野の目は、ガラス玉のように生方を映していた。

 わずかに聞こえる受話器からの声が途切れた時、

「生方先生……お電話……です」

 必死で絞り出した矢野の抑揚のない、か細い声が研究室に響いた。



 その間も、モニタの中では羽虫のような点群が動き回り、古い映画のようにチラつきながら、昼夜の明暗が繰り返されている。


 何度も。何度も。


 ……


 ルークスがログアウトしてから、はや数か月。

 ウルサンは目覚ましい発展を遂げている。


 

 ハルマンを騙ったカルロスによるウルサン破壊工作……

 というよりは、


 それを阻止しようとしたカールの斬撃と魔術による爆破の影響で更地と化したウルサン。しかし、その完膚なきまでの破壊が幸いし再建作業は順調だったといえる。

 建物ひとつない更地の荒野は、幸か不幸か、整然と区画整理された町を再建するのにうってつけだった。


 王都に倣って、碁盤の目状、縦横垂直に引かれた大通り。

 周囲には水路も引かれ、以前の姿が想像できないほど衛生的な街へと変貌していった。


 通りにはエンドゥの製油所から運ばれてきたアスファルトが敷き詰められ、均一にならされた道は車両の往来を容易なものとし、復興のスピードアップに一役買うこととなった。


 また、サトシが作り出した小型の建設機械は、従前に比べて大幅に工期を短縮することに貢献した。

 カルロスとアズラーイールの排除後、すぐに始まった再建作業は、1年を待たずに以前よりも立派な街を作り上げていた。


 その後、より一層の発展を目指すサトシと、再度の粛清を危ぶみ現状で手を引こうとするフリードリヒの言い争いは数日に及んだが、カールの

「いい加減カタナが作りてえんだけど……」


 の一言で一応の決着を見ることとなった。


 

 クレータ街に戻ったサトシたちは、隠匿魔法でカモフラージュされているのをいいことに、クレータ街を魔改造し始める。

 ウルサンにも使用したアスファルトに始まり、初代王ルドルフが作り上げた建物をサトシの創造主クリエイターで改造し始める。


 ヨウトに設置し粛清を食らった火力発電所も、より大型のものを建設。当初は隊商で輸送していた重油も、エンドゥからヨウト、ヨウトからウサカ、ウルサン、そしてデールからクレータ街と、大陸を横断するほどの超巨大パイプラインを敷設し各所に恩恵をもたらした。


 本来なら、数十年規模の国家プロジェクトとなるであろう大工事も、サトシの手にかかれば、たかだか1年弱で完成してしまった。


 あきれ果てるフリードリヒ達をちをよそに、サトシはクレータ街の魔改造にいそしむ。エンリルから授かった天命の書版タブレットと、自らのスキルである創造主クリエイターを駆使して。

 カールとともにグヒグヒとイヤらしい笑い声をあげながら何やら作りこんでいるサトシに対して、もはや何を言っても無駄と思ったフリードリヒは、クレータ街の発展には目をつむり、ウルサンの統治について思いを巡らせていた。



 ……さらに月日は流れる


 

 カルロスが消えて2年。行方不明だったハルマンも見つかり、ウルサン自由連合は以前と同等の規模にまで勢力を拡大していた。


 

 ……

  

 クレータ街 カール工房


 ブオーーー ブイーーーーン ウーーーーン


 以前とは打って変わって、工房内の機器が電気的なけたたましいうなりを上げている。


「相も変わらず現実離れした場所だな。ここは」

 あきれたように言葉を吐き捨てながらフリードリヒが工房へと入ってきた。


 そんな言葉など気に留める様子もなく、カールとサトシは電気炉の温度表示を睨みつけていた。


 二人の前には加熱用の電気炉が7台、冷却用の水槽、油槽、それと高温で溶けた塩の入った容器が並んでいる。


「で、何の実験なんだよ。これは……」

 周囲を見渡しながらつぶやくフリードリヒ。その声はサトシとカールには届いていないようだった。

「今です!」

「おう!」

 フリードリヒの言葉を遮るように、サトシとカールが息を合わせて、電気炉の扉を開ける。

 途端に周囲は刺すような熱気であふれかえった。


 カールが電気炉の中にヤットコを突っ込み、中に置かれた真っ赤に焼けた金属の塊を取り出す。


「油です!10秒!」

「おう!」

 サトシの声に呼応するように、カールは油槽の中に真っ赤に輝く金属を放り込んだ。

 油層からは一瞬火柱が上がるが、カールが油層の中でやっとこを上下に振ると、炎が消え白煙が立ちのぼる。


「……8、9、10!いまです!」

「おう!」

 油層から取り出した金属の塊は、黒ずみ、表面にかさぶたのようなものがまとわりついていた。


 カールはそれを金床の上に置くと、やっとこを作業台に置き、大きく息をついた。


「ふう。どうだった?行けそうか?」

「多分大丈夫じゃないですかね。あとは常温まで冷却してから焼き戻しですね」


 楽しげに話している二人に、フリードリヒが再び声をかける。

「で、何やってんだ?」

 その声に、ようやく二人はふりーどりにの存在に気が付いた。

「ああ、いたのかよ」

 カールの言葉に、フリードリヒはイラつきを隠せなかった。

「ずいぶんな挨拶だな。」

「どうしました、珍しいですね。ここまでくるなんて」

 結局サトシたちは答える気など無いようだった。悪気もなさそうなのでフリードリヒはそれ以上聞くのをやめる。


「いや、ちょっと頼みがあってな」

「「頼み?」」

 怪訝そうな顔で二人がハモる。


「そういやな顔するなよ」

「でも、魔王の頼みだろ?そりゃ、なんかあるだろ。なぁ」

「まあ、そんな気がしても仕方ないですよねぇ」

 おどけた二人のやり取りが、一段とフリードリヒをイラつかせる。しかし、頼みがあるのはフリードリヒなので、ぐっとこらえた。

「随分な言いようだな、まあいい、会議室で待ってるよ」

 そういって立ち去ろうとするフリードリヒをサトシが呼び止める。


「あ、フリードリヒさん!すぐにはいけないと思いますけど大丈夫ですか?」

 サトシのその言葉に、あきらめに近い心境でフリードリヒは右手を上げて答えた。

「ああ、片付けが終わってからでいいよ」

「じゃあ、この後焼き戻しがあるんで、あと8時間くらいはかかります!」


「はち?!……お、おう。じゃあ、8時間後な」

 聞き間違いかと思うほどの内容に、慌てて振り向く。

「あ、そのあと片付けますんで、もう4時間ほど……夕方でいいですか?」

『いや、8時間も時間があるなら、その間にある程度カタしとけよ……』

 フリードリヒはその言葉を飲み込み、右手をひらひらさせながら了解の意を送った。



 12時間後 その日の夕方


「ようやくのご到着かよ」

 会議室、畳の間に胡坐をかいたフリードリヒが、日本酒をあおりながら悪態をついていた。

「あれ?エリザたちもいるのか」

 その場には、エリザ、オットー、ヨハンのSランク冒険者たちも集められていた。

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