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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
カールの譚
32/343

勇者降臨

 装備を整えフリードリヒの元に集まる。

「じゃあ、準備は良いか?」

「良くはねぇけど、行くしかないんだろ?」

「そう恨みがましい目で見んなよ。いざとなったら隠れるから大丈夫だよ。」

 ほんとかよ。まあ、魔王で勝てないんなら俺達でも駄目だろうし、どこにいても一緒かもしれんが……

「じゃあ、行こうか。」

 フリードリヒはそういうとエレベーターに乗り込んだ。皆で乗り込み扉が閉まる。軽い揺れの後体が軽くなる。

 扉の上に表示されている数字が10から9、8と下がって行き、1を過ぎたらB1、B2と数字が増えてゆく。

 B7と表示が出たところで、急に体が重くなった。


 扉が開くと、広々とした部屋だった。部屋の中央には大きな魔法陣が見える。あれが転移陣か。

「よし、みんなここに乗れ」

 全員で魔法陣に乗る。


 目の前の景色がゆがみ、それが収まると景色が変わっている。比較的広い部屋に転移したようだ。目の前に背の高い男が立っていた。

「お待ちしておりました。フリードリヒ様。」

 男はあいさつしながら一礼すると、フリードリヒの前を歩き始める。フリードリヒはその後に続く。俺たちもそれに続いた。


「で、ここは何処だ?」

「そうだな。位置的には中央広場の真下あたりかな。」

 死体が積み重なってた広場か……フランツの記憶が薄れた今となってはあんまりいい思い出は無いな。

「にしても何だあの服。」

 前を歩く男は、肌にピタッと張り付くような服を着て、体のラインがくっきりと見えている。腰やら手首やらにはベルトみたいなものも見えるが、なんだか変わった格好だ。

「奴はパイロットだからな。」

「ぱいろっと?」

「これからコウクウキでウルサンまで向かう。取り敢えず、乗っておけばいいさ。」

 フリードリヒが何を言ってるのかはよくわからんが、まあ、ついて行けばいいんだろう。と、後ろを歩きながら扉をくぐると、ひときわ大きな部屋に出た。

「なんだ?これ」

 魔都で見た電車にはねが付いたような乗り物がそこにあった。

「なんなんだよこれ?」

 オットーも初めて見る者のようだ。エリザもヨハンも固まっている。

「コウクウキだ。」

「コウクウキ?」

「これでウルサンまで飛ぶぞ。」

「いや、飛ぶって……これ空飛べるのか?」

 明らかに目立つ。これが空を飛ぶことがそもそもよくわからん。こんなものが空を飛ぶのか?魔王の考えることは正直判らん。

「どうやって飛ぶ?」

「ホントなら燃料使ってエンジンで……って言いたい所なんだが、そういうわけにもいかなくてな。魔力だ。」

「だれの?俺たちの魔力期待してんじゃないだろうな?」

「いや、それはパイロットに任すさ。」

「パイロット?」

「なに?こいつを使うわけ?魔力大丈夫?」

 正直な感想を述べさせてもらった。

「大丈夫だよ。こいつは特化型だ。まあ、お前の魔力なら、鼻息くらいでも飛ばせるけどな。」

 いや、どういうことだよ?という表情でエリザを見た。

「まあ、確かにカールなら楽勝ですね。」

 どんな評価だよ。エリザさん。おかしいですって。

「お前らがどんな評価してるか知らんが、俺じゃ無理だろ?」

「押すな!押すな!ってやつですね。わかります。」

 フリードリヒが急に変な口調になった。なんだよ。わかりますって。わかんねぇよ。

「いや。無理だから。」

「いいよ。冗談だ。特化型に任せてるから大丈夫だ。お前たちは座席に座ってふんぞり返ってればいいさ。」

 特化型ってのが気になるが、何もしなくていいんならいいや。

「じゃ、とりあえず乗ってもらおうか。」

 フリードリヒがそういうと、羽の横にあるドアから入って行く。

 中には10席ほどの椅子があり、「特化型」と言われた男が最前列に座り、フリードリヒはその後ろに座った。フリードリヒの後ろからは席は2列になっていて、俺たちは思い思いに着席する。

「じゃあ、行こうか。」

 フリードリヒがそういうとコウクウキが動き出す。すると椅子の背もたれに強く押し付けられ、窓から見える外の景色が後ろに流れてゆく。暗い地下から外へと飛び立ったことが分かった。

 飛び立ったコウクウキは一路ウルサンに向かう……つもりだったのだが。

「ありゃまずいな。」

「まだ消えてないのか。」

 目の前には大きな竜巻が見える。竜巻というより「壁」と言った方が良いくらいの大きさだ。視界一杯の雲がすさまじい勢いで回っている。今ではデールからでも見えるだろう。キャラバンで見たときよりも竜巻は随分大きくなっているようだ。

「こりゃ、直接向かうのは無理か。」

 フリードリヒもどうしたものかと思案しているようだ。

「そのまま突っ込むってわけにはいかないのか?」

「さすがカールさん。言うことが豪快ですな。」

 オットーに茶化された。うるせー。殴るぞ。

「お前からすればあの程度の竜巻って感じかもしれねぇが、このコウクウキで突っ込んだら粉々だろうな。それと、あんな竜巻は俺がこの世界に来てから一度も見たことがない。中の様子がわからん状態で突っ込むってのもな。取り敢えず、周囲を回って切れ間がないか様子を見てみるか。」

 まあ、それもそうだな。俺もあんなのは初めて見るし。

「それもそうか。でも結構な距離飛ぶことになるだろ?魔力は大丈夫なのか?」

「それは問題ありません。」

 パイロットの男が答える。そうか、問題ないならいいや。律儀に答えてくれてありがとう。

「こいつらの事は心配しなくていい。ちゃんとやってくれるさ。で、この竜巻がどのあたりまで広がってるかだな。」

「周りをまわってみるか?どこか雲の切れ間があるかもしれんしな。」

 そういうわけで、巨大竜巻の周囲を飛行する事になった。

「中の様子がさっぱりわからんな。」

 雲に切れ間らしきものは無く、中の様子は伺えない。ウルサン手前から南西に向かい飛行するが中に入れそうな場所は何処にもない。

「……上からは入れないのか?」

 ヨハンが呟く、さすがいいこと言うね!と思ったら、

「雲が漏斗状になっているので、かなり外からしか上に回れそうにないですね。」

 と、パイロット。

「雲をそのまま上に抜けられないのか?」

「この雲には魔力が多く含まれているので、雲に突入することはできないですね。」

 なるほど。この雲はそんなに魔力を帯びてるのか。

「そのせいかどうかはわからんが、中の様子も全くわからん。正直近づけば中の様子は感じ取れるかと思ってたんだがな。」

 と、オットーもお手上げの様子だ。

「お前のスキルでも中の様子がわからないのか?」

「ああ、まったく感じられん。ダンジョンでもここまで探知できない事は無なかったな。最近変なこと続きだから驚きはせんが。それでも厄介なことには変わりない。」

「王都の方まで行ってみるか。かなりの迂回にはなるが、この雲をよけて南回りで行ってみよう。」

「承知しました。」

 フリードリヒの指示にパイロットが答える。


 しばらく雲を左に見ながらかなりの距離を飛行した。


 もうそろそろ王都についてもよさそうなもんだが。

「で、今どのあたりだ?俺にはどのへんだかさっぱりわからんのだが。」

 パイロットに聞いてみる。

「いま、ちょうど王都の東に差し掛かるところです。王都もこの雲の中にすっぽりと納まっているようです。」

 そこまでデカいか。ウルサンから王都までとなると、600kmくらいにはなるんじゃないだろうか。そのまま北側を回って竜巻を一周する格好になった。

「結局周りには何もなしか……」

 と俺が言いかけたところで、フリードリヒがパイロットに何やら指示する。

「まずいな。」

 オットーどうした?

「また来たんだよ。奴らが。」

 フリードリヒの言葉に緊張が見て取れる。さっきの天使か?また?

「空で奴らと鉢合わせは分が悪い。取り敢えず、竜巻から離れて様子を見るぞ。」

 コウクウキは右の方に旋回して竜巻から距離を取る。そこで、フリードリヒが何やら呪文らしきものを唱え始める。フリードリヒの足元に現れた魔法陣が色を変えながら大きくなると、コウクウキ全体を囲むように広がり輝き始める。

「これで見つからないはずなんだがな。見つかったらカール頼む。」

 何をだよ。俺に何ができるよ。

「どうしろと?」

「まあ、見つからんとは思うが、見つかったら腹をくくって戦ってくれ。」

「お前たちが勝てない奴にか?ふざけんなよ。」

「おっと、軽口もここまでみたいだな。」

 はるか遠くに強大な魔力を感じる。それはかなりのスピードでこちらへと向かっている。コウクウキは奴らの進路からに最大船速で離脱する。 

 やがて、天使の姿が確認できた。はるか遠くからまっすぐに竜巻の方へ向かっている。

 

 コウクウキは距離を取りながら天使たちの後方に回り込み様子をうかがう。


「まっすぐ竜巻の方に向かってるが、あの雲をどう越えるつもりだ?」

「魔王3人をものともしないやつらだぜ?突っ切っていくんじゃねぇか?」

 オットーの意見ももっともだな。

「いや、あれを見ろ」

 フリードリヒが巨大竜巻を指さす。

 真っ黒な雲が渦を巻き、時折稲妻を走らせていた巨大竜巻は、徐々に回転を鈍らせてゆく。天使たちが近づくにつれて、その行く先を示すように雲が晴れ、青空が見え始める。

「なんでもありか…」

 とてもじゃないが、天候さえも如何こうできる奴らに勝てる気がしない。

「なあ、もう帰らねぇか?」

「何を言ってんだ。これからじゃねぇか。」

 フリードリヒは、いたずらを考えてる悪ガキのような顔で言い返す。


「もう少し近づいたら、下に降りるぞ。」

 天使たちが進む先に集落が見える。ん?あれ、サトシの集落か?

「なんだ?知ってる場所か?」

「いや、知り合いがいるんだよ。ゴブリンに襲われた集落でな。この嵐に耐えられたかなぁ。」

 今の感じだと、この集落は嵐の中心付近だ。見た感じ嵐の被害を受けた様子は無いが…どういうことだ。もっと被害を受けててもおかしくないだろ?

 コウクウキは集落が見下ろせる小高い丘の麓に着陸する。そこでコウクウキを降りた俺たち5人は、丘の上へ上り様子を窺う。


「なんだありゃ?あんなに畑整備されてたか?」

 我が目を疑った…村だ。ゴブリンに荒らされて荒廃してた集落が、ちゃんとした村になっている。畑も整備され収穫を待つだけの小麦らしき作物もできている。俺たちがサトシたちと別れてから1か月もたっていない。なのにこの変わりようだ。明らかにおかしい。村の中にサトシの姿を探す。

 

 すると、上空にとどまっていた天使たちのうち一人?というか一匹が村へと降りてゆく。そして、天使の姿がみるみる変わって行く。ちょうど砂で形作られた像が、風にさらされて崩れてゆくように、さらさらと虹色の粒となって崩れてゆく。そして崩れた粒は、渦を巻きながら村に向かって突進してゆく。虹色の嵐は畑や建物を蹴散らしながら地吹雪のように荒れ狂う。


 蹂躙。そう呼ぶにふさわしい。すべてを呑み込み跡形もなく消し去って行く。通り過ぎた後には何も残らない。なんなんだあれは。


 そう思った次の瞬間。虹色の渦の中心で閃光が走る。


 ドガァァン!!


 遠く離れたこの丘にも、遅れて衝撃が届く。強烈な閃光で虹色の渦の1/4ほどが消え去った。が、残った虹色の渦は、怒り狂ったように光の中心…あれは村人か?…の方に向かってゆく、中心の村人にまとわりつくように密度を増した虹色の渦はとんでもない速度で回り始める。


 フィキャッ!!


 またも閃光が走る。


 ドガァァン!!


 遅れて衝撃。先ほどよりもより強く大地を震わせる。残りの虹色の渦は跡形もなく消え去った。


 上空で待機していた天使たちは、一斉に形を変える。先ほどとは比較にならないほど大きな虹色の渦が村人に向かって動き始めたとき、村人から一筋の光線が天使だった渦を貫き上空に放たれる。

 その光線ははるか上空まで駆け上がると、ひと際大きな光を放つ。

 その光は上空を真っ白に染め上げ、地上のすべての色を失わせるほどの明るさだった。


 光が収まると、景色が赤色に染まる。そして、大地を震わせるほどの轟音と衝撃波。

 

「やられた!!!」


 フリードリヒが叫びながら、頭を抱えている。なんだ。何が起こった?

 


 視点を村に戻すと、上空から村人を狙っていた虹色の渦は力なく回転を止め、ただの砂粒のようにさらさらと地面に落ちてゆく。そして、それらは二度と動くことがなかった。

 あまりにあっけない幕切れに、俺もオットー、エリザ、ヨハンも言葉を失っていた。


「おい、行くぞ!」

 フリードリヒは怒気を含んだ声を上げ、一人村へと突っ込んでゆく。


 俺たちは、われに返ると、慌ててフリードリヒを追う。



 以前は無かった用水路や、畑のあぜ道を駆け抜けて村の中心へと向かう。


「お前は誰だ。何てことしてくれるんだ!」


 村の中心には、二人の男が立っていた。一人は真紅のローブを羽織った魔導士風の男。年のころは3,40と言ったところか。

 もう一人は……20代くらいの青年か、


「おい。お前一体なんだ?」

 フリードリヒの冷たい声が響いた。

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