暴挙
「……このやり方じゃ」
サトシは言葉を区切ると、両手を南西よりの空に向けて魔力を込める。
地上とタングステンシャフトの中間あたりに巨大な魔法陣が浮かび上がった。
『呪文の詠唱省略しても威力を増す方法ってあります?』
その問いかけに、エンリルは何かを思い出すように言葉を選びながら答える。
『魔法陣に呪文を刻むことで効率を上げることが出来る。属性ごとの魔法陣はこうだ』
その言葉と共に、目の前に各属性の魔法陣が表示される。
『あざーす』
その軽さにエンリルも若干呆れ気味だが、この状況を切り抜けることが出来るのはサトシだけである。
魔法陣の形状が切り替わると、周囲を流れる魔力の勢いが途端に激しくなる。暴風のように荒れ狂いながら魔力が渦巻いていた。
『超重力』
サトシの言葉に呼応するように、直径20mほどの黒い物体が現れる。その周囲はガラス玉を覗き込んだ時のように歪んだ風景が映り込んでいた。
加速する大量のタングステンシャフトは黒い物体の方に僅かに軌道をずらしながらも加速を続ける。
直撃こそしないものの、このままの軌道で落下すればサトシたちもただでは済まないだろう。
サトシが今一度魔力を込めると、地面に小さな亀裂が入る。
「無理か……」
落胆したかのように見えたサトシの表情は、次の瞬間にはいたずらをしようと企む少年のそれになっていた。
『特異点』
「『おい!』」
エンリルの念話とルークスの声がハモる。
周囲の光を捻じ曲げていた黒い物体が、瞬時に縮小し黒点になる。その刹那、周囲の物がその黒点へと吸い寄せられる。
黒点の周りには無数の光の筋が現れ高速で回転し輝き始め、ブラックホールが現れる。
全てのタングステンシャフトはブラックホールに向かって急旋回をする形で方向を変えた。
『蒸発!』
その声と共に、ブラックホールが中心に吸い込まれるように蒸発してゆく。
目標を失ったタングステンシャフトは、はるか遠くの砂漠地帯へ向かって自由落下していった。
「はっ、はっ、はははは!あはははは!すばらしい!この世界を破壊しかねないような暴挙を何のためらいもなく実行してしまうとは!」
アズラーイールは手を叩きながらサトシの蛮行を褒めたたえる。
「どうです?この目的のためには手段を択ばない豪胆さ!驚愕に値します。これですよ。私たちが望んでいたのは!」
そんなアズラーイールの言葉も耳に入らないほど、ルークスは追い込まれていた。
確かにサトシの蛮行によって窮地を脱することが出来た。しかし、薄氷を踏むどころの騒ぎではない。
千に一つ、いや、万に一つの確率をつかみ取ったほどの幸運による危険回避だった。
おそらくもう一度同じ攻撃を喰らったなら、サトシの行為はこの世界を滅亡させるものとなるだろう。と、ルークスは確信していた。
何とかアズラーイールの攻撃を防がなくては……
ルークスは、膝を深くおり力をためて跳びかかる体勢に入る。
ザシュ!!
アズラーイールの眼前に鋭い斬撃が降りかかる。その刃を辛うじて躱すが、今までのような余裕はなかった。
腰を低く落としたままのルークスは、何が起こったのか一瞬理解できなかった。
「待たせたな」
フリードリヒはアズラーイールから目を離すことなくルークスに語り掛ける。
「さあ!ここからは二対一だ」




