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暗転

 カールを包んだ漆黒の繭は脈打つように動いている。

 ようやく訪れた静寂に、フリードリヒは体勢を整えようと全身にバフをかける。

 周囲には複雑な魔法陣が二重、三重に重なり輝いている。


 そんなフリードリヒには目もくれず、長髪の天使は漆黒の繭を見て微笑んでいた。


 漆黒の繭は鼓動を刻みながら徐々に形を変えてゆく。

 当初卵のように平滑だった表面に細かな皴が現れ、それが徐々に深くなる。

 不規則に見えた皴はやがて規則正しく整列し鱗模様になっていた。

 

 鱗模様に刻まれた溝に光が走るようになると、鱗一枚一枚が立ち上がり、やがてそれが羽根へと変化する。


 羽に包まれた繭は、時折激しい光を放ちながら脈動を続ける。


 繭を覆う羽根の脈動は徐々に遅くなり、やがてぴたりと静止する。

 

 その動きをルークスたちは微動だにせず見つめていた。


「ステータスが……」

 サトシが指さす繭の上には、カールのステータスが表示されている。その表示がブロックノイズと共に変化する。


『カール 職業:ルシファー LV:〇 HP:◇/◇ MP:△/△ MPPS:@ STR:α ATK:ε VIT:λ INT:Δ DEF: Ω RES:μ AGI: ν LUK:ξ

 スキル:創世「極」 結晶操作「極」 観念動力「極」 剣:Lv γ 棍棒:Lv χ 槍:Lv η 斧:Lv ι 体術:Lv κ 魔術 火:Lv Σ 闇:Lv φ』


「ルシファーって……闇落ちしたって事か?」

 ルークスの言葉に誰も声を発することが出来なかった。


 ウルサンでは状況を察したフリードリヒがバフをかけながらカール達から距離を取る。


 先ほどまで微笑みをたたえていた長髪の天使は繭の変化を見ながらおもむろに腕を組み思案顔で眺めていた。



 静止していた繭が中央から大きく膨れ上がる。羽が逆立ち大きく翼を広げるような形で左右に割れてゆく。

 左右に大きく開いた繭は6対12枚の翼となっていた。


 中央に佇む人影。

 カールだった。

 漆黒の鎧に身を包み、両手からは黄金色に輝く太刀が生えている。

 

 憤怒の表情で上空に漂う天使を睨みつける瞳は銀色に鈍く光を放つ。


 目標を天使に定めたカールが、腰を落とし力を溜め、背中の羽根を折り大きく羽ばたくための予備動作に入る。



 シュン!


 カールの姿がブレると同時に周囲に衝撃波が襲い掛かる。


 カキィン!!


 上空の天使にカールが切りかかる。両手の太刀が代わる代わる天使に向かって振り下ろされる。

 襲い来る太刀を事も無げに躱す天使。

 太刀は空を切るたびどんどん加速して行く。


 加速し視認できないほどの速度で迫りくる太刀すら天使は易々と躱す。

 天使は怒りに任せて振り下ろされる太刀を見送りながら眉根を寄せる。


 攻めるカールと躱す天使。

 しばらくその攻防が続く。


 フリードリヒはその戦いから目を離さず後ずさる。


『おい!』

 フリードリヒはルークスに念話を飛ばす。

『どうした!?』

『カールの奴どうなってるんだ?そっちからは何かわかるか?』

『ステータス見れませんか?』

『カールがトチ狂ってから表示が消えた。今は何もわからん。俺のスキルも無効化されてるみたいだ。さっきから補助魔術使ってるけど効果が薄い。俺のステータスはどうなってる?』


 そう言われてルークスたちは慌ててフリードリヒのステータスを確認する。


『フリードリヒ 職業:術師 LV:982 HP:5253/25280156 MP:602,288/760,072,896 MPPS:2,700,000 STR:35,994 ATK:28,494 VIT:35,994 INT:22,999 DEF:688,494 RES:8,215,651 AGI:8,813,996 LUK:382,672 スキル:魂操作「極」無効』

 

『あれ?』

『どうした?』

 ルークスの頓狂な声にフリードリヒは不安を覚える。


『あんた、強くなってない?前見たときよりステータス随分上がってる……ってか、エゲツないな!?この数値。桁数可笑しいだろ!?』

『そうか……』

 ルークスのその叫びでフリードリヒは状況を察する。

 他人のステータスを弄れる彼からしてみれば、自分のステータスを弄ることすら造作もない。なので、暇に任せて弄り倒していたが、周囲にその異様なステータスを知られれば「魔王」だの「悪魔」だのとののしられることは目に見えていたため普段から偽装していた。

 しかし、その偽装がルークスにばれている。つまり今現在、彼自身のスキルや能力が制限されているということを悟ったのである。


『にしても、そんなに強いんなら、カール止められるだろ?』

『無茶言うな!!』

『なんでだよ。ステータス的には圧倒してるだろ?』

『お前、判って言ってるだろ?』

『何が?どういうこと?』

 ルークスの反応にフリードリヒは呆れ気味に答える。

『この世界じゃ「熟練度」と「魔力」がものを言うんだよ。その二つに関しちゃ俺は弄れねぇんだよ。カールのあのバケモンじみた魔力と熟練度を思い出してみろ?奴が本気になったら俺なんか瞬殺だよ』

『ああ~』

 ルークスは判った様な、判らないような声を上げる。


「ルークスさん!カールさんがマズいです」

 サトシの声にルークスは画面のカールへと視線を移す。


 画面の中では、黒い堕天使の猛攻を純白の天使が事も無げに片手でいなし続けていた。

 しかし、純白の天使が見せる余裕とは裏腹に表情は暗い。寄せた眉根の皴がどんどん深くなってゆく。


「カルロスを消したのは時期尚早だったかもしれませんね」

 不意に純白の天使から発せられた声は、その容姿に似つかわしくない低い枯れた声だった。


「期待外れです」

 そう吐き捨てるようにカールに告げた純白の天使は、人差し指と中指でカールの太刀を受け止める。

 その指をひねり上げるとカールは体勢を崩す。しかし、崩れた体勢からもう一方の太刀で天使の首元めがけ斬撃を繰り出した、その時。


 ザシュ!!


 小気味良い音と共に、カールの頭に天使の手刀がゆっくりと振り下ろされる。


 二人は動きを止めている。


 そこだけ時間が止まった様な静寂が訪れていた。


 

 会議室では皆が画面を食い入るように見つめている。


 見つめる先にはカールの後頭部があった。その中央、縦方向に光の筋が現れる。


 その筋は長くなりカールの首、背中、腰へと伸びながら徐々に太さを増してゆく。

 光の筋の向こうに天使の笑顔が現れたとき、カールの体が左右に分かれて地面の方へと落ちていった。


「カー……ル……?」

 静まり返った会議室の中で、エリザのかすれた声だけが響く。



 エリザは口元を抑えたまま、その場に膝から崩れ落ちた。

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