真犯人
「脆弱接続の修正を行います。8/55182」
「脆弱接続の修正に失敗しました。第1段階より再演算を行います。」
「脆弱接続の修正を行います。12/55182」
「脆弱接続の修正に失敗しました。第1段階より再演算を行います。」
「脆弱接続の修正を行います。16/55182」
「脆弱接続の修正に失敗しました。第1段階より再演算を行います。」
「おい。あれって」
ルークスは表示に視線を固定したままサトシに語り掛ける。サトシもその表示をじっと見つめていた。
「おい!あれなんだよ!?カールはどうなっちまったんだ?」
オットーはルークスとサトシに詰め寄るが、二人とも答えを持ち合わせていない。ただ、その表示をじっと眺めているだけだった。
カルロスはカールの変化に一瞬戸惑いを見せるものの、その表情はすぐに不敵な笑みへと変わった。
「さよけ。ならやってみまっさ」
カルロスは一人ごちると、体についた埃を両手で大げさに払い、声高に笑い始めた。
「あ~。カール。どうしたぁ。もう仕舞いかぁ!?
俺はピンシャンしてんで!
どうした!?己の未熟さが身にしみてわかったんかぁ!?あんときと同じやな」
「あの時……?」
目前に転がる焼け焦げた死体を睨みつけていたカールが視線をカルロスに向ける。
「あ~。覚えてないんか?
いや。覚えて無い訳無いわなぁ。お前のせいでルドルフは死んでもーたんやからな」
「親父……!?」
「なんや、俺の事覚えてないんか? いや。 顔も姿も違うもんなぁ。わからんかぁ~
せやな。一応名乗ってみようか」
カルロスはそう言うと、姿勢を正し、貴族の様な振る舞いでおどけて見せる。そして、
「王宮騎士団 ラズロット隊のフレッド兵長であります」
今までとは明らかに違う声色、ハルマンのしわがれた声ではなく、低いながらも張りのある若々しい声で、そう名乗る。
その声にカールは激しい吐き気とともに、体中の血が沸騰するような怒りを覚えた。
『フレッド兵長……フレッド』
何度も頭の中で繰り返されるその名前。そして現れるフラッシュバック
……
目の前にはヤットコで焼けた鋼を持ちながら、槌を打つ大きな背中。
火の粉を散らしながら、カンカンと軽快な音を立て鋼を鍛え続ける。
背後から近づく人影と、名乗る声。
『王宮騎士団 ラズロット隊のフレッド兵長であります。本日はラズロット隊長のご命令で伺いました』
実直そうな声に振りかえると、胸に拳を当てる騎士団流の敬礼をしながら、槌を打ち続ける背中に向かって大声で語りかけている騎士が居た。
『ルドルフ殿!お時間を頂戴したいのですがよろしいですか!』
その声は、槌を打つ背中には届いていないようだった。その騎士は自分の姿を見上げる瞳に気づいたのか、こちらに向かってウィンクをする。
ズキっ!
激しい頭痛と眩暈。再びのフラッシュバック。
あたりは血の海となっていて、目の前には倒れ込んだ職人風の男。それを忌々しそうに見下ろす騎士……フレッドだ。
「思い出してくれたかぁな?
何にせよ。お前はいっつも邪魔や。ルドルフを殺すつもりはなかった。
邪魔やったんはお前や。何のスキルも持たん……役に立たんお前が生き残ってしもた。ホンマにお前は役立たずやなぁ!」
その言葉にカールは頭を抱えてしゃがみ込む。
「新しい脆弱接続を発見しました」
「脆弱接続の修正を行います。25/6825444」
今までと違い、今度のプログレスバーは止まることなく進み続ける。
分子の数字はどんどん大きくなり、分母に近づく
そして、
「6825444/6825444」
「脆弱接続の修正が完了しました。」
軽快なアナウンスと共にダイアログが消える。
そして、カールはゆっくりと立ち上がった。




