犠牲
カールの掌から放たれた閃光がカルロスに向かって一直線に進み、その目前で周囲を白く染め上げる。
ウルサン全体が白く色を失う。
会議室でその様子を見ていた者たちの視力を奪うほどの明るさ。
一瞬の静寂の後、
轟音。
轟音などと呼ぶ事すら躊躇われるほどの圧力が周囲のすべてをなぎ倒す。
……
そして再びの静寂
……
「これでも駄目か……厄介な奴ですね」
サトシの呟きにルークスは静かに頷く。
目の前にはグレー一色の大画面。その中央にステータスのダイアログが表示されている。
「ユーザー:カルロス 職業:??? LV:225 HP:186/98800 MP:7/12,250 MPPS:1,000 STR:1490 ATK:2200 VIT:1320 INT:1689 DEF:1615 RES:1290 AGI:3240 LUK:885 スキル:人心掌握☆☆ まねっこ☆」
画面を覆っていた煙が徐々に晴れてゆく。
四つん這いになりながら必死に上体を起こそうとするカルロス。
その周囲を高速回転する複数の金色の物体。
「あれは、なんですか?」
エリザが画面に映る金色の物体を目で追いながら問いかける。
「子供達……だな」
ハルマンの手下によって攫われてきた子供達が、金色の魔法陣に囲まれて空中を飛び回っている。
そのうちの一人が、ハルマンに向かって両手を広げ呪文のようなものを口ずさむ。
すると、ハルマンに虹色の光が降り注ぎ、体中の傷がみるみる塞がって行く。
「体力も回復しましたね」
カルロスのステータスはほぼ全回復していた。
金色の光を放ち、ハルマンを回復させた子供は、輝きを失いゆっくり地面へと落ちてその場に倒れ込み動かなくなった。
「自己犠牲系の回復魔術ですね」
エリザが苦い顔で呟く。彼女の視線は画面の中で倒れ込んでいる子供に向けられていた。
カールはその子供たちの姿を黙って見ていた。眉間にしわを寄せながらギリっと音が聞こえるほど奥歯を噛みしめる。
「なあ、もう一回聞くけどよ。あんたあの子供達生き返らせることできるよな?」
カールの怒りをにじませた声でフリードリヒに尋ねる。
「ああ、できる事は出来るが……」
「ならいい。後で頼む。できるだけ苦痛は与えないようにするよ。すぐ終わらせる」
「いや。ちょっと待て!何する気だ!?」
「だから!できるだけ苦痛は与えないようにするって」
サトシはそんな画面の中のやり取りを見つめながら、ぼそぼそと何かをつぶやきながらルークスの方に目をやる。
「どうした?」
その視線を感じてルークスが尋ねると、サトシは天命の書板を覗き込む。
「俺の想像してるイメージをカールさんに転送する事って出来ます?」
「あ~。ちょっと待て、調べてみよう。ああ、こ……」
ルークスがそう言うが早いか、調べるまでもなく天命の書板にはその呪文と魔法陣が映し出される。
「画像共有」
ルークスの説明など聞かず、サトシは書板の呪文を読み上げながら魔法陣を展開する。
『カールさん。聞こえますか?』
『なんだ?サトシ。今それどころじゃ……』
『ファイアボールじゃ倒しきれないんで、この呪文使ってください。それと、今から送るイメージを想像してその呪文を唱えてもらえれば威力が増すはずです』
カールは一瞬戸惑いを見せるが、頭の中に広がるイメージに納得したのか、すぐに魔力を動かし始める。
『助かる』
ぼそりと告げるカールに、サトシは続ける。
『あと、ドレインで周囲の魔力を動かしすぎてます。たぶんその周辺の魔力は枯渇してますから、当分は周囲の魔力使えないです。今回はカールさんの魔力を使った方が良いと思いますよ』
『俺のか?それじゃ威力が……』
『十分ですよ。やっちゃってください』
食い気味のサトシの言葉に戸惑いながらも、信頼する相手からの太鼓判はカールを安心させた。
『わかった。やってみる』
カールは腰をわずかに落とし、両掌をカルロスへと向ける。カールの体内を巡る魔力の勢いで周囲の大気にまで振動が伝わる。
「今度は何をする気や?相変わらず無茶苦茶な魔力しよってからに……」
体力が回復して余裕が出てきたカルロスはカールの姿を睨みつけながら両手を広げる。
「|犠牲の壁(ウォール オブ サクリファイズ)」
周囲を回っていた金色の子供たちがカールとカルロスの間に集結し、十二芒星を作り高速回転を始める。中央に複雑な魔法陣が展開し虹色に輝き始める。
カールはきつく目を瞑り、自分の前に魔法陣を展開すると呪文を唱えた。
「紅炎』
言い終わると同時にカールの掌から深紅の炎が迸る。
その炎はカルロスに向かいながらどんどん収斂され密度を増してゆく。深紅からオレンジ、黄色、白と輝きを増してゆき一条の光線となった。
その光線は犠牲の壁を貫き、そのままカルロスの眉間へと向かう。
パァーーーーーーん!
何かがはじけるような音と共に、四散する光線。
十二芒星を形どって回転していた子供たちが悲鳴を上げながら真っ黒に焼け焦げ、地面へと投げ出される。
呆然とするカールとフリードリヒ。
会議室ではサトシが苦い表情で天命の書板を覗き込んでいる。
大画面の惨状を確認し、ルークスも書板を覗き込む。
「犠牲の壁:術者が受けたダメージを壁となった個体が身代わりで受ける」
その表示を見て二人は大きなため息をついた。
「どうする?」
ルークスの問いかけに、サトシは何のためらいも見せず答える。
「どうするも何も、身代わりが居なくなるまで続けるしかないでしょ?」
その言葉に、ルークスとSランク冒険者たちは絶句する。
確かにそれしかないだろう。しかし、そう割り切れるもんじゃない。
「そうは言ってもよ……」
オットーがそう言いかけたとき、大画面にダイアログが表示されアナウンスが流れる。
「脆弱接続を発見しました」




