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照合

「あ~。それな」

 ルークスは天井を見つめながら考えている。

 ずっと彼も疑問に思っていた事。この世界で「ユーザー」扱いになっている者達は何処から来たのか?そしてどこに居るのか。今見えている彼らは何処に存在しているのか。

 考え続け、方々情報を集めながら糸口を探していたが、何も見つけることが出来なかった問題。


「俺達もデータだって事だよなぁ」

 フリードリヒが誰に言う訳でもなくつぶやいた。

 その声にサトシとルークスもフリードリヒを見つめる。エリザは状況が理解できないままフリードリヒを凝視する。


 それはフリードリヒがたどり着いていた結論だった。

 彼の周囲の人々は感情や能力が信号情報として表示され、あまつさえ魔力などと言う不可解で都合の良い能力まで持ち合わせている。こんなでたらめな世界があるだろうか?

 「異世界」と言えば何でも許されるのか。そんな思いを一人悶々と考え続けてきた。

 その彼が導き出した結論。それが「仮想現実」つまりこの世界がまやかしであるというものだった。


「いや。それにしたってこの数だぞ?そんなにデータねぇだろ!?俺が預かったデータだって33人分しかないし」

 ルークスはフリードリヒの言葉を否定しようとするが、否定の理由が弱い事も理解していた。

「お前が預かったのが33人分だったってだけだろ?お前だって他人に自分の実験成果を無償で全部提供するか?」

「いや。それは」

 流石にこれは言い返せなかった。おそらく趙博士はより多くのデータを持っていたはずだ。それもより確度の高いデータを。データの説明がいい加減だったことを見ても間違いないだろうと彼は悟っていた。


「お前が貰ったデータ……どんな内容だ?」

「あ、それは……個人情報……だから……」

「ここまで来て個人情報もクソもあるかよ!それに俺たちには知る権利があるはずだ。これが人権と呼べるかは難しいところだが、少なくともお前にゃ説明責任があるんじゃねぇか?」

 これも無茶苦茶な理論であるとフリードリヒは理解している。あくまで実験データだとするならば、そんな権利は無いし、何より人権も存在しない。なら、研究者に説明責任など発生するわけもない。しかし、今自分が置かれている状況を知りたい。その一心でルークスに対して強い言葉で一気にまくしたてた。


 その言葉を静かに聞いていたルークスは「観測者」と呟くと、手元に現れた天命の書板をサトシとフリードリヒに見せる。

 ルークスも先ほどのフリードリヒの言葉に強制力がない事は重々承知していた。しかし、彼らの想い、自分が何者であるかを知りたいという根源的な疑問に、研究者として答えてやりたいという気持ちで行動していた。何より研究者である彼自身がその気持ちを痛いほど理解していた。

 

 二人はルークスの手に支えられた天命の書板を覗き込む。


「俺の説明だけやたらと詳細ですね」

「ああ、他は職業と簡単な特徴くらいなんだがな、お前のデータだけ最近の行動なんかも詳細に記されてたんだよ」

「この被験者たちは……死んだって事か?」

「いや。どうだろうな。そこまでは判らん。一応人格と記憶情報を取り出すための「シナプススキャン」は生体細胞からしか出来ないことになってるな」

「出来ないことになってる?」

「ああ、死細胞での実験では失敗してるって話だ。だから生きてるんじゃないか?たぶん」

「そうか……

 ところで、その「シナプススキャン」ってやつは、脳に悪影響は無いのか?」

「そうだなぁ~。無いとは言い切れないな。うちの研究室にあるスキャナを使った時はほとんど影響なかったけど、その分解像度が悪いんだよ。「記憶の抜け」や「人格破綻」が有ったりってな、脳内マップが不完全になるからわかるんだよ。まあ脳のシナプス接続……要は微弱な電気信号だな、そんなミクロなイオンのやり取りを読み取ろうってんだから、かなり強い電気刺激を与えたうえで、強力な電磁波当てないと正確に読み取ることはできないからな……」

「ってことは、この33人分は」

「ああ、ほぼ完ぺきな状態でデータが揃ってた。と、思う。まあ、俺は本人達に会ったこと無いから。確認のしようがないけどね。でも脳内マップを見る限り欠落は無かったよ」

 

「脳内マップ」はPCデータで言うところの記憶の保存領域を示す地図である。スキャンに失敗すると、そこが虫食いのように穴だらけになり、正しくスキャンできていないことがわかる。今回預かったデータはすべて「脳内マップ」に関しては健全な状態であった。


「なるほど。結構無茶なことをやってるって事だな。そうすると被験者の状態は……」

「そりゃ何とも言えんな。ウチの研究室は予算が乏しいからな。安もんのスキャナ使ってるだけだ。趙博士んとこは、国家プロジェクトらしいからな。資金も潤沢だろうよ。最新鋭のスキャナなら精度が良いのも頷ける。

 とは言え、全部が全部、そんないいスキャナで取ったとは限らんけどな。うちの学生も金に困ると治験のバイトやったりするし。どんな影響があるかわからない薬うたれても金が欲しいってケースもあるだろうよ。もしかしたら、この面子の中にもそう言う奴が居たかもしれん。まあそれでも同意書は書いてると思うぜ。

 サトシ。そのあたりの記憶は無いのか?」

 サトシは自分のデータから視線を外さずに答える。

「全くないですね。というか、ここに詳細に書かれてる内容にも心当たりがないです。何より両親の記憶がない。だからこんなの見せられてもピンときませんね」

「両親の記憶が無いって、こっち来てから長いから忘れたって事じゃなくてか?」

「それは無いですね。ここに来た当初からそのあたりの記憶はあやふやでしたから」

「なるほどな。じゃあ、魔王はどうだ?こん中にあんたの情報無いか?」

「俺の情報は……ないな」

「そうかぁ。じゃあ、仕方ないな」

 そう言うとルークスは天命のタブレットを仕舞いサトシに向き合う。

「ってのが、俺の情報だ。これ以上は大した情報は無いが、どうだ?満足したか」

「満足……ってことは無いですが、とりあえずカルロスとの対決に向けて役に立ちそうな情報は無いですね。どうしたもんですかねぇ」

 何とも気の抜けたサトシの返事にルークスは呆れる。さっきまで頭を抱えて悩んでいた青年の態度なのだろうかと。


 サトシは腕を組み、辺りを見渡しながら作戦を考えているようだった。その様子にルークスも気持ちを切り替えようとしたとき

『おい、ルークス』

『?』

 ルークスの頭の中にフリードリヒの言葉が響く。

 この状況で念話チャットを使う……ルークスは努めて平静を装いながら視線をフリードリヒに向けた。


『そのまま聞け。さっきのデータの中に、心当たりのある人物が3人いた』

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