思い出
「は?」
この質問はカルロスも想定外だったらしい。
恨み言や怒りをぶつけられると踏んでいたんだろう。そりゃそうだ。俺もそう思ってたくらいだからな。
しかし、サトシの精神状態は終始落ち着いている。まったく揺らぐこともなく、ただ淡々とカルロスに語り掛ける。
「俺、アイの事、何も知らないんですよ。あなたはアイとどんな関係だったんですか?」
丁寧な言葉遣いがさらにサトシを不気味に見せる。それこそAIと話しているような……そんな印象だ。
「お前。本気で言うとんのか?」
カルロスも真意を測りかねているようだ。先ほどまでの余裕は吹き飛び、今は不安と疑念の感情が渦巻いている。
「ええ。あなたはアイの事昔から知ってるような口ぶりでしたよね?」
サトシのその言葉に、カルロスはサトシの瞳をじっと見つめている。
誰も何も言葉を発しない。ただただ無音の時間が続く。
イラつき・疑問・困惑……何とも言えない感情がカルロスに浮かんでは消える。そのような思案を続けながらもカルロスの思考は徐々に落ち着いて行く。
「どっちか言うたらお前の方がアイのこと知っとるやないか。俺はまだちいちゃい時の事しか知らんわ。
それに、お前アイとイチャイチャしとったんやないんか?言うてみたら俺はあの子の親……いうより祖父みたいなもんやから……
お前……なんでそないに落ち着いてんねん。それ、演技やのうて素やろ……」
カルロスは何かを言いかけて言葉を止める。
何か思い当たることがあったようだ。
「なるほどな。お前か。お前がそうなんか……」
カルロスは誰に言う訳でもなくぼそぼそと呟いている。
サトシはその言葉にも反応することなく、じっとカルロスを眺めていた。
「そうか。気が変わった。もう少し様子見ようやないか」
カルロスはそう言い放つと表情を改める。今度は酷くまじめな、というよりも感情の無い作り物の様な顔つきでサトシに問いかける。
「アイの何が知りたい?ルークスからは何か聞いてないんか?」
「いえ。特には……あなたはアイとどういった関係なんですか?」
サトシの心情に揺らぎは全く見えない。カルロスもこれ以上詮索しても無駄だと判断したのか素直に話始める。その様子には先ほどまでの危険な印象は全くなくなっていた。
「せやな。んなら興も乗ってきたことやし、少し話したるわ。ただ、俺が話すんはアイの母親の事や
あれは、俺がウルサンに戻って孤児院を再開してすぐの事やった」




