王宮探訪
中央通りを遮るように鉄製の門がそびえたつ。
王宮への門も周囲をめぐる壁も金属製の豪奢な柵で造られている。何でもベルサイユ宮殿を参考にしたらしい。まあ、造った本人から聞いたので間違いは無いんだろうが、俺が実物を見たことが無いから忠実に再現されているのかはよくわからんが。
門の前には数人の衛兵が周囲の様子をぼんやり眺めている。
『緊張感もへったくれも無いな。大丈夫かこの国は?「魔王」が王宮の入り口まで来てるってのに』
先日教えてもらった「念話」でルークスに通信してみた。
『すでに使いこなしてるのはありがたいんだが、なんだ?いきなり敵陣に乗り込むのか?俺を巻き込まないでくれよ!』
悲鳴にも似た言葉が俺の頭に響き渡る。
『別に殴り込みに来たわけじゃねぇよ。知り合いがここに居るんだ。仕方ないだろう?』
『「仕方ない」の一言で片づけるなよ。相手からしたら大問題だろ?』
『相手からすればな。俺には大した問題じゃない。ここには普段からよく来てるんだよ。まあ黙って見てろ』
そう言うと、俺は衛兵に話しかける。
「あ~。すまないが王宮魔導研究所に取り次いでもらっていいか?」
「あ!?なんだ貴様は。ここがどこだかわかって言って……」
若い衛兵が俺に向かって横柄な態度でまくし立てた。が、その様子を見て後ろの方から騎士風の男が駆け寄って来る。
「あ~。ウルフ殿。お待ちしておりました。研究所にてシャルロット様がお待ちです。さ、こちらへ。おい!お前は下がっておれ」
騎士風の男は横柄な衛兵の頭を叩くと、俺達を門の中へと導いてくれる。
『おい!?どういうことだよ。事前に説明しといてくれよ!』
ルークスからのチャットが飛ぶ。
『ちゃんとアポは取ってあるって事だよ。社会人の基本だろ?』
『そう言う事じゃなくってさ。……まあ、良いけど』
何とも歯切れの悪い事だが、ルークスは納得したようだ。
俺たちは騎士風の男に連れられて王宮の中庭を悠々と進んで行く。しばらく歩くと馬車がやってきた。
「さ、こちらにお乗りください」
そう言いながら騎士風の男は俺たち二人を馬車に乗せ、御者と一言二言、言葉を交わし敬礼して後ろに下がった。
「では、参ります」
御者はそう言うと、馬車をゆっくりと発進させる。俺達の乗った馬車は心地よい揺れと共に王宮の中庭を駆けてゆく。
『で、教えてくれよ。これからどこへ行くんだよ!?』
『だから言ってたろ?王宮魔導研究所』
『それって、あんたの敵対勢力のど真ん中って事じゃないのか?』
『敵対勢力ってなんだよ。元々敵対してねぇよ。昔馴染みがそこで顧問をやってんだ。あ、そうだ。お前は今日余計な事言うなよ』
『余計な事ってなんだよ』
『お前の研究とサトシの事だよ』
『……言うつもりはないよ』
ルークスは途端に神妙な顔になった。が、正直信用できないな。
『お前に言うつもりがなくても、お前抜かりが多いからな。天命の書板についても必要なら俺が話す。お前は黙ってろ。良いな。お前が何か話す時は俺に「念話」を飛ばせ。わかったか?』
『いや。あんた。俺の事を何だと思ってんだよ。そこまで抜かりは……』
『いやいや。抜かってんだろ。十分に。悪いことは言わん。黙っとけ。俺が言う通りにすればいいから。な』
ルークスは恨めしそうな目で俺を睨むが、そこは譲れない。こいつに自由にしゃべらせると話がややこしくなりそうだ。シャルロットは敵ではないが、あいつも好奇心で動くところがある。あいつの事を信頼してはいるが、全てを任せて良い訳でもない。なかなかに扱いの難しい奴だ。
『わかったよ。じゃあ、せめてどんな奴に会うのかだけでも教えておいてくれ』
『まあ、それもそうか。一応教えておこう。
これから会うのはシャルロット。元王宮魔導士団長だ。今は顧問をやってる。まあ、俺にとっての情報屋的な位置づけだ。お前達にとっては数年だろうけど、俺達にとっては数週間王都とは連絡が取れなかったからな。その間の出来事について聞いておきたい。ま、他にも聞きたいことはあるんだが……』
『元団長で顧問って事は、結構な年齢なのか?』
『そうだな。200は超えてたと思うな』
『200!?なんだよ。あんた以外にも長命な奴結構居るんだな。あ、そうか。そういや居るな……確かに』
『なんだか勝手に自己解決してるみたいだが、シャルロットはただの長命種じゃない。あいつはスキル「紡ぐ者」を持ってる』
『「紡ぐ者」?なんだそれ』
『それこそ、お前のスキルで調べてみたらいいんじゃねぇか?』
と言いつつ、奴が天命の書板で調べるのを横から観察する。俺が知っているのは、「紡ぐ者」が転生しても記憶を失わないって事だけだ。他にもどんな能力を持っているのか興味がある。
馬車に揺られながらルークスは「天命の書板」を食い入るように覗き込んでいる。横からちらりと拝見してみると、
『紡ぐ者:輪廻転生を繰り返しても過去の記憶を留め後世に伝えることが出来る』
なるほど。こんな感じで教えてくれるのか。
特に「紡ぐ者」に関しては新しい情報は無いな。じゃあ、他ならどうだろう?
『あと、奴は「人心掌握」を持ってるな。それも調べてみてくれねぇか?』
『「人心掌握」!?』
ルークスは何やら深刻な顔をする。
そうか、こいつ以前「人心掌握」に罹ったって言ってたな。
『カルロスとかいう奴か?』
『なんだ!?心読んだのか?』
『そんなことしなくてもお前は考えてること予想しやすいんだよ』
『け!まあいい。そうだ。奴のせいで……』
『まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方ねぇ。次会った時の為に対策しておいた方が良いんじゃねぇか?』
『ああ、わかった』
なんだか素直だな。ある意味気持ち悪い。
納得しているのかいないのか、そこはよくわからないが、ルークスの手元にある「天命の書板」には「人心掌握」についての説明が表示されていた。
『人心掌握:相手を意のままに操れる。ただし術者より熟練度の高い者、あるいは上位スキル保持者には無効化される。熟練度は☆0~6』
なるほど。上位スキル保持者には無効ときたか。確かに俺も以前「人心掌握」は持ってた。その後「魂操作」にクラスチェンジしたところを見ると、上位スキルって事なんだろうな。
って事は、とりあえずは安心だ。




