胡散臭い男
結構衝撃的事実がボロボロ出てくるな。
ルークスの奴、本当は話したくてうずうずしてたんだろうな。
「で、この世界は鳴り物入りで開発されたVRMMORPGだったんだけどさ。結局開発はとん挫したみたいでな」
なるほど。そんな有様だから所々造りが雑なんだな。ビールやウイスキーを含め食材の類がじゃんじゃん湧いて出る割には、文明の利器がほとんどない。その割に高度な物理演算を実装して破壊表現は現実と区別がつかないほどリアルと来たもんだ。誰だよ。このシステム造った奴。
「にしてもサトシの奴には驚かされるよ。正直実在の被験者に会ったことがねぇからさ、性格が同じなのかも判断できねぇんだけどさ」
「それは実験の意味あるのか?」
「ん~。そこなんだよなぁ。俺のデータや、学部生を被験者としてデータを取ったこともあるんだけど、うちの研究室にあるスキャナじゃデータの欠損が多過ぎるんだよ。とてもじゃないが、実験用データとして活用できないんだ」
「で、提供されたデータは理想的だったと?」
「まあそう言うことだな。実際趙博士と俺の研究じゃあ、目的が違うだろうから、もらったデータが活用できるわけでは無いんだよ。だからダメもとでやってみたってのが正直なところでサ」
「お前、研究者として大雑把すぎんか?」
俺も元SEだからそのあたりの知識はそこそこに有る。それから判断するとこいつの行動は……随分ノープランな印象を受ける。
「それは……反論できんな」
こいつもサトシ同様猪突猛進型か。似た者同士ってところだろうか。だが、この二人がコンビを組むのはまずい気がするな。今までよく無事だったと思うよ。
いや。話を聞いてる限りでは無事ではないな。
「にしても俺が部下から話を聞いてる限りでは、石油も見つけたみたいじゃないか?」
「ああ、あれね。サトシのスキルがデカいんだけどさ。俺もそれなりに役に立ってるぜ……ってか、なんで石油のことを?それに部下って?」
ルークスは驚いた表情で俺に食って掛かる。
「いや、お前ちょくちょく王都に転移してたろ?それも部下に監視させてたんだが」
「いやいや。俺部屋で一人になってから転移してたんだけど。見張り役ついてきてなかったじゃん」
「お前の考える見張りってのは、そんなに間抜けなのか?お前の転移先くらい探知できなくて見張りは務まらんだろ?」
「どんだけお前の部下は優秀なんだよ。NPCだろ?そんな有能な奴どうやって雇うのさ!?」
「雇うもなにも、NPCなんだから弄ればいいじゃねぇか」
「弄る?」
ルークスは素っ頓狂な声を上げる。
部下からの情報だとこいつらが運営している農場のNPCもかなり弄られてるらしい。
「お前らだって弄ってるだろうが。NPCを」
「それは……」
「おんなじだよ」
「お前もステータスいじれるのか……あれ?でもステータス弄り過ぎると粛清受けないか?」
ん?何の事だ。
そう思慮を巡らせていると、ルークスが思い出したように詰め寄ってきた。
「そう言えば、お前の部下、NPCの癖になんで魔力持ってんだよ?」
「何か変か?」
「変も何も、NPCは魔力持ってないだろうが!」
「ああ、そんな事か」
なるほどね。
確かにルークスから見えていた俺の情報は数値でわかりやすかった。たぶんその数値を単純に増やしてただけなんだろうな。
でもあのパラメータだけでは情報が少なすぎる。あれを操作しても思うようなNPCは作れないだろう。
それに対して、俺が見ている能力は感情や思考だけでなく、能力の根源的な部分……つまりプログラム的な物まで見えている。それごと弄ってやることでNPCの性格や行動原理を変化させることが出来るし、なにより魔力やスキルも付与できる。奴らにはそこまでの事は出来ないらしい。
「まあ、そのあたりはやりようってことだ」
「やりようって……そんな言葉で片づけられてもなぁ。まあ、お前さんのスキルなら出来るんだろうな」
そうか。こいつから俺のスキルは見えてるって事か。
「それは良いとして……粛清ってのは、なんだ?」
「なんだよ。あれだけパラメータ弄っといて今まで粛清なしか?お前も見てたろ?俺たちが天使型の殺人虫ドローンに襲われてたの」
「ああ、あれか。で、粛清ってのは?」
「あれだよ。ほら。チート行為に対して行われる奴だ。このゲームだと|アカBAN(アカウント停止)せずに圧倒的火力で粛清されるんだよ」
そう言う事か。以前親っさん達が受けた攻撃も、チート行為だとみなされたって事か。
確かに近代的な町づくりってのもチートと言われても仕方ないよな。
あれ?そう考えると、ルドルフが王都を作った行為は……
すると、俺の思考を邪魔するようにルークスが話しかけてくる。
「なぁ。なんであんたはNPC弄っても大丈夫だったんだ?」
「なんだよ。考え事してる時に話しかけてくるなよ……たぶん。あれだな。ハッシュ値だ」
「ハッシュ値?って、ファイルの整合性チェックか!」
ゲームのセーブデータ等でよく使われる方法だ。MD5がよく使われてる。キャラクターの全パラメータ値を特定の方法で計算し、128ビットで表現できる1つの数値に変換する。128ビットって表現できるのは2の128乗。つまり39桁の数値で表される。ユーザーがパラメータを操作して体力や魔力を極限まで引き上げたとすると、全パラメータの数値から計算されるハッシュ値は当初計算されていたハッシュ値と一致しない。これでパラメータが改ざんされたことを確認できるってことだ。
とはいえ、チートツールなどを使ってパラメータを弄る場合はハッシュ値ごと弄っているケースが多いがな。
「なんだ?じゃあ、サトシがNPCのパラメータを弄った時は、ハッシュ値からチートと判断されたって事か?」
「だろうな。俺はそんな中途半端な弄り方しないからな」
「さすが魔王って事か……」
失礼な納得の仕方だが、まあいい。
「で、石油の話に戻るが……あれどうやって手に入れた?」
呆然としていたルークスは、俺の言葉を聞いて我に返る。
「あ、ああ。あれね。天命の書板を持ってるからな」
「なんか神話で聞いた様な気がするな」
「お、意外に神話好きか?」
「そこまでではないけどな。なんか神話関係の動画サイトで紹介してた気がするな。内容まではよく覚えてないけど。で、それが何の役に立つんだ?」
「聞いて驚くなよぉ」
自分でハードル上げるタイプか。残念な奴だな。
「で、驚かないから言ってみな」
「いや。むしろ驚いてほしいんだがな……」
こいつ意外とめんどくせぇな。
「わかったよ。わかったから話を進めろ」
「なんだかなぁ。この世界の奴らは殺伐としてるなぁ……」
お前のトークの問題だと思うがな。まあいい。
「で、そのタブレットが何だって?」
「ああ、これな。これ知りたいものを教えてくれるんだよ。何でも」
「何でも?」
「そ。何でも」
何だろう。この胡散臭さ。本当に研究者か?




