返り討ち
「まあ、落ち着いて行きましょう。取り敢えず俺がやってみますんで、ルークスさんは防御を固めておいてください」
「防御!?」
は?
なに?
この自信。
何があったの?
いや、おそらくさっきの訳の分からんアップデートみたいな奴だろうけどさ。落ち着きすぎじゃない?
とはいえ、自信があるのはありがたい。今は藁にも縋る気持ちだ、サトシの背中が頼もしく見える。しかし、その向こうからは虹色の天使たちがこちらを目指して突進してきている。
「で、オズワルド達はどうする?」
操られていたとは思うが、正直なところよくわからん。このままほっといて天使たちに蹂躙されるがままにするか……それとも。
「まあ、邪魔なんでどっかに転移しときましょう。そっすね……闘技場にでも送っときますか」
「あ、ああ、お前が良いならそれでいいが……」
「あれ?邪魔じゃないですか?」
「いや。まあ、送ろうか。いや。俺が送っとくよ」
「お願いします」
なんだか調子狂うな。まあいい。俺は転移陣を出しオズワルド達を闘技場へと転送する。
そうこうしているうちに天使たちがこちらに随分近づいて来ていた。
当初は気づかなかったが、近づいてくるとその大きさに驚かされた。一体一体が前回の倍以上の大きさだ。殺人虫ドローンの数が増えているんだろう。目の前かと思っていたら随分向こうに居た。遠近感が狂っちまうよ。
俺たちの真上に天使たちが到達したとき、俺はその姿に圧倒されていた。前回の大きさでも厳しかったのにこの大きさは反則だ。勝機は無い。
上空の天使一体が形を崩しながら地面へと下って来る。巨大な蛇のようにうねりながら収穫目前の小麦畑を食いつくすように地面を疾走して俺たちの方へ向かってくる。
これは……死んだな。
そう思った時、サトシは両掌を虹色の砂塵に向ける。
「ガンマ線バースト」
静かな口調とは裏腹に、周囲は色を失うほどの光に包まれ轟音が響き渡る。
バヒュッ!!!
その光線は砂塵を貫き周囲の地面すら蒸発させる。天使を形どっていた殺人虫ドローンの半分以上が目の前から消え去った。
「なに!?今の」
「ああ、こないだルークスさんが天命の書板で調べてたのがちらっと見えたんですよ。そしたら「ガンマ線バースト」があったんで、使ってみたいなぁと思って。ほら。威力的に凄そうじゃないですか。魔獣相手に使うとオーバーキルですし。天使がちょうどいいかなぁと思って」
ちょうどいい……じゃねぇよ。マジかよ。ぶっつけ本番で使うなよそんな大技。
「でも、あれっすね。思ったより出力なかったっすね。やっぱりレベルかなぁ……」
「あれで、出力低いのか……」
「低いっしょ?今のでイケると思ったんですけどね。やっぱ、電磁パルスにはパンチが足りなかったっす」
「は?」
「ちょっとやってみます」
「何を?」
「だからEMP」
「は?」
「まあ、見ててください」
サトシはそう言うと収納魔術で時空の割れ目から何やら大きな超合金の珠を取り出す。
「じゃ、行きますよ!」
そう言うとサトシは大きな珠を上空へと打ち上げる。光の筋を引きながら珠ははるか上空へと消えていった。その力ない弾道では殺人虫ドローンを屠ることはできず、その間をただすり抜けてゆくだけだった。が、サトシは上機嫌である。
「いけぇ!」
しばらくその様子を眺めていると、サトシが掌を上空にかざす。
「点火!」
その声を合図に、周囲は色彩を失うほどのまばゆさで包まれた。




