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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
生方蒼甫の譚
221/343

モビーのお使い

 二度あることは三度も四度もあるようだ。

 ハルマンに連絡……というか、まずはモビーに接触だな。さて、まだ居るんだろうか?ウサカに。流石にもう帰ったかなぁ。

 取り急ぎウサカに飛ぼう。事前に「不可視化インビジブル」で透明化してからウサカへと転移することにした。当然サトシにアクセサリーを量産してもらいハリネズミのごとくスキルを付けまくっている。ちょっとやそっとの攻撃では俺たちに傷をつけることも儘ならんだろう。

 と、思いたい。


 準備が出来たところで王都冒険者ギルドの転移部屋を借りる。

不可視化インビジブル

 唱えると俺たちの姿が透明化する。お互いの姿は「探索」でかろうじて感じることはできるが、並みの冒険者風情では探知できないだろう。

「じゃ、行きますか」

「そうだな」


「転移」

 俺たちはウサカの町はずれに転移する。


 久々に見るウサカの街は、以前にもまして活気にあふれていた。新しい店が立ち並び、往来を行きかう人達の身なりが良くなっている気がする。景気が良いんだろうな。人波を避けながらジョイスの店へと向かう。


 と、店の前にジョイスが立っていた。珍しいな。あいつもう店番に出る必要ないだろうに。などと思いながら近づくと、なにやら隣にしゃがみ込む男に向かって文句を垂れているようだった。


「お前らみたいなガラの悪いのがそこにいると商売の邪魔だっつってんだろ!いい加減どっか行けよ!」

「うるせぇ。俺だって好きでこんなところにいるわけじゃねぇんだよ!」

「ならなおさらどっか行けよ!ちゃんとルークスが来たら知らせるっつってんだろうが!!」


 うわぁ。揉めてるなぁ。おそらく俺のせいで。


『どうします?結構揉めてますよ。これ透明化して近づいても騒ぎになりますよ』

『だよなぁ。でもあの感じだとモビーはあの場所離れそうに無いしなぁ』

『ジョイスさんはどうでしょう?』

『どうだろうな。根負けして事務所に下がってくれると助かるんだが……』


 その後も二人の良い争いは続き、お互いに引く様子はない。こりゃ弱ったなぁ。

 しばらくその様子を眺めていると、店番らしき男がジョイスの所にやってきた。

『お、動くか?』

 店員がなにやらジョイスに耳打ちすると、ジョイスは店の奥へと走っていった。何か問題があったのかな?とりあえずチャンスだ。

 が、今あいつに話しかけると、バカでかいリアクションで人目を引きそうだ。何か方法は……


『あいつに「念話」通じないんですか?』

 そういやあいつも「ユーザー」だな。

『あ~。いけるかも』

『……ってことは、はなから「不可視化」要らなかったんじゃないです?』

『え、あ、いや。そ……そんなことは無いだろ。ほら。ここから話しかければ、様子もわかるしさ。な!どう?』

『そうですか……』

 あらやだ。見えないはずのサトシの表情が、ジト目になっているのが見える気がする。


 さて、やってみるか。


『おい。モビー!聞こえるか?』

「あ!おう!!何だおい!誰だ!どこにいる!!」

 モビーは急に立ち上がり、周囲をきょろきょろ見回す。すでにリアクションがデカいな。めんどくせえ奴だ。

『声がでけえ!静かにしろ!それときょろきょろするな!』

「あ、お。おう」

 俺の言葉に、モビーは慌ててその場にしゃがみ込む。

『俺だ。ルークスだ。お前の頭に直接話しかけてる。お前も頭の中で俺に話しかけてみろ』

 そう言うと、モビーは何やらぶつぶつと小声で話し始めた。頭の中で話しかけるってのがイメージできないんだろうなぁ。単なる独り言みたいになってるよ。明らかに怪しい奴だ。しばらくその様子を見ていると、どうやらコツをつかんできたらしい。

『あっ、あーあー。おい。聞こえるか?』

『ああ、聞こえるぜ。その調子だ』

『お、おう。ホントに聞こえてるんだな。で、お前は何処に居るんだ』

 まだ慣れないようで、ずっと口がもごもご動いている。不器用な奴だなぁ。

『俺は目の前に居るが、魔術で姿を隠してる。お前の様子はちゃんと見えてるよ』

『なんだよ。近くに居るのかよ。姿を見せりゃいいじゃねぇか!』

『お前、手紙の内容呼んでないのか?』

『親父の手紙を勝手に見るわけねぇだろ!バカか!』

『何も聞いてないのか?』

『何も聞いてないわけじゃないが、俺は指示された仕事をしてるだけだ』

 なんだか不貞腐れ気味に吐き捨てる。相変わらず口はもごもご動いているが……


『なんて指示された?』

『お前からの手紙を受け取って来いとしか言われてねぇよ』

『そうか』

 どういうことだ?モビーには何も話してないのか?こいつから色々と話を聞くつもりだったんだが……当てが外れたな。

『お前がちんたらしてるから、こんな辺鄙なところで俺が待たされるんだろうが!とっとと手紙を寄こしやがれ!』

『いや。すまんが手紙は書いてない。直接お前に伝言しようと思ったんだがなぁ』

『伝言だぁ!!たるい事言ってんじゃねぇぞ!なんで俺がそんな子供の使い見てぇなことしなきゃならねぇんだよ!』

 手紙持って帰るのも同じじゃない?と言うと激昂しそうなのでそっとしておいた。

『あ~。いや。伝言頼もうと思ってたんだけどさ。直接行くよ。ハルマンの所。すまねぇけどさ。お前もう少しここに居てくんない?』

『なっ!なんで俺がここにまだ居なきゃならねぇんだよ!!ふざけるな!』

『まあ、そう言うなって』

 俺はそう言うとモビーの近くに移動する。奴も俺の気配を感じたようで、必死にごまかしながらも俺の気配がする方をちらちらと確認する。

『これやるからさ。あと2日だけこの街で遊んでてくれよ』

 そう言いながら奴の上着のポケットに手を突っ込む。急に動かれても困るので「行動不能スタン」を掛けておいたけどね。

「なっ!」

 俺はモビーのポケットに1000リル貨幣を4枚ほど入れて、また店から離れた場所へと戻る。


『いいよ。動いて。それで遊べるだろ?な?あと2日この町で遊んでてくれ。その後は帰っていいよ』

 モビーは周囲を気にしながらポケットの中を確認する。途端に目が大きく見開かれ口元が緩んだ。

『おっ、おう。わ、わかったよ。あと2日だな。仕方ねぇ。そのぐらいは我慢してやるよ』

 随分嬉しそうですけど?とは言わずにいておいてやろう。紳士の嗜みだ。

『そうしてくれると助かるよ。じゃ、よろしくな』


『どうするつもりです?』

『ああ、あいつにはもう少しここで暇をつぶしといてもらおうと思ってな。で、その間に俺はウルサンに行って、直接ハルマンと話して来る』

『別にあいつを返しても良いんじゃないですか?』

『いや。今あいつを見張ってる奴が居るんじゃないかと思ってさ』

『誰です?』

『それは判らんが、それこそハルマンが警戒してる奴らならそんなことしそうだなぁ、と思ってさ』

『なるほど。じゃあ、まだあいつがルークスさんに接触できないでいると思わせておくってことですか』

『そう言う事。……で、サトシに頼みがあるんだけどさ』

『なんです?』

『あいつを見張っててくんない?』

『あいつをですか?』

『いや、正確にはあいつのことを探ってそうな奴を探してほしいんだよ。あいつを尾行してるやつとか。なんか遠くで観察してそうな奴をさ』

『あ~。すでに見張りがついてるってことですか』

『わからんけどさ。居るかもなぁと思ってね』

『それ楽しそうですね。やっときますよ。任せてください!見張り役を見つけてボコボコにしてやりますよ!』

『いやいや。ボコるなよ。そっとしといてくれ。できれば泳がせてほしい。で、そいつがどこに行くのかを調べてほしいんだよ』

『嫌だなぁ。冗談に決まってるじゃないですか。ちゃんとわかってますよ。スニーキングミッションですよね。慣れてます。俺』

『ホントかぁ?ゲームと違うからな。やり直し効かねぇぞ。頼むよホント』

『任せてくださいって』

 やたらとサトシは自信ありげだった。まあ、「不可視化」がある時点でかなり有利だしな。自信があるのも頷ける。

 

 さて、ここはサトシに任せてハルマンに直接聞いてみるとするか。

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