前車の轍か二の舞か
『アイ!?どうした』
サトシが慌てて答える。
『どうしたじゃないよ!いったいどこに居るのよ!』
『どこにって、闘技場』
『闘技場!?って……どこ?』
教えてないのかよ……サトシ。お前ってやつは……
『工房の下だよ』
『なんでそんな所に……』
アイはあきれ果てて言葉も尻すぼみになる。
『で、どうした?なんかあったのか?』
『……』
ん?なんだ。掃除機みたいな音がしたが……
『なんかあったのかじゃないわよ!!』
きーーーーーーーーーん!!
どうやったら念話で大声出せるんだよ!?さっきの音は息を吸い込む音か!?どういう理屈だよ!
『うるせぇな!!頭が割れちまうだろうが!!』
『何言ってるのよ!何回呼んだと思ってるのよ!』
何回呼んだ?
『へ?呼ばれた?』
『そうよ!あたしだけじゃない!テンスもセナも!ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと呼び続けたんだから!』
マジでか!
『あ、そう言えばなんか聞こえてた気がする!』
『気がするじゃないわよ!バカ!』
AIに罵倒される俺って一体……
『いや、すまん。つい夢中になってた。悪かったよ。俺が悪かった。で、何の用だ?』
『はあ、何の用だじゃないわよ……まったく……』
アイは随分ご立腹のようだ。というか、恐ろしく人間らしいな。ホントにAIか?ユーザーなんじゃないの?
『じゃあ、セナ。後お願い』
アイに呆れられちゃった……
『あ、はい。わかりました。ルークスの旦那、聞こえますか?』
『おお、セナか。どうした?』
『いや、王都のエンダって人が何回も訪ねてきまして』
『あーエンダね。おう、で?あいつがなんだって?』
『あ、その。約束の肉はまだ来ないのか?って言ってます』
『ん?約束の肉?』
なんだ、それ?
疑問符が頭上に浮かんだ顔を見てサトシが助け舟を出す。
「ルークスさん。あれじゃないですか?サンドウルフの肉」
「ああ、あの5日後にもってこいって奴?なんだよ。もう食いたくなったのか?はえーよ」
『セナ!肉の事は大丈夫だ。じきに持っていくって言っといてくれ』
『いや、あの。実はそのエンダさんがすごい剣幕でですね。いつまで待たせるんだって……』
『いつまでって。ちゃんと約束の日には持ってくよって言っといてくれ』
『あー。そのー』
随分セナは言いにくそうには無しを続ける。
『エンダさんが言うには、もう約束の日を4日も過ぎてると、大変ご立腹でして……正直事務所の方に連日押し掛けてこられて困ってるんですよ』
……
……
「サトシ?今何日?」
「え?あ、いや。何日でしょう」
「あれから何日たった?そんなに時間たってる?」
「どうでしょうね。ここ窓が無いので……」
『アイ!ごめん、俺達がサンドウルフのステーキ食べてから何日たった?』
サトシの疑問に対して、しばらくの沈黙を挟んでアイの声がした。
『……8日……と11時間15分』
やっちまった。まただ。




