祝1000匹
「どうした?そんなにすごい事なのか?」
「すごいも何も、お前!サンドウルフ食ったことねえのか!?」
「ああ、まだないな」
「マジかよ。おめぇ人生損してるぜ。サンドウルフの肉は王族に献上されるほど絶品なんだ。だがな。腐りやすいんだよ」
「肉が?」
「そう。サンドウルフの肉は持って3日なんだ。4日目には腐敗臭が酷くて食えたもんじゃねぇんだ。まあ、それを好む好事家も居るがな。だから討伐した冒険者の特権なんだよ。サンドウルフの肉を味わうのは」
べつに3日持つんなら……ああ、そうか。移動手段的に厳しいな。俺達なら転移や収納魔術で鮮度を保って移動できるが、馬車や徒歩で移動するとなりゃほとんど腐っちまうな。そりゃサンドウルフの大量討伐は皮がメインになるな。肉は食いきれるだけの量しか持ち帰れねえってことか。
ってことは、これもまた商売の香りがするな。
再びサトシの方を見ると満面の笑みである。「こんなに笑える?」ってくらいの。
「で、どれだけあるんだ。サンドウルフは?」
サトシはもう一段笑顔になる。まだ上があったとは!!
「1000匹」
「千!!マジか!いや。それは多すぎるな。むしろ価値が下がっちまう。市場に出すんなら少しずづ出した方が良い。悪いことは言わねぇ。小出しにしろ」
「一応依頼達成条件が1000なんだが」
「あ~。一旦鼻だけ切り落とすか?サンドウルフは鼻で数を申告できるからな。……で、物は相談なんだが……」
解体屋のおやじが小声になって悪い笑顔でこちらを見る。
「なんだい?」
「いや。なに。価値が下がらないように俺も手伝うからよ。その……なんだ。一匹で良いんだが分けてくれねぇか?いや。タダでとは言わん。金は払う。が、まあ、値引いてもらえるなら、なお有難いな」
なんだか随分商人じみた交渉をしてくるな。外見に似つかわしくない。が、確かにいろいろ教えてくれるし、これからも世話になるだろう人物だ。多少色を付けておいても損は無かろう。
『どうする?サトシ。今後の事を考えると、一匹くらいならタダで譲ってもいい気がするんだが』
『まあ、そっすね。金に困ってるわけでもないですからね』
『そう言う割には商人面になってるぞ』
『そりゃそうでしょ。儲かるって言われれば、別に金に困ってなくてもうれしいもんじゃないですか』
『それもそうだな。あとオズワルド達にも確認するか。あいつらの取り分もあるしな』
『そうですね』
「なあ、オズワルド」
「はい。なんでしょう」
「このおっさんに取り分やっても良いか?」
「いや。俺達は大して役に立ってないから……」
「何言ってんだ。十分働いたじゃねぇか。その分はしっかり貰っとけ。で、相談なんだが、このおっさんには今後いろいろ融通してもらいたいと思うんでな。今恩を売っとくのも良いと思うんだ。で、取り分は減っちまうが幾らかやっても良いか?」
「それはもう。どうぞご自由に」
なんだか随分丁寧な対応になっちまったな。まあいい。それじゃ分け前をおっさんにやるとしよう。
「なあ、おっさん」
「おっさんはねぇだろ!俺はエンダって言うんだ。よろしくな」
「ああ、わかった。なあ、エンダ。サンドウルフ一頭、毛皮を含めて一頭丸々でいくらくらいだ?あ!自分の取り分を安くするために安く見積もるなよ!お前にゃちゃんとタダで一頭やる。だから、一般的なサンドウルフ一頭分の価値を教えてくれ」
「マジか!!わかった。そうさな。雄雌で角の有る無しこそあるが、値段はそれほど変わらねぇ。肉、毛皮、歯、骨で大体一頭8000リルってところだな」
「サンドワームより高いのか!」
「まあ、肉がほとんどだ。肉で7500リルってところだな」
「じゃあ、1000匹売ったら……8000000リル?」
「いや。そうはならんよ」
「なんで?」
「さっきも言ったろ?一度にそんな数が市場に出回ると価値が下がる。それに、この肉は足が速い。2~3日中に売り切らないといけないからな。そうだな。たぶん肉屋は一頭当たり75リル以上では買い取らんだろうな」
「1/100か!足元見すぎだろ!」
「仕方ねぇんだよ。売れ残った肉は残飯以下だ。買うのはマニアくらいで、ごみとして引き取ってもらうのも金がかかるくらいだ」
「そんなにくせぇのか」
「まあ、一気に安値で出回るから、王都の市民は大喜びだろうがな。お祭り騒ぎだと思うぜ。どうだい?やってみるかい?」
「いや。遠慮しとくよ。別に慈善事業がしたいわけじゃねぇからな」
「それじゃとりあえず討伐確認としてサトシが切り落とした頭だけ先に出そうか」
「あ、ルークスさん。サンドウルフの顔を魔法陣から少しだけ出してもらえます?俺が鼻先を切り落としますんで、そしたらまた格納してください。」
「おお、そうする?確かに顔だけ並べるにしても結構場所食うもんね」
俺とサトシは展開したサンドウルフの鼻だけを切り落とすことにした。
まず、俺が「展開」で、サンドウルフの顔だけを魔法陣からひょっこりと出す。
そこで素早くサトシが鼻先を剣で切り落とす。
処理の終わった顔をまた「格納」で異次元に収納する。
これの繰り返しだ。
早速作業開始。
「ほい」
光の粒が魔法陣を通過してサンドウルフの頭が現れる。
「はい」
スパっとサトシが鼻先だけを切り落とす。
「ほい」
再度顔が現れる
「はい」
スパっと鼻先
「ほい」
「はい」
「ほい」
「はい」
……
どんどん手馴れていく。餅つきみたいだな。
エンダとオズワルド達は呆然とそれを眺めている。
「ほい。これで1000あると思うんだが。どうだ?エンダ。数えてくれ」
「お、おう。随分気安く太古の大魔術を使うんだな。まあ良いけどよ。どれ……」
エンダは切り落とされた鼻を10個ずつ並べて数えてゆく。
「990……1000と8、9。確かに千と九匹だな。討伐依頼達成だ」




