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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
カールの譚
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ギルドからの呼び出し

 話は2か月ほど前にさかのぼる。


 カランカラン。


 店のドアにつけた鈴が鳴る。

 客かな? 店に通じる通路へと目をむける。

 どうやらかなり集中していたらしい。汗だくになりながら一心不乱に剣を磨いていた。

 

「おうぃ、カール。元気か?」


 ああ、奴らか……。

 店の方からオットーの威勢の良い声がした。

 どかどかと数人の足音が聞こえてくる。



 作業の手を止め、額の汗をぬぐいながら、水桶の方へ向かう。

 柄杓で水桶から水を汲み、一息に喉へと流し込んだ。


「いないのか?カール」


 ようやく一息ついた。


「どうした?何の用だ?」


 研ぎかけの刃物を片付けながら答えてみると


「何の用とはずいぶんだな。」


 オットーはおどけた様子で続ける。

 あいつらの方から来るときは、たいがい厄介ごとだ。

 

「お前さん、騎士団からの依頼無視したろ?」


 ああ、あれか。

 ずいぶん前に届いてたな。どうせ大した用じゃないだろうと炉に放り込んだな……。


「普通無視するかね……まあ、らしいっちゃぁ、らしいが」

 

「で、なんだ?騎士団から催促の依頼でも受けたのか?最近のSランク冒険者様はそんなことまでするようになったのか?」


 工房の入り口からオットーのにやけた顔がみえた。

 うわぁ。殴りてぇ。

 

「言うね。催促は、催促なんだが……依頼人は別だな。」


「?」


 片付けの手を止め、ゆっくりと振り返った。

 

「ギルマスだ」


 ああ、しくった。そっちから来たか。めんどくせえ依頼だったみたいだな。


「まあ、そういうことなんで、大人しくついて来てもらおうかなぁ」


 オットーが一段とにやける。

 ああ、殴りてぇ。


 片付けもそこそこに、店の方に出てゆく。と、そこには、オットーとヨハン、エリザの3人が待っていた。

「ギルマスの依頼ですから、断れませんよね。言いたいことはあるでしょうけど、ここはついて来ていただけますか?」

 エリザがずいぶん申し訳なさそうに告げる。


「そうか……、わかった。支度するからちょっと待っててくれ。」


 そう告げると、俺はまた工房へ下がった。

 

 ギルドマスターは祖父じじいの友人で俺の剣術の師匠だった。剣士や冒険者にはならなかったが、世話になったことは間違いない。お役人や騎士から何を言われても動くつもりは無いが、ギルドマスターの依頼となれば、断るわけにはいかない。

 嫌な手を使うもんだ。

 

 汗だくのまま会いに行ったら、ギルマスに何を言われるかわからんもんなぁ、

 工房の裏で軽く水浴びをしてから、よそ行きの服に着替える。よそ行きと言っても、火の粉を比較的あびていない、穴の少ない作業着って言うだけだけどな。

 特に代わり映えのするものではないが、まあ気持ちの問題だな。うん。良いとしよう。


「待たせたな」


 そういうと、3人と共に店を出る。

 


 オットー達の後ろを歩きながら、湯鬱な気分で街の様子を眺める。

 俺の気持ちとは裏腹に街の往来は活気にあふれていた。

 

『魔王と一戦交えるらしい』ともっぱらの噂だ。戦争が近いのは明らかだろう。

 とはいうものの、魔王と言われてもピンとこない。

 たぶん、この往来を行き交うほとんどの人が同じ思いだろう。


 魔王なんて名前は、せいぜいおとぎ話で聞いた程度だ。

「魔獣とともに現れて、町の人をさらってゆく」

 とか、

「王都のずっと西の果てに魔都がある」

 と幼いころに聞いたくらいで、魔王がどんな姿で、どのくらいの魔獣を引き連れているのかなどは知るわけもない。

 ましてやそれと一戦交えると言われても雲をつかむような話で、正直誰も危機感を持ってないし単なるお祭り騒ぎと言ったところだ。


 この国に徴兵制度は無い。王宮騎士団はすべて志願兵だ。加えてそのほとんどが貴族の子息ときている。だからこそ、町の人々は戦争と言っても、どこか他人事と言った雰囲気になる。


 ただ、今の俺はそう言う訳にはいかない。


 なんだかよくわからんが、騎士団からの依頼を受け取っている。

 まあ、無視していたが、どうやらそうは問屋が卸してくれなかったらしい。と言うことは、どんな形であれ魔王との戦争に一枚かまにゃならない。

 依頼内容については、なんとなく見当をつけていた。どうせ『最高の武器をよこせ』ってな話だろう。そう思ったから炉に放り込んだ。

 店にある親父の形見を欲しがる貴族の子息が多かったから、とんでもない値を吹っかけて追い返していたが、とうとう搦め手できたか……どう逃げよう。


 そんな気持ちもつゆ知らず、先頭を歩くオットーは意気揚々と冒険者ギルドに入ってゆく。ああ、殴りてぇ。


 街の様子とは打って変わって、冒険者ギルドの中は閑散としていた。

 いつもなら、少しでも割のいい依頼にありつこうと掲示板の周りに冒険者がたむろしているが、今日は難しい顔をした駆け出しの冒険者が数人、依頼を眺めているだけだ。

 騎士団の行軍ともなれば、傭兵団や名うての冒険者にも声がかかる。ギルドのちまちました依頼よりもよほど実入りがいいから、今はほとんどがそちらに流れているんだろう。


 オットーが暇そうな受付嬢に声をかけと、俺たちは奥の部屋へ案内された。


 部屋には立派なテーブルと、そのまわりを20脚ほどの一人掛けのソファーがぐるりと囲んでいる。

「どうぞ、おかけになってお待ちください。」

 俺達四人は、革張りのソファーに腰かけると、それぞれ周りを見渡す。

「こんな部屋あったんだな」

 周りの調度品を見渡しながらつい言葉に出た。

 

「いいもんそろえてやがるな、どんだけ儲けてるんだ。」

 オットーが吐き捨てるように言う

 

「そんなにいい品なんですか?」

 

 エリザが聞いてくる。確かに実際かなりの品ばっかりだ。

「絵画はよくわからんが…… 椅子やテーブルは見た目以上にずいぶん手が込んでる。腕のいい職人だな。」

「こんなところに通されるとは、俺たちもえらくなったもんだな。」

 オットーは嫌み交じりに嗤う。


「……まあ、俺たちのためじゃないだろうけどな。」

 お、ヨハンがしゃべった。


 ガチャリとドアが開き、真っ白な顎髭を蓄えた、スキンヘッドの大男が部屋に入ってくる。


「おう、ようやく来たか」

 大男が俺に向かって気安げに話しかける。

 ああ、面倒なことになりそうだ。

 

「そう嫌がるな。だいたいなんで依頼を無視する?別に悪い話じゃなかろう。」


「なんで、ギルマスが出張ってくるんだ?」

 この大男が、冒険者ギルドのギルドマスター、ラファエルだ。

 

「ところでお前、ちゃんと依頼書は読んだのか?」


「……」

 嫌な事聞くなぁ……。

 

 俺は渋い顔になった。


「おまえ変わらんなぁ……。まあいい、まずは話を聞け、こちらがビクトール様だ」


 初老の男がギルマスの後ろから俺の前に歩み出て語りかける。


「カールさんですね。お初にお目にかかります。」

 

『ビクトール……様……』


 腐ってもラファエルはギルドマスターだ。地方都市のギルドならまだしも、ここは王都。王都のギルドマスターの権力は絶大で、地方貴族など顎で使えるほどだ。

 そのラファエルが、「様」をつける。

 おいおい、一段と厄介な話じゃないのかぁ


「単刀直入に言いましょう。今回の魔王討伐にご同行いただけないでしょうか?」

 

「はぁ?」

 俺は素っ頓狂な声を上げた。

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