復興
なかなかどうして、サトシの再建にあたる手腕は目を見張るものがあった。
農業の方は天候と時間に左右されるものなので如何ともしがたいが、下準備は万全だ。あとは時間が解決してくれるだろう。収穫サイクルの早い野菜を優先的に栽培しているので、備蓄分と合わせればジョイスの所に大穴を空けることは無さそうだ。
油田の方はというと、サトシのスキルがさく裂していた。一度作った設備ということもあるが圧倒的ペースでみるみる地下に再構築されてゆく。メイキング映像の早送りを見ているようだった。3日と経たずに以前と同等以上の生産設備が復活した。収納魔法と転移の活用も相まって、出荷のロスは最小限におさまっている。
「ここまで迅速に復興できるとは思わんかったよ。そのスキルがあればこそだけどな」
「まあ、結果オーライですかね。特に何を失ったわけでもないですし。むしろ地上にダミーの発電所でも作ってあの天使達を誘い込みますか?」
考えることが極端なんだよな。こいつ。
「いや。倒す方法が確立してからにしようぜ。今じゃまた命からがら敗走するしかないだろ?」
「まあ、それもそうですね。じゃあ、そのカールさんの弟子のところ行ってみますか」
サトシは「弟子」という言葉に引っ掛かりがあるようだ。なんていうんだろう。嫉妬?羨望?まあ、カールに教わりたいことがもっとあったんだろうな。
「弟子ってわけでもないらしいけどな。本人も弟子ではないって言ってたぞ」
「じゃあ、なんなんです?」
「店番って」
「なんすかそれ?」
「まあ、言葉の通りなんだろう。たぶん」
「そっすか。まあいいです。行きましょうか」
サトシは今一つ釈然としていないようだが、仕方ない。俺が持ってる情報はそれだけだからな。ってなわけで、今俺たちはエンドゥに再建したテンスのオフィス最上階のヘリポートにいる。ここから冒険者ギルドの転移部屋へと飛ぶことにした。
「さ、行こうか」
「はい」
ぐにゃりと風景がゆがみ、薄暗い部屋へと転移した。
「サトシは初王都だな」
「あ、そうですね。あんまり感慨もありませんが……」
「まあ、そういうな。やっぱり王都は立派なもんだよ。今後の参考にしてくれ」
そんな話をしながら転移部屋を出ると、ギルドの受付嬢が迎えてくれた。
「ルークスさん!大丈夫だったんですか?」
「なにが?」
「何がって、エンドゥとヨウトに神罰が下ったってもっぱらの噂でしたから……」
噂っていうか、アナウンスっていうか。まあ、そんな奴だろうな。たぶんNPCには情報として通知が行ったんだろう。で、うわさが広がったってところかな。
「ルークスさん有名なんですね」
「まあ、それなりにな」
「お連れの方は?」
「ああ、パーティーメンバーのサトシだ。よろしくな」
「サトシさんですか。よろしくお願いいたします」
「あ、どうも」
「大丈夫だったんですね」
「まあ、大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば……大丈夫じゃない気もするけどな。まあ、体に問題はないな」
「そうですか。数百年ぶりの神罰でしたのでもしかしたらと心配していたのですが……よかったです」
数百年ぶり?
以前のベータテストのときのやつかなぁ。でも、あれは1000年以上前になるんじゃないかなぁ。まあいいか。
「ああ、すまないな心配させて。ちょっとギルの店に用事があってさ。通してもらうよ」
「ええ。どうぞ」
手刀を切りながら人混みを分け入ってギルドを通り抜ける。ギルドメンバーは皆一様に不思議なものを見る顔だ。まあ、神罰を下されたやつを見るのも初めてなら、それを乗り切ったってのも信じられないだろうからな。つまらん質問を投げかけられても困る。早々に退散しよう。
「ああ、ちょっといいかい?」
「なんだ?」
そそくさと通り過ぎようとした俺たちを、呼び止める声がした。
声の主は20代前半の男前だった。南方系の顎髭イケメン。俺が女だったらドキッとするところだが、食指がピクリとも反応しなかった。まあ、仕方ないよな。
「いや、神罰を退けたってのは本当かい?」
「退けてはいないな。命からがら何とか逃げ延びたってところだ」
変な奴らに絡まれちゃかなわん。強いアピールはしたくない。むしろ『弱いんでほっといてもらえますかね』オーラを出してみた。実際レベルは以前の半分以下だしな。いくら何でもこの辺りの冒険者に後れを取るとは思えないが、用心に越したことはない。
「いやいや、神罰から逃れただけでも大したもんだ。なあ、あんたたちパーティーメンバーは何人だい?」
「一応3人ですけど……」
『おい』
念話でサトシをたしなめる。あんまり俺たちの情報をほいほい教えるもんじゃない。それにこいつ。
『ユーザー:オズワルド 職業:Aランク冒険者 LV:30 HP:1900/2277 MP:80/120 MPPS:10 STR:220 ATK:260 VIT:160 INT:390 DEF:260 RES:300 AGI:140 LUK:64 スキル:探索者☆☆☆』
ユーザーだ。挙句にAランクときた。それにちょっと奇妙だな。3人パーティーらしいが、残りの2人がNPCだ。なんだこのメンツ。
『アイもパーティーから外れてますから、仲間が多いに越したことないんじゃないですか?』
『お前、人を疑うってことを知らないんだな』
『まずは信じることですよ』
ん?
『俺の事なかなか信じてくれなかったよな』
頭の中で「ギク」って音が響いた気がした。サトシの心の音か?
『それは……あれですよ。そこから学んだんですよ。すべては信じることから始まるって』
『ほんとかよ』
正直ノープランなんだろうけど、確かにレベル上げのことを考えるとメンツが多いほど助かるのは事実だ。別動隊としてもパーティーに加えておけば経験値を稼ぐことができる。
「で、人数がどうした?」
「いや、もし都合が合えば俺達と組んでもらえるとありがてぇと思ってサ」
サトシと俺は顔を見合わせ、再度このオズワルドに尋ねる。
「俺達と組みたいってことか?」
「ああ、一応俺はAランクなんだ、役には立つと思うぜ。だが、あとの二人が駆け出しでよ。なかなかいい依頼にありつけねぇんだよ」
なるほどな。
NPCの冒険者は結構ポンコツが多いらしいからな。戦闘のとき足引っ張るんだろうなぁ。
スキルは『探索者☆☆☆』
このレベルなら、俺たちのステータスを確認することはできないだろうしな。せいぜい「かなり強い」ってことがばれてるっていうレベルだろう。だから、Cランクの俺たちに声をかけたってところか。
「そうだな。いい依頼があったら俺達にも声をかけてくれ。俺たちに連絡するときは、王都西通りにある石油販売店にセナってのがいるから、そいつに言伝てくれ。そうすれば俺たちに連絡がつく。よろしくな」
「ああ、助かるよ。また連絡する」
『パーティー組んどかなくてよかったですか?』
『お前は気が早すぎるし、ノープランすぎる。どんな奴かもわからんだろうが!もっと慎重になれ。依頼が来たら考えればいいさ』
『そうですか』
サトシはずいぶん焦ってるな。まあ、気持ちはわからんでもない。一刻も早くレベルを上げて、強敵相手にスキルや技の熟練度を上げたいんだろうな。ま、急いてはことを仕損じる。
念話で会話しながらギルドを後にし、ギルの店というか、カールの店に向かう。
通りを進んでいると、えらくにぎわっている店がある。あれ?カールの店だ。こんなに繁盛してたっけ?
店の入り口はひっきりなしに客が出入りしている。出入りする客をかき分けながら店の中へと入る。
「いらっしゃいませ!」
愛想のいい女性の声が響く。
え~と。どちら様?




