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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
カールの譚
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英雄気取り

 テントの中で少年は狗人コボルトを前に静かに泣いていた。

 

 俺は何も言えずに、その場を後にする。こればっかりは自分で乗り越えるしかないだろう。

 

 オットー、エリザ、ハンスも遠くからそれを眺めていた。人の死を見慣れている俺達でも、子供が絡むとやりきれない気持ちになる。まあ、タダのエゴだろうけどな。ただ、なんでこんなセンチな気持ちになったのかはいまだによくわからない。やたらとさっきの光景が胸に突き刺さった。実際こんな話は何処にでも転がっている。戦争になればそれこそ掃いて捨てるほどだ。いちいち感情を揺らしている暇はないんだが、やはり騎士団に対する嫌悪感がどんどん膨らんでゆく。正直とっととこの戦争を終わらせてほしい。何なら魔王軍が現れて、騎士団をせん滅してくれた方が清々すると思う。


「おい、なんか物騒なこと考えてねぇか?」

 勘のいいオットーは嫌いだよ。なんだよこいつ。恐ろしいな。

「何の話だ。」

 と、とぼけてみる。

「まあ、いいけどよ。ところで、さっきの防壁破りについてだが、騎士団の中じゃ「魔王軍の遠距離攻撃だ!」って大騒ぎだったらしいぞ。」

「遠距離攻撃って、残党兵だとは思わなかったのかよ。」

「そうは思わないんだろうよ。」

「なんで?」

「まあ、いろいろあらぁな」

 なんだよ。含み持たせやがって。まあいい。


「そんなことより問題なのは、さっきの攻撃(笑)で騎士団の上層部が少々ビビっちまったんだなぁ」

 なんだよ攻撃(笑)って。てか、そもそもあの程度の攻撃でビビる騎士団って存在価値あるのか?

「どんだけ腰抜けの集まりなんだよ?」

「そりゃまあ、王侯貴族のご子息様が上層部だからな。下っ端の中にはたたき上げの戦争屋も居なくはないが、今となっては少数派じゃねぇかなぁ」

「そもそも魔力持ちが少ないですからね。」

「別に魔力持ちが居なくても大丈夫だろ?」

 まあ、俺たち4人は魔力持ちだ。俗に言う魔法・魔術やスキルが使える人種ってことになる。確かに便利な能力だが、なくても生活は十分にできる。この3人とはパーティーを組んでいることもあって、魔力持ちだってことはわかっている。が、普通はあまり自分が魔力持ちであることを口外しない。有利に働くこともあれば、不利に働くこともあるからだ。

「まあ、大丈夫と言えば大丈夫ですけど、騎士ならば魔力を持ってた方が圧倒的に有利でしょうね。」

「そんなにか?魔法が使えりゃ確かに便利だろうけどよ。」

「?魔法だけじゃないですよね。」

「へ?魔法以外になんかあったっけ、ああ、スキルか?」

「いや、根本的に腕力とか俊敏性とか。」

 へ?なにそれ?

「カール、あなたがいい例じゃないですか。常人離れした腕力・俊敏性どれも騎士や剣士に必要な能力です。」

 あ、俺腕力強いなぁとは思ってたんだけど、それ魔力持ちだからか。あ、そうなんだ。

「知らなかったのか?」

「あ、お、おう。」

「お爺様と伯父様は王国の英雄でしたよね。人並外れた身体能力と魔力で国を守っていたんですから、当然そのあたりは理解されていると思ってましたが……」

「あ、は、は。」

 爺たちめぇ!ちゃんと教えてくれよ。『お前に英雄は無理だ!』じゃねぇよ。そこより先に教えておいてくれよ……まあ、知らずに40年生きてきて、特に困ったことがなかったから良いと言えば良いんだろうけど。

「ふぅ。いいでしょう。カールはあまりご存じないようですから、魔力持ちについても少しお話しておきましょう。」

 エリザは俺にも理解できるようにかみ砕いて魔力持ちについての現在の常識を教えてくれた。

「まず。魔力持ちは遺伝します。魔力持ちの家系には、魔力持ちが生まれやすくなります。」

「へぇ。そうなんだ。確かに俺んちも爺、伯父貴、親父と魔力持ちだったな。」

「あれ、お父さんも魔力持ちだったんですか?」

 やべ、そういや隠してたような気がするな。でもまあ、もう死んでるし良いか。

「あ、ああ、あんまり表立って言ってなかったけどな。鍛冶系スキルを持ってたな。」

「それは初耳だな。」

 情報通のオットーを欺くとは、親父恐るべし。

「なるほど、王国随一の鍛冶屋という称号も頷けますね。スキル自体も遺伝しやすい傾向にあるようです。生まれてすぐに使えるわけではないですが、訓練での発現確率が高いと聞きます。」

「ほう。ってことは鍛えれば親父と同じスキルが扱えるかもしれねえのか!」

「まあ、そういうことになりますね。あくまで可能性の話ですが。」

 それは良いことを聞いた。これでまた一歩親父に近づけるな。

「で、以前お話ししたとおり、1000年前の初代王はとんでもない魔力持ちだったんです。今の王侯貴族はその血族です。本来なら魔力持ちが多く生まれるはずなんですが、今の騎士団上層部を見てみるとどうやら様子がおかしいんですよね。」

「血のつながりがないってことか?」

「いえ、あるんでしょうけど……魔力持ちが極端に少ないんですよね。いたとしても能力が低かったりと、なんだかおかしいんですよ。」

「使わなかったら弱っていくってもんでもないのか?戦争がない限り魔法なんぞ王侯貴族が使わんだろ?」

「まあ、それもあり得ますが……。ただ、貴族たちも魔力持ちが少ないことを危惧しているようで、魔力持ちとの養子縁組を活発に行っていますからね。」

「なるほど、できないなら外から持って来るってことか。」

「特に女性の魔力持ちは狙われる傾向が高いと言われてますけどね。貴族の愛妾や政略結婚のための道具に使われるケースですね。なので、正規の養子縁組よりも誘拐の方が多いと言われています。だからあまり魔力持ちであることは口外しないんですよ。」

「エリザはよく大丈夫だったな。」

 これだけ見目麗しけりゃ、引く手あまただったろうに。

「うちはこれでも王宮魔術師の家系ですからね。さすがに手出しはしませんよ。カールだってそうでしょ。普通は英雄の孫をさらったりはしないでしょ?」

「……そういわれれば、そうなのかもな」


「それはさておき、今の騎士団上層部についてですが、活発に養子縁組を行ってはいるみたいなんです。でも、うまく魔力持ちが生まれてこない。なので、今の騎士団は随分弱いようですよ。」

「それで今までよく国を守ってきたな。」

「それこそ、あなたのお爺様と伯父様たちのおかげではないですか?」

「あ、そういうことか。」

 確かに、爺と伯父貴は王国の英雄騎士団として活躍してきた。諸国を回って国を脅かす脅威を排除していたようだ。

「でも、爺と伯父貴が死んでもう10年以上経つぞ。その間はどうしてたんだ?」

「幸いここ10年は周辺国ともめることがありませんでしたからね。」

「まあ、騎士団は確かに弱かったけどよ。」

「なんだよ。やっぱりなんかやったんだな。」

「まあ、それはまあ。」

「そんなことだから、厄介なことになるんだよ。」

「?なにが?」

「さっきも言ったろ?上層部がビビっちまったって。で、傭兵だけでは心配だとよ。」

「心配だからどうだって?」

「最強の冒険者がキャラバンを護衛する必要はないってさ」

「どうつながるんだよ。さっきの話と。」

「だから、最強の冒険者は傭兵として騎士団の部隊に参加しろとよ。」

「へぇ。そりゃ大変だね。」

「おい、お前意味わかってんのか?」

「そりゃ、大変なことだなぁとは思うけどさ。お前ら三人いれば確かに騎士団も安心するだろうよ。」

「なに、自分は大丈夫って空気醸し出してんだよ。」

「だっておれ鍛冶屋だよ。」

「冒険者じゃねぇか?」

「ルーキーですし。」

「向こうはそう思ってねぇよ。」

「は?」

「むしろ、俺たちが入ってねぇよ。お前ご指名だ。」

 おかしくねぇ?鍛冶屋だよ。100歩譲ってルーキーだよ。ひどいよね。あり得ないよね。

「まあ、今までの活躍を逐一報告してるしな。」

「このやろう!」

「あ、お呼びが来たぜ。行ってらっしゃい。」

 ふざけろよ!オットー。おのれ覚えておけ、この恨みはらさで置くべきか~ぐぬぬ。


 後ろから騎士が数名やってくる。

「カール。付いてまいれ。」

「あ゛?」

「ぐっ。」

 騎士がたじろいだ。この程度でたじろぐんなら、はなから魔王に喧嘩なんか売るなよ。

「まあ、まあ、カールさんそうおっしゃらずに。」

 またビクトール様かよ。

「へいへい。伺いますよ。」

「行ってらっしゃぁい。」

 オットー、憶えとけよ!


 仕方ねぇなぁ。そう思いながらビクトール様の後ろをついて、町の中央へ続く大通りを西へ行く。鼻を突く血の匂いが漂ってくる。うずたかく積み上げられた死体の山だ。近くで見るとなおの事、非戦闘員としか思えない死体ばかりだ。

 さっきはあえて聞かなかったが、今度は確認しなければ気が済まない。

「ビクトール様、伺いたいことがあります。」

「なんでしょう?」

「この死体の山は?」

「抵抗してきた魔族です。」

 魔族ときたか……確かに亜人もいるようだが、人間の方がはるかに多い。


「これは明らかに人間だと思いますが?」

「魔王に与すれば、それはすなわち魔族です。」

「それって……、魔王討伐っていうより、単なる『魔王』て奴が統治する国を侵略に来てるだけじゃないっすか?」

 勝手に、魔王・魔族・悪辣な集団というイメージを膨らませていたが、この町に暮らしていた人たちが文化的生活を送っていたなのなら、それはただの国家だろ?違うか?まあ、魔王が王国の侵略を目論んでたって言うんなら、確かにいつかは戦争になるからこういうこともあるだろう。でも、そもそも侵略を目論んでるのか?本当に。

「何をもって侵略というか……でしょうね。魔王が王国を侵略しようとしていたのは確かな事実ですから。」

「本当に?」

「ええ、それが証拠にこの町には組織化された軍隊が配備されていました。今は完全にせん滅されましたが。」

「これが組織化された軍隊ですか?俺には証拠とは思えませんけど」

 それに、たとえ軍隊だとしても町に軍隊を置くことが侵略の証拠か?置くだろ、普通。自衛のためには必要だろ?

「認識の違いですね。戦ってみればわかります。相手に侵略の意思があるかどうかは。遅かれ早かれ彼らは王国に侵略戦争を仕掛けてきたはずです。我々は王国民を守らねばなりませんからね。」

 それこそ、わかるわけねぇ。一兵卒に侵略の意思なんてねえだろ?どの兵隊も自分の家族を守るために戦ってるんじゃねぇのか?いや、やっぱりだめだ。こいつらとは一緒に戦いたくねぇ。

 後ろから、がっと肩をつかまれた。

 オットーだ。どうやら俺は、熱くなって剣に手を伸ばしかけていたらしい。


「おや、オットーさんどうされました?」

「いえね。キャラバンの馬車が長旅でやられちまってたようで、部品が完全にいかれてるもんですから、カールでないと修理できないんですよ。戦闘が始まる時にキャラバンが出発できないと大変ですから、もう少しだけカールをお貸しいただけないでしょうか?」

「そうですか、なるべく早くこちらへ来ていただければ大丈夫です。この先の西門前でお待ちしております。」

「では、ありがたく。」

「おい、オットー!」

「行くぞ、あっちは急ぎなんだ!」


 ずいぶん強引に引っ張りやがる。

「つまらんことに首を突っ込むな。」

 俺の腕を強く引きながら、振り返らずにオットーがつぶやく。さっきのへらへらした口調とは対照的にずいぶん冷めた物言いだ。

「お前の気持ちはわからんでもないが、これは戦争だし、戦争はそんなもんだ。大義名分は勝手に作るもんなんだよ。お前も手前勝手な理由で魔物を討伐してるじゃねぇか。結局一緒だ。今の優先順位を間違えるな。」

 どすのきいたオットーの言葉に、俺も冷静になった。さっきの少年の件や、騎士団憎しで頭がいっぱいになってたようだ。特に今回俺が戦列に加われば魔王と一戦交えることになる。最優先事項は生きて帰ることだ。騎士団と言い争ってる場合じゃねぇ。

 ん?

 騎士団皆殺しにして帰ればいいんじゃね?

「おい、またお前変なこと考えてねぇか?」

 いやだなオットー。最善の策を思いついたかもしれないのに。って、さすがにまずいよな。いくら弱体化してるとは言え王国騎士団だ。確かに、何人かを切り倒して、逃げるってことはできるだろうけど……王国に帰れねぇよ。完全なお尋ね者になっちまう。

 それよりオットー恐ろしいな。心も読めるのか?

「読めねぇよ」

「いや、読んでんじゃねぇか!!」

 怖っわ!!

「読めはしねぇが、おめえの考えてそうなことはなんとなくわかるよ。お前全部顔に出るんだよ。」

 やっぱ怖っわ!!ちょっとこいつとの付き合い方考えたほうがいいな。


「まあ、あれだ。なんか物騒なこと考えてたことはわかるよ。で、お前ならそれが実現可能なことも想像つくしな。」

 怖いことは確かだが、さっきの件は止めてもらわなきゃかなり危なかったな。俺一人なら突っ走ってたかもしれねぇ。


「……すまねぇな。さっきは助かった。危なかったよ」

「おい、やめてくれよ。愁傷なカールほど気持ちわりーもんはねぇぞ。」

 ぶっころーす!やっぱり許さん。

「まあ、頭冷やせ。」

「いや、修理は良いのか?」

「あんなもん嘘に決まってんだろ。本当はあの坊主が、お前を探しに来たんだよ。ようやく落ち着いたんじゃねぇか?」

「ああ、そうか。」

 確かに、あの少年の事は理由にできねぇわな。

 

 キャラバンの前まで来ると、少年が待っていた。

「おう、落ち着いたかい?」

「あっ。ああ」

 まだショックで言葉は出てこねぇみたいだな。少年は俺に向かって頭を深々と下げる。たぶん礼のつもりなんだろう。そういやサトシもそんなことしてたな。このあたりでは普通なんだろうか。

「いいよ。気にするな。明日には送ってやるんだ。今は一緒に居てやんな。」

 少年の頭をガシガシと撫でてやると、うなずいてテントの方へ走っていった。

 ビクトールと話してささくれ立っていた心が洗われるようだ。こんな詰まらねぇ仕事はとっとと終わらせて王都に帰ろう。

「さて、めんどくせぇけど、奴らのところに行ってくるか。キャラバンの事は頼んだ。」

「ああ、任せとけ。」


 キャラバンの野営地から、東門の方へ向かう。東門は騎士団に破壊されていて、ずいぶん見通しが良くなっている。

 東門だったであろう辺りから、まっすぐ大通りが伸びている。中央広場を挟んで反対側が西門だ。被害のない西門は大きく開け放たれていて、騎士団が西門の外に集結しているのが見える。

 やたらと奇麗な甲冑に身を包んだ騎士団の向こう側には、少々くたびれた装備の傭兵団が見える。なんだよ、傭兵の後ろに隠れて進軍するつもりか?この腰抜けが。と思っていると、最後尾の騎士が何かを喚きながら西門をくぐりこちらに走ってくる。

「……」

「ま……ろ!」

 なんだかよく聞こえねぇな。

 比較的軽装なその騎士はおそらく伝令係だろう。慌てまくっているらしく、いろんなところでコケながらこちらに向かってくる。


「魔王が現れた!!キャラバンは退避しろ!!」

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