準備完了
「いくつか頼みがあるんだが良いか?」
「なんだ?」
先ほどまでホクホク顔だったマンセルが真顔になる。いや、そんな無理難題を振るつもりねぇけどさ。
「いや、大したことじゃないんだが、王都に拠点が欲しいんだ。だからどこか近場に部屋を貸してもらえないかと思ってさ」
「ああ、なんじゃ。そんなことか。どんな立地が良い?」
「そんな好立地である必要はないんだ。単なる事務所だからな。細々とやりたいんで、目立たない場所が良い。ただ、治安は良いに越したことないがな」
「それならいくつか空き家があると思うぞ。今度仲介屋を紹介しよう」
「助かる。あ、それと。さっきのストーブやら油の件だが……」
「おう、どうした?」
「ウチのテンスってのが仕切ってるから、今後はそっちと相談してもらいたい」
「ああ、わかった。こっちも道具商を紹介しよう」
すると、自称キャスバルが口を挟む。
「ウブ……、ルークスさんよ。契約書は交わしておいた方がいいだろうな」
「ほう」
それを聞いたマンセルが目を丸くする。
「確かにな。まあ、その辺もテンスがうまくやってくれるだろうから、そっちに任せることにするよ」
「よし。じゃあこちらも日程を調整する。湿地帯の件も含めて連絡は冒険者ギルドに入れればいいか?」
俺とマンセルがラファエルの方に視線を移すと、居心地悪そうにつぶやく。
「あ、いや。まあ、そうか。ここか。そうだな。わかった。ローラに言ってくれ」
逃げやがったな。まあいいか。こんなムサイおっさんよりローラに会える方が良い。が、俺が毎回来るってわけにもいかんよな。テンスの部下をこっちに呼ぶか。
「こっちも連絡役を置くことにするよ。人選はこれからするんで、決まったら連絡する。ちなみにさっきの空き家の件だけど、それは直接商業ギルドに行けばいいか?」
「ああ、構わん。ワシの名前を出してもらえば話が通るようにしておこう」
「助かる」
そして、小声で自称キャスバルに話しかける。
「なあ、あんたとも連絡が取れた方が良いんで、一応これを教えておくよ」
俺は念話を自称キャスバルに教える。ユーザー間での通話が可能なので、問題なくできるはずだ。ラファエルやマンセルともできるはずだが、まあ、もう少し親しくなってからだな。
『聞こえるか?』
『お、まじか!異世界って感じだな』
サトシとおんなじ反応だな。なんだろうな、こいつら。疑わんのか?まあ、都合良いけど。
『俺は当分通信できなくなると思うんで、連絡役は用意する。商業ギルドとのやり取りについては、そいつ経由で頼む』
『わかった。ってか、これ便利だなぁ。スマホよりよっぽど便利じゃん』
『確かにな。ただ、相手のプライベートに土足で入り込むことになるから通話はほどほどにな』
自称キャスバルはニヤリと笑いながら頷いた。
「さて、一旦俺たちは帰るとするかな。また連絡する」
俺の用事は済んだ。後はテンスに任せるだけだ。自称キャスバルを送ってからエンドゥへ向かうか。
「了解した。では後日」
マンセルはそう言うと、会議室を後にする。
「いやいや、忙しい一日だった」
ラファエルは自分の肩を揉みながら俺たちを見送ってくれた。俺と自称キャスバルはそのまま転移の部屋に向かう。
「にしても、何だよ『キャスバル』って。自分には良い名前つけるのに、子孫には「キナコ」とか。無茶苦茶じゃねぇか!」
俺がそう言うと、自称キャスバルは一瞥してめんどくさそうに話し始めた。
「俺だって最初はまじめにつけてたさ。俺たち兄弟は数が少なかったから名前が無くてもよかったが……って言っても10匹は居たな。まあ、それは良い。でもよ。その後は鼠算式に子孫が増えてくんだぞ?
最初に付けたのは兄貴の娘だったかな。「はるか」「ちはや」「ゆきほ」「やよい」……」
どっかで聞いたような名前だな。
「「たかね」「ひびき」そんな感じで付けてたんだよ。でもな。多産なんだよ。どいつもこいつも。すぐに思いつかなくなったよ。だんだんめんどくさくなってな。「アリ」「ゲー」「ター」ってのも居たな」
ヒデぇ。もっと考えてやれよ。
「で、今は菓子に落ち着いたってわけだ。まだ良心的だろうが。あんたも同じ状況になればそうするよきっと」
「確かに、言われてみればそうか。なんにせよ大変だったんだな」
「なんだよそのまとめ方」
自称キャスバルはニヤリと笑う。俺もワニの表情が読み取れるようになってきたな。
その後、俺と自称キャスバルは神殿奥の間に転移した。
「いろいろありがとうな」
「とりあえず、次の会合までは付き合うよ。乗り掛かった舟だしな。そこである程度方針が決まれば、あとは笹川さんと商業ギルドで話し合ってくれ」
「ああ、わかった」
「じゃあ、とりあえず一旦俺は帰るよ。じゃあまた連絡する」
「よろしくな!」
そう言って俺はエンドゥの油田オフィスに転移する。
いつものヘリポートに到着した。「イェス!」と叫んでからオフィスに向かう。特に意味はない。
オフィスにはテンスが居た。
「いよ!テンス。調子はどう?」
「あ、ルークスの旦那。どうしやした?」
「あのさ、前言ってた王都の件なんだけど、販路広げられそうなんだわ」
「ホントですか!?」
「ああ、でさ、誰か信用置ける奴を王都に常駐させることできる?」
「信用できる奴ですか……」
「それで、ちょっと条件もあるんで、一応今王都に送ることが出来る従業員をここに連れてきてもらえる?俺に選ばせて欲しいんだわ」
「はぁ、それは構いませんが……」
テンスは今一ピンと来ない様子で従業員をオフィスの一角に集める。
「ここに居る奴らなら信用できます。どいつを送っても大丈夫だと思いやすゼ」
「ん~」
俺はステータスを確認する。やっぱりこれだけ集まるといるな。「ユーザー」
「君にに決めた!」
『ユーザー:セナ 職業:サトシ石油従業員 LV:7 HP:225/236 MP:11/11 スキル:観察眼☆』
「スキル:観察眼」は「スキル:鑑定」の簡易版みたいなもんだ。流石に鑑定までの精度は無いが磨けばいずれクラスチェンジするだろう。そういう意味で王都勤務は打って付けだ。
「で、君には王都勤務をしてもらいたい。任せていいかな?」
「ハイ!喜んで!!」
いいね。その居酒屋みたいな返事とても素敵。
「というわけで、連絡方法も教えておこう。あ、セナ、テンス。こっち来て」
「へい。なんでしょう」
訝しがる二人に「念話」を教える。特に問題なく覚えることが出来るはずだ。
『なんですか!?これは。こんな魔術教えてもらって良いんですか!?』
『あっしにもでやんすか!?』
テンスの奴どんどん言葉遣いがおかしくなってる気がするなぁ。
『良いんだよ。これがないと不便だからさ。どうだ?問題なく通信できるだろ?』
『ええ、良く聞こえます。これならどこからでも業務報告できます!』
『頼むよ。で、テンス。これ俺とサトシも使えるから、何かあったら連絡くれ……って、俺はダメだった。これから隠密行動に移るから、基本サトシに頼む』
『わ、わかりやした。こんな魔術まで……信用していただき、ありがとうございます。必ずやご期待に……』
『わかったわかった。そんな畏まらなくていいから。で、これから王都の商業ギルドといろいろやり取りをしてもらうことになるから、その時は念話使ってセナにアドバイスしてやってくれよ』
テンスもセナも喜びに瞳を潤ませている。
なんか悪いなぁ。俺利用してるだけなのに……心が痛む。
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