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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
カールの譚
17/342

戦場の街

 サトシ達と別れて二日ほどが経った。

 いくつかの街に立ち寄り、補給と商談を行いながらキャラバンは進んでいる。

 どこの街もそれほど栄えているという雰囲気はない。

 それはそうだろう。広大な荒れた平野が続くばかりだ。生えている植物も背の低い者ばかり、土地がやせているんだろう。農業や商業が盛んに行えるほどではない。どちらかと言えば、平原に点在するダンジョンに出入りする冒険者によって辛うじて経済を回している町がほとんどだ。だから、ダンジョンが攻略しつくされてしまえば、おのずとその周りに点在していた町も消える。なので、どの町も刹那的な雰囲気が漂っているし、堅実な商売をしているものも少ない。

 王国領外に出てからの商談はそれほどいい物ではないのだろう。商人たちの表情は少々暗くなってきている。そんな様子を見るたび、早く王都に帰りたい衝動に駆られる。

 早く終わんないかなぁ。この仕事。

 とっととサトシを拾って。

 王都に帰って。

 新しい武器を作りたい。

 

 そんなことを考えてると、エリザが


「ずいぶんサトシにご執心でしたね。」


 ん?エリザちょっとイラついてる?

 

「ああ、あれは良い鍛冶屋になると思うんだけどなぁ。うちで雇いたいなぁと」

 

「一緒に暮らすんですか?」

 

「ああ、暮らすかどうかはわからんが、店は一緒にやりたいと思うよ。助手がいるとできることがずいぶん増えるしな」

 

 一人で武具を作るには限界がある。大型武器はあきらめるしかないし、作業効率も落ちる。それこそ二人で作るとなれば、効果効率は2倍どころではない。今まであきらめていた武器・防具にチャレンジできる。

 

「そうですか。」

 

 まあ、武器防具ってのは男心をくすぐるからね。あんなものやこんなもの。ほしいものは一杯だ。サトシは能力的にも申し分ないし、何より人間的に素晴らしい。あんな奴と一緒に仕事がしたいもんだ。オットーみたいに見ただけで殴りたくなるやつとは大違いってもんだ。早く王都に帰りてぇ…


 と、東の空を見上げると、ずいぶん奇妙な雲がかかってる。嵐か?雲の流れが異常に早い。渦を巻くわけでもなく東の空へ向かって一方向に雲が進んで行く。ちょうどサトシたち集落のあたりだろうか、そこへ向かって雲が吸い込まれてゆくようだ。天候があれる前触れだろうか?やたらと頭が重い。体の感覚も鈍っているような気がする。


「どうした、カール顔色が悪いぞ。そろそろ騎士団と合流するんだ。お前がそんな調子じゃ困るな。」


 それが原因か。いやだいやだ、とっとと終わらせてぇな。

 

 そんな感じで進んでいると、騎士団の車列が見えてきた。

 一気に気持ちが暗くなる。オットーによると、騎士団は魔王軍を退け、魔族に支配されていた町を解放したらしい。それが三日ほど前で、今はその街でキャラバンの到着を待っているそうだ。


「待たなくてもいいのによ」

「武器防具の修理や、補給をしたいんだろう。ま、仕方ねぇよ。あきらめろ仕事だ。仕事」


 けっ。因果な商売だ。ま、仕事を受けちまったもんは仕方ない。玉鋼のためだ。商売商売。


 騎士団の車列の向こうには防壁に囲まれた町らしきものが見える。防壁の高さは3~5mほどで、入り口の大扉は破壊されており、防壁の一部も崩れている。キャラバンは城壁の前に並ぶ騎士団の車列に並んで停車する。

 心なしか、オットーの腰も重いように感じるが、気のせいでは無いようだ。馬車から降りるとオットーはひと際派手な鎧兜を身に着けた騎士のほうへ近づいてゆく。

 

「遅かったではないか。待ちくたびれたぞ!」


 居丈高な物言いに、つい眉をひそめてしまう。


「こりゃお待たせしましたね。じゃ、後は商人たちに任せますので」


 オットーはそそくさと立ち去ろうとするが、また呼び止められる。


「おい、オットーと言ったな。何でも便利な鍛冶屋が居るらしいじゃないか。それを呼んでまいれ。武具が痛んでおる。せめて報酬分は働いてもらわんとな。」


 あー。やべえ。兜割かましちまいそうだ。耐えられないかもしんない。

 オットーも『あちゃー』という顔をしている。よくわかってるね。そう、そういう状況だよ。結構限界ぎりぎりだ。

 とはいえ、報酬ももらっちまったしな。仕方ない。行くか。

「へいへい。その鍛冶屋ですが?」


「ずいぶん礼儀を知らん奴だな。」

 騎士は眉を顰める。

 

「すいませんね。学がないもんで。で、何をすればいいんですか?」


「なんだ、その態度は!貴様!身の程を弁えろ!!」


「弁えてますよ。ですからとっとと仕事を言ってくださいよ。目の前から消えますから。」

  

「ぐぬぬぅ。貴様ぁ!」


 ぐぬぬぅって言うやつ初めて見たよ。いいから、早く仕事を教えろよ。お互いに精神衛生上よくないだろ!

 

「カールさん、まあそう敵視しないでください。」

「ビ、ビクトール様!!」

 横柄だった騎士が後ずさる。


「敵視してるわけじゃないですよ。早く仕事をすましちまいたいだけです。」

「そうですね。それでは私が案内しましょう。」

「いや、このような仕事はわたくしめが」

「いいえ、いいんです。あなたは下がっていてください。」


 顔は笑っちゃいるが、目が笑ってないな。まあいい。こっちの方が話が早そうだ。


「失礼いたしました。」

 えらそうな騎士はこちらに一瞥して去ってゆく。いやはや居るんだね。あんな奴。


「ではカールさん、こちらへ」

「へい」


 そこには、大量の武器と防具が並べられていた。どれも傷むというほど傷んではいない。血で汚れてはいるが、欠けているのはほんのわずかだ。戦闘で使った……ってわけでもなさそうだが。鎧や兜をたたき割った剣なら、もう少し傷んでもよさそうだが、そんな雰囲気ではない。まあ、俺の仕事はこの武器や防具を治す事なので、傷みが少ないに越したことは無い。面倒くさい仕事はとっとと終わらせよう。

 とりあえず、状況をしっかり確認するため血をふき取り、それぞれの損傷を詳しく確かめる。火を入れ鍛えたいところだが、そんな設備も無いので魔力を流し、結晶を整える。

「うわぁ↓」

「どうしましたか?」

「いえ。何でもありません。」

 騎士団の武器って言うから、どんなに業物かと思ったら、全部安もんじゃねぇか。どれもこれも装飾は派手だが、素材がなってない。確かにいい物は使ってるんだろうけど、熱処理や研磨がお粗末だから三流品もいいとこだ。本来なら一からやり直したいところだが、他でもない騎士団の依頼だ。新品同様にしてやるよ。そう、三流品だった元の状態にきっちり戻してやる。

「ずいぶんご機嫌ですね。やはり冒険者として護衛をするより本職の方が楽しいですか?」

「そりゃぁもちろん!」

 いかん、にやけてたらしい。自重せねば。さて、結晶の具合はどうかな?っと。サトシとの修行で素材の状態を把握できるようになった。これは随分便利な能力だ。サトシ様々だな。

 なんだこりゃ。結晶もずいぶん粗大化してるな。これじゃ強度なんか出るわけないな。ひでえ仕事だ。まあ、きっちり元に戻しますよ。

 魔力を流し、元の状態に戻してやると、剣はみるみる輝きを取り戻す。

「おお、これがあなたのスキルですか。まるで新品じゃないですか。」

「新品と同等だと思いますよ。それは保証します。」

 元とおんなじ。元とね。

「その調子でお願いしますよ。」

 俺はその後も調子よく、すべてを新品に戻してゆく。いくつか業物もあったが、全体的に見ればほとんどがクズ武器だ。どれもこれも見栄えがいいだけで、辺境の村で修理したゴブリンのクズ武器の方がよっぽど名品だ。

「ということで、これで最後ですね。」

「いや、さすがと言うべきか。見事な腕前でした。ギルドマスターの見立ては確かですね。」

「そりゃどうも。」

 

 さて、仕事も終わったし、そろそろ帰るか。

 と周りを見渡すと今まで気づかなかった町のあれ具合が目に飛び込んできた。おそらく戦闘が始まる前は立派な町だったんじゃないだろうか。王都と同等とは言わないが、すでに崩れている建物も王国の地方都市よりずいぶん立派な造りだ。道幅も広くとられており、馬車などの往来が盛んだったことを物語っている。

 『魔王が支配する魔族の街』

 イメージとしては、魔王に虐げられて暴虐の限りを尽くされてるイメージだが…魔族は魔族で楽しくやってんじゃないの?結構文化的生活送ってる気がするけど。これ破壊したのは騎士団ってことだよね?悪いの騎士団じゃね?と、その辺の疑問をぶつけてみることにした。

「ところでビクトール様、ちょっと質問があるんですが」

「なんでしょう?」

「この町の住民は、魔族だったんですよね?」

「ええ。ほとんどは」

「ほとんど?じゃあ、魔族じゃない者も居たんですか?」

「ええ、人間が数十名」

 

「へ?魔族と人間が仲良く暮らしてたんですか?」

「いいえ、おそらく、人間は魔族の奴隷だったのでしょう。」

「奴隷ですか。その人間たちは何処に?」

「我々が保護し、いまキャラバンのところへ送っているところです。」

「そうすか。その人たちは過酷な労働を強いられたりしてたんですか?」

「恐らくそうでしょうね。我々が助けたときは口もきけずにおびえているものや、半狂乱で叫んでいるものがほとんどでした。」

「はぁ。なるほど。」

 奴隷ねぇ。近隣の街からさらってきてたのかね。まあ、助かってよかった。

 いろいろ聞きたいことはあったが、なんだかこの人もあんまり一緒に居たくないタイプのような気がしてきた。早々に切り上げよう。


「さて、それじゃあ、俺はこれで。」

「ああ、ありがとうございました。十分な働きです。感謝します。」

「いえ、仕事ですから。では。」

 なんだか、騎士団や貴族と居るのは心地悪い。とっとと逃げるが勝ちだな。


「おう、お勤めは終わったか?」

 相変わらずにやけてやがる。殴りてぇ。

「ああ、思ったより大した仕事じゃなかったけどな。」

「そりゃよかった。じゃあまだ働けるな。」

「いや、疲れ切ってるよ。じゃぁな。」

 余計な仕事はご免だ。とりあえず逃げよう。

「なに逃げようとしてるんだよ。こっち来い。」

「ちっ」

 しくじった。

「騎士団が補給物資を受け取ってる間、町の北側を警護してくれとさ。」

「人使いが荒いな。そんなもん傭兵にやらしときゃいいだろうよ。」

「まあ、そういうなって。俺らも傭兵みたいなもんだ。」

 まあ、警護は面倒だが、騎士団から離れられるんならそれでいい。

「お前と俺で警護するのか?」

「いんや。お前だけだよ。何かが攻めてきても、俺じゃそんなに役に立たん。」

「お前Sランクだろうが、何ふざけたこと言ってんだ。」

「お前の方が適任だろうよ。俺には俺の役目があんの。ほら、あの物見櫓だ。頼んだぜ。次の奴が来たら交代だ。それまでサボんなよ。」

 防壁の上に人が一人立てるくらいのスペースがある。あれが物見櫓らしい。オットーはふざけたことを言いながら、それを指さし俺に行くように指示した。

 物見櫓迄町の中心街を通ってゆく。通りは広く左右には石造りの立派な建物が並んでいる。看板には『宿屋』『食事処』など賑わいを感じさせる看板がついている。旅人も多く訪れていたんだろう。

 今では見る影もなく、町の往来は騎士団が我が物顔で闊歩している。手には店から盗んだ酒や食い物をぶら下げている。これじゃあ野党と変わらない。思わず眉をひそめてしまうが、絡まれたくないので可能な限り視界に入れないよう努力する。

 防壁に近づくと物見やぐらに上るための梯子がついていた。梯子を上がり、櫓の上に立ってみる。ぐるりと町を見渡すと、防壁の上には要所要所にと物見櫓が配置されている。

 ただ、その数はあまり多く無く、東西南北2か所ずつ、合計8か所しかない。この大きさの街には少なすぎるようにも感じるな。それと、櫓は腰高の手すりに囲まれているが、外からの攻撃には無防備すぎる気がする。これじゃ、騎士団の攻撃に耐えられんはずだな。そんな印象を受けた。

 北側の物見やぐら、正確には北北西あたりだが、町の外を見ても、見渡す限りの平原だ。背の高い樹木もなく、比較的荒れた大地なんだろう。よくこんなところで文明的な生活が送れるな…と感心した。西の方を見るとそびえたつ山脈が見える。あの向こうに魔王の住む魔都があるらしい。確かに、魔王が居そうな荘厳な風景だ。

 町の中へと視線を移すと、そこここからいまだくすぶった煙が上がっている。戦闘で町に火を放ったんだろう。まあ、戦争だからな。仕方ないんだろうけど。町の中央に広場があり、そこにうずたかく何かが積まれている。ちょっと距離があるのではっきり見えんな。ようし。久々にやってみるか!

「千里眼モード!!」

 説明しよう!カールアイは魔力を籠めることで、視力を飛躍的に向上させルことができるのだ!!

 って、何言ってんだ俺。まあいいや。さて、これでよく見えるな。

「ああ。」

 死体の山だった。騎士団が討伐したという魔族の兵隊たちだろう。町の中で死体を目にしなかった理由はそれか。

 ん?

 明らかに死体がおかしい。武器防具をはぎ取ったなら、戦闘用の下着を着用しているはずだ。でも、あそこにある死体は明らかに平服だ。どちらかと言えば町民や商人が着る服を思わせる。確かに、俺たちとファッションセンスが若干ずれている感じがする。まあ、そのあたりは魔族なんだろうと納得してみるが、兵士のそれではないのは明らかだ。

 でも、本当に魔族か?見た目はほぼ人間だと思うんだが。亜人の類なんだろうか?俺のイメージでは魔族は悪魔みたいな風貌だと思ってたんだが、ほとんど俺たちと変わらんのだけど?後で物知りオットーにでも聞いてみようか。いや、殴りたくなるから駄目だな。エリザに聞こう。そうしよう。

 

 さて、見張り見張りっと。特に何かが攻め込んでくるような気配もなくのどかなもんだ。まあ、魔獣みたいなのはちらほらうろついてるけど。見張りする意味ある?あまりに暇なので遠くの魔獣の群れを目で追うが、これと言って面白いことが起きる雰囲気もない。ま、平和でいいけどさ。あまりに暇なので、町の中に視線を移す。

 相も変わらず、騎士たちが店に入っては商品を略奪している。戦利品とでも考えているんだろう。

「あれ?」

 今三人の騎士が入っていった店の裏から、大小2つの人影が裏通りに飛び出していった。それを追って騎士が店の裏口から飛び出す。2つの人影はこちらへと近づいてきて、ようやくそれが10歳くらいの子供と狗人コボルトだとわかる。

「つっ!」

 嫌な感覚…嫌悪感と既視感デジャビュが頭中を駆け巡る。吐きそうな感覚に襲われながらも、そこから目が離せない。騎士は三人。そのうち一番小柄な騎士が子供たちをどんどん追い詰める。狗人コボルトだけなら逃げきれそうだが、子供が遅れている。逃げきれそうにない。裏路地から大通りに出たところで子供が騎士に捕らえられる。その様子を見ながら嫌な感覚がどんどん大きくなる。子供が捕らえられたことで、狗人コボルトが子供を助けようと引き返し、子供に手を伸ばした時、横道から現れた大柄な騎士が狗人コボルトを袈裟に切り捨てる。

『ドクン!』

 嫌悪感と怒り、悲しみなどの感情が入り混じった感覚に胸が締め付けられる。気づいたときには体が勝手に動いていた。物見櫓から飛び降りる。

「あぁぁーーーーーー!!。」

 子供は言葉にならない様子で喚き散らしている。

 俺は飛び降りざまに防壁を蹴り、その勢いで騎士たちの元へ駆けてゆく。狗人コボルトの目の前で砂煙を上げながら止まり、狗人コボルトの首に手を当てる。わずかに息はあるがもう助からないだろう。瞳から光が失われてゆくのが見える。

「うるさい!黙らんか!」

 子供を捕まえている騎士は俺に気づかず大声で怒鳴っている。

「貴様何者だ!」

 狗人コボルトを殺した騎士が俺に向かって何かを喚いている。なんだろう、まったく言葉が入ってこない。なんだこいつら?すべての感情が怒りで塗り替えられてゆく。


 「「「ぐっ!」」」

 

 三人の騎士は俺の様子に息をのんで固まっているようだ。捕まえてる手が緩んだようで、子供が狗人コボルトに駆け寄り、すがって泣き喚いている。

「何の真似だ!我々にたてつくのか!」

 まだ、何もしてねぇだろうが。甲高い声で喚きやがって。頭ン中が整理できねーだろ。

「傭兵風情が、邪魔立てするか!」

 ふぅ。少し落ち着いてきたな。


 

「何をしてたんだ?え?」

 俺が質問をすると、騎士たちがたじろいだ。


「なんだと!貴様我々に……」

 

「何をしてたんだと聞いている。」

「なっ。わ、我々は奴隷となった人々を開放して…いる。貴様はそれを邪魔するのか!」

「で、だれが奴隷だ?」

「見てわかるであろう!そこな人の子が奴隷として亜人に捕まっておったのだ、だからその亜人を切り捨て助けたのだ。」

 なんでお前がおびえてんだよ。対面を保つために必死じゃねぇか。

「で、何でその奴隷が主人の死体にしがみ付いて泣いてんだ?」

「いっ、今までずっと洗脳されてきたからにきっ、決まっておろうが!」

「証拠は?」

「へっ?」

「証拠」

「きっ、貴様ぁ!!」

 激昂して切りかかってきた。三人まとめて切りかかってくるが、動きが遅くてこちらも一段と冷静になる。大柄な騎士Aが大上段から振りかぶって切りかかる。中肉中背の騎士Bは俺の背後に回って突きを打って来る。小柄な騎士Cは右手の方から横なぎに切り込んできた。

 左手で騎士Aの手を、右手で騎士Cの手をつかみ、それぞれの剣を止め、後ろ回し蹴りで騎士Bの頭を蹴り飛ばす。左手と右手をひねり上げ、二人の騎士をその場に転がしたところで、俺は剣を抜く。

「おい、どう見てもお前らが暴漢だ。どうする?このまま俺に真っ二つにされる?」

「なっ、何を言うか!、われらにこのようなことをしてタダですむと思って……」

『ザシュ!』

 寝ころびながら喚き散らす騎士Aの鼻先に剣を突き立てる。

「る!何なら証拠も残らないほどきれいさっぱり消し去ろうか?」

 指先に魔力を込めて、騎士たちに見えるようにファイアボールを防壁に向かって打ち込む。

「ファイアボール!」

「ドガァァン!」

 火柱が上がり、防壁に大穴が開く。

「黙って帰るんなら見逃してやる。たかだかルーキーの冒険者に3人がかりでぼろ負けしたってのを仲間に知られたいんなら、ビクトール様にでも泣きついてみるんだな。」

「「「ぐっ!」」」


「ちっ、覚えていろ!」

 三人は口々に捨て台詞を履きながら、裏路地へ消えていった。


「おい、怪我はないか?」

 狗人コボルトに縋りつく少年はまだ泣きじゃくっている。

「ここに居るとまた奴らが来るかもしれん。身を隠した方がいい。」

 とは言ったものの、無理だろうな。よほど親しい仲だったんだろう。とはいえこのまま置いていくわけにもいかん。どうしたもんか……


「櫓に居ねぇと思ったらここか」

「オットー。なんでここに?」

「なんでもくそもねぇよ。さっき火柱が上がったの、あれ、お前の仕業だろ」

「あ、ああ。」

 怒りに任せて考え無しに打っちまったな。

「目立ってたか?」

「目立つなんてもんじゃねぇぞ!じきに騎士団が来る。こっちに来い。ん?なんだこの状況は。」

「まあ、説明すると長いな。」

「じゃあ黙ってついてこい。騎士団もそこまでのろまじゃねぇぞ。」

 よく考えればひどい言い草だが、その通りだろう。少年たちを置いてゆくわけにもいかず、狗人コボルトごと抱えてオットーの後ろについてゆく。

 オットーは裏道を駆使し町の外にあるキャラバン野営地まで誘導してくれる。

「ここまでくれば大丈夫だろう。」

 そういうと、馬車の方へ向かいエリザを呼んだ

「どうしたんですか、なんだかずいぶん騒がしいようですが?」

「まあ、いろいろあってな。ほどんどカールのせいだけどよ。」

「また何かしたんですが?」

「またとはひどい言い草だな」

 まあ、俺のせいと言えばそうか。でも、悪いのは騎士だ。そうだ騎士のせいだ。

「あら、この子は?」

「騎士達から逃げてるのを助けようとしたんだがな。狗人コボルトの方は間に合わなかった。」

「どうだ?蘇生できそうか?」

「……」

「残念ながら、魂が離れているようです。この状態だとアンデット化する可能性が高いですね。」

「そうか、すまんな。」

「いいえ、力不足で申し訳ないです。」

「いやいや、エリザで無理なら、他の誰にも無理だろう。すまねぇな。無理言って。さて、坊主。この狗人コボルトを送ってやっちゃぁくれねぇか?」

 『送る』というのは、荼毘に付すことをいう。戦争の絶えなかった地域では、死体を放置したことによる疫病の蔓延とアンデットの発生により二次災害が発生することを防ぐため、遺体を早急に火葬する風習がある。まあ、一般的には翌日と言ったところだが、今回の場合は騎士に見つからないようにするため特に急いでいるが…

「あぁ、すまん。オットー、エリザ。もうちょっと待ってやってくれねぇか?」

「カール?なんで。」

「いや、俺もうまく言えねえんだが、なんとなくこいつの気持ちがわかるんだよ。なんでだろうなぁ。荷馬車にテントが入ってたろ?あれ貸してくれねぇか。一晩一緒に居させてやりてぇんだ。」

「まあ、お前がそこまで言うなら。でも後の面倒はお前が見ろよ。」

「ああ、わかってる。」

「では、せめて傷だけでも治しておきましょう。少しは腐敗も遅らせることができるでしょう。」

「ありがとう。恩に着る。」

「おい、坊主。こっちだ。」

 傷こそなくなったが、ぐったりとした狗人コボルトを抱きかかえ野営地から外れた目立たない場所に運ぶ。ここなら一晩落ち着いて過ごせるだろう。

「一晩だけだ。明日には送るからな。しっかりお別れしとけ。」

 少年は、泣きはらした目をこすりながらうなづく。その後狗人コボルトに寄り添いながら静かに泣いていた。

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