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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
生方蒼甫の譚
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王都

 なんやかんやで、あれから3か月ほどが過ぎた。

 焼玉エンジンも順調に売れているようだ。

 ウサカでも鍛冶屋を紹介してもらい、ランプとコンロを絶賛製造中だ。

 エンドゥでもようやくストーブ製造に目途がついたことから、焼玉エンジンの製造に取り掛かってもらった。


 売れろ!売れろ!俺たちの石油!

 必死で働けテンス!!


 と言う訳で、テンスは大忙しだ。すでに焼玉エンジンでのポンプ駆動や発電が可能になったことで、火力調整も魔法を使わず自動調整できるようになった。

 本来ならテンスはお役御免のはずなんだが、奴は経営に関して俺たちよりもよほど有能だった。

 

 ウルサン近郊での農業にはすでに見切りをつけたようで、今までの従業員をすべてこちらに呼び寄せている。加えて、エンドゥで新たに雇った従業員も含め製油所では100人近い従業員を従えて莫大な利益を上げている。

 エンドゥはオイルマネーで空前絶後の好景気。今やウサカやウルサンなど比較にならないほどの賑わいだ。


 サトシも精油と農業が落ち着いたことで、今は鍛冶屋で新製品開発に専念している。農業はアイとティック、アンが切り盛りしている。こちらも20人ほどの従業員を抱え、ウサカだけでなく、エンドゥにも出荷していてかなりの利益を上げている。


 ヨウトの工房でサトシはせっせと新製品開発中だ。

 最近では天命の書板タブレットに映し出された図面を、超合金イモータライトの薄板に刻み込むことができるようになっている。

 それを見ながら製作に勤しんでいた。


 俺は、一心不乱に制作に打ち込むサトシの背中に向かって話しかける。

 

「なあ、ひと段落ついたからさ。そろそろ王都行きたいんだけど良いか?」


 サトシは、俺が背後にいることに気づいていなかったようで、少し驚いた様子で振り返る。

「あ、そういえばまだ行ってませんでしたね。俺も行きましょうか?」

「いや、ちょっと一人で調べたいことが有るんだよ。お前鍛冶屋忙しいだろ?」

 さすがにサトシにすべて知られるのは不味いしな。


「そっすか。俺も王都見てみたいですけどね。でも色々新製品開発しないといけませんしね」

 サトシは工房の片隅に保存されている大量の図面に視線を移しながら、残念そうにつぶやく。

 サトシをここにとどめておくために、いくつか新製品開発を依頼している。

 今依頼しているのは工作機械だ。電力を得たことで、工作機械を動かすことも可能になった。これが完成すれば、サトシじゃなくても製品製造ができるし、なにより製品の精度が上がる。ぜひとも作ってもらいたい。


 「しばらく帰ってこれないと思う。それと、領主様とつながりのあった貴族のことも調べようと思うから隠密行動になる。だから当分念話チャットは俺からの発信だけにさせてもらう。スマンな」

 と言うのは半分本当で、半分方便だがね。


「わかりました。まあ、大丈夫だと思いますが、お気をつけて」

「ありがとう」


「あ、アイ。サトシを頼む」

 サトシの作業をかいがいしく手伝っていたアイにも声をかけておく。しっかりサトシを観察しておくようにとの思いを込めて。

 

「わかった。行ってらっしゃい」

 最近アイの俺への態度が普通だ。何かあったんだろうか?パラメータ弄ったっけ?

「なによ」

「いや、なんでもない」

 多少物足りなさを感じるが、まあいいだろう。

「それじゃな!」


 いったんエンドゥに転移する。


 テンスたちの様子を見たかったこともあるが、王都には初めて向かうので転移での移動は危険が伴う。飛行魔法で飛ぶため移動距離を縮めておきたかった。

 

 エンドゥ北の製油所は以前の倍ほどに拡張されている。サトシに頼んで製油所の横に立派なオフィスビルを立ててもらった。テンスはその最上階で従業員に指示を出していた。

「あ、ルークスの旦那。今日はどういう御用もちで?」

 

 なんだかテンスのやつ最近商売人風になってきた。随分稼いでくれてるから、もっと横柄でもいいと思うんだが。

 従業員も含めて今ではかなり裕福な生活をしているらしい。どうやらそのことで俺に恩義を感じてるんだそうだ。なんか、むず痒いな。

 

「ああ、ちょっと長旅に出る予定なんでな。様子を見に来た」

「長旅ですか?どちらへ」

「王都に向かおうと思ってな」

「王都ですか。あちらにも販路を広げるおつもりで?」

「それもあるが、ちょっと調べたいことが有ってな」

「調べたいこと?」

「ああ、まあそれはいずれな。で、どうだ?商売の方は」

 テンスは帳簿をぱらぱらとめくりながら最近の売り上げについて簡単に説明してくれる。売り上げだけでなく、利益率も向上している。さすがだな。


「ありがとう。よくわかったよ。じゃあ、これから当分連絡は取れないと思うが、今の調子で頑張ってくれ」

「任せて下せえ」

 ん~。こんなキャラだっけ?まあいいや。

 

 満面の笑みを浮かべるテンスに見送られて、事務所を後にし屋上へと向かう。

 屋上にはヘリポートがある。まあ、ヘリコプター出来上がってないけどさ。なんかかっこいいじゃん。屋上のヘリポート。イェス!ってかんじで。まだ役に立たないけど、サトシにお願いして作っちゃった。飛行魔法使うには便利だしね。と言う訳で、ここから王都へと飛び立つことにする。


 王都の方向を確認して、上空に舞い上がる。高度が上がるにつれて周囲は霞がかって、視界が随分悪い。高速で飛ぶと何かにぶつかりそうだ。やむなく速度を落として王都の方角へと飛ぶことにする。


 雲の中と言うほどではないが、視界は50mほどだ。霧の高速道路を自動車で飛ばしているような感覚だ。普通なら怖くて進めないが、ぶつかるものもないだろうし、探索シークを使いながらの飛行なので、周囲の安全は確保できている。

 とはいえ70km/h程度しか出すことができない。このままでは最短距離での移動とは言えかなりの時間がかかる。

 人目には着くが、多少高度を落として街道上を進むことにしよう。


 高度を落とすと周囲の霞は幾分晴れてきた。


 2時間ほどかかっただろうか。街道のはるか先、地平線上に高くそびえる城壁が見えてきた。

「あれが王都か」

 王都と呼ぶにふさわしい大きさだ。城塞都市とでも言うのだろうか、高さが10m以上ある城壁に囲まれて真っ白な建物が整然と立ち並んでいる。


 この辺りで降りるかな。


 王都の周辺、城壁の周りには商人らしき馬車や荷車が列をなしている。城壁にある入り口で手続きの順番を待っているのだろう。あまり近くまで行くと目立ちそうなので人目につかないあたりで降りることにした。


 あ~。いっそのこと上から入ればよかったかなぁ。


 ま、いいか。

 

 さ、王都だ。

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