お仕置きタイム
「ああ、あのあたりに潜んでるな」
探索で確認すると、街道横にある大岩の陰に3人ほど隠れている。まあ、俺たちからすればバレバレだが。
「じゃあ、そのまま行きますね」
「了解」
サトシはそのまま馬車を進める。ちょうど大岩の横に差し掛かったあたりで、大柄で覆面を被った男たちが飛び出す。一人は馬車の進路を剣を持って塞ぐ。残りの二人は荷車の方に駆け寄ってくる。
サトシはゆっくり馬車を止めると、ひらりと飛び降り剣を持った男の前に歩み出る。男は僅かにたじろぐが、すぐに剣をサトシの喉元に突きつける。
「荷物を置いて……」
言い切る前に、サトシが剣の先端を素手で掴み奪い取る。
「行動不能」
軽くサトシが呟くと、三人の男はその場で金縛りにあったように硬直しうめき声を上げる。
「あ~。久しぶり」
サトシは目深にかぶっていた麦わら帽子を外すと、強盗の男には、覆面の上からでも動揺の色が窺えた。
「アギッ、あ゛」
いや、無理しなくていいよ。そう言いながら、サトシは覆面をはぎ取る。
「ジョリー!元気そうだね。まあ、馬車に乗ってよ」
そう言うと、ジョリーの腰ひもをつかみそのまま馬車の中へ投げ込む。おいおい、雑だな。人の扱いが、まあ、そこに怒りを感じるけどさ。
そのまま、荷車の方に回り、棒立ちになっている二人をしげしげと眺める。両手で二人の覆面をつかみかはぎ取る。
「バリー!ウェス!久々だねぇ。じゃあ、二人も乗って!」
同様に、二人とも片手で放り投げられる。いやはや、ステータスの差があるとは言うものの、見た感じ10代の青年が大男二人を軽々と放り投げるさまは恐怖しかないな。
「よっこらせっと」
いや、そんな掛け声要らんだろ、お前が乗り込むのに。とは思ったが、そののんきな言葉遣いがより一層サトシの怒りを感じさせた。顔は張り付けたような笑顔だが、まったくと言っていいほど感情が乗っていない。能面のようだった。
「で、何してるわけ?ここで」
「グッ!ガッ!」
「ああ、スタンが聞いてるんだね。解除しようね。」
そう言うと、3人のスタンを解除する。三人は金縛りが解けたようにその場にへたり込む、が、顔からは滝の様な汗を流しながら目を泳がせている。
「さあ、話せるよね。ここで何してるの?」
「あっ、ああ」
三人はガタガタと震えてとても話せる状況ではなかった。歯の根が合わないとはこのような状況を言うんだろう。三人の恐怖がこちらにも伝わってくるようだ。
あー。俺ならちびるね。この状況だったら。
「聞いた話だと、ウルサンの農場に再就職したんだって?いやぁ、おめでとう。で、もう一度聞くけど、何してんの?こんなとこで」
「うっ!うっ!うるさい!俺たちが何をしようとお前には関係……」
「無いよねぇ」
ボギッ!!!
嫌な音が荷室内に響く。サトシはジョリーの足首を握りつぶしていた。ジョリーの足はあらぬ方向にねじ曲がっている。
「ぎやぁぁ!!!!!」
「ああ、うるさいなぁ。もう少し静かにして。」
ザシュ!!
「ン゛ーーー!ン゛ーーーーー!」
ジョリーの口が不自然に閉じる。口にはジッパーが出来上がっていた。ああ、お口チャックってこういう事……って、おいおい、ホラーなんですが、これ。
「ちょっとサトシ……」
「ああ、そうですよね。ここで時間かけるわけにいきませんもんね。アイ、すまないけどウサカに向かってくれる?」
「わかった」
いや、アイ。お前も止めろよ。これ居た堪れないわ。
「ごめんごめん。痛かったよね。治してあげるよ。治癒」
ジョリーの足は元の状態に戻る。が、もどしゃぁいいってもんじゃないと思うんだけど。大丈夫?この人。
「で、俺に話してくれる気になった?俺もあんまり君たちを痛めつけたくは無いんだよ。でもさ。こっちにもここまでする理由があるからさぁ。ね?」
この演出は効果覿面だった。三人はガタガタ震えながらも、サトシの質問に従順に答え始める。足をへし折られたジョリーには特に効き目があったようだ。
「なんで野盗の真似事をしてるわけ?」
「テンスさんに指示されて……」
「なんで?」
「もともと、俺たちはテンスさんに言われてあんたの農場で働くことになったんだ。あんなに大きな野菜ができる理由が知りたいって。その秘密を探って来たら、今までの3倍の賃金で雇うって」
ああ、スパイだったのね。
「秘密も何もなかったでしょうが?」
そりゃそうだ。確かサトシのスキルを使ってでっかい野菜ができるようにしてるって話だったからな。まあ、俺も詳細は聞いてないが。
「そ、それを言ったら、今度は納品できなくしろって。途中で野盗に襲われたことにして納品せずに、テンスさんのところに横流しすればテンスさんが俺たちに分け前をくれるって」
なるほどね。うちの商売の邪魔をして再度巻き返そうって腹ね。ま、してやられたわけですが。さあ、サトシ。どうする?
「テンスって奴の農場は何処にある?」
「ウルサンの外れです」
「案内してくれるよね?」
「あっ、は、はい」
おうおう、恐怖におののいてるね。嫌とは言えないわな。
「アイ。納品頼める?」
「うん。大丈夫」
「ルークスさん。ちょっとテンスの農場行ってみましょうか」
「ああ、良いけど。なんで俺も?」
「いや、反重力で飛んでいこうと思うんですけど、俺一人で3人飛ばそうと思うと、途中で落としそうだなぁと思って」
「まあ、今の感じなら落としてもいいんじゃない?治療すれば」
「いやいや、死んだら困るじゃないですか」
「そう?」
気にしてそうには見えないけど。まあいいや。アイと一緒にって方が、俺には辛いわ……いや、ご褒美か。
ギロ!
アイから睨まれた。なんだよ。勘のいいやつだな。
「わかった。じゃあ、行こうか」
俺とサトシは、ウルサンヘ向かうことにした。
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