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中途半端なソウルスティール受けたけど質問ある?  作者: ミクリヤミナミ
カールの譚
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魔物の復活

「じゃあ、行ってみようか。エリザ、酔いは大丈夫か?」

 オットーがエリザの様子を確認する。エリザは気まずそうに俯きながら

「大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません。」

 と恐縮している。肩に乗っていたヌーがエリザの腰に付けた荷物袋に潜り込む。

「まあ、気にするな。重要な情報が手に入ったからな。これもあの爺さんを誑し込んでくれたおかげだ。」

 オットーのフォローとも嫌味ともとれる言葉に、一段とエリザは恐縮する。オットー、こんなかわいい子をいじめるなよ。

「なんで、お前が俺をにらむんだよ?」

 あれ、表情に出てたかな。

「いや、別に。」

「というわけで、転移頼めるか?」

「はい……あれ?」

 ようやくエリザが気を持ち直したと思ったら、すぐに表情が曇る。

「あの、マーカーがなくなってますね。」

「マーカー?」

 って、なに?

「はい。転移で戻りやすいように、マンティコアがいた大広間にはマーキングしてたんですよ。でも、それがなくなってます。」

妨害魔術ジャミングか?」

 オットーが難しそうな顔で尋ねる。

「いえ、妨害という類ではなく、完全になくなってますね。」

「そうか、ほかにマーキングしてるところは何処になる?」

「残っているのは坑道入り口だけですね。坑道の途中や、遺跡の要所要所でもマーキングはしていたんですが、それも全部消えています。」

 さすがSランク冒険者、適宜再侵入ポイントを準備するとは。と思ったが、消えてたんじゃ仕方ない。まあ、そんなこともあるだろうと思ってるとそうでもないらしい。

「こんなことがあるなんて……」

「エリザの魔術を解除キャンセルするとはな。」

 と、Sランク3人とも驚愕している。『失敗くらい誰でもあるよ!』などと慰めようとしていたが、どうやらそんな話ではないらしい。Sランクの魔術って失敗が無いばかりか妨害や解除も儘ならんのね。

「そうか、じゃあ、坑道の動の入り口からもう一度攻略するか。」

 と、当たり障りないことを言ってみる。

「そうだな。途中の様子も気になるしな。カール、また先頭頼めるか?」

 途中?魔獣は倒してなかったっけ?まだなんかいるのかな。オットーには気がかりがあるようだ。

「ああ、それが俺の役目だしな。じゃあ行こうか。」


 エリザが念じ始めると俺たちの足元に魔方陣が浮かぶ。やがて周りの景色がゆがみ、次の瞬間には坑道の入り口に立っていた。

 えーと、あれ?俺、坑道の入り口壊したよね?エリザが直してくれたけど。だから綺麗なトンネルになってたと思ったんだけど。なんか、元に戻ってるな。

 どうやら、この疑問は俺だけのものではなかったらしく、3人も驚きを隠せないようだった。


「どういう事でしょう?」

「本当になかったことになってるな。」

「……これが、呪いってやつなのか?」


 呪いねぇ、まあ、俺が壊したものが元に戻っているのは正直呪いでもなんでもなく、祝福かなぁなどと考えていると、オットーに背中を叩かれた。

「おい、カール。また、魔物が沸いてるぞ。奥の方にはデュラハンらしき気配もある。どうする?」

「どうするも何も、行くしかねぇだろ。ほら見ろ、団体さんのお出ましだ。」

 坑道の暗闇に無数の光が揺らめいている。骸骨騎士の胡乱な目玉だ。現世への恨みを体現したような禍々しい光が奴らの目には宿っている。それが坑道の中に無数散らばっている。あれが夜空の星なら奇麗なのだろうが、あの数の骸骨騎士がひしめいていると思うと気が滅入るな。

「さて、どうしたもんか。俺が砕いてもいいが、また坑道が崩れるのは避けたいしな。」

「私がやってみましょうか?坑道の構造はなんとなく覚えていますし、ファイアストームなら爆発を伴わないので大丈夫ではないですか?」

 ほほう。それ楽でいいね。と思ったら、オットーがまた難しそうな顔をする。

「いや、坑道の奥の方に発破があるはずだ。さすがに這う這うの体で逃げてきた抗夫達が道具類をえっちらほっちら持ち出すなんてことはできないだろうからな。」

 なるほどね。鉱山の奥の方を効率的に掘り進むために、「発破」要は爆発物を利用してるってことね。全部手掘りじゃないんだね。なるほど。そうなると、まずいな。何とか奴らを一掃したい。そうだなぁ。

「何とか、外に引きずり出せればいいんだけどな。そうすれば、俺が一気に全員砕けるんだが。」

「引きずり出すだけでよければ、水系魔術で大丈夫だと思います。坑道の奥の方に湧き水もありましたから、それを利用すれば。」

「坑道崩さずに行けそうか?」

「土系魔術との合成で行けると思います。」

「じゃあ頼む。この坑道入り口前のスペースに奴らを掻き出してくれ。」

「そうですね。じゃあ、我々は上空に避難しておきましょう。」

 エリザの言葉に続いて、俺たちの体が上空に舞い上がる。便利だねぇ。俺もこんな風に魔術使えたらいいんだけど。

「では、行きます。」

 エリザを囲むように無数の魔方陣が浮かび上がる。7つの魔方陣が黄色と水色に輝きながらエリザの周囲を回転し始める。回転が速くなるとそれらの魔方陣は大きな一つのリングとなる。そのリングは回転速度を速めるごとに、小さくなりエリザの頭の上の方に昇ってゆく。エリザがまるで天使の様だ。かわいいなぁ。などと考えていると、轟音と共にリングが坑道の入り口に向けてすさまじい速度で放たれる。

 一瞬の静寂ののち、鉱山全体が揺れるような地響きが聞こえ、坑道の入り口から砂煙が上がる。

 そして、坑道の入り口から茶色い濁流が勢いよく吹き出す。……絵面が良く無いなぁ。下痢…げふんげふん。まあいい。そんな感じだ。ほかのメンバーも同じことを思ったのか、一様に微妙な顔つきである。まあ、結果は良好なので、何も言うまい。勢いにやられてバラバラになった骨と鎧が大量にあたりに散らばっている。

 しばらくすると、ばらばらだった骨と鎧がうごめき始める。自分の部品を間違えることなく互いに引き寄せあい合体してゆく。見る間に骸骨の騎士団が出来上がった。総勢は100を超えるくらいか、まあ、広い場所なら思う存分剣を振るえる。イッチョやったりますか。

「じゃあ、俺をおろしてくれ。あと、真上だと火柱が上がるかもしれんから少しよけててくれると助かる。」

「わかりました。」

 俺だけ上空からするすると降下する。俺の周りの骸骨は警戒するように距離を取り、周囲にぽっかりと空白地帯ができた。動きやすくて助かる。

 上空を見ると、3人は少し距離を取ってファイアボールの被害にあわない位置取りとなっていた。いやはや理解が速くてこちらも助かるな。というわけで行くぜ!

 踏み込みざまに横ナギに剣を振りぬく。いつもは切れ味重視で魔力を刃先に込めるが、今回は打撃重視だ。剣の周りにまとわりつくように魔力を流し、巨大な棍棒をイメージして振りぬく。目の前にいた4~5体の骸骨は粉々になり散弾のように飛び散る。視界が開けたところへファイアボールを打ちこみ目の前の数十体を灰にする。俺の背後でうごめいている奴らには、上空からヨハンの乱れ打ちと、エリザのファイアストームが降りかかる。

 物の十数秒で周りにいた100を超える骸骨騎士団は、真っ白な灰と焼け焦げた鎧になっていた。

 

「よし。中に入ってみるか。」

「この武器防具はいらないのか?」

「ああ、屑だしな。」

「そうですか」

 

 ざっと見る限り、ドロップアイテムらしき物もないし、落ちてる武器防具は屑がほとんどだ。まあ、巷では良品とか名品として売られている類だな。町の用心棒とか、駆け出しの冒険者あたりが持つなら良いだろうが、これを売って稼ごうとは思えないし、効率が悪い。素材としても粗悪なものが多いので使い勝手が悪い。なので、今回は捨ててゆく。

「さ、行こうぜ。」

「へいへい。じゃあカールさん先頭を頼んますよ。」

 転がっている武器防具をあきれたように眺めていたオットーが、俺の後ろに回り込んで両手で背中を押しながら、坑道の中に誘導する。

 その後ろにエリザ、オットーが続く。


 坑道の壁は土系魔法で補強されたためか、最初に入った時よりも頑丈そうな見た目に代わっている。というか、完全にトンネルだ。安心して戦えそうだな。

 

 そうこうしているうちに、向こうからデュラハンが歩いてくる。さっきは物陰でボーっとしてたのに、今回は巡回している感じだ。

 こちらを見つけて小走りになってる。もう一回いけるかなぁ。やってみるか。


 近づいてきたデュラハンが、俺の頭部めがけて剣を振り下ろす。相変わらずトロい。掌に魔力を込めて受け止める、


 が、

 止まらない、逆の手に持つ盾をこちらに打ち付けてくる。俺は剣から手を放し、盾をよけると横から剣でデュラハンの胸を突く。チィ!わずかに急所をずらされる。

 次は足を狙って動きを止める。が、狭い坑道では剣を横に振りぬけない。突きに似た軌道になるためわずかに躱され決定打を与えられない。

 魔術で吹き飛ばしたいが、ほとんどの魔法は吸収される。心臓?なのかはわからないが、それらしきところは魔力の直接攻撃が効くようなのでそこを狙うしかない。

「エリザ!」

「はい!」

「すまんが、俺にバフをかけてくれ、ヘイストを頼む!」

「わかりました。」

 途端にデュラハンの動きが緩慢になる。いける!

 ああ、でも結構よけやがるな。胸元を何度もつくがあと一歩で避けられる。器用によけやがって。動きを止めるしかないな。盾で守られて無い奴の右太ももの付け根を2度3度と突き、体勢を崩す。よし、よろけた。いまだ!

 胸を貫いた剣から心臓?の手ごたえがある。一気に魔力を込める。


 バァン!


 四散したデュラハンの体が壁に黒いシミをつける。穴だらけの武器防具も転がっている。さっきと同じものだ。こちらの動きに対応していたことを考えても、復活したとしか考えられない。ということは……


「いやはや、見事だな。」

 オットーが軽口をたたく。

「いや、ずいぶん手こずったよ。エリザありがとう、助かった。」

「いえ、それほどでも。でも、お役に立ててうれしいです。」

「で、カール。どうだった、さっきと同じ奴か?」

 オットーも同意見の様だな。

「ああ、さっきのが復活したと思うぜ。厄介だな。」

「ってことは、サイクロプスとミノタウロスもか。」

「当然、マンティコアもだろうな。」

 気が重いな。今度はさっきみたいに簡単にはいかないだろうな。

「でもまあ、今の感じを見ると、カールさんが居れば大丈夫かな。」

 オットーめ、簡単に言いやがる。ああ、殴りてぇ。

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