地下
首飾りを眺めながら領主様の屋敷について思い出す。
宝物庫にあった首飾りだ。
一応ステータスを確認する。
「王妃の宝石:王妃が身に着けていたとされる宝石、高く売れる」
普通、引っ越す時に持っていくよね? 価値があるんなら。
新たに買い足したの?あの領主様そこまで成金って雰囲気でもなかったけど。先祖は違ったのかな。
ま、いいか。
どうせゲームだし。『いくつも拾えてお得でしょ』って事かもな。
と言うことで、気にせずポケットにしまう。
「服装は貴族っぽいですね。」
「そう?ほんとに?」
サトシが示したところを見てみる。
いやぁ~。ちぎれた腕を持ってこられてもなぁ~。
サトシ。お前のそのデリカシーの無さがアイをあんなにしたんじゃないか?
とは思うが、まあ言っても仕方ない。と言わけで、サトシの意見を聞いてみる。
「ほら、ココ見てください。フリフリついてるでしょ?」
いや、フリルがついてたら貴族なのかよ。お前のそのやっすい発想何なんだ。
とは思ったものの、あながちバカにはできんな。
少なくとも使用人はそんな動きにくい格好しないしな。
オ゛オ゛ォォーーーーーーーーーー!
地響きのような、慟哭のような。何とも言えない叫び声が響き渡る。
アイがサトシ方に駆け寄り、袖口をつかみ震えている。
「アイ?お前どうした?」
「うるさい!!」
やれやれ、臆病キャラに早変わりか。加えてツンデレ属性つきとは。一体どこで覚えたんだ。まあ、かわいらしいっちゃあ、かわいらしいが。
「アイ。大丈夫。問題ないよ。」
サトシやさしいねぇ。ほんの数時間前まで、そのか弱そうな女の子を無理やり引き連れてモンスターの群れを屠っていたとは思えんな。
まあ、それは良いとして。この音だ。出所は何処だ?下から聞こえるような気がするが。
「下ですかね?」
「そんな気がするな。地下室の入り口みたいなもんってあったか?」
「どうでしょう。この部屋にはなさそうですね。」
「他の部屋を当たってみるか。」
「わかりました。」
俺たちは、食堂の探索を早々に切り上げ、奥にある扉から次の部屋を調べてみることにする。
扉を開けると廊下が続いていた。食堂に比べると豪華な雰囲気は無いが、廊下の左右にはいくつか扉があった。それらもくまなく調べるが、作業部屋や物置など、特にこれと言っておかしなものは無かった。
そのまま廊下を進むと、厨房らしき場所に出た。
オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォーーーーーーーーーー!
先ほどより大きく聞こえる。近づいている証拠だろう。
「このあたりか、手分けするか?」
「わかりました。」
竈や、調理台の下など、地下室に通ずる入り口が無いかくまなく見て回る。
「無いですね。」
「無いな。後は、あの奥にある扉だけか。」
「行ってみますか。」
「ああ。」
厨房奥にある扉を開く。すると、ひんやりとした空気が流れてきた。明らかに今までとは雰囲気が違った。扉の先は明かりが無く、闇と言った方がいいくらいだ。この先がどうなっているのか全く分からなかった。
「ライトボール」
灯した明かりで、石造りの廊下だってことが分かった。しばらく進むと丸い大きな穴がぽっかり開いていた。穴の壁にはらせん状に下へと続く階段がある。
「ここか。」
「行ってみますか?」
「そうだな。」
サトシ、アイ、俺の順に進んで行く。アイはサトシの背後で服の端をつかみながら進んでいる。まあ、何と可愛い事でしょう。
「何よ!」
「何も言っとらんが。」
「気配がするのよ。」
おうおう、敏感だね。
階段には手すりもなく、穴の中心部は何処まで続いているのかわからないほど深かった。
「反重力で飛び降りるか?」
「そっちの方が早そうですね。」
「アイ。どうする?」
「良いよ。それで。」
アイも、こんなびくびくする時間が長く続くよりは、さっと降りちまった方がいいと判断したんだろう。俺たちは、反重力で中央の穴から下へと降りる。
ライトボールが照らす明かりで見えるのは俺たちのいる階層だけだ。もともとは石積みの壁だった螺旋階段も、階層を下るほど天然の岩肌に近くなっている。
200mほどは下っただろうか。ようやく地面が見えてきた。
「結構深いな。」
上を見上げても明かりが無いのでよくわからないが、かなり下ったことは間違いない。
降り立った場所には、金属製の扉が二つある。
オオオオオォォォォーーーーーーーーーー!
再び響き渡る叫び。慟哭だな。これは確実に。
食堂や厨房で効いたときよりもはっきりと聞こえる。
二つの扉のうち、ちょうど目の前にある扉の中からだ。
扉を開けようとサトシが取っ手に手をかける。
ガチャガチャ!
鍵がかかっていた。
「開きませんね。」
「ちょっと待て。」
扉の横の壁にカギ穴が見えた。この鍵穴……。
「カギですか。厄介ですね。」
「ああ、これ見覚……」
ドガァン!!
サトシが扉を蹴り壊す。
……
えっと。
たぶん。俺。鍵持ってるけど……
「あれ?どうしました?行きましょうよ。」
「あの。鍵……持ってるんだけど。」
「え?マジっすか。先に言ってくださいよ。」
「先って。俺。言おうとしてたんですけど……」
「まあ、開いたんだし良いじゃないですか。それにその鍵も合うとは限らないでしょ?
……鍵だけに。」
やかましいわ!
腹立つ。
いろいろ腹立つ。
一応、壁の鍵穴に、領主の家から拝借してきたカギを差してみる。
カチリ。
開いたよ。
ちゃんと開きましたけど。
恨めしい目をサトシに向けてみるが、サトシはどこ吹く風と言った表情だ。
「まあ、そんなこともありますよ。さ。入りましょ。」
何を言っても無駄な様なので、扉の中に入ってみる。
ライトボールで照らしながら、中を確認する。
「牢獄……ですかね。」
「そんな感じだな。」
すると、暗闇から声がする。
「あなた方が皆を楽にしてくれたんですか?」
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