暗転
その後、いろいろ思いつく限り質問をぶつけてみるが、特にこれと言って有益な情報は得られなかった。
ついでと言っては何だが、試しに領主様にかかっている呪いについて、「治癒」や「魔術解除」をこっそりかけてみたが、「無効」と表示されるだけで特に変化は見られなかった。
なぜこっそりかけたかって?
だって失敗したら恥ずかしいじゃん。ねぇ。まあ、実際失敗したし。ある意味俺の勝利だ。
とりあえず、鉱山奥の神殿については引き続きレベル上げに勤しんでもらうとして、俺は鉱山近くの廃墟を探してみようかと思っている。
ホントの事を言えば、ベローマの公爵について調べたい所ではあるが、サトシは乗ってこないだろう。そうなると、今の俺一人で突っ込むのは結構危険だ。
自分で言うのもなんだが、結構迂闊なところがあるので、罠にでもかかると面倒なことになる。まあ、ログアウトしちまえば問題なんだけどさ。
嫌じゃん。なんか逃げたみたいで。
え?研究はどうしたって?
まあ、それはそれ。これはこれですよ。
というわけで、いったん宿に戻ることにする。
「本日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。」
そうお礼を述べると、領主様はクロードに目配せをした。
「鉱山の探索依頼を受けていただきありがとうございました。できれば引き続きマンティコア討伐をお願いしたいと考えておりますが、イパ様との関係もありますので、公に冒険者ギルドに依頼を上げるわけにはいきません。内密にお受けいただけるのであれば非常に助かるのですが。」
「それはもちろん。乗り掛かった舟ですし、パーティのメンバーもかなりやる気です。この時点で手を退けと言われた方が困るところです。」
「そうですか。ありがたい。では僅かばかりではありますが、探索依頼の報酬を準備しております。本来なら潤沢にお支払いしたい所ではあるのですが、鉱山が閉鎖されている今、当家のほうで自由に動かせる資金が不足しております。つきましては当家の宝物庫の品をどれでもお持ちいただければと思いますが、いかがでしょう?」
「いや、それは恐れ多いです。」
などと口では言いつつも、体は宝物庫の方角を探してうろうろしている。
ほら、早く連れてってよ。宝物庫。
「そうおっしゃらずに。クロード。ご案内して差し上げて。」
「は。かしこまりました。」
「そうですか?ではお言葉に甘えて。」
よし、一回断ったしな。
「じゃあ、俺は先にギルドへ帰ってるからな。のんびり選ばせてもらえ。」
ギルマス。ちゃんとわかってんじゃん。
「では、心おきなく。」
ギルマスはやれやれと言った顔で俺とクロードを部屋から見送る。
クロードに連れられ、ウキウキしながら廊下を進む。
屋敷は「さすが領主様」といった広さはあるが、調度品などはそれほど華美でなくつつましい生活をしていることが窺える。
「こちらです。どうぞお入りください。」
クロードは大きい扉の前でそう告げると扉を開き、俺に道を譲る。
「うわぁお!」
つい声が出た。ホテルの宴会場ほどの広さがある部屋の中は美術館のようになっていた。壁には絵画と刀剣の類が飾ってあり、至る所にショーケースが置いてある。その中には宝石や希少アイテムと思しき品々が飾ってある。
選び放題かぁ……。
「あ、幾つもらっていいんですか……」
と言いかかった時、目の前の財宝が一瞬で消える。
そして、感じたことのある浮遊感。
目の前は真っ暗になっていた。
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