ダンジョンへの再進行
「で、何をしてるんだ?何を。」
冷たいオットーの声が聞こえる。
まあ、俺が同じ立場でもおんなじこと言うだろうなとは思うよ。はい。申し訳ない。
目の前で、さっきまで雄弁に語っていた爺は突っ伏して寝ている。エリザは相変わらずへべれけだ。で、さっき聞いた事実に俺は恐縮している。
「お前さんたちが収集した情報を教えてもらおうか?」
冷めた言葉で、オットーの静かな怒りが手に取るようによくわかる。はい。すいません。調子乗ってたかもしれません。少々お待ちください。
「ええと、いろいろとございまして。なんやかんやで古代の神殿があの鉱山だったようです。」
「そのなんやかんやを聞きたい気がするが、まあいいか。で、そこのお嬢さんはどうなった?」
「その突っ伏してる爺さんに潰されたらしい。」
「それはおかしいな。まあいいか。おい、エリザ、起きろ。」
エリザは焦点の合わない目でオットーを見ると、しばらく動きを止めた。と思ったら目に生気が戻った。
「すいません。お見苦しいところを。」
「いや、で、どんな話だった?」
え、おれ説明したよね?
「はい。実は……」
さっきまでのへべれけ具合が嘘のようにエリザが流ちょうに話し始める。あれ。演技だったの?おかしくない?俺騙された。やっぱりおっさんは若い女の子の掌の上で踊らされるものなのか?
「という話でした。」
「ほほう。ということは、ラスボスを一撃でカール様が仕留めたと。」
いやん。オットーさんの冷たい視線が痛い。良いじゃない。終わったんなら。というわけにはいかんよなぁ。
「エリザ、さっきまでへべれけだったのは演技かい?」
「いえ、私はもともとお酒には弱いんですよ。普段は魔術でアルコールを分解して飲んでいたんですが、今回は飲んでしまいました。お見苦しいところをお見せいたしました。」
いや、美人は何をやってもかわいかったけどさ。じゃあ、普段は飲んでなかったんだな。俺、やっぱり騙されてたんだなぁ。悲しいよ。
「まあ、それはそれとして。マンティコアの消え方がちょっと気になるな。準備は整ったからもう一回入ろうと思うんだが、カールは飲んでないよな?」
「それはもちろん。オットーさんのご命令ですから!」
「いや、命令してねぇし。で、なんだその態度は。ある意味こえーよ。」
「まあ、そうおっしゃらずに。行きますよ。いくらでも、雑魚は蹴散らしますから。」
「お前にとっちゃ、すべてが雑魚だってことはよくわかったよ。」
「ですよね」
いやいや、エリザさん。さっき説明しましたよね。そこはフォローしてくださいよ。なんか都合のいいところだけ酔ってたことにされても困る。っていうか、俺がその話したときは飲んでなかったよね。やっぱり女は怖ぇー。※個人の見解です。まあいいか。
「さっき、エリザには話したんだが。デュラハンやサイクロプスについてだが、次はあんなに簡単にいかないと思うぜ。」
オットーとヨハンは『またまたぁ』という顔をしているが、こっちはいたって真面目に話している。
「えーと、酔う前に、カールからその話は伺っています。おそらく苦戦を強いられると思いますので、装備はしっかりと整えたほうがいいかと。どの程度揃えられましたか?」
「さっきの様子は加味せずに、Aランクと潜るのと同じ程度には準備してるから、まあ大丈夫だ。じゃあ行くか?」
「どうですかカール。」
「まあ、そういう事なら。」
よし、それじゃあ、行くとするか。と思ったところで、女主人に呼び止められた。
「あのさ、話がまとまりそうなところ済まないんだけど、飲み代は払ってもらえるんだろうね?」
「飲み代?」
「ああ、嬢ちゃんも飲んでたよね。できれば、その爺さんのつけも払ってほしいところだけど……」
「さすがに爺のつけは知らんよ。さっきの飲み代は……」
「それは私が払います。」
「良いね。金払いのいい客は好きだよ。じゃあよろしく。」
出された請求書は結構な金額だった。
「えっと、これが相場ですか?」
「まあ、一見サンだしね、情報料も込みってことで。」
いや、情報はほとんど爺さんだろ?強気な商売するなぁ。
「わかりました。これでお願いします。」
「毎度あり。また待ってるよ。じゃあね」
じゃあねじゃねえよ。ここは俺がと思ったが、エリザは気前よく払っていった。さすがSランクだな。なんとなく背中が物さみしそうだったのは見なかったことにしよう。
さて、再度潜るか!




