苦戦
「どうする。結構強そうだけど。」
「行っちゃいましょうよ。行けると思いますよ。」
軽いなぁ。まあ、自信を持つ理由もわからんでもないが。
一応AIの意見も聞いとこうか。
「どう思う?」
「どうって、サトシが行くって言うならいいんじゃない?」
なるほど、さすが観察用。そりゃそうだ。
「じゃあ、行っときますか。」
「行きましょう。たぶん大丈夫ですよ。」
たぶんで言われてもな。
まあ、イレギュラーが無ければ大丈夫か。よし。行ってみよう。
俺は大きな扉を思い切り押し開く。
さすがにこの大きさともなると、ゆっくりとしか開かないが、開いたその先には悠然と構えるボスがいる。
翼をこれ見よがしに大きく広げ、こちらを威嚇している。人間に似た顔は口角が吊り上がり、不気味な笑みを浮かべている。開いた口の中にはサメのように尖ったがった細かい歯が3重にびっしりと並んでいる。
マンティコアは大きく羽を広げ、俺たちを威嚇しながら悠然と口を開く。
「よくぞここまでたどり着いたな。愚かな人間よ!
1000年の長きにわたり、我への信仰を忘れた罪。貴様らの命で償ってもらおうか!!」
ああ、死亡フラグってやつですか?強いのはわかるけど、そのセリフは銅貨と思うなぁ
「さあ、行きましょうか!」
サトシ。ノリノリですね。
「ふはははは!不遜な人間よ。我はこの地を統べる神。貴様らはこの場で我に踏みつぶされるのだ!!」
サトシはマンティコアをにらみつけると、そのままの体勢で叫ぶ
「茨の道!」
地面からは無数の棘が立ち上がる。面積、大きさ、数、すべてが今まで以上だ。ここ数回はかなり絞ってたのか。
というより、何より驚いたことが、「地面に手を付けなくてもいいの?」と言う事だった。
いつの間にやら、そのあたりも自由になっているようだ。レベル上げマラソンおそるべし。
が、それだけ向上したサトシのスキルをもマンティコアは軽々と超えてくる。
棘がマンティコアをとらえる前に、大きな翼で上空に舞い上がる。
サトシは続けて、壁、天井と棘を出現させるが、マンティコアをとらえることはできない。
この辺りはさすがボスというべきか。
ティンクルバリアをサトシと自分にかけ終えたアイがマンティコアに向けてソーラレイを放つ。
室内なので威力は弱いが、羽を狙うあたりなかなかの策士だ。
が、マンティコアはそれも吸収する。
これは長期戦の様相を呈してきましたね。かなり厳しい相手と見た。
サトシは、剣を構えると、勢い込んでマンティコアに斬ってかかる。
「五月雨斬り!」
斬撃はマンティコアの足に当たるものの、大きなダメージを与えることはできなかった。
上空を陣取るマンティコアには斬撃や体術の類はあまり効果がなかった。魔法を使いたいところだが、それも吸収されるとなっては分が悪いと言わざるを得ない。
しかし、サトシはあきらめない。
自分自身にバフをかけまくり、上空のマンティコアに斬撃を繰り出しては、避ける先に棘を出す。かなりの戦術家と言える。
時間がかかってはいるものの、確実にHPを削り続けている。
俺も奴に防御力ダウンなどのデバフをかけながら援護する。
これならいける。
と思った時だった。
マンティコアの顔が、不気味にゆがむ。口が大きく開き中に無数の葉が見えた。その時
ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
大きな悲鳴にも似た叫び声をあげたかと思うと、サトシがその場に崩れ落ちる。
「どうした!?」
何の返答もない。
やおら立ち上がるサトシの目は焦点が定まっていないようだった。
「大丈夫か……」
いうが早いか、サトシが俺を切りつける。
アイも俺に向かってソーラレイを放つ。
『無効』
おいおい、なんだよ。どうした!?
呆然とする俺をよそに、サトシとアイは俺を攻撃しまくる。
ステータスを確認してみると
「サトシ;魅惑」
ああ、やられた。
そう言う事か。小賢しい真似をしてくれる。
「魔術解除」
種が分かれば、どうと言うことはない。
サトシは崩れ落ちるようにその場にへたり込む。
が、アイは変わらず俺にソーラレイを放ってくる。
どういうこと?デスペル聞かない!?
「ルークスさん!どうして!?」
「お前「魅惑」受けてたんだよ。危ないったらありゃしねぇ。だが、アイの術が解けないんだ。」
「アイ!どうした!?」
「あ、サトシ。なに?」
「アイ、どういうことだ!」
「別に、サトシが攻撃してたから。やってしまおうかと思って。」
いや、何?じゃないんですけど。どういうこと?かかってなかったの?お前普通に俺殺そうとした?
おぉぉぉ。すげーな。こいつ。俺こいつにそんなに恨み買うことした?
「アイ、落ち着け。ルーカスさんは味方だ」
そこからっすか!?
「ちっ!」
「アイ!なんつった!今、なんつった!?」
「別に。」
ちきしょう。隙あらばッてか。結構俺アイの側に立ったコメントしてたと思ったけど。特にレベル上げマラソンの時なんか。ひどくない?ねえ。ひどくない?
「ズルはいかんなぁ」
ゾクっ!!
怖気を振るうような声でマンティコアがこちらに語り掛ける。
バリィィィン!!!
声と同時に、俺の目の前でガラスが割れるようなエフェクトが見えた。続けて非情なアナウンスが頭に流れる。
「スキル:絶対防御「極」は無効化されました。」




