苦行
洞窟で虫やスライムを相手に熟練度アップに励む。
狩場としてこの洞窟はかなり優秀だった。たぶんこの戦略は正しいんだろうな。
wikiにこのイベントの記載はなかった。というか、このゲームがまともに運営されたのはクローズドβまでだ。オープンβは即座に中止されている。
そのことからも全部のイベントをプレイしたユーザーなど居ないだろう。むしろwikiがアップされていること自体が奇跡みたいなもんだ。
ただ、ちょっと気になったのはwikiに書いてある内容と、ウサカやエンドゥでNPCから聞いた話と食い違ってることだ。
特に顕著だったのは歴史だった。この数か月、サトシと行動を共にしてはいたが、アイがサトシの観察を続けていることで俺は比較的自由に動くことが出来た。
いや、観察はちゃんとしてるよ。別にゲームを楽しんでるわけじゃないさ。まあ、楽しんでるけど。
ちゃんとNPCのAIについてもリサーチしとかないとさ。
今後の研究に生かせることも多いしさ。
まあ、いいじゃないの。
誰に言ってんだ。俺は。
で、その際にNPCに話しかけて、細かい情報収集を行ってきた。
サトシの奴、ゲーム脳の癖に、結構猪突猛進タイプなんだよね。
街で情報収集せずに敵陣へ乗り込んでいくタイプ。
で、失敗した挙句に、レベル上げまくってごり押しするまでがデフォルトだ。
だから、俺が情報収集しないとさ。
いや、研究ですよ。もちろん。
まあ、話を戻すが。そこで得られたエンドゥの歴史と、ウサカの歴史がどれもwikiと結構食い違う。
根本的に年代が違う。wikiに書かれた設定では皇暦40年頃らしいが、ウサカでは皇歴を知っているものが居なかった。まあ、普通の市民・村民が歴史に興味がないと言われればそれまでなんだが、エンドゥで聞くと状況が違った。
エンドゥの人たちは暦を使っているらしく、今は王暦1011年だと言っていた。皇と王の違いもあるが、年代が随分違ったのには驚いた。
だが、これは思い当たる節がある。
クローズドβの際にはゲーム内での1日は8時間だった。これはリアル時間とリンクさせた場合、サラリーマンなどの様に平日夜間や休日しかログインできないユーザーが、日中イベントに参加しずらくなる。これを回避するために一日3回昼夜が巡る仕様にしたらしい。
しかし、俺の実験を開始するにあたりゲーム内時間進行をユーザーベースではなく「阿吽」の処理速度ベースに設定し直している。
その時の時間進行がリアルの260万倍だ。一か月が1秒。俺が観測する際にようやくウエイトをかけたわけだから、それまではフルスピードだったってことだ。
確かに実験体33号を「阿吽」に展開する前にも、数体のデータを展開して、何度か「阿吽」と「神威3号」を接続している。
トータルで数時間だと思うが、それでも1000年くらい経過していてもおかしくはない。
俺の仕業か。
その間NPC達は普通に生活を営んでたって言うんなら、wikiの内容と食い違っても仕方ないな。それはそれで興味深い。
あくまで研究として。
まあなんだ。そう言ったストーリー的なところがwikiと食い違ってるんで、今のところ記載してあった攻略チャートは参考にならなかった。
どちらかと言えば、「小ネタ」とか「裏技」的な奴がかなり使えた。
普通なら、こんな裏技すぐにパッチが当てられて使えなくなりそうなもんだが、開発が中止されたためそのまま残っている。
俺のステータス調整もその一つだった。とはいえ、あまりやりすぎると運営側からの制裁があるらしい。
熟練度も「裏技」として記載があった。バランス調整がマズいらしく、高熟練度だと相手に与えるダメージが激増するらしい。
とはいえ、熟練度をそこまで上げることもなかなか難しいのは事実なので、wikiを作った奴がかなりの廃人だったことがうかがえる。
さて、そんなこんなで熟練度獲得サバイバルである。
「ここの虫とスライムは無限湧きなのが助かりますね。」
「だな。復活も早いし。結構効率良いんじゃないか?」
事実、かなり熟練度が上がっている。これは手足の感覚にも表れるようで、体が軽くなった気さえるする。
「そうですね。数が多いんで、経験値もそこそこ稼げますしね。」
「俺の体術もかなり使えるようになってきたしな。」
蹴りや突きに衝撃波が加わるようになってきた。後は「技名」を叫びながら攻撃すると威力が増すらしいが、今一つ羞恥心を捨てきれない。小声でぼそぼそ言ってみるが、どうやら大声で叫ばないと効果が薄いらしい。
ちっ!変な設定追加しやがって。
えーい。ままよ!
「稲妻キィーック!!」
蹴りを放つと同時に俺は大声で叫ぶ。
すると、俺の足は金色に輝き周囲に稲光が走る。
ドゴォォーーーーーン!!
地響きと共に、周囲に居た虫もろともはじけ飛ぶ。今までの蹴りとは威力がまるで違う。地面の揺れがなかなか収まらないことからも明らかだった。
「なんです!急に!それに耳まで真っ赤になって。」
指摘されるとなお恥ずかしい。いや、威力はありがたいが、この羞恥心どうにかならんものか。
「今の技は何だったんですか?」
「そのままだよ。『稲妻キック』
結構威力あるだろ?
技も魔法と同じでイメージしながら技名叫ぶと威力が増すんだよ。」
「良いじゃないですか!それを早く教えてくださいよ!!」
あれ、サトシこう言うの好きな方?
「ああ、じゃあ、そうだな。お前の熟練度だと剣技は……『かすみ二段』あたりかなぁ」
「どんな技です?」
サトシはノリノリである。
「そのまま二段切りだよ。鋭く二撃を与えることが出来るな。」
「やってみます!!」
少し離れた所に現れたスライム系の「ゼラチナマスター」に狙いを定める。もともと物理攻撃が効きにくく、熟練度を上げるために活用していた。
「かすみ二段!!!」
鋭い斬撃が衝撃波を伴い「ゼラチナマスター」を襲う。その衝撃波で体の一部が飛び散る。
「おお!?、ダメージ入るな。すげー威力じゃん。」
「これいいですね。もっと早く教えてくださいよ。」
「すまんな。まあ、諸般の事情でな。」
「単に恥ずかしかっただけでしょ?いいじゃないですか。異世界って感じで。技名バンバン叫んでいきましょうよ!結果が伴うとこんなに楽しいんですね。」
「結果が伴うと?」
「いえね。前、魔法で試したことがあったんですよ。技名を呼ぶと強くなる気がして。
実際強くなったんですが……
それなら「呪文」的なものを唱えてもイケるかなぁと思って試してみたんですけどね。全然だめで。厨二病全開の長い呪文を唱えた上に結果が伴わなくて、恥ずかしいやら悔しいやらで……」
ああ、サトシも以前試してたのね。
残念ながら、即興で思いついた技名なんかは効果が出ない。もともと設定されている技名しか反応しないようになっている。まあ、当たり前だな。だが、こんなことを説明するわけにもいかんしな。
「魔法にせよ、技にせよ修業しないといかんと言う事だ。」
なんだか無理やりな説明だが大丈夫だろうか。
「そうなんですね。まあ、異世界って感じで良いですよ!」
あら、単純で助かるわ。
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