2025/0529 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)
【文章】カオス饅頭
【コラボ先】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界、魔王城で子どもを守る保育士兼魔王 始めました。
作者:夢見真由利 様
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【パパ上のバカンス】第八話
2025/0528 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)
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の、続きとなります
◆
大神殿にて。
オルゴートは顔に大量の軟膏を塗りたくり、ガーゼを当てて、両鼻には白布を詰めていた。
前衛的な化粧という訳では無く、傷止めである。
着ていたスーツも砂まみれだったので洗濯に出している。
ちゃっかりと口には焼いたベーコンを咥えていた。
此処で出して貰った料理である。
アベルを倒したオルゴートは、見世物で十分な資金を確保。
オリエに『お前の取り分だ』と、儲けを半分渡してラジオを購入。
その足でゆっくりと大神殿に向かい、無事オリエを帰宅させたのだ。
「……と、いう事があってね」
「はあ……大変でしたね」
「相変わらず滅茶苦茶だなこのオッサン」
「まあ、大きな騒ぎにはならなかったので良かったと言いましょうか」
此処の主である聖なる乙女:マリカに事の経緯を説明した。
呆れているのは、彼女の亭主のリオン、そしてフェイ。
顔なじみなので話が早い。
ザックリした説明はもう済ませたので、アベルに指示を出していた老人も、じきに逮捕される事になる。
残り少数の残党が、貧民街に住んでいたそうな。
これで、残党事件は大体終わり。
そして大きな問題として、アベルの処理が立ちはだかる。
彼は騒動の実行犯であり、残党が『活動資金』を得る為に、汚い仕事も沢山行ってきた。
本来なら死刑になってもおかしくはない。
けれど、気絶している隙に牢屋に入れておいた彼は『何も』知らなかったのである。
残党の野望も、コミュニケーション手段も。
そして、その能力と戦闘力で脱走しようという発想すら無かったのだ。
『何時も通り』に暗い部屋にじっと座り込み、次の指示を待つ。
拠点には、体罰をする為の道具や拘束具が見つかった。
服を脱がせば、その道具で行ったと見られる体罰の跡が見つかり、これまでの戦闘の傷よりずっと酷く痛々しいものだった。
残党は人間味を持たないまま強くなり過ぎたアベルを恐れ、人間では無く『猛獣』としてしか見れなかったのである。
教会に属する筈の彼等の心に、神など居なかった。
そこで手を挙げたのが、オリエだった。
「アベルを私に預けて下さい。
彼の戦闘力は私が直に見ています。近衛として教育し直せば使えるはずです」
「それは、危険では?」
けれど、先ずはフェイが参謀らしく理屈に沿った反対意見。
リオンも父親として良い顔はしなかった。
だが、オリエは怯まず続ける。
「私もお母様の様に、そして『保育士』のように、誰かを導いてみたくなったのです。
それが、人間の為政者としての役割なのでは無いでしょうか」
その言葉に反応したのは、マリカである。
じっくりとオリエの眼を見て、頷いた。
「……良いでしょう。
でも、ちゃんと最後まで責任を持つように」
「え、そんな犬猫を飼うように言って良いのかよ」
「良いのよ、リオン。
それにオリエが、自分から何かしたいって言う事なんて珍しいじゃない。
少し様子を見ましょう」
「む……マリカがそう言うのなら」
それにアベルが強いといっても、オリエやリオンなどの超越者には勝てない。
制御できる武力があるという余裕があっての決断であった。
そしてこの日の夜は、オルゴートをもてなす宴会が開かれたのだった。
◆
次の日。
オルゴートは魔王城にある『国会図書館』に来ていた。
宴会の最中、オリエを連れてきてくれた褒美として何か礼を出したいと言われたので「未来技術の知識が欲しい」と答えたのだ。
まだ表に出せない資料もあり、マリカ達は大いに悩んだものの、持ち出しは禁止という事で了承を得た。
「ウチの世界の魔王城とは確かに違うな」
「合理的でしょう?」
「ん、まあな。もオリオンの城は、アホみたいなのに維持費がかかってめんどいと常々思ってるよ。
ホントおとぎ話の魔王とか、何考えているんだろうな」
今、話をしているのはフェイ。
魔王城に行く為、転移の術を使ったので同行しているのである。
重要施設に入るので、見張りも兼ねていた。
中に入れば司書になったラールと出会い、異世界で少し会ったオルゴートとひと悶着あったが別の話。
そして地下。
此処には嘗て宇宙移民船を作り上げ、太陽系外に人類の生き残りを送った時代の遺産が眠る。
設計図や、論文などである。
移民船やロボットなどの技術も此処に在る。
故に、前も後ろも上も下も。
一生ではとても読み切れない量の書類が並んでいた。
「う~ん、絶景絶景。
人類の英知が詰め込まれているだけあって凄い量だ。
ウチもダンジョンから似たようなものがオーパーツとして発掘される時もあるが、ボロボロでなあ。
凄い保存技術だね」
「ええ、まあ。特別ですから」
「教えてくれよ」
「そちらでは無理なので話しません。
もしかしたら、此処のいずれかに載っているかも知れませんね」
「そりゃ残念だ」
「それで、どう知識として持ち帰るんです。
幾ら貴方が優秀でも、本職の学者という訳ではないでしょう」
「ん、まあな。只、一時的に『記憶力』を上げる事は出来る」
「と、言いますと?」
「なあに、記憶術の一種さ。
いくぜ……『朱雀咆哮』!」
そしてオルゴートは、特殊な呼吸法を行う。
筋肉はもとより内臓や神経も刺激させ、『身体強化魔術』を発させた。
さて。
オルゴートはアベルのような人間の領域ではなく、はじめに会った時のオリエのような超常の存在と戦う等、本気で戦う必要が出てきた際、自身を超人として昇華させる技を使う。
それが神殺しの『アンタレス』と、超身体強化の『龍虎咆哮』の二つだ。
この『龍虎咆哮』には部分的にも使える派生技が四つ存在する。
上半身強化の『青龍咆哮』、下半身強化の『白虎咆哮』。
そこから別ベクトルで異質な進化を遂げたのが『玄武咆哮』と『朱雀咆哮』である。
今回使うのは『朱雀咆哮』だ。
身体強化が出来ると言うのは、内臓や神経も強化出来るという事。
朱雀咆哮はそれらを強化し、戦闘中の反射神経や処理能力を強化する。
基本的には人間の神経の強さは変化しない。
稀に優れたスポーツ選手にこの反応速度が速い者が現れるが、常人より0.11秒だけ伝達速度が上でも、それは人間とは別の生物だと言われる。
オルゴートはそうして銃弾を見切る等を実現させているが、この技は戦闘以外にも使用が可能だ。
興味のある本を手に取ると、札束でも数えるかのようにパラパラと一瞬で全てのページをめくる。
そして全てを『暗記』した。
本の進行に付いて行く神経伝達速度と、暗記力の強化。
そして元々存在する、地球の文字についての知識を使っている。
彼はニカリとフェイに笑いかける。
「さ、ドンドンやっていこうか」
こうして彼は滞在中、本を捲る作業を続け『星の翼』や宇宙船などの設計図。
他、ナノマシンウイルスなどの研究書や論文などを頭に詰め込み続けた。
流石に続けると脳に負荷がかかるので休み休みで、その間は大神殿でマリカやオリエ達と遊んで暮らしたのだった。
◆
そして三日目のある時、突如彼は消えていた。
客室の机には「楽しかったよ」と置手紙が残され、元の世界からの『お迎え』が来た旨が書かれていた。
アベルの教育に参加し、ついでに覚えた文字である。
嵐のように現れ、風のように去る。
ただ、彼と過ごしたオリエの手元には、初めて自身で稼いだ小銭が握られていたのだった。