2025/0528 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)
【文章】カオス饅頭
【コラボ先】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界、魔王城で子どもを守る保育士兼魔王 始めました。
作者:夢見真由利 様
ncode.syosetu.com/n0124gr/
【パパ上のバカンス】第七話
2025/0527 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)
https://ncode.syosetu.com/n5436hz/29
の、続きとなります
◆
──聖なる乙女のそっくりさんが踊るのは斬新だが、切り替えも必要という事なのだろう。
──芝居仕立てのアクションとは中々役者じゃないか。
──流石に下の男も逆立ちしっぱなしでは辛いのだろう。
周りからはそんな反応。
つまり、堂々と戦えるという事だ。
アベルは無我夢中で舞台に飛び出し、オルゴートと対峙すると、自然に構えを取っていた。
正面を向き、猫背気味。
顎を引いて手は下に垂れる。だが、多少曲がってもいた。
異様な構え。
だが、オルゴートはそれに『理』を感じている。
「二刀流の下段構え。そして、レスリングの構えに近いか。
原始的な剣術も混ざっているな。
剣術の定石通りに防御……と、見せかけて重力操作を使ったタックルが来そうでもある。
この『やってみよう』っていうちゃんぽんっぷり、正に『我流』って感じがするね」
オリエを背後に置き、呟きつつオルゴートは身構える。
半身になり正中線を隠した状態で、利き腕を曲げた状態で前に出す。
もう一方はガード用に顎の前に置く。
発案者はブルース・リー。
ジークンドーの構えだ。
「コレ、見栄えが良いし実戦的だから結構好きなんだよね」
オルゴートはステップを二回踏んで前に跳び、突きを繰り出す。
正式名はリードストレート。
フェンシングの様な身体の使い方をするこの技の良い所は、本当に『目にも止まらぬパンチ』である事だ。
ボクシングのジャブと並ぶ最速の拳は、人間の神経では反応出来ない速さを誇る。
取り敢えず一秒に5発打ってみる。
「があっ!」
だが、アベルが強く念じると『当たらない』。
自身を中央に置き、V字型に重力の盾を形成して受け流しているのだ。
それに対してオルゴートは口笛ひとつ。
これなら側面の力に弱い、銃弾や矢なんかも受け流せるなと感心もする。
「じゃあ、これはどうかな」
しかし重力で防げるのは軽い拳のみ。
左手で鉤突きを放つと、盾は容易く破れて脇に突き刺さった。
そしてアベルの表情は、辛そうであるが嬉しそうでもあった。
読みが当たった笑みである。
「ぐ……ぎ……いひっ♪」
腹への打撃はジワジワと効いてくるが、逆を言えばある程度は耐えられるという事でもある。
下から伸びた手がオルゴートの腕を掴むと、それを支点に『浮く』。
まるで鉄棒で大車輪をするかのようにだ。
重力を感じさせない動きであるが、実際に重力を無効化している。
片手で腕を掴み、逆立ちの体勢から足を広げてオルゴートの顔に蹴りを放った。
それをかわされると、今度は驚きの柔軟性で両足を開き、頭を下にしたプロペラのように迫る。
『前に落ちる』の応用だ。
カポエラの逆立ち蹴りに近いものがあるが、ここまで滞空時間は長くない。
周りは「おお」と思わず拍手。
アベルに喝采が浴びせられた、生まれて初めての瞬間だった。
その声に思わす「もっと凄い物もある」という気持ちになる。
つまりは「ノッている」のだ。
故にテンションが上がり、複雑な動きが出来るように頭の働きが活発化する。
ならばと、オルゴートは頭狙いのハイキックを放つ。
さて。
アベルは20代後半だが訓練しかしてこなかった為に、致命的に勉強が出来ない。
字も書けなければ、小学生レベルの算数も出来ない。
言葉だって片言でしか喋れないので、戦闘中は雄たけびのような声にしかならない。
それでも、自分を表現しようと精一杯身体を動かす。
「あうあー……」
腕を振り空中で身体を丸めて足を畳み、ハイキックをガード。
宙は地面と違って踏ん張りどころがなく、普通はボールのように跳んでいくが、重力操作を使って前に動く力を使えば吹き飛ばない。
半回転して蹴り脚の『側面』に引っ付き、剣術の受け流しのように脚をレールとして、前に進む。
身体のバネを使って、脛の上で宙に跳ねる。
鳥の如く両腕を大きく広げてみせた。
両膝蹴りでの狙いはオルゴートの顔面である。
その変幻自在な動きに、誰かが「綺麗」だと言った。
その翼の生えた虎のような空中殺法に、誰かが「アルフィリーガ」と言った。
オルゴートは素早く手の平でパシリと受け止めるが、その防御を抜いた感触が膝に伝わる。
「あうあうあーっ!」
畳んでいた膝を開放。
今度は肩を足場にし、低い体勢で横から膝蹴り。
もう片方の肩に手を当てて、体操のあん馬のような体勢で後頭部への蹴り。
そこから空中回転して、脳天へ胴回し回転蹴り。
重力操作を利用した連続攻撃は止まる事を知らず、この戦いの終わりを告げている様だった。
但し、アベルの終わりである。
「つ~かま~えた♡」
胴回し回転蹴りが当たろうとした瞬間、アベルの足首をオルゴートが掴んだ。
鼻血も出ている、口が切れてもいる。
しかよく見れば、致命といえる傷には至っていない。
「良い事を教えてやる。
連撃ってやつはな、最初の一撃で相手が怯まないと成立しないんだよ。
そして人間「来る」って思えば大体の攻撃に耐えられる。
プロレスラーなんてのは特にそうだな」
敢えてオルゴートは言っていないが、はじめの手の平でのガードを『貫いた』と『感じさせた』のが勝因である。
柔術において手の平で攻撃を返す際、腕の中心で押すようにする。
その力を逆向きにする事で偽りの手応えを与えたのだ。
連撃である以上、次の攻撃は派手であるが軽いものになる。
首を動かして攻撃を受け流すスリッピングや、バリツによる衝撃の体内への分散法で耐える。
はじめ言った事は、ほんの初歩中の初歩の対処であるが、それ以上は話が長くなるので、戦闘中に説明する物でも無し。
「楽しかったぜ……」
アベルの身体を、ふわりと宙へ投げた。
無重力に見えるが能力ではない。
綺麗な投げはそう見えるという、錯覚である。
無造作に見えるが、回るごとに重心が頭部に寄る。
その最高潮に達した瞬間は一回転。
即ち、オルゴートと向き合う時である。
回転させた反対側から攻撃する事で人為的にカウンターを狙う。
すると重心を介して、衝撃が頭骨を越えて芯まで伝わる。
オルゴートが領主になる前、決め技としてよく使った技だ。
「バリツ奥義……『流れ落とし』!」
ラリアット。
宙で身動きが取れなくなったアベルが意識を失う直前見た光景は、迫りくる二の腕だったそうな。