2022/1120 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:夢見真由利 様)
【文章】夢見真由利 様
【コラボ先】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界、魔王城で子どもを守る保育士兼魔王 始めました。
作者:夢見真由利 様
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私の部屋は二階の居住エリアの奥だけれど、窓の外を見ていれば、馬車の気配に気付く事はできる。
「来た!」
「姫様!」
側近とか、女官長の呆れた声が聞こえるけど無視。
この際、皇女猫も脱ぎ捨てて走り出す。
あー、この長いドレス邪魔!
私が廊下を走り出て、一階ホールを見下ろす階段上に着くと、丁度扉が開いて人が入ってくるところだった。
街に不思議な人物がいるという報告があった。
彼らはこの世界ではまず見ない、子どもの二人連れ。
誘拐目当てのゴロツキを見たことの無い技ノした後、ゲシュマック商会で食事をし『聖なる乙女』の名を口にしたという。
ガルフからの連絡が入ったのが早いか。
旅から戻り、街の警備の手伝いをしていたリオンの元に報告が入ったのが早かったか。
どちらにしてもリオンとフェイを経由して、私の所に連絡が来たのだ。
「お姉様! アダマスさん!」
「マリカ? やっぱりマリカなのじゃ!」
私は階段を走り降り、懐かしい『お姉様』に飛びついた。
「お久しぶりです。お姉様、お元気そうで良かった」
「うんうん。マリカも元気そうで何よりなのじゃ。
でも、なんだか背が伸びたのではないか?」
私を受けとめてなでくりなでくりしてくれる優しいお姉様。
不思議な街に迷い込んだ時に優しくしてくれた笑顔と全く変わらない。
「そう、ですね……。お姉様達はお変わりなく」
本当に変わらない。
全く変わらない。
……でも、それはどうでもいいことだ。
「もし、宜しければお食事を召し上がっていって下さいませんか?
私、腕によりをかけて作りますから!」
「いいの? その格好に、この館……もしかして君は……」
「いいんです。それじゃあ、ゲシュマック商会の貴族店舗に行きましょう。
あそこの方が良い料理設備が整っていますから」
このままここにいると、お母様にバレる。
いやバレてもいいけれど、お母様に説明したり、お父様に話を通したりする時間が勿体ない。
いつ『お別れ』の時間が来るかわからないんだもん。
「リオン、フェイ。落ち着いて。
後は留守番、直ぐに戻るから」
私は強引にお二人を外に連れ出すと、また馬車に乗って頂いた。
目指すはゲシュマック商会貴族店舗というのは表向き。
勿論、魔王城である。
「うわー、凄い御馳走じゃのお。
お皿の上におはながさいているのじゃ!」
お姉様が嬉しそうに声を弾ませてくれた。
私が魔王城で、皇女猫を取っ払い、全力製作したのはオムライスだ。
以前、向こうの世界に行ったとき、リゾットやパスタは食べられていると聞いた。
洋風、かつ、食べやすく見栄えが綺麗で、子どもにも人気の料理はきっと喜んで貰えると思ったのだ。
黄色のとろりとしたオムライスに生ハムとスモークサーモンで作った花を添える。
「へえ、これはオリーブ? 黒オリーブは良く見るけどグリーンのオリーブで、あっさりとした味わいがいいね」
オリーブ。
やっぱり、と思ったけれどそれは口に出さない。
付け合わせのサラダはポテトにマヨネーズ、それにグリーンオリーブのシンプルなポテサラ。
アダマスさんには胡椒のミルも出しておいた。
スープは鳥ガラでとったスープストックベースのコンソメ風。
デザートは定番の氷菓とチョコレート入りのパウンドケーキにしてみた。
付け合わせはミクルとアヴェンドラのプラリネで。
「チョコレートの作り方を教えて頂いて、こちらでも色々工夫させて頂いているんです」
目を丸くされたけど、優しい笑顔で頷いてくれたので多分嫌がられてはいないと思う。
思いたい。
その後、お姉様と一緒にお風呂に入って、髪の毛を洗い、背中の流しっこもする。
「これは、良い匂いがするのじゃ? シャンプーかの?」
「ええ、生蜂蜜とお湯、あと、塩を少し混ぜたものです。艶が出ていい香りもしますよ」
もし側近やお母様が側にいたら、きっと何を言ってるんだと怒ったかも知れない。
でも、いいのだ。
「? どうしたのじゃ? マリカ。べったりくっついて」
「何でもありません。ただ、ちょっとだけこうしていたくて……お姉様」
「……しょうがない、妹なのじゃ」
むこうでも、こっちでもない、たった一人のお姉様。
この奇跡のようなぬくもりと優しさに私は甘えたのだった。
翌朝、目が覚めて最初に客用寝室に向かったけれど、お二人の姿はどこにもなかった。
「お二人は、お迎えが来て、無事にお帰りになりました」
「エルフィリーネ」
静かに微笑む彼女に、そう。と私は頷いた。
昨日の夜お風呂に入った後は、みんなで当たり障りのないトークを楽しんだ。
「そういえば護民兵が驚いてた。不老不死のゴロツキをよくあんなに見事に倒せたな」
「お金が無くて不老不死になれてなかった『子ども』はともかく、不老不死者も完全に落ちていましたからね。
どうやったか後学の為に教えて欲しいものですが」
という興味津々のリオンやフェイだけでなくアーサーやアルも目を輝かせて彼の話を聞いていたっけ。
女の子同士はお菓子を食べながらのガールズトーク。
シャンプーだけじゃない化粧品の話とかあと。
「なんか、花の香りがするのじゃ」
「ああ、これ、花の香りのペンダント。付けてるといい匂いがするんだよ。
貸してあげるね」
香油作りの話もしたりしたっけ。
エリセが貸したペンダント、もっていってくれたのなら嬉しいけれど。
「無事に帰ったよね」
「はい。あの方にお任せすれば大丈夫であると、保証いたします」
「なら、いい」
もっと時間が欲しかった、もっと遊びたかった。
でも、それが無理なのは解っている。
世界を旅して解った。
あの世界は、この世界と違う異世界。
一種のパラレルワールドだ。
二つの世界が繋がったのは一時の夢。
きっと同じ源を持つ世界同士だからこそなし得た奇跡。
「でも、また会えるといいなあ~。
私が向こうに行くでも、あちらがこちらにまた来るでもいいから、ゆっくりと。
今度は、あんまり歳が離れないうちに」
そう呟きながら私は窓の外、向こうもこちらも変わらない、青空を見つめたのだった。