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2025/0527 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)

【文章】カオス饅頭

【コラボ先】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界、魔王城で子どもを守る保育士兼魔王 始めました。

作者:夢見真由利 様

ncode.syosetu.com/n0124gr/

【パパ上のバカンス】第六話


2025/0525 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)

https://ncode.syosetu.com/n5436hz/28

の、続きとなります



 オルゴートはオリエを地面に立たせ、ポケットに手を入れる。

 何か武器かと、敵の『勇者』──アベルは身構え、取り出されたのは金属の皿状の物。

 懐中時計だ。

 食事をした際、オリエにある程度の星の読み方を教わり、時間を此方の世界に合わせた。


「ふむ……時間を掛け過ぎては客を待たせる。

そうだな、30秒以内で済ませようか」

「なにっ!」


 アベル本人では無く、後ろの老人が反応した。

 この中で最も、『作品』の強さに自信を持っているだけあってプライドが傷付けられたのだ。

 だが、オルゴートはそれに応えない。

 もう既に戦いははじまっている。

 左手を前に差し出し、右手を顔の横に置いて弓引くような溜めの構え。

 威力重視。ナックルアローのモーションだ。


「……ッ!」


 アベルが無言で、しかし興奮の息遣いを表した。

 彼のローブには、『剣』が隠されている。

 そして突き出された左手と身体から離れた右手は、どちらも切って下さいと言わんばかりの絶好の構え。

 基本的に、人間は武器を持っている方が強いのだ。


 月光に煌めく金属反射。

 狙うは武器として扱われる右手。

 重力操作で右手を剣に引き寄せ、カウンターの横薙ぎで前腕を斬る。


 そうなる筈だった。

 しかしオルゴートの顔は、ニタリと笑っていた。

 何故なら、そうなると予想を付けていたのだから。


──『勇者』となるべく育てられた人間


 ならば主武器は徒手空拳では無く、勇者の象徴である剣である筈。

 そこに注意をおいて重心などを観察すれば、何処に隠しているかも見当が付いた。

 ローブの様にヒラヒラとした服は重心を解り辛くさせる効果があるが、連戦の戦士のオルゴートには単なる子供だましの小細工でしかない。


「ちぇすと!」


 肩・腕・手首を捻って、攻撃のベクトルを変える。

 その構えが放つのは前に突き出すナックルアローではなく、上から振り下ろす手刀。

 横薙ぎという事は、剣の面は上になっている。

 更に重力に合わせて、左手を下に置けば上下から挟む形になる。


──カキンッ


 金属特有の高い音を出し、鋼の剣が折れた。

 更にピアニストよろしく手刀に使った右手を高速で跳ね上げ、顔面に裏拳。

 アベルの身体が後ろに飛んだ。

 回避では無く、単純に実力差で殴り倒されたのだ。


 『勇者』のその姿を見下ろし、言い捨てる。


「俺の手刀は名刀よりも名刀なんでな。

そんなナマクラじゃ『勇者の剣』とは言えねえよ」


 そしてクルリと背中を見せ、もう『危険ではない』と元の場所へ戻ろうとする仕草。

 戦士としては屈辱の光景だ。

 しかし最後のチャンスにと、首を捻ってアベルを見た。


「もし、まだ戦いたいというなら来い。

男なら『コッチ』で決着をつけようや」


 ドスの効いた声と同時に、拳を握った。

 老人はその圧力に耐えられず「ヒエ……」と腰を落として尻もちを付いてしまう。


 対して、アベルはゆっくりと立ち上がっていた。

 その覇気に当てられ起こるのか武者震い。

 見つけたのは、必死で鍛え『失敗作』と烙印を押され振るう事の出来なかった武力の振るい先。

 湧いてくるのは潜むように生活する中、輝かしい演劇の舞台で強敵と対峙した『勇者』が感じる情熱。

 それを人は『勇気』と呼ぶ。


「ア……」


 命令通りにやってきたから、やらないでいた事が沢山あった。

 自分の能力に接していく内に思いついては消えていった、沢山の技があった。

 こうすれば勇者アルフィリーガにもっと近付けるのではないか。

 そんな戦い方。


「アアアアアアアアッ!」


 腹から出す、産声のような叫び声。

 周囲の重力を操作し、地面を蹴って跳びながら『前に落ちる』。

 只の踏み込みでは出来ない、跳躍距離と速度。

 その風圧で被っていたフードが脱げた。


 茶髪、団子っ鼻、太い眉。ソバカス。

 教会から『醜い』と判断され、勇者には向いていないと言われた容姿だ。

 彼はこの『恥部』を出さないよう、激しく動かないよう言われていた。


 でも、どうでも良い。

 爛々と光ったその目に、視線を合わせたオルゴートは楽しそうに笑った。


「なんでぇ、男前じゃねえか」


 飛び込んでからの攻撃手段は限られる。

 故に開いた手を少し顔の前に出し、受け流しが出来る迎撃の構えを取る。

 空手における前羽の構えだ。

 やや柔道の構えにも似ている。


 アベルは、両手を握って大剣が如く鉄槌を振り下ろした。

 「蹴りの概念が浅い時代が故の攻撃か?」そう思い、手を十字に交差させて受ける。

 受けた状態で腹に蹴りを加えればもう一度倒せるか。

 そんな事を考えると、腕の感触が危険信号を出した。


(軽い!?)


 攻撃の性質上、体重分の威力は乗っている筈。

 だがそうでないという事は、『別の力』に使ったという事。

 そして考えられるのは──


「危ねっ!」


 十字受けを解き、身体を反らせた。

 直ぐに下から上に向かって、『爪先』が通り過ぎる。

 顎に当たっていたら意識を刈り取られていただろう。

 風圧から判断するに、腹に当たっても常人なら内臓を傷付けるに十分な威力だ。


 アベルは、わざと鉄槌を受けさせて、バク宙よろしく後ろへ回転。

 普通は弾かれた慣性でそんな事は出来ないので、重力操作で回って見せた。

 受けられた反動から身体を反らせた状態で、『蹴り上げ』を放ったのだ。


 本来は剣を受けられた際に使おうと考えていた技である。

 実際、受け手の意識は上に行っているのに加えて、蹴りを使って戦う事が少ない時代なので、奇襲としてかなり有効な技だ。


「なんだ、ちゃんと強いじゃねえか」


 言いつつオルゴートはオリエを小脇に抱える。

 そのまま二歩、三歩バックステップで下がり、観客の前に再び現れた。

 そして皆に聞こえるよう叫んだ。


「レディース・アンド・ジェントルメン!

さあさあ、聖なる乙女様を奪わんと予期せぬ乱入者が現れたぞ!

彼は勇者か、悪漢か。それともまだ見ぬ強敵か。

それは皆さまの手でご判断!

さあ、第二幕のはじまりで御座います!」


 アベルに向かって人差し指をクイと動かし「来い」のサイン。

 影に生きてきた『勇者』は、人々の注目する輝かしい舞台に駆けて行った。

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