2025/0207 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:カオス饅頭)
【文章】カオス饅頭
【コラボ先】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界、魔王城で子どもを守る保育士兼魔王 始めました。
作者:夢見真由利 様
ncode.syosetu.com/n0124gr/
【パパ上のバカンス】第一話
お付き合い頂けたら幸いですm(_ _ )m
◆
嘗て地球人がテラフォーミングを行った果てに、中世文明を築き上げた地アースガイア。
時間は夜。
ある丘の上にて。
そこには一人の男が立っていた。
ビジネススーツを着ていて身体は巨躯。
目付きは垂れ眼、口元には髭。黒髪を掻き上げた髪型にしている。
男はポケットに手を入れた状態で、星を見ていた。
「ふむ、なるほど。これが異世界転移というものか。
太陽系外ではあるが、一応地球と同じ銀河ではあるのか。
ともあれ法則の違うウチと比べればやはり『異世界』という定義となる。ややこしいね」
そう、誰かに言い聞かせるかのような、独り言と言うには大きな言葉を紡いでいた。
瞬間、ドンと爆発したような音と共に、地面から黒くて巨大な『枝』が生えて来た。
所々にある『節』は、竹を思わせる。
合計で八本。それらは節を関節として曲げ、男を掴まんと一瞬で閉じる。
反射にも似たそれは常人では反応できない速度。
掴まれれば地面に引きずり込まれる結末が待っている。
が、そうはならなかった。
なんと男の身体を、枝がすり抜けたのだ。
「ふっ、残像だ……なんてな!」
本体は直ぐ後ろに居た。
では、先程すり抜けた像はなにか。
それは砂で人影だけを象った簡易的なダミーである。
「バリツ……『影法師』!」
彼が人外を相手にする為に考えた武術『バリツ』の技の一つだ。
中国拳法における震脚に近い形で地面を踏み、その衝撃で土や砂を巻き上げる。
この時、特殊な力の伝え方をする事によって人の形を模す事が出来るのである。
踏んだ反作用はそのままバックステップの力へ。
これによって回避・目くらまし・ダミー作成を同時に行うことが出来る。
弟子でもある息子にはまだ使えない上級技だ。
「むん!」
男は『枝』を両手で掴む。
骨に伝わるのは鋼のような硬さ、鋼のような重量。
されど表情は、勝ちを確信した笑み。
「ぐぐぐ……どりゃああああ!」
切り株の如く一気に引っこ抜く。
土の中から出てくるのは、奥行き4メートルを超すと思われる巨大な『蜘蛛』であった。
枝のように見えたのは、蜘蛛の肢だったのだ。
蜘蛛は闇を固めたかのように真っ黒で、まるで無機物のようであった。
男は両手を握り片手を引く。
するともう片手が、見えない滑車で繋がっているかのように前に出た。
それに合わせて全身の関節を回し、体重を乗せる。
それを人は『正拳突き』と呼ぶ。
「覇ァ!」
空中に浮いた大蜘蛛の腹にめり込む拳。
ズドンと大砲のような音がした。
実際、衝撃も大砲並みである。
大蜘蛛は吹き飛ぶが、男はジトリと瞼を半分伏せて睨みつける。
アレは生物ではない。
そして、物理攻撃を通さない『設定』を持っているようだ。
彼の経験が、そう告げていた。
なので攻撃方法変更。
懐から白い手袋を取り出し、一瞬で嵌めて『身体強化魔術』を発動させる。
体内を『魔力』が駆け巡り、地面を思い切り踏んで前に駆ける。
その速度は疾風の如く。
先ほど殴り飛ばした大蜘蛛に追いつくと、再度拳を突き出した。
「必殺『アンタレス』!」
蠍座の名を冠するそれは、世界の常識が通じない異世界の住人達と戦う為に編み出された神殺しの拳。
魔力を介して対象の『設定』に干渉し、どのような世界観の敵にも攻撃を成立させる、世界の法則を塗り替える異形の魔術。
彼の居た世界では『魔法』とも呼ばれる次元のもので、学会では実現不可能な物として扱われているものだった。
尚、連発可能である。
拳が再びめり込み、一瞬の沈黙。
途端、大蜘蛛の身体が風船のように膨らんで、パンと弾け飛んだ。
ガスのような黒い粒子が宙に散り、宙に溶けていく。
男は手袋を取り、再び懐にしまうと水を切る動きで軽く手を振った。
「汚ねえ花火だ。
なんらかのエネルギーが生物の形を取った魔物といったところか。
特段珍しい設定では無し……とぉ!」
そこで突如、高速で身を翻し丘を駆けた。
正確には丘の下にある藪へ向かっている。
茂る草の中に両手を突っ込んで、扉よろしく開いて見せた。
「あ」
まだ声変わりしていない少女の声が漏れた。
そして中に居たのは、少女どころか幼女である。
まだ十歳にもなっていないだろう。
夜闇のように黒い髪にはリボンが付いていて、それが幼い容姿によく合っていた。
深緑のドレスは動き易そうであるが仕立てが良く、それなりの身分を感じさせる。
磨かれた黒真珠の様な目は、男の顔を映している。
怯える事はなく、未知の何かを観察するかのように男をジッと見ていた。
男は溜息を吐いて会話を試みる。
「オイタはいかんなぁ、ちびっこよ。
君でしょ、さっきの黒いのを操っていたの」
「貴方は何者でしょう?この星のデータベースには存在しない人間の筈ですが」
「おいおいおい、会話のキャッチボールくらいしようぜぇ、これだからちびっこは。
まあ良い。俺も大人だ、名前を聞かせてあげましょう!」
立ち上がり、手を広げ、地面を踏んで見栄を切るポーズ。
ついでに口もへの字にする。
「吾輩はピコピコ=リンリン王国、ラッキーダスト家当主。
【オルゴート・フォン・ラッキーダスト】であ~る!デデドン!」
訪れたのは沈黙だ。
タイミングを見計らったかのように、ひゅうと風が草を撫でて虚しく揺らぐ。
オルゴートの名乗りに、幼女はきょとんと首を傾げた。
無言である。
「反応薄っ!人が名乗ったんだから、そこは自分も名乗るところでしょうが。
なんか数年ぶりに会った肉親にも特に名乗らず、話を進めそうだね君は」
「やたら具体的ですね」
「直感さ。俺の直感は当たるんだ」
「はあ……それで、名前を言えば良いんです?」
「うむ、そうなのであ~る」
オルゴートは偉そうに腕を組んで、フンと鼻息を出した。
幼女は立ち上がると、特にポーズは取らずに無機質に応える。
「私はオリエ。
悠久の時を生きる『星の導き手』です」
太古より地球の進化を導いてきた意思が、肉体を持った者。
そんな存在が、蒸気世界のはちゃめちゃ親父と出会った瞬間であった。