2024/0229 『子どもたちの逆襲』とのコラボ(作:夢見真由利 様)
【文章】夢見真由利 様
【コラボ先】子どもたちの逆襲 大人が不老不死の世界、魔王城で子どもを守る保育士兼魔王 始めました。
作者:夢見真由利 様
ncode.syosetu.com/n0124gr/
【コラボ小説 ラールの異世界訪問記】
『ショタパン!』四百話&『子どもたち逆襲』千二百話記念で書いて頂いたコラボ作品。
2023/1225の時のコラボともリンクしております
https://ncode.syosetu.com/n5436hz/16/
◆
港町オリオンに、どうやら異世界人が迷い込んだようだ、という連絡が元魔王城こと、代官屋敷に知らされたのは、町全体が大捕り物に追われた数日後の事だった。
「お前の知り合いかもしれんから、様子を見に行ってきてくれんか?」
オリオンの代官たるドゥガルド・フォン・ラッキーダスト氏はそう言って、バカンスに来ていた孫息子とその妹に頼んだ、という名で命じたという。
大捕り物はこの国の影で暗躍する犯罪組織の大ボスを追ってのもので、紆余曲折、すったもんだ、ヒーローとボスの矜持を賭けた戦いの後、最終的に大ボスが逃亡するという形で事件は一応の幕を降ろした
避難指示を受けて別所に匿われていた一般民には何があったのか、どういう結果に落ち着いたのか。などは当然知られてはいない。ただ、所々爆発や破壊の残る街並みにため息をつきながらも、腕まくりをし復興の為に働く彼らの前にふらりと、その青年は現れたらしい。
手に大きな荷物の入った袋を抱え、まるで買い物途中のような風情で現れた彼はきょろきょろと周囲を見回すと。
「うわ~。今度は正真正銘の異世界転移だ~」
と目を輝かせたのだとかなんとか。
そして、今は魚市場の総菜売りボブ氏の所で手伝いみたいなことをしているらしい。
「異世界転移者なら、その対応は役割の内ですから行きますけど、どうして僕らの知り合いなんて話になったんです?」
年のころは二十台前半。アッシュブロンドに茶色い瞳。ラール・スチュワートという名前にも聞き覚えが無い。小首を傾げる孫息子。アダマス・フォン・ラッキーダストに祖父は一枚の紙きれを手渡した。
「こ、これは!!」
紙に鉛筆で書かれていたのは絵だった。風景画とかではなく所謂似顔絵。
それを見た瞬間アダマス少年は、自分に話を振られた理由を理解し、後方に顔を向ける。そっくりなのだ。背後に立つ頼もしくも美しい女性。
アセナに。
「へえ、これアタシかい? よく特徴を掴んでいるじゃないか?」
「よく似ているのじゃ。でも、なんだかちょっと若いし、可愛い気がするのお」
「なんだい? アタシが可愛くないとでも?」
「そう言う意味じゃなくって、写実じゃなく程よく絵として脚色されてるってことじゃないかな?」
「それは、その迷い込んだ異世界人と思しき奴が描いたものじゃ。別にアセナとして描いた訳ではなさそうじゃがな。広場で小銭稼ぎに絵を描いていたらしくてのお」
その人物は持ち込んだ荷物を近くの店に預け、食事代替わりにと掃除を請け負い、ついでの客寄せに、と白墨を借りて地面と木板に絵を描いて見せたという。
リクエストで色々なモノを描いて、その代わりにお金を貰ったり飲食物を奢って貰ったりする。大したコミュ力だとアダマスは感心する。
で、中でも獣耳の女の子が可愛らしく微笑んでいるイラストは注目を集める。
所謂萌え絵と呼ばれるもの。
人の目、特に男性の興味関心を集めるツボは得ていた。
イラストがオリオンでも密かに人気が高いアセナに似ている。と評判になり周囲の店、特に男性陣から絵を頼まれるようになり、彼は密かな人気者になった。
さらに料理人であることも判明。
「魚のアラ、貰っていいですかね? あと、鍋をちょっとお借りして……」
と、自前の袋から不思議な調味料を取り出して、魚総菜作りで余った魚の中骨などを集めて汁物を作ったのだそうだ。
怪しげな茶色の調味料に最初は不審げだった漁師たちも、鼻腔を擽るその香りに抗えず
「あ~、美味い。魚にはやっぱりショウユとミソは外れがないなあ」
「おい、兄ちゃん、それ美味いのか?」
「食います? 匂いや風味に好き嫌いはあるかもしれないですけど、美味いと思いますよ」
「おー、けっこういけるな」
「確かラーメン屋でも使ってる味噌ってやつだよな?
味が濃くっていい感じだ」
「へ~、こっちにもミソがあるんですね」
「ちょっと風味や味は違うけどな。こっちの方が軽い感じがする。
魚の味が濃いわりに、臭みがない。俺は好きかな」
「俺にも食わせろよ」
青年の鍋に手を伸ばして汁物を啜り始めたのだという。
で、市場の漁師たち。中でもボブ氏に気に入られ、今は料理の手伝いや絵を描いて当座の生活費を稼いでいるらしい。
逞しいものだと皆、顔を見合わせる。
「奴らは異世界人の返し方を知らん。領都に行けばということはもしかしたら伝えているかもしれんが、便利な技術を発揮していることで手放したがらなくもなっているようだしな。
アセナの顔絵をあんまりばら撒かれるのも困る。迎えに行ってこい」
「解りました」
そう言って城を出たアダマス少年は数刻の後、噂の異世界人と邂逅した。
「君が迷い込んだ人?」
「そうだけれど……。あ、君の後ろにいるのもしかしてアセナちゃん?」
「アセナちゃん……いきなり初対面の人間に向かって、それはねえんじゃねえの?
っていうか、なんでアタシの名前知ってるんだよ」
「知り合いに聞いたんだ。獣耳の可愛い女の子と友達になったって。彼女の話を聞いて想像していた人物とそっくりだから。
おー、噂通り可愛いね。本当の獣人とお目にかかれるなんて夢みたいだ」
「……か、可愛いってなあ」
「まあまあ、ちょっと話を聞こうよ」
渋面のアセナを宥めつつ、この時アダマス少年は、彼の素性読みにこの時、結構悩んだでいた、と。後で妹に話す。
いきなり自分の後ろにいる自分の側室の名前を言い当てられた事もだけれど、彼の外見や持ち物、行動があまりにも特異であったからだ。でも、そんな怯えを今は、おくびにも出さない。背後に庇う妹にも、勿論、目の前の相手にも。
「えっと、じゃあ改めて。僕はアダマス。代官からの使いだ。
困りごとがあるようなら手伝うように言われている」
「それはありがたい。君のような人物を待っていたよ。
僕はラール・スチュワート。用事の途中でいきなりこっちの世界に迷い込んでしまって困ってたんだ」
「こっちの世界。君は、ここが異世界だと認識しているんだ?」
包丁を持つ手を降ろし、彼は前掛けを外して手を伸ばした。握手を向こうから求めて来るか。手を取りながらアダマスは彼を観察する。
雰囲気は地球的、持っている荷物も地球、それも日本と呼ばれる国の独特な調味料のようだ。けれど彼は日本人と呼ばれる人物の特徴である黒髪、黒い瞳を持っていなかった。
しかも服装も所謂『異世界風』、チュニックとスラックス。そんな豪華ではないけれど清潔で下層の庶民という感じはしない。
作っていた料理はアラから出る魚のすり身を使った練り物っぽい。
カマボコ、チクワ、ハンペンなどの練り物多め。これも日本の物だった筈。
これは多分、世話になったボブ氏の手伝いをする為に総菜作りの手伝いをし、調理の邪魔にならない食材でお礼をしようとしたところからだろう。つまり、かなりの実力を持つ料理人であり、会って数日でボブ氏が包丁を預けるくらいに信用する。信用させる実力の持ち主だということだ。
しかもここが自分の世界はないと即座に理解できるくらいの情報判断力も持っている。
一方で、異世界人であることを隠さず『待っていたよ』という言葉からして、上の人物が自分の噂を聞きつけ迎えに来る可能性も考慮していた……。
「まあね。僕はこっちに呼ばれる理由もないし、単純な迷子だと思っている。
帰る方法が見つかるか俺を呼び寄せた相手が連絡してくるまで、とりあえず異世界人を保護してくれるっていう領主様のいる領都? に行く為の路銀を貯めるつもりだったのだけれど、もし手助けしてもらえるなら願いたいな」
「解った。じゃあ、とりあえず代官館に行こう」
「えー、兄ちゃん、もう行っちまうのかよ」
「ずっとここにいて、店を手伝ってくれるとありがたかったんだが」
「悪いね。僕は帰らないと。待っててくれる人や仕事があるから」
「なら、せめて! 最後にもう一枚描いてってくれ!」「俺も!」
ラールの『迎え』を知り、彼の人となりと技を求める者達が群れを成し、暫く商売ができない程、店の前は人で溢れかえった。リクエストに合わせて可愛らしい絵を描く青年。
絵でも食べていけそうな感じだ。
リクエストはケモミミ少女。つまりはアセナが多い様子。
「アンタら。アタシの顔なんざ見慣れてるだろ?
なんでそんな絵に群がんだよ」
「いや、そうはいってもアセナの顔はいつでも見れるって訳でもねえからな。
自分だけの方を見て、微笑んでくれる絵っていうのはお宝なんだよ!」
「そう言うもんかねえ」
そうして彼は、小一時間ほど絵を描き、オリオンの魚市場の者達(特に男達)の惜しむ声に見送られて下町を後にしたのだった。
「おー、こっちは本当の魔王城って感じだねえ」
いかにも『風情』のある代官館の佇まいを見上げ、楽しそうな青年。
ふと、アセナは微妙な既視感を感じ、ある人物を思い出していた。
「えーっと、あんた。ラールだっけ? アタシの事さっき『彼女』から聞いた、って言ってた?」
「ああ、言ったねえ。でも、この場合の彼女ってのは僕の恋人ってことじゃなくって、一般的な呼び名の方ね」
以前、ちょっとした寝物語でアセナから自分が幼かったころ、未来の自分を知っているという異世界人の少女と、その仲間二人がこのオリオンに来たことがある。という話をアダマスは聞いていた。記憶には綺麗さっぱりないが、今、思い返すに彼女はおそらく……。
「味噌や醤油も持ってたし、もしかしてあんたの言ってる『彼女』ってマリカ、かい?」
「その通り~。良かった。飛ばされた世界がマリカちゃんが言ってた『アダマスさんとお姉さまのところ』で。迎えに来てくれた君がアダマス、で一緒に来てたのが憧れのケモミミ少女 アセナちゃんだって解った時点で、安心したけどね」
やはり。心の中で頷きながら同時に目の前のこの男。
ますます食えない相手だと、アダマスは思っていた。
チャラい言動や容姿に騙されてはいけない。
彼は今まで、相手にしてきた素人異世界人とは違い、度胸と覚悟が十分に備わっている大人、だ。
しかも、皇女としてかなり高い立場にいる筈のマリカに、異世界に迷い込んだなどという荒唐無稽な話を聞けるくらいの親しい人物。
つまりは低くない身分を持つ筈だ。
とはいえ、身元は割れた。あとはできる限り情報を聞き出して、と。
固めた覚悟、強い決意と警戒は一瞬で砕け散る。
「心配しなくても、僕はこの世界に長居するつもりは無いから。
仕事もあるし、何よりマリカちゃんの結婚式ももうすぐだ。
僕は彼女の披露宴の為に、最高の料理を用意しなくっちゃいけない。
返してもらえるなら直ぐに帰るよ」
「結」「婚」
思わず呆けてしまったアダマスの後ろ。
隠れていたツインテールの少女がその水晶のような瞳をワクワクと大きく、まん丸に見開き声を上げた。
「結婚、ってマリカが結婚するのじゃ? 誰と? 誰と?」
「そ、それは勿論、リオンでしょ。大穴でフェイという可能性もあるけど、どうなの?」
すぐに我に返り頭を振り、平静さを取り繕ってアダマスはラールに問いかける。
最初に出会った時、目の前の妹、シャルより小さかった女の子が結婚する、という話を聞けばちょっと動揺、まではいかなくとも驚くのは仕方のない事だと自分に言い聞かせて。
「相手はおっしゃるとおりのリオン君。
フェイ君は年上の師匠と結婚して、もうすぐ子どもも生まれるから」
「へえ、フェイに子ども? ああいうタイプは主に忠誠を尽くすタイプだと思ってた」
門扉の前でワイワイガヤガヤ。話をしていると頭上から声がする。
声というか、怒声だ。
「こーら! いつまで長話をしとるんじゃ。
とっとと中に入ってこんかい!」
「へえ、マイクでも使ってるのかな?」
「そうだけど、とにかく中に入ろうか?」
小首を傾げて空を仰ぐラールの手をぐいと引っ張って、彼らは魔王城、基、代官館の中に入っていった。
「なるほど。あの娘の身内か。道理で肝がすわっておる」
ラールに謁見を許したオリオン代官、ドゥガルド・フォン・ラッキーダストは納得したというようにふふん、と鼻を鳴らした。
自分の威嚇というか『気』にまったく気づいていないわけでは無いだろうに、堂々した態度。
前に出会ったリオンのような戦士系ではなく、捻れば即座に殺せる一般人。
だが殺すのはもったいないと思わせる胆力と実力が見て取れる。
「身内って言うか、料理人ですね。
彼女は料理で身を立てた人物なので、その関係で。身内と思って貰えるのならありがたいいですけど」
料理、と聞いてきらりん。
代官の目が輝いた。
「ほほう。料理人とな。何ができる?」
「これでもけっこう料理人歴長いので、一通りは。洋食から和食まで。
チョコレートも時間があれば一人で作れますよ。
最近はマリカちゃんに頼まれてロシア料理とかも勉強してます。ボルシチとか、ピロシキとか」
なかなか自信ありげである。
「この世界に持ち込んだ荷物は向こうの世界の調味料と聞いたが?」
「そうです。醤油と味噌、後カエラのシロップですかね。
ビックリしましたよ。材料の補充の為に食料品倉庫から品物を取りに行っただけなのに、扉を開けたらそこは異世界だった。ですから」
「醤油と味噌は解るけど、カエラシロップ、ってのはなんだい?」
領主として興味があるのか質問を向けるアダマスに、ラールは布袋の中から手のひらサイズのガラス瓶を取り出してみせる。琥珀と呼ばれる宝石に、紅玉を混ぜたような色合いの液体がちゃぽんと揺れていた。
「これは、向こうの世界のカエラって木の樹液を煮詰めたものでして。
砂糖の代わりに使ったりしてます。醤油を使う料理に使うとけっこういけますよ」
「樹液から取る甘味?」
「これ……、似たようなものを売り出そうとしている商人がいなかったっけか?」
「樹液を出す木がこの辺にはあんまり生えておらんと聞いた気がするの」
皆、興味津々の様子だ。
少し考えた後、場の最年長。代官は青年を見やる。
「よし、お前は帰国が目的だと言うておったな」
「はい」
「帰還場所は、来る直前までいた場所か。『地球』ということになるが、来る直前にいた世界、で良いか?」
「…………構いません。お願いします」
僅か、ほんの僅かな逡巡が見て取れたこと。そして浮かんだ望郷の念に気付いたのは読心の能力を持つアダマスと別な視点で真実を見抜く代官のみ。
でも帰還の意志は間違いないと判断して、代官ドゥガルドはうむと鷹揚に頷いて見せた。
「では、明日、領都への紹介状と向かう為の船、路銀その他を手配してやる。
代金は、おぬしの持っている調味料三種でどうじゃ?」
「構いませんけど、この世界にも醤油や味噌、あるんじゃなかったですか?」
「別世界の品を研究すれば、量産や改良の手がかりも掴めるじゃろ。
ついでに、その材料を使って料理をしてくれればなお良し、じゃな。
この世界も地球から来た料理人がいる。意見と知識交換などすればおぬしにも利益になるのではないか?」
「解りました。その方向で」
そうして頷いたラールは、その夜、代官館で寿司職人と一緒に調理。
『マリカの世界の料理』を披露して彼らを楽しませた。
「僕らの世界は一度食が絶滅してまして。彼女が『新しい味』を復活させたんですよ。
寿司職人さんに教えて貰った料理に、向こうなりのアレンジを加えて見ました」
ラールが作った料理は貝の吸い物。ちらし寿司、茶わん蒸しの純和風料理。
デザートだけは似合わないかもしれないが、と前置きされカエラのシロップを使ったパンケーキが出された。
「ほう、これはいいのお。茶わん蒸しは何度か作らせたが、風味が引き立ち、なおかつ味が舌に深く、強く残る」
「このちらし寿司も最高なのじゃ! 綺麗な白と黄色の絨毯の上にピンクの可愛いバラが咲いている」
「生ハムを分けて貰って花の形に。魚の刺身とかでやっても綺麗ですよ。
黄色いのは錦糸卵、白いのは白身魚をほぐして作ったでんぶというものです」
「パンケーキに芋とベーコン。シロップのソース。いける。甘いものと微かなしょっぱさが絶妙だ」
「これは、まだ広まらないうちにシロップについて調べてみるのもいいかもしれんな」
となかなかの好評。
また終わった後の厨房では
「このちゃわんむし、って料理いいですね。ふわっと柔らかくて温かくて。
彼女の結婚式に出してもよさそうだ」
「このシロップ、地球で言う所のメイプルシロップと似てますね」
「あ、多分、同じものですよ。醤油と合わせるのがポイントで」
「まさか、和食に使うとこんなにおいしくなるとは。勉強させて頂きました」
「こちらこそ、本職の寿司を握る技術を見させて頂けるなんて光栄です。
寿司は僕らアメリカ人にとってはオリエンタルで憧れの料理だったんですよね。
リア、米が輸入品なんで今までは手毬寿司で濁してきましたが、頑張って、向こうの世界でも寿司を再現させて見せますよ」
ラールも知識&技術交換に思う所、得るものがあった様子である。
同じ地球人同士、気心も知れて。
その日の夜、代官館には遅くまで明かりが消えることが無かった。
厨房だけではなく、別の部屋でも
翌日、彼は帰還の為に主人と同じ道を辿り、帰っていった。
「アダマス様。これを」
「ありがとう。ハンナさん。えっと。ラール?
マリカとリオンにこれを渡してくれないか。結婚おめでとうって」
「えっと、異世界からモノを持って帰っても大丈夫かな?」
「問題ないじゃろ。こいつが向こうに行った時、金剛貨を置いて行ったし」
「向こうで貰ったどんぐりのペンダント! 今も持ってるのじゃ!」
「それなら……。これはカトラリー?」
純白で薄い箱にはラッキーダスト家の紋章が刻まれており、中にいは眩しくも上品なナイフやフォークの一式が並んでいた。
「そ。マリカとリオンが結婚するって聞いて、何かお祝いをしたいと思ってさ。
色々探したり、ハンナさんに手配して貰ったりして用意した」
「当領地の最高品質の品です。素材はシルバーですが精錬されており、銃弾もはじき返し鋼鉄にも負けない強度がありますわよ」
「ハハハ。凄いね」
ラールは冗談だと思って笑ったけれど、アダマス達は笑っていない。
どこかの誰かはこれと同格の物を使って改造人間とも戦ったりするのだ。
「冗談はさておき、未使用のペアの品です。
どうぞお受け取りを」
「解った。渡しておくから」
「うん。結婚おめでとう。幸せに。と伝えて」
「必ず」
もしかしたら、彼は知らせる為にここにやってきたのかもしれない。
アダマスはふとそんなことを考える。
彼女達は幸せでいると。
そして自分達も幸せだと、彼はきっと伝えてくれるだろう。
「げんきでな~。また会おうなのじゃ~~」
遠ざかる船に手を振る妹。その傍らで彼はラールが残して行ったものを見つめた。
アセナのイラストと、今の。
随分と成長し、美しくなった友人達の絵姿を。
「随分と、成長したものだ。
いつかまた会えるかな?」
二度ある事は三度、三度ある事は四度。
もしかしたら、また再会のチャンスはあるだろうか?
アダマスの小さな呟きは運河の流れに溶ける様に、静かに消えて行った。